現在、世界規模でメモリチップの供給が極めて不安定な状態に陥っています。
AI需要の爆発的な増加により、私たちが日常的に使用するスマートフォンやPCの部品供給が追いつかず、価格高騰が現実味を帯びているのです。本記事では、2025年末から2026年にかけて予測される深刻な「メモリ不足」の実態と、デバイス購入で損をしないための対策を専門家の視点で分かりやすく解説します。
2026年に向けたメモリ不足の現状と深刻な原因
結論から言うと、2026年にかけてデータセンターを中心としたAI需要が、世界のメモリ供給能力の限界を超えようとしています。
最大の理由は、AIサーバーに不可欠なHBM(広帯域メモリ)への生産シフトです。半導体メーカー各社は、利益率の高いHBMの生産を優先するため、一般的なPCやスマホに使われるDRAMやNANDの生産ラインを減らさざるを得ません。
この状況は、まさに「世界中の高級レストランが、特定の超VIP客(AI企業)に全ての食材を買い占められ、一般客向けのメニューが品切れや大幅値上げになっている状態」と言えます。
既存の生産設備がHBMに奪われる「共食い」現象により、一般消費者向けの供給不足は避けられない情勢です。
AIインフラ投資「スターゲート」プロジェクトの影響
この供給不足に拍車をかけているのが、巨大IT企業による終わりのない投資競争です。
特にOpenAIとマイクロソフトが計画する「スターゲート」プロジェクトのような超巨大データセンター構想は、市場のバランスを崩壊させるほどのインパクトを持っています。彼らはサーバー構築のために「上限なし」とも言える規模でメモリを発注しており、SKハイニックスやSamsungといった主要メーカーの生産枠を数年先まで埋め尽くしているのが現状です。
新たな供給網(工場)が稼働するのは早くても2027年以降とされるため、当面の間、需給の逼迫は解消されないでしょう。
スマホ価格は6.9%上昇?スマートフォン市場への影響
メモリ不足の波は、私たちの生活に最も身近なスマートフォンにも直撃します。
調査会社Counterpoint Researchの分析によると、AI需要に伴うメモリチップ不足により、2026年のスマートフォンの平均販売価格は6.9%上昇すると予測されています。これは、スマホの製造原価である部品コスト、専門用語で部品表(BOM)と呼ばれるコストが跳ね上がるためです。
特にロジック半導体やメモリの価格上昇は、以下の表のように端末価格に転嫁される可能性が高まっています。
【スマホ価格帯別:BOMコスト上昇の影響予測】
| 価格帯 | 影響度 | 予測される変化 |
| ハイエンド | 大 | 最先端メモリ搭載のため値上げ幅が最大化 |
| ミドルレンジ | 中 | コスト吸収のためスペックが据え置かれる |
| ローエンド | 小 | 旧世代部品の流用で価格維持を図る |
スペックダウンや旧部品の再利用が進む可能性
メーカー側もただ値上げをするわけではありません。消費者の買い控えを防ぐため、見えない部分でコスト調整を行う可能性があります。
具体的には、ウェハの確保が難しい最新メモリの搭載を見送り、旧世代のメモリを採用したり、搭載容量を減らしたりするケースです。また、ディスプレイやカメラのグレードを意図的に落とすことで、全体の部品コストを調整する動きも出てくるでしょう。
2026年に購入するスマホは、価格が高いのに性能は進化していない、という事態が起こり得るのです。メーカーの生産能力が回復するまで、この「ステルス値上げ」のような状況は続くと見られています。
PC・パーツ価格も爆上げ!Crucialブランド撤退の衝撃
PC市場、特に自作PCやBTOパソコンの世界では、すでに悲鳴が上がっています。
2024年後半からDDR5メモリのスポット価格が急騰しており、一部の製品では数ヶ月前の底値から2.8倍もの価格がついている事例もあります。デルやHPといった大手PCメーカーも、部品コストの上昇を理由に製品価格の引き上げを示唆しており、PCの買い替えコスト増大は避けられません。
さらに、この混乱に追い打ちをかけたのが、大手半導体メーカーMicron(マイクロン)に関する動向です。
Micronの消費者向け事業撤退が意味すること
Micronが長年親しまれてきた消費者向けブランド「Crucial」を終了し、企業向け事業へリソースを集中させるというニュースは、市場に衝撃を与えました。
これまでSSDやメモリ選びで「安くて高品質なCrucial」は定番の選択肢でした。しかし、MicronがDDR4やコンシューマー向け製品の在庫供給から手を引き、利益率の高いデータセンター向けへシフトすることで、市場の競争原理が働きにくくなります。
結果として、市場はSamsungとSKハイニックスの事実上の寡占状態となり、価格高騰に対する抑止力が失われてしまうのです。
メモリ不足に備えるための賢い対策と購入タイミング
これまでの常識であった「待てば安くなる」という戦略は、今回のメモリ不足には通用しません。
供給不足の解消には、各社が現在進めている巨額の設備投資が実を結び、新しい工場が稼働するのを待つ必要があります。しかし、その正常化のタイミングは早くても2027年以降です。つまり、2026年いっぱいは高値が続く、あるいはさらに上昇する可能性が高いのです。
今すぐ確保すべきデバイスとスペックの選び方
では、私たちはどう動くべきでしょうか。結論は「必要なものは、今すぐ確保する」ことです。
現在市場にある在庫は、まだ値上げ前のコストで製造されたものが含まれています。これらが売り切れた後に入荷する製品は、確実に値上がりしています。以下に、具体的なアクションプランをまとめました。
- PCのメモリ増設: 空きスロットがあるなら、DDR4・DDR5問わず、今すぐに購入してください。これが「最安値」である可能性が高いです。
- スマホの買い替え: 2年以上前の機種を使っているなら、値上げ前の現行モデルへの機種変更を強く推奨します。
- ストレージの確保: SSDもNAND不足の影響で高騰します。必要な容量は早めに外付け等で確保しましょう。
- 中古市場の活用: 新品価格が高騰すると、連動して中古相場も上がります。状態の良い中古品も今のうちにチェックすべきです。
- 「待ち」は捨てる: 次期モデルを待つよりも、現行モデルのスペックで妥協できないか再検討してください。
次のステップ:あなたのPC、今のうちに診断しませんか?
ここまで2026年のメモリ不足リスクについて解説しました。
「自分のPCは増設が必要?」「どのメモリを買えばいいか分からない」と不安に思われたかもしれません。
