日本の化粧品業界を牽引してきた資生堂が、創業以来の大きな転換期を迎えています。2026年3月末、本社および国内子会社の社員257人が希望退職により同社を離れることが決定しました。この決断の背景には、2025年12月期に過去最大となる520億円の赤字が見込まれているという厳しい現実があります。
今回の動きは単なるリストラではなく、経営立て直しを図る「アクションプラン 2025-2026」に基づいた抜本的な構造改革の一環です。本記事では、なぜ想定を上回る応募があったのか、30億円の費用計上を伴う改革の真意と、資生堂が描く2030年への成長戦略について詳しく解説していきます。
資生堂の希望退職に257人が応募|2026年3月末退職の概要
資生堂は組織の若返りと効率化を目指し、新たな一歩を踏み出しました。ここでは、今回実施された希望退職プログラムの具体的な結果と、その詳細について見ていきましょう。
想定の200人を上回る応募があった「ネクストキャリア支援プラン」
資生堂は2025年12月、40代から50代を中心とした社員を対象に早期退職を募る「ネクストキャリア支援プラン」を実施しました。当初、会社側はこのプランによる応募者数を約200人と見込んでいましたが、蓋を開けてみるとその数を大きく上回る257人が応募するという結果になりました。
この数字は、社員一人ひとりが自身のキャリアや会社の将来について真剣に向き合った結果と言えるかもしれません。会社側もこの結果を重く受け止めつつ、応募した社員の新たな人生のスタートを最大限支援する姿勢を示しています。予定よりも多くの人材が会社を去ることになりますが、これは組織のスリム化を加速させ、より筋肉質な経営体制へと移行するための通過点とも捉えられます。
対象者と実施期間・退職日の詳細
今回の希望退職の対象となったのは、資生堂本社および本社機能を持つ国内の一部子会社に勤務する社員です。これまでの現場を中心とした人員整理とは異なり、経営の中枢に近い部門でのスリム化が進められたことが特徴的です。
応募した257名の退職日は、2026年3月31日が予定されています。年度末という区切りのタイミングで退職を実施することで、業務の引き継ぎや組織再編を円滑に進める狙いがあると考えられます。春からの新年度に向け、資生堂はより身軽になった組織で再出発を図ることになります。
過去最大520億円の最終赤字と合理化を急ぐ理由
なぜ今、これほど急ピッチで合理化を進める必要があるのでしょうか。その最大の要因は、業績の悪化に歯止めをかけ、早期にV字回復を果たすためです。ここでは赤字の背景と、これまでの人員削減の流れを整理します。
米国事業の不振と国内インバウンド消費の減速
資生堂が発表した2025年12月期の連結業績予想によると、最終的な損益(純損益)は過去最大となる520億円の赤字に陥る見通しです。この巨額赤字の主な要因として挙げられるのが、長引く米国事業の不振です。海外市場での競争激化に加え、物価高による消費マインドの冷え込みが響き、収益性が大きく低下してしまいました。
さらに、これまで業績を支えてきた日本国内のインバウンド消費にも陰りが見え始めています。訪日客による「爆買い」ブームが落ち着きを見せる中、免税売上の成長が鈍化していることも経営の重荷となっています。こうした国内外の複合的な要因が重なり、抜本的な構造改革とコスト削減が待ったなしの状況となっているのです。
過去の人員削減(1,500人規模)との継続的な関係
今回の257人の削減は、突発的なものではなく、2024年から続く一連の改革の流れの中にあります。資生堂は「ミライシフトNIPPON 2025」などを掲げ、段階的に人員適正化を進めてきました。これまでの動きを比較すると、今回はより本社機能に焦点を当てた改革であることが分かります。
以下に、近年の主な人員削減の動きをまとめました。
| 実施時期 | プログラム名称・概要 | 対象地域・範囲 | 削減・応募人数 |
| 2024年 | ミライシフトNIPPON 2025 | 日本事業(45歳以上など) | 1,477人 |
| 2025年7月 | 米国事業の構造改革 | 米国子会社 | 約300人 |
| 2026年3月末 | ネクストキャリア支援プラン | 本社および国内一部子会社 | 257人 |
このように、2024年には日本事業で約1,500人規模の早期退職を実施し、続いて不振が続く米国でも人員整理を行いました。そして今回の本社機能の合理化へと続いています。これらはすべて、固定費を削減し、浮いた資金を成長分野へ投資するための「選択と集中」のプロセスです。一連の合理化は痛みを伴いますが、資生堂が再び成長軌道に乗るためには避けて通れない道といえるでしょう。
アクションプラン2025-2026と30億円の費用計上
