【10/21】アルバニアのデモ激化|ラマ首相が辞任拒否した理由と発端

【10/21】アルバニアのデモ激化|ラマ首相が辞任拒否した理由と発端

アルバニアの首都ティラナで、エディ・ラマ首相の退陣を求める反政府デモが10月13日から続いています。デモ隊は首相府や省庁、銀行に投石や放火をし、警察は催涙ガスや放水、ゴム弾で応じました。ラマ首相は辞任を拒否しています。この記事では、デモがいまどうなっているのか、なぜ起きたのか、首相が辞めない理由とEU加盟への影響を、AP通信・Al Jazeera・France24などの報道をもとに整理します。

この記事でわかること

  • いまの状況:10月13日に始まったデモは19日で7日目。13〜17日の5日間で逮捕167人、負傷した警官132人と警察が発表
  • デモの発端:5月末からの、クシュナー氏の投資会社が関わる南部沿岸のリゾート計画への抗議。10月は学費・就職・汚職への学生の怒りに広がった
  • 首相が辞めない理由:「去年あったのは選挙で、革命ではない」。2027年末のEU加盟交渉の終結を優先すると主張
目次

アルバニアのデモは今どうなっている?

首都ティラナのデモは10月13日に始まって19日で7日目を迎え、高校生や大学生が加わって暴力が激しくなっています。

AP通信によると、19日もデモ隊が警察に石を投げ、警察は催涙ガスで群衆を散らしました。デモ隊は政府庁舎を襲って火を放ち、ゴミ箱で道路をふさいでいます。時事通信も20日、デモが激しくなる中でラマ首相が辞任を拒んでいると伝えました。抗議は首都だけでなく、エルバサンやシュコドラの大学にも広がったと現地メディアが報じています(Al Jazeera 10月15日)。

首相府・省庁・銀行が標的になった

デモ隊は首相府に投石し、法務省・教育省・財務省の建物に押し入ったり火を放ったりしました。

France24によると、14日までに法務省はフロアの一部が燃え、教育省には発炎筒が投げ込まれて黒煙が上がりました。財務省では窓とドアが壊され、一部の人が一時建物に入っています。銀行の支店や商店のガラスも割られました。17日には教育省の中庭に燃えるスーツケースが投げ込まれ、AFPは「国を出ていくつもりはない」という意思を示したものだと伝えています(Al Jazeera 10月17日)。

逮捕167人・負傷した警官132人(5日間)

国家警察長官は17日、13日からの5日間の逮捕者が167人、負傷した警官が132人にのぼると明らかにしました。

警察は17日、デモが始まってから初めてゴム弾を「限定的に」使いました。同じ日に手当てを受けたのはデモ参加者9人と警官4人でした。行き過ぎた対応の疑いで警官7人が停職になっています(Al Jazeera 10月17日)。日ごとの数字は媒体によって分け方が違うため、表では出どころを並べます。

日付(現地) 起きたこと 報道
10月13日(火) 首都で学生らのデモが始まる。16人逮捕・警官6人負傷 France24
10月14日(水) 省庁に放火。35人拘束・警官14人負傷。地方の大学にも広がる France24・Al Jazeera
10月17日(土) 5日連続。警察が初めてゴム弾。5日間で逮捕167人・警官132人負傷 Al Jazeera
10月18日(日) 与党・社会党本部の窓が割られ、内務省の入り口に放火 中央日報
10月19日(月) 7日目。投石と催涙ガスで衝突、政府庁舎に放火 AP通信

表のとおり、デモは毎日続き、狙われる建物も首相府から省庁、党本部へと広がっています。

なぜデモが起きた?発端は南部沿岸のリゾート計画

5月末に始まったリゾート計画への抗議に、10月は学費・就職・汚職への学生の不満が重なりました。

リゾート計画は、トランプ米大統領の娘婿クシュナー氏の投資会社が関わる、南部沿岸の高級リゾートの開発です。

計画の舞台は、無人のサザン島と、ヴョサ・ナルタ保護景観地区に近いズベルネツの沿岸です。フラミンゴの集まる湿地があり、抗議の運動は「フラミンゴ」の名で呼ばれています。AFPによると開発の規模は推定14億ユーロ(約2600億円)です。6月2日には数千人規模の抗議があり、ラマ首相は代表20人ほどを選んで話し合おうと呼びかけました。一方で、有刺鉄線で囲まれた土地がクシュナー氏に関連する企業に買収されたかどうかは確認できていないとも伝えています(AFPBB News)。テレビ朝日(ANN)も19日、アルバニアのデモの背景に「トランプ一族の計画」があると伝えています。

