ChatGPTは業務効率化やアイデア出しに非常に便利なツールですが、入力したデータがAIの学習に再利用されるリスクがあることをご存知でしょうか。不用意に個人情報や社外秘のデータを入力してしまうと、意図せず情報が外部へ流出し、取り返しのつかない事態を招く恐れがあります。
AIは入力された情報を知識として蓄積していく仕組みを持っているため、私たちが普段何気なく送っているメッセージも、適切な管理を行わなければ他者への回答として出力されてしまう可能性があるのです。本記事では、専門家が警告するChatGPTに絶対に共有してはいけない情報の具体例と、万が一入力してしまった場合の対処法、そして安全に利用するためのセキュリティ設定やオプトアウトの方法について徹底解説します。
なぜChatGPTに情報を共有してはいけないのか(学習のリスク)
私たちがChatGPTに入力するプロンプトや会話データは、開発元であるOpenAIによってサービスの品質向上やモデル改善のために使用されることがあります。これはChatGPTを利用する上で非常に重要な前提条件ですが、意外と見落とされがちなポイントでもあります。
イメージとしては、ChatGPTに情報を入力することは、半透明の公共掲示板に自分の日記を貼り付けていく行為に似ていると言えるでしょう。その場では自分とAIだけの対話のように感じられますが、システム側はその内容を記録・分析し、将来的に他のユーザーからの質問に対する回答の材料として使う可能性があるからです。一度AIが学習してしまったデータを取り戻すことは技術的に非常に困難であり、それがいつ、どのような形で第三者の目に触れることになるかは予測できません。
また、入力データはOpenAIのサーバーに保存される過程で、管理や監視のために人の目に触れる可能性もゼロではありません。したがって、他人に知られては困る情報や、公開されることを想定していないデータは、そもそも入力しないという意識を持つことが最大のリスク管理となります。AIはあくまで高度なデータ処理装置であり、秘密を守ってくれる友人ではないという認識を持つことが大切です。
【実務チェックリスト】ChatGPTに絶対に入力・共有してはいけない5つの情報
ここからは、具体的にどのような情報を入力してはいけないのか、5つのカテゴリーに分けて解説します。これらはセキュリティの専門家やガイドラインでも特に注意喚起されている項目ですので、ご自身や組織の運用ルールと照らし合わせながら確認してください。
個人を特定できる情報(PII)
最も基本的かつ重要なのが、個人を特定できる情報、いわゆるPII(Personally Identifiable Information)です。自分の情報はもちろんのこと、家族や友人、同僚、顧客などの第三者の情報を入力することは絶対に避けてください。たとえ悪意がなくても、プライバシー侵害のリスクを負うことになります。
具体的には、氏名、住所、電話番号、メールアドレス、生年月日などがこれに該当します。また、これ単体では特定が難しくても、複数の情報を組み合わせることで個人が特定されてしまうケースもあります。たとえば、地域名と職業、具体的なエピソードなどをセットで入力すると、誰のことを指しているか推測できる場合があるため注意が必要です。もし文章の添削などで人名が必要な場合は、Aさんや山田太郎といった架空の名前に置き換えてから入力するようにしましょう。
私生活に関するプライベートな悩みや情報
ChatGPTは相談相手としても優秀ですが、あまりに個人的で深い悩みや、家庭内の事情といったプライベートな情報を詳細に共有するのは控えるべきです。感情的な吐露や人間関係のトラブルに関する記述は、個人の内面に関わる非常にセンシティブなデータとなり得ます。
こうした情報は、万が一流出した際に精神的な苦痛を伴うだけでなく、個人の尊厳に関わる問題に発展する可能性があります。また、AIがその内容を学習することで、似たような悩みを持つ他のユーザーに対して、あなたの具体的な状況を含んだ回答を生成してしまうリスクも否定できません。心のうちは信頼できる専門家や身近な人に相談し、AIにはあくまで一般的なアドバイスを求める程度に留めるのが賢明です。
自分や家族の医療情報・健康記録
病歴、通院記録、服用している薬の種類、メンタルヘルスに関する情報などの医療情報は、極めて慎重に扱うべき機微な個人情報です。健康上の不安についてAIに質問すること自体は有用ですが、具体的な検査数値や診断結果、個人が特定できるような詳細な経過を入力することは避けてください。
医療情報はプライバシー保護の観点から最も厳格に管理されるべきデータの一つです。これらの情報が学習データとして取り込まれ、予期せぬ形で露見した場合、就職や保険契約、社会的な信用などに悪影響を及ぼす懸念があります。健康に関する一般的な知識を問う場合は、あくまで「一般論」として質問し、自分自身の生々しいデータを渡さないように心がけましょう。
職場の機密情報・ソースコード・NDA対象データ
ビジネスシーンでの利用において最も注意が必要なのが、職場の機密情報です。未公開の新製品情報、売上データ、顧客リスト、社内会議の議事録などは、企業の競争力や信用に関わる重要資産です。これらを要約や分析のためにChatGPTに入力してしまうと、情報漏洩事故として深刻な責任問題に発展しかねません。
