H3ロケット8号機失敗の原因とみちびき5号機|2026年打上げへの影響

H3ロケット失敗の原因は?JAXAデータが示す225秒の真実

2025年12月22日、日本の宇宙開発にとって重要な一日となるはずだったH3ロケット8号機の打ち上げ。しかし、搭載されていた準天頂衛星「みちびき5号機」は所定の軌道に投入されず、打ち上げは残念ながら失敗という結果に終わりました。基幹ロケットとして安定運用が期待されていた中でのトラブルに、「一体何が起きたのか?」「2026年以降の打ち上げ計画はどうなってしまうのか?」と、不安や疑問を感じている方も多いのではないでしょうか。

本記事では、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の公式発表に基づき、8号機失敗の技術的な原因である「フェアリング分離時の異常」についてわかりやすく解説します。さらに、現在進められている原因究明の状況や、6号機・9号機を含む2026年の最新スケジュールの見通しまで、今知っておきたい情報を網羅してお届けします。まずは、あの時ロケットに何が起きていたのか、その事実に迫っていきましょう。

目次

H3ロケット8号機 打ち上げ失敗の直接原因とは

今回の打ち上げ失敗は、決してエンジンの着火ミスといった単純なものではありませんでした。JAXAが公開したデータによると、ロケットが宇宙空間へ向かって上昇している最中、特定のタイミングで機体に予期せぬ大きな負荷がかかっていたことが分かっています。

ここでは、トラブルの引き金となった「フェアリング分離」の瞬間に何が起きたのか、そして衛星がどのような状態になってしまったのか、技術的な背景を紐解いていきます。

フェアリング分離直後の「異常加速度」と構造損傷

トラブルの起点は、打ち上げから約225秒後、衛星を守るカバーである「フェアリング」を分離した直後にありました。データ解析の結果、このフェアリング分離の瞬間に、通常では見られない極めて大きな「異常加速度(衝撃)」が検知されていたのです。

この想定外の衝撃が、ロケット内部に深刻なダメージを与えたと考えられています。具体的には、衛星を支えている構造の一部が損傷し、その影響で第2段エンジンの「液体水素タンク」の圧力が急激に低下してしまいました。ロケットエンジンは、燃料と酸化剤を適切な圧力で送り込まなければ燃焼を継続できません。圧力が下がったことでエンジンの燃焼が維持できなくなり、結果として「燃焼停止」という事態に陥ってしまったのです。

本来であれば、フェアリングはパラリと綺麗に剥がれ落ち、ロケットは軽くなってさらに加速するはずでした。しかし、その分離の瞬間の衝撃が、機体の内側でドミノ倒しのように致命的な故障を引き起こしてしまったというわけです。

みちびき5号機は「分離」ではなく「離脱」していた

今回の事故で最も痛ましいのは、搭載されていた準天頂衛星「みちびき5号機」の行方です。通常、衛星はロケットが目標の軌道に達した後に、指令を受けて切り離されます。しかし今回は、そのずっと手前の段階で衛星がロケットから離れてしまっていたことが、カメラ映像の解析から判明しました。

JAXAが公開したオンボードカメラの映像には、第1段と第2段が切り離される「段間分離」の段階で、すでに衛星らしき物体が意図せず後方へ離脱していく様子が映っていました。つまり、正規の分離信号が出る前に、機体の破損によって衛星が放り出されてしまったのです。

軌道投入に必要な速度も高度も足りない状態で放り出されたため、みちびき5号機は宇宙空間に留まることができませんでした。その後、重力に引かれて落下し、現在は海上に沈んだと推定されています。日本の測位精度向上を担うはずだった重要なインフラが、このような形で失われてしまったことは、関係者のみならず私たちにとっても非常に残念な事実です。

JAXAによる原因究明の現状(FTA解析)

事故直後から、JAXA内には「H3ロケット8号機打上げ対策本部」が設置され、徹底的な原因究明が進められています。現在は、考えられるあらゆる可能性を洗い出し、一つひとつ検証していく「FTA(故障の木解析)」という手法を使って、真犯人を絞り込んでいる段階です。

故障の木解析で絞り込まれた要因

FTA(Fault Tree Analysis)とは、事故の「頂上事象(今回の場合は構造損傷)」から、その原因となり得る要素を木の枝のように展開し、可能性のないものを切り落としていく解析手法です。現時点でJAXAは、いくつかの要因を除外し、可能性が高いものに焦点を絞っています。

まず、音響(音の振動)や電波による誤作動といった要因は、データとの整合性が取れないため除外されました。その一方で、現在強く疑われているのが以下の3つの要因です。

  • 力学的エネルギー: フェアリング分離機構が作動した際の物理的な衝撃が、想定以上に大きかった可能性。
  • 化学エネルギー: 分離に使われる火工品(火薬類)の燃焼などが、予期せぬ反応を起こした可能性。
  • 強度不足: そもそも衛星を支える構造部材の強度が、設計値よりも低かった、あるいは製造上の欠陥があった可能性。

現在は、これらの要因が単独で起きたのか、あるいは複合的に絡み合って起きたのかを慎重に検証しています。原因究明はまだ道半ばであり、今後、地上での再現試験などを通じて、確実な証拠を掴む必要があります。2026年の打ち上げ再開に向け、今は焦らず、しかし着実に「膿を出し切る」ことが求められているのです。

