「食料品の消費税をゼロにします」と言われたら、日々の買い物が楽になると期待して嬉しくなりますよね。しかし、元静岡大学教授で税理士の湖東京至氏は、この一見魅力的な提案に強く警鐘を鳴らしています。
なぜなら、そこには輸出大企業が受け取る「輸出還付金」という巨大な利権と、賛否が分かれる「インボイス制度」を完全に定着させてしまう罠が潜んでいるからです。
実際、トヨタ自動車をはじめとする巨大輸出企業は、消費税を納税するどころか、国から巨額の還付金を受け取っているという指摘があります。本記事では、湖東氏の理論に基づき、消費税の不公平な実態と、「食料品ゼロ」が招くかもしれない中小業者への副作用について分かりやすく解説します。
湖東京至氏が告発する「輸出還付金」の実態とは?
私たちは普段、買い物のたびに10%の消費税を支払っています。「この税金は社会保障に使われている」と信じて負担していますが、湖東京至氏の分析によると、実はその少なからぬ部分が、輸出大企業への還付金として消えているといいます。
湖東氏は長年の調査から、トヨタ自動車などの巨大輸出企業に対し、消費税収の約1割から3割にも相当する金額が還付されていると告発しています。大企業優遇ともとれるこの仕組みは、全商連(全国商工団体連合会)などの新聞でもたびたび取り上げられ、不公平税制の象徴として批判されています。
消費税は本来、消費者が負担し、事業者が代わりに納める「預かり金」だと説明されてきました。しかし、赤字に苦しむ中小業者が身銭を切って納税する一方で、過去最高益を出すような大企業が多額の税金を受け取っている現状があるのです。
湖東氏の試算や過去の報道をもとに、輸出戻し税(還付金)が多いとされる企業をイメージとして整理しました。
| 順位 | 企業名の例 | 還付金の性質 |
| 1位 | トヨタ自動車 | 輸出比率が高く、巨額の還付が発生 |
| 2位 | 日産自動車 | 同様に輸出による還付恩恵が大きい |
| 3位 | ホンダ(本田技研工業) | 自動車産業が上位を占める傾向 |
| 4位 | マツダ | 輸出主体のメーカーが続く |
| 5位 | ソニーグループ | 電機メーカーも輸出割合が高い |
※上記は湖東京至氏の著書やレポート等で言及される傾向に基づいた例示です。
このように、輸出産業のトップ企業には莫大な資金が流れています。湖東氏はこの還付金を、事実上の「輸出補助金」であると指摘し、財源の使い道として適切なのか疑問を投げかけています。
なぜ大企業にお金が戻る?「ゼロ税率」と「仕入税額控除」のカラクリ
では、なぜ輸出企業だけがお金をもらえるのでしょうか。その秘密は「ゼロ税率」と「仕入税額控除」という、少し耳慣れない税金のルールにあります。ここを理解すると、消費税の本当の姿が見えてきます。
まず、消費税には「国内で消費されるものに課税する」という大原則があります。そのため、海外へ輸出する商品には日本の消費税をかけません。これを「輸出免税」と呼びますが、税率としては「0%」が適用されます。これをゼロ税率といいます。
企業が税務署に納める消費税額は、ざっくり言うと「お客さんから預かった税金」から「仕入れで支払った税金」を引いた金額になります。これを仕入税額控除と呼びます。
例えば、国内で車を売る場合、100万円の車なら10万円の消費税をお客さんから預かります。部品の仕入れで既に6万円の税金を払っていたら、10万円から6万円を引いた「4万円」を納税します。これが普通の計算です。
ところが輸出の場合はどうなるでしょうか。海外のお客さんからは消費税をもらえないので、預かった税金は「0円」です。しかし、部品の仕入れには国内で6万円の消費税を払っています。
計算式に当てはめると、「預かった0円」引く「支払った6万円」となり、答えはマイナス6万円になります。このマイナス分は払いすぎた税金とみなされ、税務署から企業に現金で返還されます。これが輸出還付金の正体です。
湖東氏は、消費税が価格に転嫁できていない(預かり金ではない)ケースも多い中で、輸出企業だけが仕入れ分の税金を全額取り戻せるのは、不当な「益税」や補助金にあたると主張しています。また、この還付金制度があるために、消費税率が上がれば上がるほど、輸出企業にとっては還付額が増えるという皮肉な構造も生まれているのです。
「食料品消費税ゼロ」がインボイス制度を固定化させる危険性
「食料品の消費税をゼロにします」という公約は、一見すると家計の救世主のように聞こえます。しかし、湖東京至氏は、この甘い言葉の裏に「インボイス制度」を永遠に定着させてしまう罠があると指摘しています。
