2026年1月28日に発表された株式会社アドバンテストの2025年度第3四半期決算は、まさに市場の予想を覆す歴史的な内容となりました。売上高と利益はいずれも過去最高を更新し、通期の業績予想については今期3度目となる大幅な上方修正を発表しています。この驚異的な決算を受け、翌29日の株式市場では株価が一時14%高と急騰し、上場来高値を鮮やかに更新しました。
これほどの好業績が生まれた背景には、一時的なブームにとどまらない「AI半導体」や「HBM(広帯域メモリ)」の爆発的な需要増という構造的な変化があります。本記事では、この新たな成長フェーズである「AIスーパーサイクル」の全貌と決算の重要ポイント、そして2026年以降の市場展望についてわかりやすく解説します。
【決算速報】2025年度第3四半期の実績と上方修正
まずは、市場にインパクトを与えた2025年度第3四半期(2025年10月〜12月)の決算実績を具体的に見ていきましょう。事前の市場予想(コンセンサス)を大きく上回る数字が並んでおり、AI関連需要の強さが数字にはっきりと表れています。
| 項目 | 実績値 | 前年同期比(増減率) |
| 売上高 | 1,842億円 | +46.3% |
| 営業利益 | 685億円 | +110.8% |
| 四半期純利益 | 498億円 | +125.4% |
| 営業利益率 | 37.2% | +11.4pt |
このように、売上高は約1.5倍、利益に関しては前年の2倍以上という驚異的な伸びを記録しました。世界的な半導体需要の波に乗り、アドバンテストがその中心的な役割を果たしていることがうかがえます。
売上高・営業利益ともに過去最高を更新
今回の決算で特筆すべきは、四半期ベースでの売上高と営業利益がともに過去最高を更新した点です。前年同期比で営業利益が110.8%増となった事実は、単に市場が回復しただけでなく、同社の収益構造が一段高いレベルへ移行したことを示しています。
特にAI向け半導体の開発競争が激化する中で、高性能なテスタへの需要が急増しました。これまではスマートフォンやパソコン向けの需要が中心でしたが、現在は生成AIを支えるデータセンター向けの投資が活発化しており、これが業績を強力に牽引しています。多くの投資家が注目していた「AIバブル崩壊」の懸念を払拭し、むしろ成長が加速していることを証明する形となりました。
今期3度目となる通期業績予想の上方修正
第3四半までの好調な進捗を踏まえ、会社側は2025年度通期の業績予想を再び引き上げました。上方修正は今期に入ってこれで3回目となり、経営陣の想定をも超えるスピードで事業環境が好転していることがわかります。
修正後の通期売上高予想は、ついに1兆円の大台を超える「1兆700億円」とされました。また、営業利益についても4,530億円へと引き上げられ、営業利益率は42.4%に達する見込みです。製造業において40%を超える利益率は極めて稀であり、アドバンテストが高い付加価値を持つ製品を独占的に供給できている証拠と言えるでしょう。
好決算を牽引した3つの要因:AIとHBMの爆発的需要
なぜこれほどまでに業績が拡大しているのでしょうか。その理由は一時的な特需ではなく、半導体業界全体で起きている技術革新と構造変化にあります。ここでは好決算を支えた3つの主要因について、技術的な背景を噛み砕いて解説します。
AI半導体向けSoCテスタの急伸
1つ目の要因は、AIの頭脳となる「SoC(システム・オン・チップ)」向けテスタの需要爆発です。最新のAIチップは、性能を高めるためにトランジスタの数を極限まで増やしたり、「チップレット」と呼ばれる複数の小さなチップをつなぎ合わせる技術を採用したりしています。
このようにチップの中身が複雑になればなるほど、正しく動作するかを確認するテストの時間は長くなります。テスト時間が長くなるということは、同じ数の半導体を出荷するために、より多くのテスタが必要になることを意味します。アドバンテストの主力製品はこのハイエンドな領域で圧倒的なシェアを持っており、需要に対して供給が追いつかないほどの引き合いが続いています。
HBM(広帯域メモリ)市場の拡大とテスト工程の増加
