台湾国産潜水艦「海鯤」が7回目の試験—模擬魚雷発射に迫る実戦化の現在地

台湾初の国産潜水艦「海鯤(かいこん)」は、中国の軍事的圧力を背景に台湾が推進する自主建造計画(IDS: Indigenous Defense Submarine)のもとで建造された試作艦です。2026年5月5日、同艦は7回目の潜航試験を実施。軍事専門家からは、この試験において模擬魚雷に関連する訓練が行われた可能性が指摘されており(※確認中)、台湾の水中戦力が実戦能力の確認段階に差し掛かりつつあるとみられています。
「海鯤」7回目の潜航試験—今回、何が行われたのか
2026年5月5日、台湾南部・高雄港を拠点とする国産潜水艦「海鯤」が、7回目の潜航試験を実施しました。台湾国営通信社・中央社(フォーカス台湾)が報じた内容によれば、軍事専門家は今回の試験において模擬魚雷に関する訓練が行われた可能性を指摘しています(※確認中)。
その根拠として挙げられているのが、米国製の模擬魚雷装置の返却期限が迫っているという事実です。使用可能期間が限られている中で、返却前に訓練を実施した可能性が高いとみる専門家もいます。ただし、台湾国防部からの公式発表は2026年5月5日時点では確認されていません。
「海鯤」のここまでの試験経緯を整理すると、2026年1月下旬に初の潜航試験が行われ、2月中旬までに6回の海上試験を完了しています。これまでの試験では、デコイ(おとり弾)の発射、潜航・浮上の制御、X字型舵の操作といった基本的な能力が確認済みです。最終的な海軍への引き渡しに向け、水密性の確認や各種機器の調整が継続中とされています。
仮に模擬魚雷の発射訓練が実施されていた場合、「海鯤」は単なる潜航・浮上の繰り返しという初期段階から、武器システムの実証という次の段階へと移行したことを意味します。これは試験の質的な進展として評価できる局面です。
なぜ台湾は潜水艦を「自国で作る」しかなかったのか
台湾がなぜ他国から潜水艦を購入せず、リスクの高い自主建造の道を選んだのか——その答えは、技術力の問題ではなく、外交的孤立という構造的な制約にあります。
中国共産党は、台湾への武器売却を行う国に対し、外交・経済面で強い圧力をかけ続けてきました。通常動力型(ディーゼル電気推進)の潜水艦は特に機微な兵器とされており、米国でさえ台湾への供与は行っていません。かつて潜水艦を売却したオランダも、その後の中国側の圧力を受け、追加売却には応じていません。
現在、台湾海軍が保有する「剣龍型」潜水艦は2隻のみ。いずれも1980年代にオランダで建造されたもので、老朽化が著しく実戦能力には限界があります。台湾にとって、水中戦力の近代化は自主建造以外に現実的な選択肢がない状況でした。
以下の比較表は、旧型の剣龍型と、IDS計画で建造中の海鯤の主な違いを整理したものです。
| 比較項目 | 剣龍型(旧型・オランダ製) | 海鯤(IDS・国産試作艦) |
|---|---|---|
| 建造時期・調達経緯 | 1980年代建造。オランダから購入後、中国の外交圧力により追加調達不可に | 蔡英文政権期にIDS計画として始動。米・英・印の民間防衛企業の技術支援を受けて建造(詳細非公開) |
| 現状・稼働状況 | 老朽化が著しく、実戦能力は限定的。2隻のみ保有 | 試作艦として海上公試中(2026年5月時点で7回目の潜航試験を実施) |
| 調達上の課題 | 外国依存・中国の圧力により追加調達が事実上不可能 | 自主建造により外圧に左右されない調達が可能。量産化への技術・財政ハードルは残存 |
IDS計画は、台湾が外交的孤立という制約を逆手に取り、自前の防衛産業基盤を構築しようとする取り組みでもあります。「海鯤」の試験進捗は、この困難な道のりが着実に前進していることを示す証左と言えます。
「海鯤」の性能・スペック—わかっていることと非公開の壁
「海鯤」の詳細なスペックは、台湾国防部が公式に公開していません。安全保障上の機密として扱われているためです。現時点で確認できる情報は、以下の通りです。
推進方式は通常動力型(ディーゼル電気推進)とされており、原子力潜水艦ではありません。潜航深度・排水量・速力・武装の詳細は非公表です。試験で確認済みの能力としては、デコイ(おとり弾)の発射、潜航・浮上の制御、X字型舵の操作が挙げられます。X字型舵は、従来の十字型舵と比べて浅海域での機動性に優れるとされており、台湾海峡のような浅海域での運用を想定した設計とみる専門家もいます(※確認中)。
通常動力型の潜水艦が持つ基本的な強みと、「海鯤」の現在地を示す図解は以下の通りです。
通常動力型 潜水艦の特性 静粛性・低コスト 浅海域対応 「海鯤」 試験中 (7回目潜航) 通常動力型潜水艦の特性と「海鯤」の位置づけ ディーゼル電気推進 台湾海峡・浅海域向き スペック非公開
スペックが非公開であること自体も、戦略的な情報管理の一環と考えられます。能力の詳細を秘匿することで、中国人民解放軍海軍(PLAN)に対する不確実性を維持する狙いがあるとみる専門家もいます。
台湾海軍の戦力強化が意味すること—抑止力としての潜水艦
台湾が潜水艦戦力を強化することは、軍事的な意味にとどまらず、地政学的なシグナリングとしても機能します。
潜水艦は、水中という視認困難な空間に潜み、敵の水上艦艇・補給線・上陸部隊に対して非対称的な脅威を与えることができます。中国人民解放軍海軍(PLAN)が圧倒的な水上艦艇優位を築いている中、台湾が水中戦力を保有することは、PLANの侵攻コストを大幅に引き上げる効果が期待されます。海峡を渡る大規模な水陸両用作戦は、潜水艦の脅威下では格段にリスクが高まるためです。
