【10/24】AI事故画像で保険金不正が増加|損保の検知策と正直な人への影響
生成AIで車の写真を加工し、起きていない事故を装って保険金をだまし取る不正請求が増えていると、共同通信が2026年10月24日に報じました。実際の事故の傷を大きく見せる、修理見積書や領収書を偽造する、火災保険で家具や家電が壊れたように見せる、といった手口もあるとされています。損害保険各社は偽造画像を見分けるシステムの導入や専門部署の設置で対策を急いでいます。この記事では、報じられた手口、なぜ人の目では見抜きにくいのか、三井住友海上・あいおいニッセイ同和損保などが始めた検知の仕組み、そして正直に保険金を請求する人の手続きが変わるのかを、各社の発表と報道をもとに整理します。
この記事でわかること
- 何が増えているか:生成AIで車の写真や見積書・領収書を偽造し、事故や損害を装う保険金の不正請求です。共同通信の記事に件数の数字は出ていません。
- 損保の対策:三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保は2026年8月から、AIで作った・加工した疑いのある画像を検知する機能を保険金の支払い業務に入れています。国内の保険会社では初めてとしています。
- 正直な人への影響:両社は「お客さまの請求手続きは変わらず、新たな負担もない」と説明しています。支払うかどうかの最終判断は、これまでどおり担当者がします。
AI事故画像の保険金不正とは|10月24日に何が報じられたか
生成AIで写真や書類を偽造し、事故や損害を装って保険金を請求する不正が増えていると、共同通信が報じました。
記事は2026年10月24日に共同通信が配信し、東京新聞や東奥日報、デイリースポーツなどが掲載しました(東京新聞「AI悪用の保険金不正増加 車写真加工で事故偽装」)。損害保険では、事故の状況を写した写真や修理の見積書などを画像データで保険会社に出すのが一般的で、その画像そのものが偽造されているというのが今回の要点です。記事には、AIで車に傷が付いたように加工した写真の例(三井住友海上の提供)が添えられています。
なお、記事は「増えている」と伝えていますが、何件から何件に増えたのかという数字は示していません。この記事でも件数は書かず、報道と各社の発表で確かめられる範囲に絞ります。
報じられた4つの手口
手口は、事故そのものの捏造、被害の水増し、書類の偽造、火災保険での故障の偽装の4つに分けられます。
共同通信の記事に出てくる手口を、保険の種類と偽造されるものごとに表にまとめました。
| 手口 | 主な保険 | 偽造・加工されるもの |
|---|---|---|
| 起きていない事故を装う | 自動車保険 | 傷やへこみを加えた車の写真 |
| 実際の事故の被害を大きく見せる | 自動車保険 | 損傷を広げた写真 |
| 書類で金額を水増しする | 自動車保険など | 修理見積書・領収書 |
| 家財が壊れたように見せる | 火災保険 | 故障したように見せた家具・家電の写真 |
どの手口も、保険会社が「画像で受け取った資料をもとに損害を確かめる」流れを逆手に取っている点で共通しています。
AIの偽造画像はなぜ見抜けないのか|目視の限界
生成AIなら本物と区別しにくい画像を簡単に作れるため、査定担当者が目で見て真偽を判断するのは難しくなっています。
共同通信の記事も、AIを使えば高い精度の偽造が簡単にでき、目視で見分けるのは難しいと伝えています。三井住友海上などは8月の発表で、画像生成AIが急速に広まり「実物か否かの見極めが難しい偽画像を容易に作成できる環境が広がっています」と説明しました。
Webで写真を出す手続きが広がったことも背景
写真や書類をWebで提出する機会が増えたことで、加工した画像がそのまま届きやすくなっています。
三井住友海上などは同じ発表で、デジタル化によって損害を証明する資料をWeb上で受け取る機会が増える中、生成AI以外にも、画像を書き換えたり別の画像を使い回したりする手口への備えが重要になっていると述べています(三井住友海上・あいおいニッセイ同和損保・テックユニオン「生成AI画像による保険金不正請求への対策を強化」2026年8月3日)。スマートフォンで撮ってすぐ送れる便利さが、偽造画像の通り道にもなっているということです。
(編集部分析)生成AIで画像の加工が手軽になったことで、不正に手を出すときの手間が下がるおそれがあります。ただし、それで不正の件数がどれだけ増えたかを示す数字は公表されていません。共同通信の記事が、AIはサイバー攻撃にも使われ、業種を問わず企業が対応に追われていると伝えているのも、同じ構図です。技術の進歩が速く、対策を続ける企業の負担が増えることへの懸念も出ていると記事は伝えています。
海外では「人の目の正答率は約50%」との指摘
米コンサル会社ミリマンは、自動車保険の請求に使われるAI加工画像を人が見分ける精度は約50%だとしています。