10月は学費・就職・汚職への学生の怒りに広がった

10月の波を動かしているのは、学費の高さ、卒業後の仕事のなさ、政権の汚職疑惑への学生の不満です。

Al Jazeeraによると、学生は約3か月、平和的に抗議を続けてきました。参加した学生は「私たちの権利、未来、そしてより良い国」を求めていると話しています。リゾート反対の運動も、あとから首相の辞任を要求に加えました(Al Jazeera 10月17日)。ラマ政権は汚職を否定しています。

ここまでの流れを図にまとめます。

5月末〜夏
南部沿岸のリゾート計画に反対する抗議(フラミンゴ運動)
夏〜秋
学費・就職・汚職への学生の平和的な抗議が約3か月
10月13日〜
首相の退陣要求デモ。高校生も加わり省庁への放火へ
10月17日〜
ゴム弾の使用。逮捕167人。首相は辞任拒否

環境の問題として始まった抗議が、若者の暮らしと政権への不信に重なって大きくなった、というのが今回の流れです。

(編集部分析)この件で注目したいのは、外国の資本が関わる保護地区周辺の沿岸開発の計画が、住民の怒りの入り口になったことです。土地の取得は報道で確定していませんが、開発による雇用や観光収入という説明の一方で、守られてきた土地の使い道を誰が決め、誰が得をするのかは住民に見えにくくなります。外国資本が関わる国土の開発を、国民の目の届く手続きでどう審査するかは、日本でも水源地や離島の土地取得で問われている課題と重なると言えます。

ラマ首相はなぜ辞任しないのか

ラマ首相は、2025年5月の選挙で4期目の信任を得たばかりで、政権はデモではなく選挙で替わるべきだと主張しています。

ラマ氏は中道左派の社会党を率い、2013年から首相を務めています。ロイターに対しては「去年あったのは選挙で、革命ではない」と述べました(Al Jazeera 10月15日)。一方で、学生の声に耳を傾け、デモの権利を守るとも約束しています(Al Jazeera 10月17日)。

「外部の手」と野党を名指しで批判

政権側は、暴力の背後に外部の勢力や保守系の野党がいると主張していますが、根拠は示していません。

エルヴィン・デモ内相は、暴力は「外部の者の悪意ある手」によるものだとし、放火する人に「手遅れになる前に引け」と警告しました(France24)。ラマ首相は保守系の野党が暴力をあおっていると非難しています。ただし、外部の勢力が誰なのかは示されていません。

(編集部分析)選挙で勝った政権には任期を全うする正当性があり、放火や略奪で政権を倒すやり方を認めないという首相の筋は通っています。その一方で、「外部の手」という説明を根拠なしに繰り返せば、学費や仕事といった若者の具体的な不満から目をそらしているようにも見えます。暴力を止めることと、不満の中身に答えることは分けて評価する必要があります。

Q. 次のアルバニアの総選挙はいつですか?

A. 前回が2025年5月なので、通常どおりなら2029年です。ラマ首相は、退陣を求めるなら次の選挙で示すべきだという立場です。

首相が辞めないと言い切る背景には、もう一つ、EU加盟の日程があります。

アルバニアのEU加盟への影響は?

