2026年2月現在、中国のレアアース輸出を巡る情勢は、再び先行きが見通せない不透明な状況に陥っています。2025年の「ロンドン合意」によって一時は輸出許可の再開が進んだものの、2026年1月に中国側が新たに発表した規制強化の影響で、現場には再び混乱が生じているからです。
企業の調達担当者様の間では、厳格なルールの裏で規制の「形骸化」が進んでいるのではないか、あるいは現場レベルでの「運用緩和」が行われているのではないかといった観測も飛び交っています。本記事では、錯綜する中国レアアース輸出許可の最新動向を整理し、2026年2月時点でのサプライチェーンへの影響と、日本企業が今とるべき対策について徹底解説します。
2026年2月現在:中国レアアース輸出許可は再開されているのか?
「結局のところ、今レアアースは中国から買えるのか?」
多くの調達担当者様が最も懸念されているこの問いに対する答えは、「輸入自体は可能だが、以前よりも許可に時間がかかり、供給が不安定化している」というのが正確な現状です。
2026年2月現在、中国当局はレアアースの輸出を完全に停止しているわけではありません。しかし、2026年1月に施行された新たな管理指針により、特に「デュアルユース」と呼ばれる品目への審査が格段に厳しくなりました。デュアルユースとは、民間製品だけでなく軍事用にも転用可能な技術や物資のことを指します。
これまでスムーズに通関できていた高性能な磁石や加工・精製済みのレアアース製品であっても、現在は一点ごとに詳細な用途証明が求められるケースが増えています。そのため、許可申請から承認までのリードタイムが予測できず、通関遅延が常態化しつつあるのです。
一方で、現場からは「抜け道」のような動きも報告されています。厳格なルールとは裏腹に、一部の品目や地域では比較的スムーズに輸出許可が下りる事例もあり、規制の運用にバラつきが見られます。これは、中国側が経済へのダメージを避けるために、実務レベルで意図的な運用緩和を行っている可能性を示唆しています。
つまり現在は、表向きの厳しい「輸出規制」と、水面下での「取引継続」が入り混じった非常に読みづらい局面にあると言えます。日本企業としては、いつ物流がストップしてもおかしくないという緊張感を持って、日々の動向を注視する必要があります。
ロンドン合意から見る「輸出再開」と「規制」のサイクル
現在の混乱を正しく理解するためには、ここに至るまでの経緯を振り返る必要があります。実は、この「規制強化」と「緩和」のサイクルは、2025年から繰り返されてきた米中対立の縮図でもあります。
時計の針を少し戻すと、事の発端は2025年4月に中国で施行された改正輸出管理法でした。この時、中国は戦略物資としてのレアアース管理を強化し、実質的な輸出制限に踏み切りました。これにより世界中のサプライチェーンが寸断されかけましたが、その流れを一時的に変えたのが、同年6月の米中協議で結ばれた通称「ロンドン合意」です。
ロンドン合意は、当時のトランプ政権下での関税交渉とバーター(交換条件)で行われたもので、アメリカ側が一部の制裁関税を見送る代わりに、中国側がレアアースの輸出許可プロセスを正常化するという内容でした。
この合意を受けて、2025年後半には一時的に輸出許可が再開され、滞っていたEV(電気自動車)向けモーター用磁石などの供給も回復傾向にありました。多くの企業が「これで最悪の事態は脱した」と安堵したのも束の間、合意から半年余りで再び規制の網がかけられたのが現在の状況です。
専門家の間では、ロンドン合意はあくまで「一時的な停戦」に過ぎなかったという見方が強まっています。中国商務部にとっても、レアアースは外交上の強力な交渉カードです。そのため、相手国の出方を見ながら「蛇口を締めたり緩めたりする」運用が常態化しており、今後も政治情勢に連動して供給が不安定になるリスクは消えていません。
キーワード「形骸化」「運用緩和」が浮上する理由
なぜ、厳しい輸出規制が敷かれているにもかかわらず、「形骸化」や「運用緩和」といった言葉が検索されるのでしょうか。その背景には、中国自身が抱えるジレンマと、ビジネス現場特有の力学が働いています。