2つ目の要因は、生成AIに欠かせない高速メモリ「HBM」の普及です。HBMは、薄いメモリチップをビルのように縦に何層も積み上げることで、データのやり取りを高速化する技術です。しかし、積み上げてしまった後に不良品が見つかると、そのタワー全体が無駄になってしまいます。
そのため、積み上げる前のチップ単体の段階(KGDテスト)と、積み上げた後の段階の両方で、非常に厳しいテストを行う必要があります。通常のメモリよりもテストの難易度と回数が格段に増えるため、高性能なメモリテスタの需要が急拡大しました。HBMの積層数は8段、12段と増え続けており、それに比例してテスタの重要性も高まっています。
想定以上の円安進行による業績押し上げ
3つ目の要因として見逃せないのが、為替の影響です。アドバンテストは海外売上比率が9割を超えているため、円安になればなるほど、円換算した時の売上や利益が大きく膨らむ構造になっています。
会社側は期初の為替レートを1ドル140円台と想定していましたが、実際には150円台で推移する期間が長く続きました。この想定以上の円安進行が、業績をさらに押し上げる追い風となりました。ただし、為替要因を除いた実力値ベースで見ても十分に強い成長を示しており、円安はあくまで「プラスアルファ」の好材料として機能しています。
市場の反応と株価推移
決算発表を受け、株式市場は即座に、そして熱狂的に反応しました。投資家の期待値が非常に高かったにもかかわらず、それをさらに上回る実績と見通しが示されたためです。ここでは、株価の動きと専門家たちの評価について整理します。
株価は一時14%高、上場来高値を更新
決算発表翌日の1月29日、アドバンテストの株価は寄り付きから買い気配で始まりました。一時は前日比14%高まで急騰し、上場来高値を更新する展開となりました。これまで「AI特需は一時的ではないか」と慎重だった投資家たちが、あわてて買い戻す動きも見られました。
現在の株価収益率(PER)は過去の平均と比較すると高水準に見えるかもしれません。しかし、これだけの成長率を維持している点を考慮すれば、決して割高とは言えないという見方が優勢です。将来の利益成長を織り込みながら、株価は新たなステージへと駆け上がっています。
機関投資家・アナリストの評価
市場関係者にとって最大のサプライズは、需要の「中休み(調整局面)」が発生しなかったことでした。通常、半導体業界にはシリコンサイクルと呼ばれる好不況の波があり、急激な投資のあとには在庫調整が入るのが常識でした。
しかし、今回のアドバンテストの発表は、AI投資がまだ初期段階であり、供給が需要に追いついていないことを証明しました。多くのアナリストが「AIスーパーサイクルは本物である」と評価を変え、目標株価を引き上げる動きが相次いでいます。
2026年以降の展望:AIスーパーサイクルへの突入
2026年は、アドバンテストにとって飛躍の年となることが確実視されています。AI半導体の進化スピードは衰えることを知らず、むしろ加速しているからです。ここからは、会社側が描く市場の成長シナリオについて解説します。
SoCおよびメモリテスタの市場規模予測(TAM)
会社側は、テスタ市場全体が今後も拡大し続けると予測しています。具体的には、2026年のSoCテスタ市場規模は85億〜95億ドル、メモリテスタ市場は22億〜27億ドルに達する見込みです。
| 市場区分 | 2026年市場規模予測 | 主な成長要因 |
| SoCテスタ | 85〜95億ドル | 生成AIチップの複雑化、自動車の電動化 |
| メモリテスタ | 22〜27億ドル | HBMの普及、DDR5への移行 |
この数字は、単なる希望的観測ではなく、顧客である半導体メーカーの設備投資計画に基づいた堅実な予測です。特にAIサーバー向けの高価格帯テスタが市場全体を押し上げる構図は、当面変わらないでしょう。
HBM4・2nmプロセスなど次世代技術への対応
技術的なトレンドもアドバンテストに味方しています。次世代メモリである「HBM4」では、メモリの底部分にロジック回路が組み込まれるため、テスト工程がさらに複雑になります。これを「ロジック化(Logic-fication)」と呼びます。
