高級食パン閉店の理由は?ブーム終焉とその後のFC転換や居抜き事情

あれほど街中にあふれていた高級食パン専門店が、次々と姿を消しています。結論から言えば、ブーム終焉の背景には原材料高騰と消費者ニーズの変化という二つの大きな要因があります。実際に、大手チェーンのHARE/PANやストロイエが相次いで破産・閉店に追い込まれ、業界全体が厳しい局面を迎えました。しかし、閉店した店舗がそのまま消えてしまうわけではありません。跡地をベーグル店やコッペパン店として活用する居抜き出店や、米粉パン・クロワッサンといったトレンド商品を扱う新業態へのFC転換など、パン業界は今まさに変革期にあります。本記事では、高級食パン店が閉店に至る理由と、その後の最新動向を詳しく解説します。
高級食パン専門店が相次いで閉店している理由・ブーム終焉の背景
2018年頃から急拡大した高級食パンブームは、わずか数年で大きな転換期を迎えました。一斤800円から1,000円を超える食パンが飛ぶように売れた時代は過ぎ去り、全国各地で閉店や倒産が相次いでいます。
たとえば、全国に100店舗以上を展開していたHARE/PANの運営会社は2023年に破産手続きに入りました。また、ユニークな店名で話題を集めた岸本拓也氏プロデュースの店舗群も、各地で閉店が続出しています。さらに高級食パンの元祖ともいえる乃が美も、ピーク時の約半数にまで店舗数を減らしました。
では、なぜこれほど急速にブームは終焉を迎えたのでしょうか。その背景には、コスト面・消費者心理・経営構造という三つの側面から見える複合的な原因があります。
原材料費(小麦・油脂・電気代)の高騰
高級食パンが「高級」たるゆえんは、厳選された素材をふんだんに使うことにあります。最高級の小麦粉、たっぷりのバターや生クリーム、こだわりのハチミツなど、一般的な食パンとは原材料のグレードがまるで違います。だからこそ、原材料費の高騰は高級食パン店にとって致命的な打撃となりました。
2022年以降、世界的な穀物価格の上昇や円安の影響を受けて、輸入小麦の価格は大幅に跳ね上がりました。バターや生クリームといった乳製品も同様に値上がりが続き、さらに店舗運営に欠かせない電気代やガス代も高騰しています。製造コストが上がる一方で、すでに一斤1,000円前後という強気の価格設定をしていた高級食パン店には、これ以上の価格転嫁が難しいという事情がありました。
値段を上げればお客さんが離れ、据え置けば利益が削られる。この板挟みの状態が長期化したことで、体力のない店舗から順に経営が立ち行かなくなっていったのです。
「非日常の贅沢」から「日常・コスパ」への消費者ニーズの変化
高級食パンブームの本質は「ちょっとした贅沢」にありました。自分へのご褒美や手土産として、日常よりワンランク上の食パンを楽しむ。そんな消費者心理がブームを支えていたのです。
しかし、長引くインフレと物価高が家計を圧迫するなかで、消費者の意識は大きく変わりました。「たまの贅沢」よりも「毎日の食卓で無理なく楽しめるコスパの良さ」を重視する傾向が強まったのです。スーパーやコンビニの食パンが進化し、200円台でも十分においしいパンが手に入る時代に、あえて1,000円の食パンを買い続ける理由は薄れていきました。
加えて、コロナ禍で一時的に高まった「おうち時間の充実」というニーズも落ち着き、消費者の目は食パン一点豪華主義から、もっと多様な選択肢へと移っています。毎日食べるものだからこそ日常食としてのコスパが問われるようになり、非日常を売りにしていた高級食パン専門店はその存在意義を揺さぶられることになりました。
急速な出店による自社競合と職人不足
ブーム最盛期、高級食パン専門店は驚くべきスピードで全国に出店を広げました。しかし、この急拡大こそが業績低迷の引き金となったケースも少なくありません。
| 課題 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 自社競合の発生 | 同じブランドの店舗が近隣エリアに乱立し、限られた顧客を奪い合う状態に陥った |
| 設備投資の負担 | 専用オーブンなど高額な製造設備への投資が、売上減少局面で重い固定費としてのしかかった |
| 職人の確保が困難 | パン製造には早朝からの長時間労働が伴い、熟練した職人の採用・定着が難しかった |
| 品質のばらつき | 急速な多店舗展開により、店舗ごとの焼き上がりや品質管理に差が生じた |
とくに深刻だったのが、フランチャイズモデルにおける自社競合の問題です。本部は加盟店を増やすほどロイヤリティ収入が増えるため、商圏が重なるリスクを軽視して出店を加速させました。その結果、同じ看板を掲げた店舗同士がお客さんを取り合い、共倒れするという皮肉な事態が各地で起きたのです。
