【9/4】神栖市長の当選無効 「まんじゅうや」票はなぜ無効になったのか

2026年9月3日、東京高裁は茨城県神栖市の木内敏之市長(65)の当選を無効と判断しました。2025年11月の市長選で木内氏と石田進前市長(67)の得票が1万6724票で並び、くじ引きで木内氏が当選していましたが、木内氏の票にあった「まんじゅうや」「だんごさん」と書かれた2票が無効とされたためです。木内氏の実家は120年以上続く和菓子製造会社で、地元では「まんじゅうや」と呼ばれてきたと主張していました。ここでは、何が争われ、法律がどこで線を引いているのかを、条文と報道されている事実だけで整理します。
この記事でわかること
- 当選無効の理由:「まんじゅうや」「だんごさん」の2票が無効とされ、得票同数の前提そのものが崩れました。
- 高裁の判断:「食品であるだんごや、飲食店の種類を表す普通名詞にとどまる」「木内氏であることが明らかとはいえない」。
- 決め手になった事実:市内にまんじゅうや団子を扱う主な和菓子店が少なくとも9軒あります。
- 法律の線引き:公職選挙法68条1項は無効投票を8つ並べています。氏名以外の他事記載は原則無効で、例外は職業・身分・住所・敬称の類だけです。
- 手続きの3段:異議申出(14日以内)→県選管への審査申立て(21日以内)→高等裁判所へ提訴(30日以内)。高裁が第一審です。
- いまの身分:判決が確定するまで木内氏は市長職にとどまります。上告するかは「弁護士と相談して決める」と述べています。
神栖市長の当選はなぜ無効になったのか
木内氏に入った2票が無効とされ、石田氏と並んでいた得票が1票差で下回ったためです。
得票同数1万6724票、くじ引きで決まった当選
2025年11月の神栖市長選は一騎打ちとなり、両候補の得票が1万6724票で完全に並びました。
公職選挙法95条2項は「当選人を定めるに当り得票数が同じであるときは、選挙会において、選挙長がくじで定める」と規定しています。この規定に従ってくじが引かれ、木内氏が当選人となりました。ただし、その票のなかに「まんじゅうや」「だんごさん」と書かれた2票が含まれていました。
神栖市の選挙管理委員会はこの2票を有効と判断しましたが、石田氏側が不服を申し立てます。茨城県の選挙管理委員会は2026年4月、2票を有効と認めず、木内氏の当選を無効とする裁決を下しました。木内氏は同年5月28日に会見を開き、この裁決の取り消しを求めて東京高裁へ提訴したことを明らかにしています。
東京高裁が示した理由「普通名詞にとどまる」
高裁は、その呼び名が木内氏だけを指すとまでは言えないと判断しました。市内に同業の和菓子店が複数あることが決め手です。
9月3日の判決で東京高裁は、「まんじゅうや」について「木内氏の実家の和菓子店でなく、食品であるだんごや、飲食店の種類を表す普通名詞にとどまる」と指摘し、「木内氏であることが明らかとはいえない」として木内氏の請求を棄却しました。神栖市内にはまんじゅうや団子を扱う主な和菓子店が少なくとも9軒あり、「まんじゅうや」などの呼称が市内すべてで慣習的に使用されていたとまではいえない、というのが理由です。
木内氏は判決後の会見で「私たちの主張が全く通らなかったことは残念ですし、遺憾に思っています」「生まれた時から和菓子店の息子。小さい時は、和菓子店は私のところ1軒だった」と述べました。石田氏は「県選管の判断通りだった」「順当な結果」としています。
ここまでの流れを、日付で確認しておきます。
| 時期 | 出来事 | 中身 |
|---|---|---|
| 2025年11月 | 神栖市長選の投開票 | 木内敏之氏と石田進氏がともに1万6724票。くじ引きで木内氏が当選 |
| 同時期 | 市選管の判断 | 「まんじゅうや」「だんごさん」の2票を有効と扱う |
| 2026年4月 | 茨城県選管の裁決 | 2票を有効と認めず、木内氏の当選を無効とする |
| 2026年5月28日 | 木内氏が会見 | 裁決の取り消しを求めて東京高裁に提訴したと明らかにする |
| 2026年8月4日 | 口頭弁論 | 県選管側が争う姿勢を示す |
| 2026年9月3日 | 東京高裁判決 | 請求棄却。「普通名詞にとどまる」「木内氏であることが明らかとはいえない」 |
市の選管と県の選管で判断が逆になり、高裁が県側に付いた、という並びです。
「まんじゅうや」票が無効になった法律上の線引き
投票用紙に書いてよいのは候補者の氏名だけで、例外は職業・身分・住所・敬称の類に限られます。
公職選挙法68条が並べる8つの無効事由
比例代表を除く選挙の無効投票は、公職選挙法68条1項が1号から8号まで具体的に列挙しています。
