【9/3】米国産ジャガイモ輸入解禁へ 病害虫21種と北海道8割の産地

【9/3】米国産ジャガイモ輸入解禁へ 病害虫21種と北海道8割の産地

米国産の生食用ジャガイモを日本へ輸入できるようにする手続きが、最終工程の一歩手前まで来ました。農林水産省は2026年8月28日、リスク評価の結果として米側と検疫措置を協議する必要のある病害虫21種を特定したと発表し、9月1日から北海道で生産者向けの説明会を始めています。国産の約8割を担う北海道では、2015年に網走市で国内初確認された病害虫の記憶が生々しく、説明会では反対の声が相次ぎました。ここでは、いま何が決まって何が決まっていないのかを工程で分け、警戒されている病害虫の実態と、対米通商交渉との関係まで順に整理します。

この記事でわかること

  • 決まったこと:2026年8月28日にリスク評価が完了し、検疫措置の協議が必要な病害虫21種が特定されました。輸入解禁そのものはまだ決まっていません。
  • 次の節目:9月18日に農水省がオンラインで一般公開の説明会を開き、その後「病害虫リスク管理」という最終工程に入ります。解禁までは数年かかるとみられています。
  • 現行制度との違い:米国産は2006年にポテトチップ用に限って解禁済みです。指定工場へ直送して即加工する条件付きで、家庭に出回る生食用とは流通の広がりが違います。
  • 最大の懸念:21種にはジャガイモシロシストセンチュウが含まれます。2015年に網走市で国内初確認され、いまも植物防疫法の緊急防除で作付け禁止の圃場が残っています。
  • 産地の反発:札幌・帯広・北見の説明会では反対の声が相次ぎ、生産者は署名を集めて政府に提出する方針です。北海道知事とJA北海道中央会も受け入れられないとの立場を表明しています。
目次

米国産ジャガイモの輸入解禁は、いま何が決まったのか

決まったのはリスク評価の完了と、検疫協議が必要な病害虫21種の特定までです。輸入解禁そのものはまだ決まっていません。

農林水産省は2026年8月28日、米国産ジャガイモの輸入解禁に向けた検討手続きについて、国内に侵入する可能性のある病害虫の洗い出しを行うリスク評価の結果を取りまとめたと明らかにしました。米側との検疫措置の協議が必要な病害虫として21種を特定したと共同通信が伝えています。

手続きは4工程あり、いまは3工程目に入ったところ

手続きは要請の受理、リスク評価、産地への説明、リスク管理の順に進み、いまはリスク評価を終えて説明の段階にあります。

次に入る「病害虫リスク管理」では、特定した病害虫ごとに侵入を防ぐための検疫措置案を作り、有識者への意見聴取を経て輸入解禁条件を定めます。共同通信によれば、この最終工程を含めて解禁までは数年かかるとみられ、その間も説明会が複数回開かれる予定です。手続きの現在地を工程ごとに並べると次のようになります。

工程 内容 現在地
1. 要請の受理 米国から生食用(一般流通用)の解禁要請 2020年に受理
2. 病害虫リスク評価 侵入の可能性がある病害虫を洗い出す 2026年8月28日に完了・21種を特定
3. 産地・一般への説明 主要産地での説明会、オンライン説明会 9月1日から北海道で開始・9月18日にオンライン
4. 病害虫リスク管理 検疫措置案の策定、有識者聴取、解禁条件の決定 未着手(解禁まで数年の見込み)

つまり、いま産地が向き合っているのは「解禁の是非そのもの」ではなく、「どんな条件なら侵入を防げるのか」を詰める工程の入口です。ここで条件が甘くなれば、あとから取り返しがつきません。

9月18日にオンライン説明会、産地では9月1日から開催

次の節目は9月18日に農水省がオンラインで開く一般公開の説明会で、リスク評価の結果が公表されます。

産地向けの説明会は9月1日の札幌を皮切りに、9月2日には帯広と北見でも開かれました。いずれも生産者を対象とした非公開の形式です。農水省は茨城、千葉、長崎、鹿児島の各県でも説明会を開く計画で、西日本新聞によれば長崎と鹿児島でも開催が予定されています。

生食用と加工用は、何がどう違うのか

米国産は2006年にポテトチップ用として解禁済みで、指定工場へ直送し即加工する条件が付いています。生食用はこの条件が外れます。

時事通信によれば、日本は2006年にポテトチップ用に限って米国産ジャガイモの輸入を解禁しました。加工用は輸入後に指定された工場へ直送され、すぐ加工されるため、塊茎に付いた土や皮が畑に持ち込まれる経路が絞られます。一方、生食用はスーパーや家庭を経由して全国に分散するため、同じ管理は成り立ちません。