また、食パン専門店は商品の種類が極端に少ないため、一度ブームが去ると集客力が急激に落ちます。職人が丹精込めて焼き上げるこだわりの一斤も、リピーターが減れば経営を維持できません。人手不足が叫ばれるなか、早朝から仕込みを行うパン職人のなり手はますます少なくなっており、店舗を維持すること自体が難しくなっていきました。
高級食パン店閉店のその後①:別業態への「居抜き」出店
閉店した高級食パン店は、そのまま空きテナントとして放置されているのでしょうか。実は、多くの店舗跡地では新しいパン屋が続々と誕生しています。そのカギとなるのが「居抜き」という出店方法です。
居抜きとは、前の店舗が使っていた設備や内装をそのまま引き継いで新しいお店を開く方法のことです。高級食パン店には業務用オーブンやミキサー、冷蔵設備など高額な製造機器がそろっているため、パン関連の別業態にとっては非常に魅力的な物件となります。ゼロから設備を購入する必要がないぶん、開業のハードルがぐっと下がるわけです。
コッペパンやベーグル専門店への転換
高級食パン店の跡地で増えているのが、コッペパンやベーグルといった日常的に楽しめるパンの専門店への転換です。
たとえば、札幌にあったHARE/PANの店舗跡地には、ベーグル専門店が居抜きで出店した事例があります。食パンの製造設備はベーグルづくりにも応用が利くため、最小限の改修で新しいお店としてオープンできたのです。こうしたケースは全国各地で見られるようになっています。
コッペパンやベーグルが選ばれる理由は明確で、消費者ニーズの変化と見事にかみ合っているからです。一斤1,000円の食パンは日常使いしにくくても、一個200円から400円程度のコッペパンやベーグルなら気軽に買えます。しかも惣菜系からスイーツ系まで具材のバリエーションが豊富なので、来店するたびに違う味を楽しめるという強みがあります。消費者が求める「日常食としてのコスパ」と「選ぶ楽しさ」を同時に満たせる業態として、高級食パンの後を継ぐ存在になりつつあるのです。
居抜き出店のメリット(初期費用削減と立地の活用)
居抜き出店の最大のメリットは、なんといっても初期費用を大幅に抑えられることです。パン屋を一から開業する場合、業務用オーブンだけでも数百万円、全体の設備投資で1,000万円以上かかることも珍しくありません。しかし居抜きなら、前の店舗が残した設備をそのまま使えるため、初期投資を半分以下に抑えられるケースもあります。
もうひとつ見逃せないのが、立地の価値です。高級食パン店は人通りの多い好立地に出店していたことが多く、「あそこにパン屋さんがあった」という地域の認知がすでに根づいています。新しい業態で再出発する際にも、この認知は大きなアドバンテージになります。通りがかりのお客さんが「新しいパン屋ができたんだ」と自然に足を運んでくれるため、ゼロから集客する労力が省けるのです。
こうした理由から、高級食パン店の閉店は単なる「ブームの残骸」ではなく、新しいパン文化が生まれるきっかけとしてポジティブにとらえることもできるでしょう。
高級食パン店閉店のその後②:トレンドに合わせた「FC転換」
閉店した高級食パン店のなかには、まったく別のオーナーに引き継がれるのではなく、フランチャイズ本部自らが新ブランドへと衣替えするケースも増えています。この手法は「リモデル」や「FC転換」と呼ばれ、既存の店舗資産を活かしながら時代のニーズに合った業態へ生まれ変わる生き残り戦略のひとつです。
単に看板を架け替えるだけではありません。商品構成、ターゲット層、オペレーションの仕組みまで丸ごと刷新することで、ブーム終焉後の市場でも戦える体制を築こうとしています。食パン一本勝負の時代から、多品目で日常的にリピートしてもらえる店づくりへ。パン業界は今、大きな転換点を迎えているのです。
米粉パンやクロワッサンなど人気商品へのシフト
FC転換の代表的な成功例として注目されているのが、アールベイカーの取り組みです。もともと高級食パン業態を展開していた本部が、消費者ニーズの変化をいち早く察知し、米粉パンやクロワッサンを主力に据えた新ブランドへと舵を切りました。
なかでも話題を集めているのが、焼きたてならではのもっちり食感が楽しめる「のびーるクロワッサン」です。SNS映えする見た目と、思わず動画を撮りたくなる伸びる食感が口コミで広がり、幅広い年代のお客さんを呼び込んでいます。
【のびーるクロワッサン】
食パン一択だった商品ラインナップを、米粉パン、クロワッサン、惣菜パンなど多彩な構成に広げたことで、来店頻度の向上にもつながっています。「今日はどれにしようかな」と選ぶ楽しさがあることで、日常的に通いたくなるお店へと変貌を遂げたわけです。素材にこだわる姿勢は高級食パン時代から引き継ぎつつ、価格帯はぐっと手に取りやすいラインに設定している点も、消費者の支持を得ている理由でしょう。
冷凍生地の活用による「職人レス」運営の実現
FC転換を語るうえで欠かせないのが、セントラルキッチン方式と冷凍生地の活用です。この仕組みが、パン業界の長年の課題であった職人不足の壁を一気に打ち破りつつあります。
