【10/10】トランプ氏、平和賞逃し「ノルウェーの汚点」 受賞のピレイ氏とICC制裁

トランプ米大統領は2026年10月9日、ニューヨーク州シラキュースの集会で、今年のノーベル平和賞に自分が選ばれなかったことに不満を表し、ノーベル賞委員会の拠点があるノルウェーにとって「消せない汚点だ」と批判しました。同じ日に平和賞の受賞が決まったのは、元国際刑事裁判所(ICC)判事で元国連人権高等弁務官のナバネセム(ナビ)・ピレイ氏(85)です。

トランプ氏はこの演説で「日本と北朝鮮」「中国と台湾」の戦争を防いでいるとも主張しました。日本は高市首相がトランプ氏を平和賞に推薦したと米側が発表した国であり、ICCの所長は日本人の赤根智子氏です。この記事では、発言の中身、受賞者ピレイ氏の経歴、ICCをめぐる米国との対立、そして日本の立場を順に整理します。

この記事でわかること

  • トランプ氏の発言:平和賞の選考を「不名誉で恥ずべき決定」と呼び、ノルウェーを名指しで批判した。
  • 受賞者ピレイ氏:ICCやルワンダ国際刑事裁判所の判事、国連人権高等弁務官を務めた南アフリカ出身の法律家。
  • 日本との関係:トランプ氏は日本と北朝鮮の戦争を防いでいると主張し、米政権は日本人の赤根所長が率いるICCを、平和賞発表の直後に組織ごと制裁対象にした。
目次

トランプ氏は平和賞を逃して何と言ったのか

トランプ氏は、自分が平和賞を受けるべきだったとし、選考を「不名誉で恥ずべき決定」でノルウェーの消せない汚点だと批判しました。

発言は10月9日、平和賞の発表から数時間後にニューヨーク州で開かれた選挙集会でのものです。

共同通信によると、トランプ氏はピレイ氏について「誰も聞いたことがない、国連で働くリベラルな人物」だと主張し、平和賞は「反民主主義的で、一握りの急進的なイデオロギーの信奉者によって永久に信用を失った」と述べました(共同通信)。TBSによると「ノルウェーよ、我々は忘れない。史上最高の実績に対して賞を与えなかったことを」とも語っています(TBS NEWS DIG)。

「8つの戦争に8つのノーベル賞」という主張

トランプ氏は、自分は8つの戦争を終わらせたので本来は8つの平和賞を受けるべきだと主張しました。

テレビ朝日の報道では「制度自体が不正だ」とも述べています。

毎日新聞によると、トランプ氏はイランの核保有を阻止したとも主張し、「我が国が食い物にされているさらなる印だ。私たちはノルウェーを忘れない」と訴えました。各社の訳語は少しずつ違いますが、ノルウェーという国を名指しして「忘れない」と言った点は共通しています。

発表の2日前から予防線を張っていた

トランプ氏は発表2日前の10月7日、自分のような人間には授与しない評判があると語っていました。

ニューズウィーク日本版によると、受賞すべきだと繰り返す一方で「私のような人間には授与しないという評判がある」と述べ、受賞に懐疑的な見方も示していました(ニューズウィーク日本版)。落選を見越したうえで、落選後に委員会の正当性そのものを攻める流れになっています。

2026年ノーベル平和賞のピレイ氏とは誰か

ピレイ氏は、南アフリカ出身の85歳の法律家で、ICC判事や国連人権高等弁務官を務めた人物です。

ノルウェーのノーベル賞委員会は10月9日、「平和と国際法の促進に向けた努力」を理由に授与を発表しました(ロイター)。

主な経歴を表にまとめます。

項目 内容
氏名 ナバネセム(ナビ)・ピレイ
年齢・出身 85歳・南アフリカのダーバン生まれ(インド系タミル人の家庭)
法律家として 1967年、ナタール州で女性として初めて法律事務所を開設。南アフリカの高等裁判所で非白人女性として初の判事
国際裁判所 ルワンダ国際刑事裁判所、ICCなどで判事
国連 国連人権高等弁務官
直近の仕事 イスラエルがガザでジェノサイド(集団虐殺)を行ったと2025年に結論づけた国連調査委員会の委員長
授賞式 12月10日、オスロ。賞金1200万スウェーデンクローナ

