【10/20】中国製AI「ARTEX」とは|日本企業約20社を標的・政府の対応

【10/20】中国製AI「ARTEX」とは|日本企業約20社を標的・政府の対応

国内で相次ぐ不正アクセスの攻撃元から、中国で開発されたAIの自律型侵入テストツール「ARTEX(アーテックス)」が見つかりました。GMOサイバーセキュリティ by イエラエのGMOサイバー犯罪対策センターが2026年10月19日に公表し、翌20日には木原稔官房長官が記者会見で、外国の主体が関わっている可能性も含めて解明に努める考えを示しています。

この記事では、ARTEXがどんなツールなのか、GMOが確認した「約20社」「6台」「8社」という数字がそれぞれ何を指すのか、韓国の銀行攻撃との関係、政府の動き、そして企業と利用者がいま確かめておくことを、一次情報に沿って整理します。

この記事でわかること

  • ARTEXの正体:中国で開発されたAIの自律型侵入テストツールで、本来は防御側の点検用に公開されていたものです。
  • 確認された数字:分析した攻撃元1台の標的は日本企業約20社、別に攻撃インフラ6台。GMOが確認した標的企業のうち8社が9〜10月に漏えいを公表しています。
  • まだ分からないこと:攻撃主体は特定されておらず、国家の関与を示す公式情報も現時点ではありません。
目次

中国製AI「ARTEX」とは?侵入テストを自動で進めるAIツール

ARTEXは、中国で開発されたAIの自律型ペネトレーションテスト(侵入テスト)ツールです。

指示を受けると、弱点探しから侵入の試行までをAIが自分で進めます。

ペネトレーションテストとは、企業が自社のシステムに「わざと攻撃を仕掛けて」穴を探す点検作業のことです。Impress Watchの報道によると、ARTEXは大規模言語モデル(LLM)と組み合わせて脆弱性の発見や侵入テストを自動化する仕組みで、もともとオープンソースとして公開されていました。共同通信は、指示を与えれば自律的に作業を進め、システムの脆弱性を探る能力が高いと伝えています。

防御用の道具が攻撃にそのまま転用された

点検用に作られたARTEXは、使う人が変わったことで、そのまま攻撃の道具になりました。

ARTEXが問題になったのは、この転用が実際の被害の現場で確認されたためです。

米セキュリティ企業CrowdStrikeの調査を報じたBleepingComputerによると、韓国の銀行を狙った攻撃者のサーバーからは、ARTEXの設定ファイルや、AI開発ツール「Claude Code」の作業履歴が見つかりました。攻撃者は外部のAIモデルにつないでARTEXを動かしていたとされます。下調べや侵入の試行をAIで自動化できる点が、このツールの特徴です。

開発者は公開を取りやめたが、出回ったコードは残る

開発者は実際の攻撃への悪用が報じられたあと、ARTEXの公開を取りやめました。

ただし、すでに出回ったコードを元にした派生版は残っていると報じられています。

BleepingComputerは、英語版や韓国語版の派生ツールが既存のコードから作られていると伝えています。公開を止めても、一度ネット上に出たツールを回収することはできません。「開発者が手を引いたから終わり」とは言えない点は押さえておく必要があります。

GMOイエラエが10月19日に確認したこと

GMOが確認したのは、日本企業を狙う攻撃元インフラでARTEXが動いていたという事実です。

標的はほぼ日本だけで、業種ごとに攻撃用の機器を分けていました。

GMOサイバー犯罪対策センターは10月19日、公式ブログ「相次ぐ不正アクセスの攻撃元の多くがAIであることを確認」を公開しました。同センターは10月15日に公開した記事で、侵入の痕跡(フォレンジックログ)からAIが使われた可能性が高いとの見立てを示しており、19日の記事はそれを攻撃元の側から裏づけた形です。調査は外部の組織と協力して行い、確認できた範囲に限った結果だと断っています。

公表された主な数字を、まず表で並べます。

項目 公表された内容 数字が指すもの
使われたツール ARTEX(中国で開発されたAI自律型侵入テストツール) 攻撃元インフラで確認
標的の企業 日本企業約20社(うち9社は同業種のサイト) 最初に分析した攻撃元1台の標的
追加で見つかった攻撃インフラ 6台 日本企業を狙うAI攻撃用の機器
漏えいを公表した企業 8社(2026年9〜10月) GMOが確認した標的企業のうち公表済みの数(約20社の内数かは示されていない)
情報の共有先 法執行機関 被害防止のため

表のとおり、数字はどれも「GMOが観測できた範囲」のものです。次の節で、標的と被害を分けて読みます。

標的は約20社、うち9社は同じ業種のサイト

最初に分析した攻撃元1台は、日本企業約20社を標的にしており、そのうち9社は同じ業種のサイトでした。

国と業種を絞って狙っていたことが分かります。

GMOは、作戦(キャンペーン)ごとに攻撃用の機器を分け、国と業種で標的を絞り込んでいたとみています。観測できた範囲では、標的はほぼ日本だけでした。

(編集部分析)日本語の壁は、これまで外国の攻撃者から日本企業を守る役目を一部果たしてきました。AIがその障壁を下げた可能性があり、言葉による「見えない防壁」に頼れない時代に入ったと考えるべきです。