今回の希望退職は、単に人を減らすことだけが目的ではありません。資生堂が掲げる中期的な経営計画「アクションプラン 2025-2026」を確実に実行し、会社全体を筋肉質な体質へと変えるための重要なステップです。ここでは、このプランの核心部分と、それに伴う費用の詳細について解説します。
高収益構造の確立を目指す「ブランド基盤強化」
「アクションプラン 2025-2026」の最大の狙いは、どんな環境変化にも揺るがない「高収益構造」を作ることです。これまでの資生堂は、売上が伸びても利益が残りにくい体質に課題を抱えていました。そこで、ブランド戦略を抜本的に見直し、利益率の高いブランドに経営資源を集中させる方針を打ち出しています。
具体的には、成長性の高いブランドの基盤をさらに強化し、逆に収益性の低い事業や業務は見直しを図ります。今回の構造改革は、こうした「選択と集中」を加速させ、持続的な成長を生み出すための土台作りと言えるでしょう。社員一人ひとりが付加価値の高い仕事に注力できる環境を整え、企業としての競争力を取り戻そうとしているのです。
特別加算金と再就職支援の内容
今回の構造改革を進めるにあたり、資生堂は約30億円の費用を計上することを発表しました。この金額は2025年12月期の決算において、「非経常項目」として処理される予定です。つまり、通常の営業活動で発生した費用ではなく、将来のために一時的に発生した特別な出費として扱われます。
この30億円の主な使い道は、退職する社員への手厚いサポートです。具体的には以下の内容が含まれています。
- 特別加算金の支給: 通常の退職金に上乗せして支払われる割増退職金です。
- 再就職支援サービス: 外部の専門会社を通じ、次のキャリアを見つけるための手厚いサポートを提供します。
会社を離れる社員に対しても責任を持ち、安心して次のステップへ進めるよう「ネクストキャリア支援」として最大限の配慮を行っていることが分かります。
2030年に向けた「攻めの成長戦略」と今後の展望
構造改革という痛みを伴うプロセスを経た後、資生堂はどこへ向かうのでしょうか。ここからは、守りの改革の先にある、2030年を見据えた「攻め」の戦略について深掘りします。
ブランド価値最大化とデジタル・タッチポイント戦略の強化
資生堂の未来を担うのは、やはり世界に誇る強力なブランド群です。特に好調なラグジュアリーブランド「クレ・ド・ポー ボーテ」や、エイジングケアに強い「エリクシール」などには、今後さらに積極的な投資が行われるでしょう。これらのブランド価値を最大化し、世界中のファンを増やしていくことが最優先事項となります。
また、顧客との接点(タッチポイント)を増やすためのデジタル戦略も欠かせません。店舗での対面販売だけでなく、オンラインカウンセリングやSNSを活用したマーケティングを強化し、顧客一人ひとりに合わせた体験価値を提供していく方針です。デジタルとリアルを融合させ、いつでもどこでも資生堂の商品やサービスに触れられる環境作りが進められています。
中田社長が掲げる「日本事業がグループを牽引する」ビジョン
資生堂ジャパンの中田幸治社長は、今後の方向性として「日本事業がグループ全体の成長を再び牽引する」という力強いビジョンを掲げています。かつてのマザーマーケットである日本市場を再生させ、そこから生まれたイノベーションを世界へ発信していくという決意の表れです。
今回の構造改革によって本社機能がスリム化されれば、意思決定のスピードは格段に上がります。現場の声が経営層に届きやすくなり、市場の変化に即座に対応できる組織へと生まれ変わるはずです。中田社長のリーダーシップのもと、資生堂は「日本発のグローバルビューティーカンパニー」としての誇りを取り戻すための挑戦を続けていきます。
まとめ
今回の資生堂の構造改革は、一見すると人員削減や赤字といったネガティブなニュースに見えるかもしれません。しかし、これは「大木が次の春にさらに太く、高く伸びるために行う、冬の入念な剪定(せんてい)」のようなものです。
不要になった枝葉を整理し、限られた栄養をこれから花を咲かせるべき「新芽(成長ブランド)」に集中させる。そうすることで、2030年には満開の花を咲かせるための準備をしているのです。257人の退職と30億円の投資は、資生堂が次の100年を生き抜くための覚悟の表れと言えるでしょう。
今後の注目ポイント
資生堂の変化はこれからが本番です。投資家の方や化粧品業界に関心のある方は、以下のポイントに注目してみてください。
- 「クレ・ド・ポー ボーテ」などの主力ブランドから、どのような革新的な新商品が登場するか?
- 構造改革後の2026年以降、業績がどのようにV字回復していくか?
生まれ変わろうとしている資生堂の「次の一手」を、ぜひご自身の目で見守ってみてはいかがでしょうか。