表のとおり、ピレイ氏は「国家や指導者の責任を法廷で問う」仕事を半世紀以上続けてきた人物で、そこが授賞の評価点になりました。

トランプ氏の「誰も知らない」は当たっているか

国際法や人権の分野では長く知られた人物で、「誰も知らない」という表現は事実とは言えません。

国連人権高等弁務官は国連の人権部門のトップにあたる役職です。

ただ、日本の一般の読者にとってなじみの薄い名前であることも確かです。日本の報道でも「ピレイ」「ピライ」と表記が分かれており、検索するときは両方を試すと記事が見つかりやすくなります。

なぜピレイ氏の受賞がトランプ政権を刺激するのか

受賞者がICCの元判事で、イスラエルのガザでの行為をジェノサイドと結論づけた調査の責任者だからです。

トランプ政権はICCとイスラエル批判の両方に強く反発してきました。

ロイターによると、イスラエルはこの報告書を「言語道断だ」と退けています。またトランプ氏は9月、各国にICCからの脱退を呼びかけていました。オスロ国際平和研究所の所長代行は、委員会がトランプ氏を直接批判したわけではないとの見方を示しています。

米国はICCの赤根智子所長を制裁している

米政権は2026年8月18日、ICCの赤根智子所長らを制裁対象に指定しました。

ルビオ国務長官はICCを「政治化された超国家的な裁判所」と批判しています(共同通信配信・秋田魁新報)。

この制裁で米国内の資産は凍結され、ICCの裁判官18人のうち9人が制裁対象になりました。東京新聞によると、ICC被害者信託基金は10月9日の声明で、ICC本体に対する米国の制裁で被害者への賠償が滞るおそれがあると表明しています(東京新聞)。なお、ピレイ氏はすでにICCを離れています。

平和賞の発表直後にICC本体も制裁対象に

米政権は平和賞発表と同じ10月9日、個人だけでなくICCという機関そのものを制裁対象に指定しました。

沖縄タイムスが配信した共同通信の記事によると、金融機関や企業がICCとの取引を避けるおそれがあり、加盟国からの分担金を受け取りにくくなる可能性も指摘されています。ICCは制裁を拒絶すると表明しました(沖縄タイムス(共同通信配信))。テレビ朝日系の報道では、ルビオ国務長官が「我々はこのならず者の裁判所との取引を禁止し、その資金源を断ち切る」と述べ、ICC加盟国にICCを抑え込むよう期待を示しました(KSB瀬戸内海放送(ANN))。米側は平和賞と制裁を結びつける説明はしていませんが、発表の数時間後というタイミングが各社で報じられています。

米政権がICCを敵視する背景には、アフガニスタンでの米兵の戦争犯罪をめぐる捜査など、米国の当局者が訴追の対象になりうる問題があります。秋田魁新報が配信した共同通信の記事は、制裁された2人がICCの管轄権に同意していない国の当局者の訴追に関与したことを米側が理由に挙げたと伝えています。米国はICCに加盟しておらず、「加盟していない国の人間を裁くな」というのが米側の一貫した主張です。

(編集部分析)自国の兵士や当局者を外国の法廷に委ねないという米国の主張は、主権の観点からは筋の通った部分があります。一方で、その論理で同盟国の日本人所長にまで制裁を科すことには、日本として違和感を表明する余地があると考えます。

(編集部分析)平和賞の選考は、ICCを敵視する米政権と、ICCを国際秩序の柱とみる欧州の対立の中で行われました。委員会が中立をどれだけ強調しても、受賞者の経歴そのものが米国へのメッセージとして読まれるのは避けがたいと言えます。賞が政治の道具として扱われるほど、権威は双方から削られていきます。