特にエンジニアの方が注意したいのが、プログラムのソースコードやAPIキーなどの技術情報です。エラーチェックのためにコードをそのまま貼り付けるケースが見受けられますが、そのコードが企業の知的財産である場合、流出は大きな損失となります。また、NDA(秘密保持契約)を結んでいる取引先のデータについても同様です。実務で利用する際は、固有名詞を伏せる、数値をダミーに変更するなど、徹底した匿名化処理を行うか、後述するオプトアウト設定や法人向けプランを活用する必要があります。
銀行口座やクレジットカードなどの金融情報
最後は、直接的な金銭被害に結びつく金融情報です。銀行の口座番号、クレジットカード番号、暗証番号、ログインパスワードなどは、いかなる理由があってもChatGPTに入力してはいけません。
AIがこれらの情報を意図的に盗むわけではありませんが、クラウド上の履歴に残ること自体がセキュリティ上のリスクとなります。もしアカウントが不正アクセスを受けた場合、チャット履歴からこれらの重要情報が第三者の手に渡ってしまう可能性があるからです。金銭に関わる手続きや管理は、専用の金融機関のシステムやセキュリティが担保された環境で行うべきであり、汎用的なAIチャットボットに入力するべき情報ではありません。
機密情報を入力・共有してしまった場合の緊急対処法
「しまった、送ってはいけない情報を入力してしまった」と気づいたとき、焦りで頭が真っ白になってしまうかもしれません。しかし、迅速な初期対応が被害を最小限に食い止める鍵となります。ここでは、誤って機密情報や個人情報を共有してしまった際に、直ちに行うべき対処法を解説します。
チャット履歴の削除とアカウントの安全確保
まず最初に行うべきは、当該のチャット履歴を削除することです。ChatGPTのサイドバーにあるチャット履歴から該当する会話を選び、削除を実行してください。これにより、少なくとも自分のアカウント画面上でその情報が他人の目に触れるリスク(例えば、画面の覗き見やアカウントへの不正アクセス時など)を即座に排除できます。
ただし、履歴を削除したからといって、OpenAIのサーバーから学習データとしての記録が瞬時に消滅するとは限りません。それでも、リスク管理の第一歩として、アクセス可能な場所から情報を消すことは重要です。まずは落ち着いて履歴を削除し、アカウントの安全確保を優先しましょう。
共有リンクの管理と「site:[疑わしいリンクは削除されました]」のリスク
もし、「会話を共有」機能を使って共有リンクを作成してしまった場合は、より緊急度が高まります。作成されたリンクを知っている人は誰でもその会話内容を閲覧できてしまうからです。過去には検索エンジンのコマンド(site:[疑わしいリンクは削除されました])によって、公開された会話ログが検索結果に表示されてしまう事例も話題になりました。
対処法としては、設定画面の「データコントロール」などから「共有リンク」の管理画面へ進み、該当するリンクを直ちに削除または無効化してください。リンクを無効化すれば、URLを知っている第三者がアクセスしても内容は表示されなくなります。意図しない情報拡散を防ぐため、共有機能を使った記憶がある場合は定期的にリンクの有効状態を確認することをおすすめします。
情報漏洩の種類に応じた事後対応(金融・職場・個人)
ChatGPT上の操作だけでなく、漏洩した情報の種類に応じた現実的な事後対応も不可欠です。たとえば、クレジットカード情報を入力してしまった場合は、カード会社へ連絡して利用停止や番号変更の手続きを検討すべきでしょう。金融情報の流出は、直接的な金銭被害に直結するため、迷わず行動することが大切です。
また、職場の機密データを入力してしまった場合は、速やかに上司やセキュリティ担当部署へ報告してください。「怒られるかもしれない」と隠蔽することで、発見が遅れ、企業全体に損害が広がる恐れがあります。個人のプライバシー情報であれば、どこまで影響が及ぶかを冷静に見積もり、必要であればパスワードの変更など、関連するアカウントのセキュリティを強化する対策を講じましょう。
セキュリティを高めるChatGPTの「オプトアウト」と「一時チャット」設定方法
リスクを未然に防ぐためには、事前の設定が非常に効果的です。ChatGPTには、ユーザーのデータがAIの学習に使われないようにする「オプトアウト」の仕組みや、履歴を残さない機能が用意されています。これらを活用して、プライバシーを守る設定を行いましょう。
設定画面から「モデルの改善」をオフにする手順
最も基本的な対策は、自分の会話データをモデルの訓練に使わせない設定にすることです。設定画面(Settings)を開き、「データコントロール(Data Controls)」の項目を探してください。そこにある「すべての人のためにモデルを改善する(Improve the model for everyone)」という項目をオフにすることで、入力データが学習に使用されるのを防げます。
この設定を行うと、あなたの会話内容はOpenAIのモデル改善プロセスから除外されます。デフォルトではオンになっていることが多いため、アカウント作成時やアップデート時に必ず確認しておきたい項目です。これだけで、不用意に入力した情報が将来のAIの知識になってしまうリスクを大幅に下げることができます。
