静岡市立清水病院の指定管理者導入で職員の4割が退職希望——赤字22億円と突然の通告が招いた危機

静岡市立清水病院の指定管理者制度とは、赤字が続く市立清水病院の運営を民間のJA静岡厚生連に委託し、清水厚生病院と一体化する静岡市の再編方針のことです。2027年4月からの移行を目指していますが、職員の約4割が退職希望を示しており、地域医療の維持が懸念されています。
【結論】職員731人中41%が退職希望——地域医療崩壊の瀬戸際
静岡市職員労働組合連合会清水病院支部が2026年4月28日に公表したアンケート結果によると、市立清水病院の職員731人を対象に調査(回答640人)を実施したところ、指定管理者制度が導入された場合に「退職したい」と答えた職員は41.4%に上りました。一方、「継続して働きたい」と回答したのはわずか12.0%。「悩んでいる」が44.1%と、実質的に現職員の85%超が離脱を含む選択肢を視野に入れている状況です。
静岡市職員労働組合連合会の切石貴之委員長は「市の職員にとっては身分を失うという最も厳しい提案」と述べており、職員の間には「行政から見放されたような思い」との声が広がっています。清水病院はすでに医師・看護師の離職が相次ぎ診療科の縮小が続いてきた経緯があり、追加的な退職が重なれば清水区住民の医療アクセスに直接影響が出る可能性があります。
なぜ赤字が続くのか——20年連続赤字、2025年度は実質損失50億円
市立清水病院の経営悪化は、一朝一夕に起きたものではありません。清水区で進む人口減少の影響もあって、同病院は過去20年にわたって連続で赤字を計上しています。
2024年度は静岡市が18億円もの運営費負担金を支出しながら、最終赤字は22億5000万円に達しました。2025年度はさらに悪化が見込まれており、市の運営費負担金19億円を含めた実質的な損失額は50億円(最終赤字31億円)に上ると試算されています。
こうした状況を受け、市の監査委員からは「経営改善に向けた取り組みを病院職員が一丸となって推進するための組織的なマネジメントを行う機能及び体制が十分に確保されていない」との指摘が上がっていました。病院側も2025年度から幹部の業務分担を見直して経営改善の進捗管理を始めていましたが、物価高騰の影響を吸収できず、赤字の拡大を防ぐには至りませんでした。
全国83.3%の公立病院が赤字——清水病院だけの問題ではない
清水病院が置かれた状況は、全国的な構造問題の一端でもあります。総務省によれば、2024年度は地方独立行政法人を含む全国844の公立病院のうち83.3%が赤字となりました。これは過去最大の割合です。
人口減少による患者数の落ち込み、物価・人件費の高騰、そして相対的に低い診療報酬単価が三重苦として重なる構造は、清水病院だけの問題ではありません。(編集部分析)全国の多くの自治体が同様の問題を抱えており、今回の清水病院の再編は、日本の公立病院が直面する構造的課題の縮図といえます。
難波市長の「このやり方しかない」——指定管理者制度導入の経緯
こうした赤字の深刻化を受け、静岡市の難波喬司市長は2026年4月24日、民間の清水厚生病院を運営するJA静岡厚生連を指定管理者として、清水病院の運営を委託する方針を公式発表しました。
難波市長は「仮に閉院をするというようなことになれば、そこでより大きな問題が発生することになります。したがって、いかに市立病院を残すかということを考えると、このやり方しかない」と強調しています。市の判断としては「このままの経営状況が続けば閉院せざるを得ない」という切迫した危機感が背景にあります。
指定管理者制度とは、自治体が管理する公共施設の運営を民間事業者に委託する仕組みです。民間のノウハウとコスト管理力を活用して経営改善を図る手法として、全国の公立病院でも一定数の導入実績があります。
清水厚生病院との統合はいつ?2027年4月一体化の全体計画
市が示した計画では、2027年4月からJA静岡厚生連を指定管理者として両病院の一体運営を開始する予定です。2040年を最終目標に、入院機能を清水病院に集約し、清水厚生病院は外来専門施設へ移行するとしています。
病床数は、日本医師会の医療需要予測に基づき、現在両病院で稼働している445床の約9割にあたる400床へと削減される計画です。難波市長は「当該の2つの病院が、両方とも存続しようと頑張ると”共倒れ”になる」として、役割を分担した一体運営の必要性を訴えています。
「給与が下がる」95%が待遇悪化を懸念——退職希望者が語る理由
退職を希望する職員が最も懸念しているのは、待遇面の変化です。労組のアンケートで退職希望者(複数回答)に理由を尋ねたところ、「給与が下がる可能性がある」が95.5%、「手当がなくなる可能性がある」が87.2%と、いずれも待遇悪化への不安が圧倒的多数を占めました。
現在の清水病院職員は地方公務員の身分を持っており、給与水準や手当の体系が民間病院とは異なります。指定管理者制度への移行後、雇用条件がどのように変化するかは、JA静岡厚生連が正式な指定管理者として決定するまで交渉相手が存在しないため、現時点では不確定のままです。「継続して働きたいにしても、待遇が確定するまで判断できない」という職員が多い背景には、こうした構造的な不透明さがあります。