このうち今回に関わるのは、6号「公職の候補者の氏名のほか、他事を記載したもの。ただし、職業、身分、住所又は敬称の類を記入したものは、この限りでない」、7号「公職の候補者の氏名を自書しないもの」、8号「公職の候補者の何人を記載したかを確認し難いもの」の3つです。
東京高裁が示した理由は「木内氏であることが明らかとはいえない」というもので、8号の考え方に沿う判断です。ただし判決文が公表されていないため、どの号を適用したのかをここで断定はしません。
書き方ごとの扱いを、条文に沿って整理します。
| 投票用紙の書き方 | 扱い | 根拠(公職選挙法68条1項) |
|---|---|---|
| 候補者の氏名を自分で書く | 有効 | 7号(自書しないものが無効)の裏返し |
| 氏名に職業・身分・住所・敬称を添える | 有効 | 6号ただし書の例外 |
| 氏名にそれ以外のことを書き添える | 無効 | 6号(他事記載) |
| 通称・屋号・あだ名だけを書く | 誰を指すか確認し難ければ無効 | 8号(何人を記載したか確認し難い) |
| 1枚に2人以上の氏名を書く | 無効 | 4号 |
| 候補者でない人の氏名を書く | 無効 | 2号 |
| ゴム印・代筆など自分で書かない | 無効 | 7号 |
「まんじゅうや」は氏名そのものではないため、4段目の判断に入ります。
67条の「意思が明白なら有効に」との関係
法律は、書き方が多少崩れていても有効に扱うよう求めています。ただし68条に反しない範囲に限られます。
公職選挙法67条は「投票の効力は、開票立会人の意見を聴き、開票管理者が決定しなければならない。その決定に当つては、第六十八条の規定に反しない限りにおいて、その投票した選挙人の意思が明白であれば、その投票を有効とするようにしなければならない」と定めています。神栖市の選管が2票を有効としたのは、この考え方に立ったものと見られます。
争点は「意思が明白かどうか」に集約されます。木内氏側は、地元で日常的に「まんじゅうや」と呼ばれてきたのだから意思は明白だと主張しました。高裁は、同業の和菓子店が9軒ある以上その呼び名が木内氏本人を指すとは限らない、と見ています。67条の救済は、68条の壁を越えるところまでは働かないという整理です。
選挙の効力を争う手続きはどう進むのか
市選管への異議申出、県選管への審査申立て、高等裁判所への提訴という3段階です。
異議申出→県選管の裁決→高裁の3段
市町村長選の当選の効力を争うときは、いきなり裁判所に行くことはできません。選管の判断を先に通す必要があります。
公職選挙法206条は、当選の効力に不服がある選挙人または候補者は、当選人の告示から14日以内に市町村の選管へ異議を申し出ることができると定めています。その決定に不服なら、決定書の交付から21日以内に県の選管へ審査を申し立てます。さらに207条は、県選管の決定・裁決に不服がある場合、県選管を被告として30日以内に高等裁判所へ訴訟を提起できると規定しています。
当選の効力を争う3段階(公職選挙法206条・207条)
神栖市の件は、市選管が有効、県選管が無効、高裁が県選管を支持、という順でここまで来ています。
選挙争訟は時間をかけない仕組みになっており、213条は訴訟の判決を受理から100日以内に出すよう努めることと、他の訴訟に優先して速やかに裁判することを求めています。
上告するとどうなる。判決確定まで市長は在職
高裁が第一審なので、次は最高裁です。判決が確定するまで木内氏は市長職にとどまります。
読売新聞は、判決が確定するまで市長の在職は可能だと報じています。木内氏は上告するかどうかについて「弁護士と相談して決める」としており、9月4日時点で結論は出ていません。民事訴訟法285条は判決の送達を受けた日から2週間以内に控訴すべきことを定め、313条がこれを上告にも準用しているため、判断に使える時間は長くありません。
石田氏は上告について「県選管でも東京高裁でも同じ判決をされていて、それ以上やるというのは普通ありえない」「市民が我慢の限界のような気がする」と述べたと報じられています。
この判決を1票の側からどう読むか
読者にとっての結論は単純で、投票用紙には掲示されている候補者の氏名を自分の手で書く、それだけです。
通称・屋号で書かない。氏名を自書する
投票所には候補者名の一覧が掲示されています。呼び慣れた通称ではなく、そこにある氏名を書き写すのが確実です。
今回のように、地域で長く使われてきた屋号でも「その人しか指さない」と裁判所に認めさせるのは容易ではありません。市内に同業が9軒あるという事実が、木内氏の主張を退ける根拠になりました。逆に言えば、氏名さえ自書していれば争いにならなかった2票です。