見つかった攻撃インフラ6台と狙われた業種

追加で見つかった6台は、ギフトや金融、ECなど、それぞれ別の業種を主な標的にしていました。

ギフト、小売り流通、教育、保険・金融、EC、物流、メディアなど幅広い業種です。

攻撃インフラ 主な標的の業種
1台目 デジタルギフト・小売流通
2台目 教育・ギフト・印刷
3台目 ポイントギフト・マーケティング
4台目 保険・金融
5台目 EC・メディア・物流
6台目 EC

ポイントやギフト、ECのように、会員の個人情報や換金しやすい価値を抱える業種が並んでいます。GMOは個別の企業名を公表していません。

「標的約20社」と「漏えい公表8社」は別の数字

約20社は分析した攻撃元1台の標的の数、8社はGMOが確認した標的企業のうち漏えいを公表した数です。

20社すべてが被害を受けたという意味ではなく、8社が約20社に含まれるとも示されていません。

報道の見出しでは「約20社」と「8社」が並ぶため、20社が被害に遭ったように読めてしまいます。GMOのブログが示しているのは、同社が標的と確認した日本企業のうち、2026年9〜10月に情報漏えいを公表している企業が8社あるという事実です。8社が最初の攻撃元1台の約20社に含まれるかどうかは書かれていません。GMOはこれについて「同一の攻撃グループによる犯行で複数の被害が発生していることを示している」と指摘しています(産経新聞の引用による)。

8社がどの企業なのかは公表されていないため、9〜10月に漏えいを公表した個別の企業と結びつけることもできません。

9月以降に公表された主な漏えいは、当サイトでも個別に整理しています。

これらの企業がARTEXの標的だったかどうかは、現時点で公表されていません。

韓国の銀行攻撃でもARTEXが使われていた

韓国の金融機関への9月下旬からの攻撃にARTEXが使われたと、CrowdStrikeが報告しています。

GMOは、同じ手口が日本にも向いたとみています。

BleepingComputerによると、被害は新韓銀行、KB国民銀行、ハナ銀行などに及び、顧客の個人情報やカード情報が漏れ、一部ではシステムが止まりました。韓国政府は緊急会議を開いています。CrowdStrikeは攻撃者を中国語を使う金銭目的の人物と中程度の確度で見ていますが、身元は確定していません。

GMOのブログは、韓国の攻撃でARTEXが使われたとの報道を挙げたうえで、「同じ手口で日本の企業も攻撃してきていることが推察される」と説明しています。日本と韓国以外にも広がっているかは調査中で、続報を出すとしています。

木原官房長官と古川デジタル相は何と述べたか

木原官房長官は20日、外国主体の関与も含めあらゆる可能性を考慮し、攻撃元を解明すると述べました。

ABEMA TIMESによると、木原氏は民間企業の分析結果について問われ、政府として詳しい分析を進めていると説明しました。日本経済新聞も「外国主体の可能性含め解明」と報じています。同じ20日、古川俊治デジタル相は閣議後の会見で「政府として被害企業などに聞き取りをし、AIの悪用の有無などを分析している」と述べました(共同通信)。

政府の動きはこの2週間で一気に進みました。流れを時系列で並べます。

不正アクセス多発とARTEX確認までの流れ(2026年)

9月下旬:韓国の金融機関への攻撃が始まる(後にARTEXの使用をCrowdStrikeが報告)
9〜10月:国内で企業の情報漏えい公表が相次ぐ
10月8日:政府が関係省庁会議。流出事案の情報を国家サイバー統括室に集約
10月15日:GMOがログから「AIの使用はほぼ間違いない」と見立て
10月19日:GMOが攻撃元インフラでARTEXを確認と公表
10月20日:木原官房長官・古川デジタル相が会見で言及

政府が「AIの悪用」を前提にした対策を課題に挙げたのは10月8日の会議の時点で、今回の民間調査はその懸念に具体的な名前を与えた形です。

10月8日の関係省庁会議で決まったこと

10月8日の会議では、流出事案の情報を内閣官房の国家サイバー統括室に集め、政府一丸で対策を進める方針が共有されました。

電波新聞によると、会議には内閣官房、警察庁、経済産業省、金融庁などの幹部が出席し、事業者への対策強化の働きかけや、AIの悪用を前提にした対策が課題に挙げられました。古川氏は「大変危急の状況だ。政府一丸となって対策を進める必要がある」と述べています。