説明会は直前告知、交渉相手も決まらず——プロセスへの不信が反発を生んだ
今回の職員の反発の核心は、政策の方向性への全否定ではなく、プロセスへの強い不信感にあります。労組によれば、指定管理者制度への移行について市から職員に最初の説明があったのは3月31日でした。その説明会も開催告知が直前だったため、参加できなかった職員が多かったといいます。
難波市長が正式方針を公表したのはその約1カ月後の4月24日。現場の職員が2027年4月以降の自身の処遇について交渉や相談をできる機会はほとんど設けられないまま、方針が既成事実として動き出した形です。
ある職員は「現場の意見を聞く機会すら設けられずに行われた今回の通告には、非常に大きな衝撃を受けるとともに、大変残念な思いを抱えています」と述べています。別の職員は「今まで市民の方々の健康を支えてきた、良質な医療を提供してきたという強い思いがあったんですけれども、軽視されたように感じた」と語気を強めています。
(編集部分析)近隣では、浜松市中央区のこども園でも保育士18人が一斉退職に追い込まれた事案が起きており、公共サービスの民間移行における合意形成の失敗が連鎖的に表れているとも見られます。
労組・職員の声と市の主張——「合意できるまで協議を」vs「このやり方しかない」
労組は「指定管理に反対というわけではなく、説明不足による混乱が現場で起きている」として、対立の焦点が政策そのものではなくプロセスにあることを明確にしています。切石委員長は「市当局には、清水病院の職員と合意できるまで十分な誠意ある協議を尽くすことを約束してほしい」と求めており、今後は給与面など職員の待遇維持を求める要求書を市に提出する方針です。
労組はまた、周辺住民を対象にしたアンケートも実施中で、結果がまとまり次第、市に提示する考えです。住民世論を巻き込んだ形での対市交渉となれば、政治的な問題へと発展する可能性もあります。
一方、市側は閉院回避を最優先課題として位置づけており、難波市長は「市の負担には限りがある」として民間委託の正当性を繰り返し強調しています。現時点では市と職員側の間で正式な協議の場は設けられておらず、双方の主張には大きな溝が残っています。
今後の展望——待遇交渉の行方が離職数を左右する
2027年4月の一体運営開始まで約1年という状況で、最大の焦点はJA静岡厚生連との雇用条件交渉です。アンケートで「悩んでいる」と回答した職員が44.1%に上ることは、給与・手当の水準が明示されれば離脱を踏みとどまる可能性を示しています。逆に、交渉が長期化して処遇の不透明感が続けば、退職者が41.4%をさらに上回るリスクもあります。
(編集部分析)指定管理者制度を病院に適用した他の自治体の事例では、移行前に現行水準に準じた待遇を一定期間保障する「経過措置」を設けることで、人材流出を最小限に抑えたケースもあります。清水病院においても、こうした具体的な条件提示が早期に行われるかどうかが、地域医療の継続性を左右するとみられます。
また、全国の公立病院の83.3%が赤字という構造的な課題を踏まえれば、清水病院の再編問題は静岡市単独の事案にとどまらず、他の自治体にとっても参照すべき先例となる可能性があります。今後の協議の行方と、2027年4月に向けた移行プロセスの透明性が注目されます。
よくある質問(FAQ)
Q. 静岡市立清水病院はなぜ赤字なのですか?
過去20年連続の赤字で、2025年度は実質損失50億円の見込みです。人口減少による患者数の減少に加え、物価高騰・人件費増大が重なり、診療報酬収入では賄えない構造的な赤字が続いています。
Q. 指定管理者になるのはどこの病院・組織ですか?
JA静岡厚生連が運営する清水厚生病院が指定管理者候補となっています。2027年4月から入院機能を清水病院に集約し、厚生病院は外来機能のみを担う一体運営が計画されています。
Q. 職員が退職したい理由は何ですか?
アンケートで退職希望者の95.5%が「給与が下がる可能性がある」、87.2%が「手当がなくなる可能性がある」を挙げました。指定管理者が正式決定するまで待遇交渉ができず、将来が不透明な状態が不安を増幅させています。
Q. 指定管理者制度を病院に導入するデメリットは何ですか?
公務員の身分が失われ、給与・手当の水準が変わる可能性があります。移行期に経験豊富な医師・看護師が離職すると医療の質が低下するリスクがあり、過去の導入事例でも人材流出が課題となったケースがあります。
Q. 清水厚生病院との統合・一体化はいつ行われますか?
2027年4月からJA静岡厚生連を指定管理者として一体運営を開始する予定です。2040年を最終目標に、入院機能を清水病院に集約し、厚生病院は外来専門施設へ移行する計画となっています。
Q. 市はなぜ突然この方針を発表したのですか?
市側は閉院回避のための緊急措置と説明していますが、職員への通告は3月31日で、市長の公式発表は4月24日と約1カ月後でした。説明会の開催告知も直前で、現場への事前の合意形成が不十分だったとの批判が出ています。
Q. 清水区の医療体制に影響はありますか?
すでに離職が続き診療科縮小が進む清水病院で4割超が退職となれば、救急対応を含む地域医療の維持が困難になる可能性があります。労組は住民アンケートも実施中で、市民側の影響調査が進められています。