結論から言えば、中国にとってレアアースの完全な輸出停止は「諸刃の剣」だからです。もし完全に蛇口を閉めてしまえば、外貨獲得の手段を失うだけでなく、これまで築き上げてきた世界シェアを自ら手放すことになりかねません。特に中国国内のレアアース企業からは、在庫の滞留による価格下落を懸念し、輸出の継続を求める声が上がっているのが実情です。
また、過度な規制は「密輸」を助長するという歴史的な教訓もあります。過去にも輸出枠を絞りすぎた結果、非正規ルートでの流出が横行し、当局がコントロールを失った事例がありました。こうした事態を防ぐため、表向きは「厳格な許可制」を維持しつつ、実務レベルでは主要顧客に対して比較的緩やかに許可を出すという「運用緩和」が行われている可能性があります。
つまり、現在の輸出管理法は「絶対に輸出させない」ための法律ではなく、「いざという時に止められる」ための交渉カードとして機能しています。この「建前と本音」のギャップこそが、現場でささやかれる形骸化の正体であり、日本企業が最も読み解くべきポイントなのです。
サプライチェーンの安定化と脱中国への動き
こうした中国側の不透明な動きに対し、世界各国も手をこまねいているわけではありません。2026年2月、日米欧を含む55カ国による閣僚級会合が開催され、特定の国に依存しない「信頼できるサプライチェーン」の構築に向けた議論が加速しています。
ここで注目されているのが、価値観を共有する国同士で経済圏を作る「フレンド・ショアリング」の具体化です。会議では、中国による安値攻勢に対抗するため、環境配慮や労働基準を満たした重要鉱物に対して「最低価格」を設ける仕組みの導入も検討されました。これは、コスト競争で不利になりがちなオーストラリアや北米の鉱山開発を保護し、長期的な供給元を確保するための布石です。
日本企業にとっても、これは調達ルートを見直す大きな転換点となります。これまでは「コスト最優先」で中国産を選んでいた企業も、今後は「供給安定性」をコストの一部と捉え直す必要があります。ベトナムやマレーシアなど、中国以外の精錬・加工拠点を経由するルートの開拓は、もはや選択肢ではなく必須の経営課題となりつつあります。
日本企業への経済影響と今後の対策
では、もし実際に輸出停止措置が長期化した場合、私たちのビジネスにはどの程度の影響があるのでしょうか。ある民間シンクタンクの試算によれば、中国からのレアアース輸入が1年間完全に停止した場合、日本のGDP(国内総生産)は約0.9%押し下げられる可能性があるとされています。
| 輸入停止期間 | 経済への影響度(予測) | 主な影響分野 |
| 3ヶ月未満 | 限定的 | 在庫で対応可能だが、スポット価格が高騰 |
| 6ヶ月 | 深刻 | 自動車、家電メーカーで減産が始まる |
| 1年 | 甚大(GDP -0.9%) | サプライチェーンの断絶、工場の海外移転加速 |
このような最悪のシナリオを回避するために、企業が今すぐ取り組むべき対策は以下の3点に集約されます。
第一に、「在庫の積み増し」です。ジャストインタイムの考え方を一時的に修正し、数ヶ月分の戦略的備蓄を持つことが、急な通関遅延に対する最大の防御策となります。
第二に、「調達の多角化」です。商社や現地パートナーと連携し、中国以外のソースからの調達比率を少しずつでも高めておくことが重要です。
第三に、中長期的な視点での「設計変更」です。レアアースの使用量を減らす、あるいは全く使用しない代替技術(レアアースレス)への転換を、開発部門と連携して進める必要があります。
まとめ:注視すべきは「実務レベル」の通関動向
2026年2月現在、中国のレアアース輸出許可を巡る状況は、政治的な発表と実務の現場に大きな乖離が見られます。ニュースで報じられる「規制強化」という言葉だけに踊らされず、実際の通関現場でモノが流れているか、許可申請にかかる日数がどう変化しているかという「実務レベル」の情報を定点観測することが何より重要です。
ロンドン合意のような一時的な緩和に安堵することなく、常に「いつ止まるかわからない」という前提でBCP(事業継続計画)を見直してください。情報収集と準備を怠らないことこそが、不確実な時代を生き抜く唯一の道です。
貴社のサプライチェーンは、明日の変化に耐えられますか?まずは主要部材の在庫状況を確認することから始めてみましょう。