トランプ氏が挙げた「8つの戦争」と日本への言及

トランプ氏は演説で、自分が「韓国と北朝鮮、日本と北朝鮮、中国と台湾」の戦争を日常的に防いでいると主張しました。

FNNや毎日新聞など複数の社が同じ趣旨を伝えています(FNNプライムオンライン)。

10月9日の演説では8つの内訳は示されませんでしたが、トランプ氏は2025年秋以降の演説で、カンボジアとタイ、コソボとセルビア、コンゴ民主共和国とルワンダ、パキスタンとインド、エジプトとエチオピア、アルメニアとアゼルバイジャン、イスラエルとイラン、イスラエルとハマスの8組を挙げてきました(The National)。このうち戦闘が再燃したもの、もともと戦争状態ではなかったものも含まれており、海外メディアの検証では「誤解を招く」との評価が出ています。

また、日本と北朝鮮の間でどのような衝突を防いだのかについて、具体的な説明は報じられていません。日本政府が今回の発言に反応したという報道も、10月10日時点では確認できていません。

トランプ氏の主張と、確認できる事実を分けて並べます。

トランプ氏の主張 確認できること(10月10日時点)
8つの戦争を終わらせた 2025年秋以降に8組を列挙。再燃や戦争状態でなかった例を含む
日本と北朝鮮の戦争を防いでいる 具体的な事例の説明は報じられていない
イランの核保有を阻止した 本人の主張として報道。核問題は継続中
ピレイ氏は誰も知らない人物 元国連人権高等弁務官・元ICC判事

主張の多くは裏付けの説明がないまま述べられており、読者は「本人がそう主張した」という受け止め方にとどめておくのが安全です。

(編集部分析)とはいえ、日本の安全保障が米国の抑止力に支えられているのは事実です。北朝鮮の弾道ミサイルや中国の台湾周辺での軍事行動を前に、在日米軍と日米同盟が抑止の柱になっている現実は、トランプ氏の誇張を差し引いても変わりません。問われるのは、その抑止を米大統領の気分や賞への執着に左右されない形で日本自身がどう厚くしていくかです。

高市首相の推薦は何だったのか

ホワイトハウスは2025年10月28日、高市首相がトランプ氏をノーベル平和賞に推薦すると発表しました(AFPBB News)。

日米首脳会談の際に伝えられたとされます。

一方、日本政府は推薦の事実そのものについて回答を控えています。ノルウェーのノーベル賞委員会は推薦者や候補者の資料を少なくとも50年間公開しないため、実際に推薦状が出されたかを外部から確認する方法はありません。2019年2月には、トランプ氏が安倍首相(当時)から推薦を受けたと語り、北朝鮮のミサイルが日本上空を通過しなくなったことを自分の功績に挙げました。安倍氏は国会で推薦を否定せず、委員会の50年非公開の規則を理由に確認も控えた経緯があります(CNN.co.jp)。

(編集部分析)推薦は、関税や防衛費をめぐって圧力をかけてくる相手の自尊心をくすぐる外交上の一手だったと評価できます。日本の国益を守るための手段として理解できる半面、推薦した国の首脳が演説で「日本と北朝鮮の戦争を防いでいる」と名前を使われる立場にもなりました。相手の物語に組み込まれる代償も見ておく必要があります。

ノルウェー政府はどう答えているのか

ノルウェー側は、平和賞は政府から独立した委員会が決めるものだと説明しています。

共同通信も、ノルウェー側のこの立場を伝えています。

トランプ氏がノルウェーを批判するのは初めてではありません。CNNによると、2026年1月、トランプ氏はノルウェーのストーレ首相に宛てたテキストメッセージで「私が八つ以上の戦争を阻止したにもかかわらず、貴国が私にノーベル平和賞を授与しないと決定したことを考えると、純粋に平和だけを考える義務をもはや感じない」と書き、グリーンランド問題と結びつけました。ストーレ首相は、賞は政府ではなく独立した委員会が授与すると説明したとしています(CNN.co.jp)。

2年続けて受賞を逃した

トランプ氏は2025年に続き、2026年も平和賞を逃し、2年連続で選考の外に置かれました。

2025年の平和賞はベネズエラの野党指導者マリア・コリナ・マチャド氏で、マチャド氏は受賞後にトランプ氏へメダルを贈っています。

ロイターによると、ピレイ氏は受賞を祝う人々の拍手が続く中で、賞をトランプ氏と分け合うかもしれないと冗談を言いました。昨年のマチャド氏のメダル贈呈を念頭に置いた発言とみられています。