履歴を残さない「一時チャット」機能の活用術
特定の会話だけ履歴を残したくない場合には、「一時チャット(Temporary Chat)」機能が便利です。これはいわゆるシークレットモードのようなもので、このモードで会話した内容は履歴に保存されず、モデルの学習にも使用されません。
少し込み入った相談や、一時的に必要なデータ処理を行いたい場合は、画面上部のモデル選択や設定メニューからこのモードに切り替えましょう。ブラウザを閉じたり会話を終了したりするとアクセスできなくなるため、後で見返す必要がない情報の処理には最適です。プライバシーを守りながらAIを活用する、賢い使い分けのテクニックと言えます。
OpenAIへの「プライバシーリクエスト」申請による確実な停止
さらに厳格にデータの利用を拒否したい場合は、OpenAIの公式サイトから「プライバシーリクエスト(User Content Opt Out Request)」を申請する方法があります。これは専用のフォームを通じて、自分のアカウントデータを学習に使用しないよう、明示的にオプトアウトを申し入れる手続きです。
特に機密情報を扱う頻度が高い専門職の方や、企業の管理者などは、この申請を行っておくと安心感が高まります。設定画面での操作に加えて、公式なリクエストを送ることで、データプライバシーに対する保護レベルを二重に強化することができます。手間は少しかかりますが、情報の安全性を担保するための有効な手段です。
法人利用で遵守すべきAI法(日本・EU)と安全な運用体制
企業でChatGPTを導入する場合は、個人利用とは異なる法的責任や管理体制が求められます。特に近年は、国内外でAIに関する法規制が整備されつつあり、これらを無視した運用はコンプライアンス違反となるリスクがあります。
2025年9月施行の「日本版AI法」と企業の義務
日本国内においても、AIの安全性確保を目的とした規制の動きが活発化しています。2025年9月を目処に進められてきた法整備やガイドライン(いわゆる日本版AI法に関連する動き)では、特にハイリスクなAI利用において透明性やリスク管理が求められます。
企業が業務で生成AIを利用する場合、入力データが適切に管理されているか、著作権や個人情報保護法に抵触していないかをチェックする体制が必要です。「知らなかった」では済まされないため、法務部門と連携し、社内のAI利用ガイドラインを最新の法規制に合わせてアップデートし続ける義務があります。
EU AI規制法(AI Act)が日本企業に与える影響
グローバルにビジネスを展開する企業にとって、EUの「AI規制法(AI Act)」も無視できない存在です。この法律は世界で初めての包括的なAI規制であり、違反時には巨額の制裁金が科される可能性があります。日本企業であっても、EU圏内の顧客データを取り扱ったり、現地でサービスを提供したりする場合は対象となるケースがあります。
特に、従業員の採用や評価、重要なインフラ管理などにAIを使用する場合、厳しいリスク評価とデータガバナンスが求められます。ChatGPTのような汎用AIを業務フローに組み込む際は、データの透明性を確保し、EUの基準を満たすような厳格なセキュリティ設定を行うことが、経営リスクを回避するために不可欠です。
API利用や法人向けプラン(Enterprise/Business)でのデータ保護
こうした法的リスクや情報漏洩リスクを回避するための推奨解は、法人向けプラン(ChatGPT EnterpriseやTeamプラン)やAPI経由での利用です。これらのプランでは、OpenAIの利用規約において「入力データはモデルの学習に使用されない」と明記されており、エンタープライズ級のセキュリティが担保されています。
無料版や個人向けのPlusプランでは学習利用がデフォルトですが、法人プランであれば機密情報を入力しても学習データとして吸い上げられることはありません。組織として安全にAIを活用し、業務効率化を図るならば、コストをかけてでもデータコントロールが可能な法人契約への切り替えを強くおすすめします。
まとめ:安全にChatGPTを使いこなすためのリテラシー
ChatGPTは私たちの生活や仕事を劇的に便利にしてくれるツールですが、その裏側にはデータの学習や再利用といった仕組みが存在します。入力した情報は、場合によっては世界中のユーザーに共有されるリスクを含んでいることを忘れてはいけません。「AIは秘密を守ってくれる友人ではなく、入力された情報を処理する機械である」という認識を持つことが、最初のリスク対策です。
本記事で紹介した「共有してはいけない情報」を理解し、適切な設定や対処法を身につけることは、デジタル時代における必須のリテラシーです。便利な道具に振り回されるのではなく、道具の性質を正しく理解し、コントロールする側になりましょう。
【今すぐできるアクション】
まずは、お手元のChatGPTの設定画面を開き、「モデルの改善(学習)」の設定がオフになっているかを確認してみましょう。たった1分の確認作業が、あなたや組織の大切な情報を守ることに繋がります。