メモリでありながらロジックのような複雑なテストが必要になるため、両方の技術に精通しているアドバンテストの優位性が際立ちます。また、最先端の2nmプロセスで製造されるチップも登場し始めており、より高度な検査能力を持つ同社の独壇場となりそうです。
生産能力の大幅増強計画
旺盛な需要に応えるため、供給体制の強化も急ピッチで進んでいます。同社はSoCテスタの生産能力を、現在の水準から大幅に引き上げ、年間5,000台以上にする計画を立てています。
将来的には7,500台体制も視野に入れているとされ、これは経営陣が長期的な需要拡大を確信している何よりの証拠です。部品メーカーとも連携し、部材不足による機会損失を防ぐ体制を整えています。
アドバンテストの強みと競合(Teradyne)比較
半導体テスタ市場は、事実上アドバンテストと米国のテラダイン(Teradyne)による複占状態です。しかし、近年のAIブームにおいては、両社の明暗が分かれつつあります。なぜアドバンテストが選ばれているのか、その理由を競合比較から紐解きます。
AI/HPC領域での圧倒的シェア
最大の要因は、AIやHPC(高性能コンピューティング)という最も成長している分野でのシェアの違いです。競合のテラダインは車載向けや産業機器向けに強みを持っていますが、生成AI向けの最先端ロジックテスタではアドバンテストが圧倒しています。
推定では、AI向けハイエンドテスタにおけるアドバンテストのシェアは60%台後半から70%近くに達していると言われます。エヌビディアなどのトップランナーと開発段階から深く関わっているため、他社が参入する障壁は非常に高くなっています。
包括的なソリューション提供力
テスタ単体だけでなく、周辺機器を含めたトータルソリューションを提供できる点も大きな強みです。チップをテスタに運ぶ「ハンドラ」や、チップとテスタを繋ぐ「デバイス・インタフェース」も自社で手がけています。
顧客にとっては、テスト工程全体をまとめて最適化できるため、生産効率が上がります。この「ワンストップ」での対応力が、競合他社に対する強力な差別化要因となっています。
投資におけるリスク要因と課題
これほど死角なしに見えるアドバンテストですが、投資においてはリスク要因も冷静に把握しておく必要があります。外部環境の変化によっては、業績の伸びが鈍化する可能性もゼロではありません。
地政学的リスクと対中輸出規制
最も注意すべきリスクは、米中対立に伴う地政学的な問題です。アドバンテストの売上のうち、20〜25%程度は中国市場が占めています。トランプ政権の発足や米国の政策変更により、対中輸出規制がさらに強化される懸念があります。
もし規制が厳しくなれば、中国向けの売上が減少するだけでなく、これまでの「駆け込み需要」の反動が起きる可能性もあります。各国の規制動向には常にアンテナを張っておく必要があります。
特定顧客への集中と供給ボトルネック
もう一つのリスクは、特定の顧客やサプライヤーへの依存です。現在はエヌビディアやSKハイニックスなどの主要顧客が好調ですが、彼らの戦略変更はアドバンテストの業績に直結します。
また、AIチップの製造を請け負うTSMCのパッケージング技術「CoWoS」の生産能力がボトルネックになる可能性もあります。チップ自体が作れなければテスタも必要なくなるため、サプライチェーン全体の目詰まりがリスク要因となります。
まとめ:AIインフラの「守護神」としての地位
2026年1月発表の決算は、アドバンテストが単なる製造装置メーカーから、AI社会を支える不可欠なインフラ企業へと進化したことを印象づけました。3度目の上方修正、過去最高益、そして株価の急騰は、その実力を雄弁に物語っています。
AI・HBM需要は一過性のブームではなく、産業構造を変える「スーパーサイクル」に入りました。地政学的リスクなどはあるものの、技術的な優位性と圧倒的なシェアを持つ同社は、今後も市場の主役であり続けるでしょう。
【次のアクション】
まずは、ご自身の証券口座でアドバンテスト(6857)の最新チャートと、今回発表された決算説明資料の原文をチェックしてみましょう。数字の裏にある「熱気」を直接感じることで、投資判断の精度がさらに高まるはずです。