「中国製AI」が意味すること・まだ分からないこと

確かなのは、攻撃に使われた道具が中国で開発されたものだという点までです。攻撃した人物や組織、中国政府の関与は特定されていません。

ARTEXはオープンソースで公開されていたため、国籍を問わず誰でも入手できる状態でした。韓国の事例でも、CrowdStrikeは攻撃者を個人とみており、国家の関与を示す公式情報は日韓どちらの政府からも出ていません。政府も、攻撃主体については解明に努めるとしている段階です。

(編集部分析)「中国製」という言葉だけで中国国民や中国企業一般を責めるのは筋違いであり、本サイトはそうした読み方を取りません。中国共産党と中国の人々は区別して考えるべきです。一方で、中国で生まれた攻撃能力の高いツールが、ほぼ日本だけを狙う形で使われていたという事実は重く、「誰が得をするのか」を問わずに済ませてよい話でもありません。解明の結果をどこまで国民に示すかは、政府の姿勢が問われる点です。

中国に関係する組織が日本のインフラを探っていた例は、ほかにも報じられています。

関連記事:中国の永信至誠(ITG)が日本の空港を偵察していた件

経済安全保障から見たARTEX問題の論点

攻撃の道具が国境を越えて誰でも手に入る今、守る側の体制を国内にどう持つかが問われています。

GMOの観測では、ギフト、金融、物流といった生活に近い業種が並んで狙われていました。漏えいした情報の種類によっては、詐欺や不正利用につながるおそれがあります。被害は企業の問題にとどまらず、利用者一人ひとりの財産に及びます。

(編集部分析)経済安全保障の観点では、二つの課題が浮かびます。一つは、攻撃を見つけ、元をたどる力を国内に持てているかという点です。今回、ARTEXの存在を突き止めたのは国内の民間企業でしたが、韓国の事例の解析は米国企業が担いました。重要な情報の分析を海外に頼る構図が続けば、判断の主導権も海外に移りかねません。国内の調査力と人材を育てる手当ては、防衛費と同じく国を守る投資として評価されるべきです。

(編集部分析)もう一つは、攻撃を受けてから集めるだけでなく、攻撃の元を把握し、止める仕組みです。日本では2025年に能動的サイバー防御を進める法律が成立しましたが、AIが攻撃の速度を一段上げた今、運用の速さが追いつくかが課題として残ります。主権国家として自国のネット空間を自ら守る体制を、今回の事案をきっかけに点検すべきだと考えます。

企業と利用者がいま確かめておくこと

企業はパッチと版の管理を急ぎ、利用者はパスワードの使い回しをやめるのが、いま最も効く対策です。

AIの攻撃は、弱いところを機械的に突いてきます。

企業側:GMOが挙げた3つの備え

GMOの3つの備えは、CVEだけに頼らない、WAFを理由にパッチを遅らせない、版を社内で把握する、です。

いずれも10月15日に公開された記事で挙げられたものです。

同記事によると、攻撃者は数百のIPアドレスを入れ替えてWAF(ウェブアプリの防御装置)の遮断基準をすり抜けていました。また、脆弱性情報(CVE)に載っていない古い版にも同じ穴が残っている「シャドー脆弱性」が狙われたとしています。AIによる自動化で、深刻度の点数(CVSS)で優先順位を付けるやり方が通じにくくなっているとの指摘です。

利用者側:通知を確かめ、パスワードを変える

利用者は、使っているサービスから漏えいの通知が来ていないかを確かめ、同じパスワードを使い回しているなら今すぐ変えることが先決です。

漏れたIDとパスワードは、別のサービスへの不正ログインに使われます。ポイントやギフト、ECのアカウントは換金されやすいため、二段階認証が使えるなら設定しておきましょう。企業を名乗る「パスワード再設定」のメールやSMSは、リンクを開かず公式アプリや公式サイトから確かめるのが安全です。

最後に、検索されることの多い疑問をまとめます。

ARTEXのよくある質問

ARTEXの読み方、標的企業名が今後分かるか、漏えいの通知が届いたときの確認順の3点に答えます。

Q. ARTEXの読み方は?

A. 産経新聞は「アルテックス」、共同通信の配信は「アーテックス」と表記しており、報道で読み方が分かれています。英字のARTEXで検索すると関連情報が見つかります。

Q. 標的になった企業の名前は今後公表されますか?

A. 公表されるかは決まっていません。GMOは情報を法執行機関に共有しており、日本と韓国以外への広がりも含めて続報を出すとしています。企業名は、被害を受けた各社が自ら出す「お知らせ」で明らかになるのが通例です。

Q. 漏えいの通知が届いたら、何から確認すればよいですか?

A. まず、その通知が本物かを公式サイトの「お知らせ」で確かめます。次に漏れた項目(メール、住所、カード番号など)を確認し、パスワードが含まれていれば同じものを使う他のサービスも変更、カード番号ならカード会社に連絡して利用明細を見直します。

続報が出たら、この記事を更新してお伝えします。根拠にした資料は次のとおりです。

参考情報

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