アルバニアは2027年末までのEU加盟交渉の終結を目指しており、首相はデモがその目標を脅かすと訴えています。

欧州委員会は、交渉の全分野を2027年末までに閉じるという目標を後押しする工程表を準備していると報じられています(European Western Balkans)。ラマ首相はロイターへの回答で、暴力でEU加盟の目標を狂わせないと述べました(France24)。

一方でEUは、ティラナのデモの「暴力的な激化」に懸念を示し、警察の行き過ぎた力の行使の疑いを速やかに調べるよう求めています(France24)。デモ隊の暴力と警察の対応の両方が、加盟審査で見られる法の支配の評価にかかわります。

イタリアの移民収容施設とEUとの関係

アルバニアには、イタリアが不法移民を収容する施設があり、EU加盟を目指す国としてイタリアに協力しています。

読売新聞によると、北部の集落ジャデルの施設は2024年10月に運用が始まり、難民申請を却下された人や不法滞在者を収容しています。EU非加盟国に移民を送る仕組みはEUで初めてで、記事は加盟を目指すアルバニアには「恩を売る狙い」があると伝えています(読売新聞オンライン)。

(編集部分析)加盟を急ぐ小国が、大国の移民問題の受け皿を引き受け、その一方で自国の若者は仕事を求めて国を出ようとしている、という構図が見えます。他国の都合を優先して自国民の暮らしが後回しになっていないかという問いは、今回のデモの根にある不満とつながっていると評価できます。

フランス・イタリアなど欧州各地のデモとの関係

同じ時期に欧州各地でデモが起きていますが、アルバニアのデモとの直接の連携や共通の主催組織は確認されていません。

日本の報道では、フランスやイタリア、ベルギーの暴動と並べて伝えられています。

中央日報によると、イタリアのミラノでは17〜18日に略奪や火炎瓶の投てきがあり、メローニ首相が軍の兵士500人の派遣を決めました。ベルギーでも教育予算の削減に反対するデモで車が燃やされています。フランスの夜間外出禁止令については「フランス夜間外出禁止令|パリ・リールの区域と時間、暴動の原因」で詳しく整理しました。

各国の発端は同じではありません。アルバニアは開発計画と学生の不満、フランスは学習環境と生活費、ベルギーは教育予算というように、それぞれの国の事情が入り口になっています。(編集部分析)各国の事情は異なるものの、若者の暮らしと将来への不満という共通点が見られます。

日本人がアルバニアへ行くときの注意

首都ティラナ中心部の首相府や省庁の周辺ではデモと衝突が続いており、近づかないことが大切です。

催涙ガスやゴム弾が使われた場所は、首相府・省庁・銀行が集まる中心部です。渡航を予定している人は、出発前に外務省 海外安全ホームページで最新の情報を確かめ、「たびレジ」に登録しておくと、現地の安全情報をメールで受け取れます。

アルバニアのデモの今後の焦点

焦点は、デモが続くか収まるか、警察の対応の調査、そしてEUがどう評価するかの3つです。

  • デモの行方:学生が要求する学費・教育環境の改善に、政権が具体策を出すか
  • 警察の調査:停職になった警官の調べと、EUが求める行き過ぎた力の行使の調査の結果
  • EU加盟交渉:2027年末の交渉終結の目標に、欧州委員会がどんな条件を付けるか

2018年12月の学生デモでは、ラマ首相が閣僚8人を交代させ、大学改革の約束を結んでいます(Al Jazeera 10月15日)。今回も閣僚の交代や学費の見直しといった譲歩が出るかどうかが、収まるかどうかの分かれ目になりそうです。

アルバニアのデモのよくある質問

Q. アルバニアはどこにある国ですか?

A. バルカン半島の南西部、アドリア海をはさんでイタリアの向かいにある国です。首都はティラナで、EU加盟の候補国です。

Q. クシュナー氏の企業は土地を取得したのですか?

A. 確定していません。AFPは6月、有刺鉄線で囲まれた土地が関連企業に買収されたかは確認できていないとし、土地取得の資金について汚職・組織犯罪対策特別検察庁が捜査を始めたと伝えています。

Q. デモで死者は出ていますか?

A. 10月21日朝までに確認できた報道では、死者は伝えられていません。負傷者は警官だけで13〜17日の5日間に132人と発表されています。

状況は日ごとに変わっています。最新の動きはAP通信やロイターなどの続報で、EU加盟への影響は欧州委員会の発表で確かめてください。渡航を控えている人は外務省の海外安全ホームページを先に見ておくと安心です。新しい動きがあればこの記事にも書き足します。

参考情報

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