「退職代行モームリ」の運営会社社長らが弁護士法違反の疑いで逮捕されたというニュースは、退職を検討していた多くの人に衝撃を与えました。SNSやテレビで話題だった業界最大手のサービスで、一体何が起きたのでしょうか。
本記事では、今回の逮捕容疑である「非弁提携」という聞きなれない言葉の意味や、複雑な違法の仕組みについてわかりやすく解説します。
さらに、元従業員が告発する社内の実態や、現在サービスを利用中の方が最も気になる「今後の影響」についても法的観点からまとめました。この事件の真相を知り、自分自身の身を守るための参考にしてください。
退職代行「モームリ」社長逮捕の概要と容疑
ニュースで大きく報じられたため、驚かれている方も多いかもしれません。まずは、今回誰がどのような理由で逮捕されたのか、事実関係を整理しましょう。
逮捕されたのは、退職代行サービス「モームリ」を運営する株式会社アルバトロスの代表取締役、谷本慎二容疑者(37)とその妻の志織容疑者(31)らです。警視庁は2025年2月3日、彼らを弁護士法違反(非弁提携)の疑いで逮捕しました。
容疑の核心は、弁護士資格を持っていないにもかかわらず、報酬を得る目的で利用者を特定の弁護士にあっせんしたという点です。
実はこの事件、突然の逮捕ではありませんでした。2024年10月の時点で会社などに関係先への家宅捜索が入っており、警察による慎重な捜査が続けられていたのです。
なぜ違法?「弁護士法違反」の裏にあった巧妙な手口
今回問題となっている「弁護士法違反」ですが、具体的にどのような仕組みが違法とされたのでしょうか。法律の専門用語をできるだけ噛み砕いて解説します。
「紹介料」を隠すための偽装工作
法律では、弁護士ではない一般の企業が、お客さんを弁護士に紹介して「紹介料」を受け取ることを厳しく禁止しています。これを許すと、紹介料目当ての悪質な業者が増えてしまうからです。
谷本容疑者らはこのルールを逃れるために、「労働環境改善組合」という団体を隠れ蓑にしていました。弁護士側から直接紹介料を受け取ると違法になるため、この組合への「広告業務委託費」や「賛助金」という名目でお金を動かしていたのです。
具体的には、顧客1人を紹介するごとに1万6500円ほどの報酬が、キックバックとして支払われていたとみられています。谷本容疑者が全体を指示し、妻の志織容疑者が法律事務所との窓口役を担当するという役割分担があったようです。
家宅捜索で見えた「非弁提携」の実態
警視庁の調べによると、2024年7月から10月のわずかな期間だけでも、顧客6人を弁護士に紹介していた疑いが持たれています。しかし、これは氷山の一角に過ぎず、実際には数百人規模のあっせんが行われていた可能性があります。
警察は、お金の受け皿となっていた労働組合や広告業務には実態がなかったと判断しました。つまり、表面上は「広告費」として処理していても、実質的には禁止されている「顧客紹介料」の受け渡しだったとみなされたのです。
このように、弁護士と業者が裏で手を組んで利益を分配する仕組みは「非弁提携」と呼ばれ、利用者保護の観点からも非常に重い罪とされています。
「あの会社はもうムリ」元従業員が語るブラックな実態
「会社を辞めたい人を助ける」はずの企業で、皮肉なことに深刻な労働問題が起きていました。週刊誌などの報道では、華やかなイメージとは裏腹の「ブラック企業」ぶりも明らかになっています。
社長による深刻なパワハラ疑惑
元従業員の証言によると、社内では谷本容疑者によるパワーハラスメントが常態化していたといいます。ミスをした従業員に対して、大勢の前で「論破してみろよ」と厳しく詰め寄るなどの行為があったようです。
こうした過酷な環境に耐えられず、従業員が次々と辞めていく事態になっていました。衝撃的なのは、彼らが自社を辞める際に、わざわざ他社の退職代行サービスを使って退職していたという話です。
「モームリで働くことが、もう無理(モームリ)」というジョークのような話ですが、内部の人間関係や労働環境はそれほど追い詰められた状況だったことがうかがえます。
派手な広告の裏側で
モームリといえば、街中を走る大きなアドトラック(宣伝トラック)や、テレビ番組への露出で知名度を上げてきました。クリーンで親しみやすいイメージを演出していましたが、その裏側には大きなギャップがあったのです。
実際に、設立からわずか3年ほどで退職件数3万件、売上3億3000万円という急成長を遂げています。しかし、その数字を達成するための「売上至上主義」が、コンプライアンス(法令順守)の軽視につながったのかもしれません。
外からは見えない内部の歪みが、今回の逮捕劇や元従業員による告発という形で一気に噴き出したと言えるでしょう。
現在「モームリ」を利用中の方へ:返金や退職への影響
今回の事件で最も不安を感じているのは、現在進行形でサービスを利用している方々でしょう。「払ったお金は戻ってくるのか」「私の退職はどうなるのか」という切実な疑問に対し、法的な観点と現実的な対策を整理しました。
サービス停止と返金の可能性
代表者が逮捕されたことで、今後サービスの継続は極めて困難になると予想されます。会社の銀行口座が捜査の一環で凍結される可能性も高く、残念ながら一度支払った費用の返金を受けるのはハードルが高いのが現実です。
もし会社側と連絡が取れない場合は、クレジットカード会社に事情を説明し、支払いの取り消し(チャージバック)ができないか相談してみてください。また、銀行振込の場合でも「組戻し」という手続きで資金を取り戻せる可能性がありますので、すぐに銀行窓口へ問い合わせることをお勧めします。
「退職」自体は無効になるのか?