(編集部分析)台湾が中国に掌握された場合、南西諸島から沖縄・日本本土に至る「第一列島線」が機能不全に陥り、日米の防衛戦略に深刻な影響が生じるとの見方があります。台湾が独立した防衛力を保つことは、日本の安全保障にとっても死活的な意味を持つという認識は、高市早苗氏をはじめとする保守系政治家が繰り返し指摘してきた点です。実際、台湾の西側に中国共産党が展開する場合、海中戦力を含む軍事プレゼンスが日本近海に及ぶリスクは現実的な懸念として語られています。日本の潜水艦技術—特に静粛性の高さ—は世界最高水準とされており、日台間で何らかの技術的知見の共有が行われているかどうかは公式には確認されていません。ただ、台湾のIDS計画に米・英・印の民間防衛企業が関与していることは報じられており、表に出ない形での技術協力の可能性について関心を持つ識者は少なくありません(※確認中)。
こうした文脈で見ると、「海鯤」の試験進捗は単なる台湾の国防ニュースではなく、日本人が注視すべき地域安全保障の動向です。
中国はどう反応しているのか—沈黙の意味と水面下の警戒
台湾による「海鯤」の7回目潜航試験に対し、中国共産党政府や人民解放軍から今回の試験を名指しした公式コメントは、2026年5月5日時点では確認されていません。
しかし、これは無関心を意味するわけではないとみられます。中国共産党は台湾の軍備強化全般を「分裂主義勢力への加担」として批判してきており、潜水艦戦力の拡充については特に警戒感を示してきた経緯があります。PLANは近年、台湾海峡周辺での演習を繰り返しており、その文脈において「海鯤」の開発進展は直接的な刺激要因とみられています。
注意が必要なのは、中国の反応を「中国共産党の政策判断」と「中国国民の感情」に分けて考える視点です。中国共産党が台湾の軍備強化を安全保障上の脅威として位置づけることと、中国国民が台湾問題をどう受け止めているかは必ずしも同一ではありません。
現時点で確認できる中国側の動向として指摘されるのは、台湾のIDS計画始動以降、PLANの台湾周辺における潜水艦部隊の活動が活発化しているとする分析が複数の安全保障研究機関から出ていることです(※確認中)。「海鯤」が引き渡され実戦配備される段階になれば、中国共産党側から何らかの公式コメントや対抗措置が示される可能性が高いとみる専門家もいます。
今後の展望—量産・実戦配備への道のりと残る課題
「海鯤」の海軍への正式引き渡しに向け、台湾は潜航試験を継続しています。現時点では試作艦による技術検証の段階であり、量産移行のタイムラインについて台湾国防部は明らかにしていません。
量産化に向けて残る主な課題として、技術・財政の両面が挙げられます。試作艦での試験で浮上した問題点の修正と、量産仕様への転換には相応の時間と費用が必要です。また、台湾の防衛予算が限られている中で、潜水艦の量産に必要な資源を確保できるかどうかも問われます。
一方、今回の試験進捗がポジティブな評価を受ければ、台湾国内の政治的支持を得た形での量産決定につながる可能性もあります。「海鯤」の開発成功は、台湾の防衛産業全体の自立性向上という観点でも重要な意味を持ちます。
台湾が自国産の水中戦力を保有する日は、段階的に近づいてきています。その動向は、東アジアの安全保障環境に敏感なすべての国が注目すべき問題です。
よくある質問
Q. 台湾の国産潜水艦「海鯤」はどんな潜水艦ですか?
台湾が初めて自主建造した潜水艦の試作艦で、IDS(自主国防潜水艦)計画のもとで建造されました。高雄港を拠点に段階的な海上公試を実施中で、実戦配備に向けた試験が進んでいます。
Q. なぜ台湾は他国から潜水艦を買わず自国で建造しているのですか?
中国共産党の外交圧力により、多くの国が台湾への潜水艦売却を回避してきた歴史があります。既存艦が老朽化する中、自主建造が事実上唯一の選択肢となりました。
Q. 「海鯤」の模擬魚雷発射とはどういう意味ですか?
実弾の魚雷ではなく、発射訓練用の模擬魚雷を使った武器システムの動作確認です。これが行われていれば、潜水艦が戦闘能力の実証段階に入ったことを示します(※現時点では確認中)。
Q. 中国は台湾の潜水艦建造をどう見ているのですか?
中国共産党は台湾の軍備強化全般に反発しており、潜水艦戦力の拡充も安全保障上の脅威として受け止めているとみられます。ただし今回の試験に対する具体的な公式発表は確認されていません。
Q. 「海鯤」の性能・スペックはどの程度ですか?
詳細な性能・武装は非公表です。通常動力型(ディーゼル電気推進)とされており、試験で確認済みの能力はデコイ発射・潜航浮上・X字型舵の制御です。排水量や搭載武器の正式スペックは台湾国防部が公開していません。
Q. 「海鯤」はいつ実戦配備される予定ですか?
台湾国防部は量産・配備の具体的時期を明らかにしていません。現在は試作艦による海上公試の段階であり、量産移行には技術検証と予算確保が必要とみられます。
参考情報
- フォーカス台湾(中央社)「台湾初の国産潜水艦、7回目の潜航試験を実施」2026年5月5日 https://japan.focustaiwan.tw/politics/202605050006
- RTI(台湾国際放送) https://www.rti.org.tw/jp/news?uid=3&pid=189305
- フォーカス台湾「海鯤、6回の試験完了」2026年2月6日 https://japan.focustaiwan.tw/politics/202602060008