項目 加工用(2006年に解禁済み) 生食用(2020年に要請・協議中)
用途 ポテトチップ加工に限定 一般流通(小売・家庭・外食)
輸入後の動き 指定工場へ直送し即加工 全国の流通網へ分散
土・皮の行方 工場内で処理され追跡しやすい 家庭ごみ・堆肥・家庭菜園へ拡散しうる
検疫の考え方 流通経路を絞ることでリスクを管理 経路が絞れないため措置の設計が難しい

この違いが、産地が「加工用と同じ理屈で語らないでほしい」と訴える理由です。防疫の設計思想そのものが別物になります。

ジャガイモシロシストセンチュウとは、どんな病害虫なのか

ジャガイモの根に寄生して収量を落とす線虫で、2015年に網走市で国内初めて確認され、いまも緊急防除が続いています。

共同通信によれば、農水省が特定した21種の病害虫には、この「ジャガイモシロシストセンチュウ」が含まれます。2015年に北海道網走市で国内初確認され、現在も産地への影響が続いている病害虫です。土の中でシスト(嚢)の状態で長く生き残るため、一度入った畑から取り除くのが難しいという性質があります。

発生した畑ではナス科の作付けが禁止される

発生が確認された圃場では、植物防疫法に基づく緊急防除としてバレイショを含むナス科植物の作付けが禁止されます。

網走市と大空町の発生地域を対象に緊急防除が実施され、薬剤や捕獲作物を使った防除が続けられてきました。いも類振興会の資料によれば、2018年末時点の発生面積は163圃場・682ヘクタールに及び、2019年には斜里町の圃場でも新たに確認されています。2026年時点でも網走市・斜里町・清里町・小清水町に確認圃場が残っているとされます(※確認中)。

侵入の経路は、イモそのものより付着した土と皮

侵入経路として警戒されているのは塊茎に付いた土と、家庭で捨てられる皮です。イモ自体を検査しても塞ぎ切れません。

生食用が一般流通に乗ると、この経路は小売と家庭へ広がります。加工用が指定工場で完結するのに対し、生食用は次の3段階を制度で追い切れません。

生食用イモが全国へ流通 付着した土・皮が廃棄 畑への侵入リスク

産地の危機感は、この3段階目を止める手立てが制度として書けるのか、という一点に集約されます。

なぜ北海道の産地がここまで反発するのか

国産ジャガイモの約8割を北海道が担っており、病害虫が一度入れば代わりの産地が国内に存在しないからです。

共同通信によれば、2024年のジャガイモ収穫量は北海道が全国の約8割を占めています。オホーツクや十勝を中心とする畑作地帯が、日本の生食用・加工用の供給をほぼ一手に支えている構図です。ここに新たな土壌病害虫が入れば、被害は特定の農家の問題では終わりません。

説明会では「解禁ありき」への不信が噴き出した

札幌・帯広・北見の説明会では反対の声が相次ぎ、生産者からは進め方そのものへの不信が示されました。

9月1日の札幌の説明会に参加した北海道農民連盟の山口浩幸書記長は、取材に「(病害虫が侵入する)リスクは拭えない。輸入解禁には反対という空気があった」と振り返っています。9月2日の帯広の説明会では、同連盟の出嶋辰三委員長がHBCの取材に「生産者側から見れば輸入解禁ありきで説明しているのかな。(可能性として)怪しいものがあれば輸入しませんと聞きたかった」と述べました。生産者らは輸入解禁反対の署名活動を進めており、9月中にも政府へ提出する方針です。

知事とJAも「受け入れられない」と表明している

北海道の鈴木直道知事とJA北海道中央会は、侵入防止策と国内生産対策がない限り受け入れられないとの立場です。

鈴木知事は8月21日の記者会見で「病害虫の侵入防止、国内の生産対策が講じられない限り、輸入解禁は受け入れられない」と述べました。JA北海道中央会の樽井功会長も8月18日、「安定生産・供給に努力している生産現場の意欲を著しく低下させてしまいます」として容認できないとの考えを示しています。元ニセコ町長で前衆院議員の逢坂誠二氏も、2026年7月28日付の自身のブログで生食用ジャガイモの輸入に反対する立場を表明しました。