平和賞をめぐる経緯を時系列で見る

高市首相の推薦発表、ノルウェーへの不満、ICC制裁、そして落選後の批判へと、1年かけて対立が深まってきました。

12月10日の授賞式を含め、主な出来事は次の流れです。

2025年10月 平和賞はマチャド氏。28日、ホワイトハウスが高市首相によるトランプ氏推薦を発表
2026年1月 トランプ氏がストーレ首相に「平和だけを考える義務はない」と送信
2026年8月18日 米政権がICCの赤根智子所長らを制裁
2026年10月7日 トランプ氏「私のような人間には授与しない評判がある」
2026年10月9日 平和賞はピレイ氏。数時間後に米政権がICC本体を制裁対象に指定し、トランプ氏が「ノルウェーの汚点」と批判
2026年12月10日 オスロで授賞式(予定)

流れを見ると、平和賞への執着がノルウェーとの外交、そしてICCへの圧力という別の争点と重なり合ってきたことが分かります。

日本にとって今回の騒動は何を意味するのか

日米同盟とICC支持の間で、日本が米国と欧州の双方とどう距離を取るかが問われる問題です。

日本は、平和賞に推薦したと米側が発表した国であると同時に、米国が制裁するICCの所長を出している国でもあります。ICC本体まで制裁対象になったことで、この二つの立場を両立させる難しさは一段と増しました。

日本はICCの締約国で、政府はICCを支持する立場を示してきました。一方で、安全保障では米国との同盟が欠かせません。トランプ氏が平和賞とICCを結びつけて欧州を攻撃するほど、日本は米欧の対立の板挟みになりやすくなります。

(編集部分析)主権国家として大切なのは、どちらかに全面的に従うことではなく、日本の国益の物差しで是々非々を貫くことです。日米同盟は抑止の要として活用しつつ、日本人が率いる国際機関への制裁には言うべきことを言う。国際機関を無条件に礼賛するのでも、米国の言い分をそのまま受け入れるのでもない姿勢が、日本人としての自立につながると考えます。

また、ノーベル平和賞という西欧の一委員会の判断が、世界の「平和の基準」を決めるかのように報じられる構図そのものにも冷静さが要ります。(編集部分析)誰が受賞したかより、日本の周辺で実際に戦争を防いでいる力が何なのかを、自分たちの目で見極めることが重要です。

今後の焦点はどこか

今後の焦点は、12月10日の授賞式に向けた米国とノルウェー、ICCをめぐる応酬がどこまで広がるかです。

トランプ氏は「ノルウェーを忘れない」と述べており、外交や通商での対応が注目されます。

具体的には、次の3点を追う必要があります。

  • 米国がノルウェーに対して関税などの具体的な措置を取るかどうか
  • ICC本体への米国の制裁が実際に効き始め、日本人の赤根所長が率いるICCの活動にどう影響するか
  • 日本政府がトランプ氏の「日本と北朝鮮」発言やICC制裁について見解を示すかどうか

読者が自分で確かめるなら、トランプ氏の発言はホワイトハウスの発表と本人のSNS、制裁の中身は米国務省の発表、ICCの対応はICCの公式声明、日本の立場は首相官邸と外務省の会見・談話が一次情報になります。報道の見出しより先に、これらの原文で「誰が何を言ったか」を確認するのが確実です。

いずれも10月10日時点では、ノルウェーへの具体的な措置は発表されていません。

トランプ氏の平和賞批判のよくある質問

本文で触れきれなかった疑問を2つまとめます。

Q. 「ピレイ」と「ピライ」、どちらの表記が正しいですか?

A. どちらも同じ人物です。英語ではPillayと書き、日本の報道では「ピレイ」が多い一方、「ピライ」と書く媒体もあります。

Q. 高市首相の推薦が本当にあったかは、いつ分かりますか?

A. 早くても50年後です。ノーベル賞委員会は推薦者や候補者の資料を少なくとも50年間公開しないため、それまでは委員会側の資料で確かめる方法がありません。

出典は以下の参考情報にまとめています。

参考情報

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