なぜ順番が違う?「8号機」と「みちびき5号機」の時系列整理

今回のニュースを見て、「あれ? H3ロケットってまだ5号機くらいじゃなかったっけ?」と首を傾げた方もいるかもしれません。実はH3ロケットの開発と打ち上げ順序は、単純な「1、2、3…」という順番通りには進んでいないのです。

特に2025年は、複数のミッションが並行して動いていたため、ロケットの「号機番号」と、搭載される衛星の「番号」が入り乱れる複雑な年となりました。ここで一度、混乱しやすい時系列を整理しておきましょう。

H3ロケットの打ち上げ順序と搭載衛星

H3ロケットは、製造のタイミングや搭載する衛星の準備状況によって、打ち上げ順序が前後することがあります。以下の表は、2025年の実績と今回の8号機の位置づけをまとめたものです。

打上げ時期ロケット号機搭載衛星結果
2025年2月5号機みちびき6号機成功
2025年10月7号機HTV-X1(補給船)成功
2025年12月8号機みちびき5号機失敗

【H3ロケット】

ご覧の通り、2月に「5号機」で「みちびき6号機」を打ち上げ、年末の「8号機」で「みちびき5号機」を打ち上げるという、少々ややこしい順序になっていました。これは、静止軌道を確保する優先順位や、衛星側の開発スケジュールの都合によるものです。

このように番号が前後することは宇宙開発では珍しくありませんが、今回の失敗が「8号機」で起きたという事実は、今後のデータ整理において重要なポイントになります。5号機や7号機が成功していただけに、なぜ8号機だけでトラブルが起きたのか、その固有の原因を突き止める必要があるからです。

2026年の打ち上げ予定への影響と「6号機」の行方

今回の失敗を受けて、最も懸念されているのが2026年以降のスケジュールへの影響です。宇宙開発は、一つの失敗が次の計画を玉突き事故のように遅らせる「ドミノ倒し」のリスクを常にはらんでいます。

特に、2026年初頭に予定されていたミッションは、計画の見直しを余儀なくされる可能性が高まっています。具体的にどのような影響が出そうなのか、現時点での見通しを解説します。

9号機および6号機の延期見通し

まず直撃を受けるのが、2026年2月に打ち上げが予定されていた「H3ロケット9号機」です。8号機の原因究明と対策が完了しない限り、同型機である9号機を飛ばすことはできません。現時点では公式な新日程は発表されていませんが、数ヶ月から半年単位の延期は避けられないでしょう。

また、注目されていた「H3ロケット6号機」の行方も不透明になりました。6号機は、固体ロケットブースターを装着しない「H3-30S」という新しい形態での飛行が予定されていました。しかし、今回のトラブルの原因が機体の構造や分離機構にある場合、形態が異なるとはいえ、共通部品の安全性が確認されるまでは待機となります。

【H3ロケット(ライト版・30S形態)】

さらに、H3ロケットだけでなく、共通の技術基盤を持つ「イプシロンSロケット」など、日本の基幹ロケット全体のスケジュールにも影響が波及する恐れがあります。

宇宙戦略基金や民間ビジネスへの影響

技術的な遅れは、そのままビジネスへの打撃にも繋がります。2025年は「宇宙戦略基金」が本格始動し、多くの民間企業が宇宙ビジネスへの参入を表明した活気ある年でした。その矢先の失敗は、産業界に冷や水を浴びせる形となりかねません。

特に、H3ロケットは今後、三菱重工業へ打ち上げ業務を移管し、海外の民間衛星を受注していく「商業化」のフェーズに入るところでした。顧客となる衛星事業者は、何よりも「確実に宇宙へ届けてくれる信頼性」を重視します。

今回の足踏みは痛手ですが、ここで中途半端な対策で急ぐよりも、徹底的に原因を潰し、「より強固なロケット」として復活することが、結果的にビジネス上の信頼回復への近道となるはずです。2026年は、日本の宇宙開発の「粘り強さ」が試される一年になるでしょう。

まとめ:信頼回復に向けたJAXAの対策に注目

今回のH3ロケット8号機の失敗は、フェアリング分離時の想定外の衝撃による構造損傷が主な原因である可能性が濃厚です。これにより、みちびき5号機という重要なインフラを失い、2026年の打ち上げ計画にも遅れが出ることは避けられません。

しかし、失敗から得られるデータは、成功した時以上に膨大で貴重なものです。かつてのH2ロケットも、失敗を乗り越えて世界最高水準の信頼性を手に入れました。今回の「産みの苦しみ」も、H3ロケットが将来的に世界の宇宙輸送をリードするための、避けては通れない試練なのかもしれません。

原因究明は現在も進行中です。私たちにできることは、憶測で不安になるのではなく、JAXAや対策本部から出される正確な情報を見守ることです。日本の技術力がこの壁をどう乗り越えていくのか、引き続き注目していきましょう。


【編集部より】

今回の事故に関するより詳細な技術報告や、今後の打ち上げスケジュールの変更については、JAXAの公式サイトで随時更新されています。正確な一次情報を確認したい方は、ぜひ公式サイトのプレスリリースをチェックしてみてください。


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