(編集部分析)産地の反発を「既得権の抵抗」として片づけるのは早計だと考えます。ジャガイモは国内自給率が高く、日本が自力で国民の食卓を支えられている数少ない品目のひとつです。その供給の8割が単一の道に集中している以上、防疫の失敗は代替の効かない一発勝負になります。食料の自立という観点では、ここは慎重さがそのまま国益にかなう領域だと評価できます。

米国の要請と、対米通商交渉との関係をどう見るか

米国は2020年に一般流通用の解禁を正式要請しており、対米関税交渉のカードとして自民党内に容認論が浮上したと報じられています。

時事通信によれば、米国が一般流通用ジャガイモの輸入解禁を日本に要請したのは2020年です。その後の日米交渉でも輸出拡大の働きかけが続いてきました。日本経済新聞は、自動車など主力産業への追加関税をめぐる交渉で譲歩を引き出す材料として、生食用ジャガイモの解禁を容認する意見が自民党内に浮上したと伝えています。

農相は「侵入は許さない」と繰り返している

鈴木憲和農相は8月28日の閣議後会見で、毅然とした姿勢で協議に対応すると強調しました。

農相は病害虫の侵入による産地への影響を懸念する声が寄せられていると紹介したうえで、「侵入は許さないとの強い決意のもとで、毅然とした姿勢で協議に対応したい」と述べています。手続きが進んでいること自体が解禁の確約ではない、というのが政府の説明です。

(編集部分析)問題は、この言葉が守られたかどうかを国民が事後に検証できる形になっているかです。検疫は本来、科学的なリスク評価に基づいて条件を決める技術の領域であり、通商交渉の取引材料として扱われた瞬間に性格が変わります。誰が得をするのかという問いを当てれば、生食用の解禁で直接の利益を得るのは米国の生産者と輸入・流通に関わる事業者であり、リスクを負うのは日本の畑です。関税交渉で自動車を守るために食料の防疫線を差し出す形になっていないか、条件の中身が公開される9月18日以降に厳しく見る必要があると考えます。

今後の日程と、生産者・消費者が見ておくべき点

次の節目は9月18日のオンライン説明会で、そこで公表されるリスク評価の中身が焦点になります。

その後は最終工程の「病害虫リスク管理」に入り、21種それぞれについて殺虫処理や目視検査といった侵入防止策が検討されます。共同通信は、解禁までは数年かかるとみられ、その間も説明会が複数回開かれる予定だと伝えています。産地説明会は北海道に続いて茨城、千葉、長崎、鹿児島でも予定されています。

見るべきは「解禁するか」より「どんな条件か」

解禁の可否より、検疫措置の中身と、条件を満たさない場合に輸入を止められる仕組みがあるかが実質的な分かれ目です。

帯広の説明会で生産者から出た「怪しいものがあれば輸入しませんと聞きたかった」という言葉は、この点を突いています。侵入が確認された場合に輸入を停止する条項があるのか、産地認定や圃場検査をどこまで求めるのか、費用は誰が負担するのか。9月18日以降に公表される資料では、ここを確認するのが実務的です。

Q. 9月18日の説明会は誰でも参加できますか。

A. 一般公開されるオンライン説明会です。共同通信によれば、農水省がリスク評価の結果を公表する場として9月18日に開催すると発表しています。産地向けに開かれている説明会は非公開で、対象は生産者です。

手続きの節目が公開の場に置かれること自体は、産地にとって議論の材料になります。

米国産ジャガイモ輸入解禁のよくある質問

検索でよく調べられている周辺の疑問を整理しました。

Q. 米国産の生ジャガイモはいつからスーパーに並びますか。

A. 時期は決まっていません。共同通信・時事通信はいずれも、最終工程を経て解禁されるまでに数年かかるとみられると伝えています。2026年9月時点では検疫措置の協議に入る前の段階です。

Q. いま食べているポテトチップスに米国産は使われていますか。

A. 使われている場合があります。2006年にポテトチップ用に限って米国産の輸入が解禁されており、指定工場へ直送して加工する条件で流通しています。今回議論されているのは、この加工用ではなく生食用です。

Q. 病害虫21種の中身は公表されていますか。

A. 21種を特定したことは2026年8月28日に公表され、ジャガイモシロシストセンチュウが含まれることが報じられています。一覧の詳細は9月18日のオンライン説明会でリスク評価の結果とあわせて公表される見通しです。

Q. 北海道以外の産地でも説明会は開かれますか。

A. 開かれます。農水省は茨城、千葉、長崎、鹿児島の各県でも説明会を開く計画で、西日本新聞は長崎と鹿児島でも予定されていると報じています。

疑問の多くは、9月18日に公表される資料で答え合わせができます。

参考情報

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