(編集部分析)この判決は、投票した2人の有権者を責めるものではない。責められるべきは、屋号で呼ばれる文化が残る地域で、それが法的に通用するかどうかを事前に誰も示していなかった点である。神栖市の選管は有効と判断し、県選管は無効と判断した。同じ2票について、行政の判断が真逆に割れている。有権者にしてみれば、どちらの基準で書けばよいのか判断のしようがない。無効票の基準を投票所で分かる形にしておくことは、開票後に裁判で争うより安上がりで、誰も損をしない。
選管の判断が割れたことをどう見るか
市選管と県選管で結論が逆になった事実は、運用の基準が現場に委ねられていることを示しています。
67条は投票の効力を「開票立会人の意見を聴き、開票管理者が決定」すると定めており、最初の判断は現場が担います。1票差で決着する選挙では、この現場判断がそのまま結果を左右します。9票差で決まった聖籠町長選挙2026のような接戦は各地で起きており、神栖市のように得票が完全に並ぶ例まで出ています。
(編集部分析)選挙の正しさは、開票所の一枚一枚の判断に支えられている。国政の争点や政党の力学がどれだけ論じられても、その土台が揺らげば結果そのものが信用を失う。今回の件で問われているのは木内氏の資格ではなく、無効票の線引きが自治体をまたいで揃っているかどうかである。総務省が統一した判断例を示し、開票管理者と立会人がそれを共有する。地味だが、選挙制度の信頼を保つ費用としては安い。公職選挙法をめぐる問題は選挙事務所の届け出や当選後の議員の処遇にも及んでおり、制度の細部が政治の信用に直結する場面が続いている。
神栖市長 当選無効のよくある質問
ここまでで触れきれなかった疑問を、公表されている情報の範囲でまとめます。
Q. 神栖市長はもう失職したのですか
A. していません。読売新聞によれば、判決が確定するまで木内氏は市長職にとどまることができます。確定すれば失職となります。
Q. 2票が無効になると、なぜ当選が覆るのですか
A. 両候補の得票が1万6724票で完全に並んでいたためです。木内氏の2票が引かれれば、有効投票の最多数を得た者は石田氏になります。公職選挙法95条2項のくじ引きは、得票が同数のときにだけ使う規定です。
Q. 屋号やあだ名で書いた票は必ず無効になりますか
A. 必ずとは限りません。67条は、68条に反しない限りで選挙人の意思が明白なら有効にするよう求めています。ただし今回は、市内にまんじゅうや団子を扱う主な和菓子店が少なくとも9軒あることから、木内氏を指すと明らかにはいえないと判断されました。
Q. なぜ地方裁判所ではなく高等裁判所だったのですか
A. 公職選挙法207条が、地方公共団体の長の当選の効力に関する訴訟は高等裁判所に提起すると定めているためです。選挙争訟は結論を早く出す必要があるため、審級が1つ省かれています。213条も判決を受理から100日以内に出すよう努めることを求めています。
Q. 石田前市長はこのまま市長に戻るのですか
A. 判決が確定するかどうかによります。石田氏は判決を「順当な結果」とし、「早く復帰して、1票でも上回った市長が、説明責任を果たして市政を進めてまいりたい」と述べたと報じられていますが、9月4日時点で確定はしていません。
参考情報
- 日本テレビ「東京高裁『まんじゅうや』などは無効票…茨城・神栖市内に主な和菓子屋“9軒” 当選無効の現市長、不満あらわに」(2026年9月3日)
- NHK「詳報『まんじゅうや』は無効票 東京高裁 神栖市長の訴え退ける」(2026年9月3日)
- 読売新聞「『まんじゅうや』無効判決、市内に和菓子屋9軒『本名に代わると言えない』…判決確定まで市長在職可能」(2026年9月3日)
- 朝日新聞「『まんじゅうや』の投票は無効 東京高裁、現職市長の当選認めず」(2026年9月3日)
- 毎日新聞「『まんじゅうや』本名の代わりと言えず 神栖市長に当選無効判決」(2026年9月3日)
- FNNプライムオンライン「東京高裁も『まんじゅうや』票は無効 現市長の木内氏『大変残念』上告明言せず」(2026年9月3日)
- テレビ朝日「【これまでの経緯】茨城・神栖市長選『まんじゅうや』票は無効、当選認めず」(2026年9月3日)
- e-Gov法令検索「公職選挙法」67条・68条・95条・206条・207条・213条
- e-Gov法令検索「民事訴訟法」285条・313条
確定しているのは、東京高裁が2票を無効と判断して木内氏の請求を棄却したこと、判決が確定するまで木内氏が市長職にとどまること、上告するかは決まっていないことの3つです。最高裁へ進むのか、ここで確定して石田氏が市長に就くのかを、次に見ていくことになります。