ここで重要なのが、利用者が行った「退職」の効力です。結論から言えば、代行業者が違法な運営をしていたとしても、あなた自身の「会社を辞めたい」という意思表示が勤務先に届いていれば、民法上は退職が有効となるケースがほとんどです。
ただし、会社側が「違法業者からの通知は無効だ」と主張し、損害賠償を求めてくるリスクもゼロではありません。特に、貸与物の返却や引継ぎが完了していない場合はトラブルになりやすいため、早急な対処が必要です。
状況別に取るべき行動を以下の表にまとめましたので、ご自身の状況と照らし合わせてみてください。
| 現在の状況 | 取るべき対応と対策 |
| まだ依頼前・入金前 | 直ちに利用を中止し、他の信頼できる弁護士や適法な労働組合へ相談先を変更してください。 |
| 依頼中・まだ退職できていない | サービスが停止する恐れがあります。速やかに弁護士へ相談し、改めて退職の意思を会社へ伝えてもらうよう依頼しましょう。 |
| 退職連絡済み・書類待ち | 会社へ直接連絡を入れるのが賢明です。「代行業者と連絡がつかなくなった」と事情を話し、離職票などの書類送付を依頼してください。 |
安全な退職代行サービスを選ぶためのポイント
今回の事件は、派手な広告や「業界最大手」という看板だけでは、サービスの安全性を判断できないことを浮き彫りにしました。今後、退職代行を利用する際にリスクを回避するための基準をお伝えします。
「非弁」リスクがない運営元を選ぶ
退職代行には大きく分けて「弁護士」「労働組合」「民間企業」の3つの運営元があります。最も安全なのは、法律のプロである弁護士が直接運営しているサービスです。弁護士であれば、会社との交渉や万が一の損害賠償請求への対応もすべて合法的に行えます。
また、労働組合が運営する場合も団体交渉権を持っていますが、今回のように実体のない「偽装労組」が混ざっている点には注意が必要です。
実態の確認と誇大広告への注意
運営会社の透明性を確認することも重要です。ホームページに代表者の氏名や所在地が明記されているか、弁護士が実名で監修や運営に関わっているかを必ずチェックしましょう。
「成功率100%」や「即日全額返金」といった、あまりに都合の良い言葉を並べ立てる業者には警戒が必要です。甘い言葉の裏には、今回のような違法なスキームや、コンプライアンス軽視の姿勢が隠されているかもしれません。
まとめ
今回の逮捕劇は、急成長する退職代行業界の「闇」を世間に知らしめる結果となりました。谷本容疑者らは容疑を否認しているとのことですが、警察は組織的な非弁提携があったとみて、引き続き全容解明に向けた捜査を進めています。
退職代行は、精神的に追い詰められた労働者にとって「最後の砦」とも言えるサービスです。だからこそ、料金の安さや知名度だけで安易に選ぶのではなく、「誰が運営しているか」「法律を正しく守っているか」を慎重に見極める必要があります。
もし現在、退職に関するトラブルや不安を抱えているのであれば、まずは一度、お近くの弁護士や公的な相談窓口へ相談してみてください。あなた自身の身を守り、次のステップへ安心して進むための最善の方法が見つかるはずです。