現在、日本の消費税は10%と8%(軽減税率)が混在しており、この複雑な計算を正確に行うという名目でインボイス制度が導入されました。もしここで「食料品0%」という新たな税率が加わると、どうなるでしょうか。
税率はさらに複雑化し、「正確な納税のためにはインボイスが絶対に必要だ」という理屈が強化されてしまいます。つまり、食料品ゼロ税率を導入することは、中小業者を苦しめるインボイス制度を、後戻りできない形で固定化することと同義なのです。
湖東氏は、複数税率(軽減税率)こそが問題の根源であり、これを口実にインボイスが正当化されていると分析しています。食料品への課税をなくすこと自体は重要ですが、それがインボイス制度の定着とセットになってしまえば、結果として中小業者の首を絞めることになりかねません。
飲食店や中小業者が苦しむ?「0%」の副作用
さらに、「食料品0%」が実現した場合、業種によって天国と地獄ほどの差が生まれる可能性があります。ここでは、スーパーマーケットなどの小売店と、飲食店などのサービス業を比較して考えてみましょう。
スーパーマーケットの場合、販売する食料品が「ゼロ税率」になれば、輸出企業と同じ理屈で、仕入れにかかった消費税の還付を受けられる可能性があります。これは大手流通企業にとっては大きなメリットとなり得ます。
一方で、飲食店や多くの中小業者はどうでしょうか。特に小規模な事業者は、事務負担の増加や、価格転嫁の難しさに直面します。
- スーパー等の場合:販売は0%でも仕入れには税がかかるため、その差額として還付金が発生し、資金繰りが楽になるケースがある。
- 飲食店の場合:「外食」は食料品と区別され課税対象(10%等)のままとなる可能性が高い。食材(0%)と提供サービス(10%)の税率管理が極めて複雑になり、事務コストが激増する。
- 消費者の誤解:「税金がゼロになったのに、なぜ安くならないの?」という圧力から、お店側が値下げを強要され、利益を削る「身を切る値下げ」を余儀なくされる恐れがある。
このように、現場の実態を無視した制度変更は、体力のない中小業者を廃業に追い込むリスクをはらんでいます。
湖東京至氏の提言:輸出は「ゼロ税率」ではなく「非課税」にすべき
では、どうすれば不公平をなくせるのでしょうか。湖東京至氏が提案する解決策は非常にシンプルで論理的です。それは、輸出取引を現在の「ゼロ税率」から「非課税」扱いに変更することです。
「ゼロ税率」と「非課税」。言葉は似ていますが、税制上の意味は全く異なります。ここが湖東理論の最も重要なポイントです。
- ゼロ税率(現状):税率は0%だが「課税取引」とみなされるため、仕入れにかかった税金の還付が受けられる。
- 非課税(提案):消費税の対象外となるため、そもそも仕入税額控除が適用されず、還付金は発生しない。
身近な例で言えば、医療費や家賃は「非課税」です。お医者さんは患者さんから消費税を取りませんが、医療機器の購入などで払った消費税は戻ってきません。湖東氏は、輸出企業もこれと同じ扱いにすべきだと主張しています。
もし輸出が「非課税」になれば、トヨタなどの大企業への還付金はなくなり、その分の財源が国に残ります。この財源を使えば、消費税率を大幅に下げたり、あるいは廃止したりすることも夢物語ではなくなるのです。不公平税制を正す鍵は、この「言葉の違い」の中にあります。
まとめ:消費税の本質を見極める視点を持とう
ここまで、湖東京至氏の視点を通じて、消費税にまつわる「輸出還付金」や「インボイス制度」の問題点を見てきました。
「食料品ゼロ」という耳触りの良い言葉の裏には、大企業優遇のシステム温存や、中小業者への負担増というリスクが潜んでいます。消費税は単に「買い物にかかる税金」というだけでなく、国の富をどう再分配するかという大きなシステムそのものです。
湖東氏の主張は、私たちに「目先の減税」だけでなく、「誰が得をして、誰が損をする仕組みなのか」という本質を見るよう問いかけています。公平な社会を作るためには、仕組みそのものを正しく理解する知恵が必要です。
【次にできるアクション】
湖東京至氏が指摘する「輸出還付金」の金額は、各企業の決算書などから推計することができます。興味を持たれた方は、ご自身がよく利用する大企業やメーカーが、実際にどれくらいの消費税還付を受けている可能性があるのか、一度調べてみてはいかがでしょうか。ニュースの見方が大きく変わるはずです。