セントラルキッチンとは、パン生地の仕込みや成形を一つの大きな工場で集中的に行う製造拠点のことです。ここで作られた冷凍生地を各店舗に配送し、お店では解凍して焼き上げるだけで商品が完成します。つまり、長年の修業を積んだパン職人がいなくても、一定の品質を保ったパンを提供できるのです。
このモデルには、フランチャイズのオーナーにとって大きなメリットがあります。
- 早朝からの仕込み作業が不要になり、スタッフの労働環境が改善される
- 熟練職人の採用に苦労する必要がなくなる
- 全店舗で味や品質のばらつきが起きにくい
- 人件費を抑えながら安定した経営が見込める
かつての高級食パン店では、職人が深夜や早朝から生地をこね、発酵時間を見極め、一斤ずつ丁寧に焼き上げていました。その技術は素晴らしいものですが、ビジネスとしてスケールさせるには限界がありました。冷凍生地の技術進歩により、品質を大きく損なうことなく効率的な運営が実現できるようになったことは、パン業界の構造そのものを変える革新といえるでしょう。
これから流行るパンは?高級食パンブーム終焉後のトレンド
高級食パンという一大ブームが去った今、パン業界の次の主役は何になるのでしょうか。消費者の嗜好を丁寧に読み解くと、見えてくるキーワードがあります。それは「素材への信頼感」と「毎日食べても飽きない多様性」です。
かつてのように一つの商品が爆発的に流行する時代は、しばらく来ないかもしれません。その代わりに、健康面でも安心でき、日常食として無理なく取り入れられるパンが、じわじわと支持を広げています。一過性のブームではなく、暮らしに根づく本物のトレンドが始まりつつあるのです。
グルテンフリー志向で注目の「米粉パン」
健康志向が年々高まるなかで、グルテンフリーの選択肢として米粉パンへの注目度は急上昇しています。グルテンフリーとは、小麦に含まれるたんぱく質「グルテン」を避ける食事法のことで、アレルギーをお持ちの方だけでなく、体調管理を意識する幅広い層に広がっている考え方です。
米粉パンの魅力は、なんといっても独特のもっちりとした食感にあります。小麦のパンとはひと味違うしっとりした口当たりは、一度食べるとやみつきになるという声も少なくありません。さらに、原材料が国産米であることへの安心感も、素材を重視する今の消費者ニーズと見事にマッチしています。
お米の消費拡大という国の方針とも重なり、米粉の供給体制は今後さらに整っていく見通しです。「おいしくて、体にやさしくて、国産素材で安心」という三拍子がそろった米粉パンは、一過性の流行にとどまらず、日本のパン文化に定着していく可能性を秘めています。
「選べる楽しさ」が鍵のコッペパンやベーグル
毎日食べるパンに消費者が求めるものは、味のおいしさだけではありません。「今日はどれにしよう」と迷う時間そのものが、ちょっとした幸せになる。そんな「選べる楽しさ」を提供できるかどうかが、日常食として定着するための大切な条件です。
コッペパンはまさにその代表格といえるでしょう。たまごサラダやコロッケといった定番の惣菜系から、あんバターやフルーツクリームなどのスイーツ系まで、具材の組み合わせは無限に広がります。一個あたりの価格も手ごろなので、コスパを重視する消費者にとっても日常的に手が伸びやすい商品です。
ベーグルもまた、独自のポジションを確立しつつあります。もちもちとした噛みごたえのある食感は満足感が高く、バターや卵を使わないレシピも多いことから、ヘルシー志向の方にも選ばれています。プレーンだけでなく、チョコレートやチーズ、季節のフレーバーなど多彩なバリエーションを展開するベーグル専門店が全国で増えているのも、こうした消費者の声に応えた結果でしょう。
飽きのこないバリエーションと手の届きやすい価格帯。この二つを兼ね備えたコッペパンやベーグルは、高級食パンに代わる新しいパン文化の主役として、今後ますます存在感を高めていくはずです。
まとめ
高級食パン専門店の閉店ラッシュは、原材料高騰や消費者ニーズの変化、急速な出店による経営の歪みなど、複数の要因が重なって起きたものでした。しかし、閉店はパン業界の終わりを意味するわけではありません。
居抜き出店によるベーグル店やコッペパン店への転換、米粉パンやクロワッサンを軸にしたFC転換、冷凍生地を活用した職人レスの新しい運営モデルなど、業界は確実に次のステージへと動き出しています。消費者が求めているのは、もはや「非日常の贅沢」ではなく、「毎日の暮らしに寄り添うおいしさ」です。
もしあなたがパン業界での開業やFC加盟を検討しているなら、高級食パンブームの教訓を活かしつつ、今の消費者が本当に求めている価値に目を向けてみてください。居抜き物件の情報をチェックしたり、米粉パンやベーグルなど成長中の業態を研究したりすることが、成功への第一歩になるはずです。