ミリマンは2025年12月のレポートで、世界の自動車保険会社が、起きていない事故の写真や警察の事故報告書をAIで作る手口にさらされていると指摘しました。熟練した専門家でも見分けるのは難しく、画像の付随情報(撮影日時や機種などのメタデータ)を調べる方法も簡単にすり抜けられるとしています(Milliman「Accidents that never happened」)。日本で報じられた手口は、海外で先に問題になっていたものと同じ形だといえます。
損保各社のAI画像検知策|三井住友海上・あいおいニッセイ同和は8月から
三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保は2026年8月から、AIで作った疑いのある画像を検知する機能を使っています。
2社と画像解析のテックユニオンが共同で開発し、国内の保険会社が保険金の支払い業務でこの種の機能を入れるのは初めてだとしています(2社の調べ)。共同通信の記事によれば、ほかの損保各社も偽造画像を見分けるシステムの導入を進め、不正請求に対応する専門部署を設ける動きもあります。
何を調べるのか:写真・見積書・領収書の「電子的な特徴」
調べる対象は損害状況の写真、修理見積書、領収書などの画像で、画像に含まれる電子的な特徴と付随情報を複数の技術で分析します。
分析では、生成AIで作られたり加工されたりした可能性に加え、画像が書き換えられたり、別の請求の画像が使い回されたりしている疑いも拾うとしています。関連する技術は3社で特許を出願中です。発表は、この機能を「生成AI画像の不正利用対策における第一段階」と位置づけ、検知の技術を今後も広げるとしています。
生命保険でも:メディケア生命が診断書の痕跡検出を実証
メディケア生命はFinatextと組み、診断書や領収書の画像からAIの痕跡を探す実証実験を2026年10月に始めました。
対象は診断書、領収書、診療明細書などの請求書類の画像で、加工や改ざんの可能性を判定します。AIが不正だと決めるのではなく、担当者が確かめるべき案件を絞り込んで確認の負担を減らすのが狙いで、分析方法の詳しい中身は悪用を防ぐため公表していません(IT Leaders(メディケア生命とFinatextの実証実験の記事))。
ここまでの動きを時系列で並べると、次のようになります。
業界団体の問題提起から各社の導入までが数か月のうちに進んでおり、対策が手口の広がりを追いかけている状況です。
損保協会の立場:AIで検知する仕組みを業界で検討
日本損害保険協会の石川耕治会長は、AIで作った写真をAIで検知する仕組みを業界として検討したいと述べたと報じられています。
学研キッズネットが2026年7月1日に掲載した記事(朝日新聞のインタビューの要約)によると、協会は、AIで作った車の事故や壊れた家の写真が保険会社に出されたことはあるものの、今のところ保険金の支払いは防げているとしています。検知の方法はまだ研究段階で、始める時期は決まっていないとも伝えられています(学研キッズネット「日本損害保険協会は、AIの画像偽造に『AIで検知の仕組み』を検討します」)。協会としての公式な会見要旨はこの記事では確かめられていないため、ここでは報道の内容として紹介します。
正直に保険金を請求する人への影響|手続きは変わるのか
三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保は、検知機能を入れても契約者の請求手続きは変わらず、新たな負担もないと説明しています。
検知の結果は、損害サポート部門が支払いを判断するときの参考情報として使い、支払うかどうかの最終判断はこれまでどおり担当者がするとしています。メディケア生命の実証実験も、AIが白黒をつけるのではなく、確かめるべき案件を絞り込む使い方です。
(編集部分析)不正請求への支払いは、保険会社の支払い全体を押し上げる一因になり得ます。自動検知が広がれば、まじめな契約者が不正の分まで負担する構図を抑える方向に働くと考えられますが、保険料が維持・低下するかどうかは確認できていません。一方で、検知が「疑い」を示した案件では確認に時間がかかる場面も考えられ、その運用を各社がどこまで丁寧に説明するかは今後の課題です。
契約者の側でできることは多くありません。ただ、保険会社が画像を細かく調べるようになった以上、撮ったままの写真やもらったままの書類の原本を手元に残しておけば、問い合わせを受けたときに説明しやすくなります(編集部分析)。後の章で、写真の残し方を具体的にまとめます。
この点で多いと思われる疑問に先に答えておきます。
Q. スマホで明るさを直しただけの写真でも、不正を疑われますか?
A. 三井住友海上などは、検知の結果は参考情報で、最終判断は担当者がするとしています。補正した写真の扱いは会社ごとに違うので、元データを残したうえで、出し方を契約先に確かめてください。
次は、不正請求に巻き込まれる入口として注意が呼びかけられているSNSの勧誘を見ます。
SNSの「割のいい話」に注意|保険金詐欺に巻き込まれる入口
損保協会は、SNSのやりとりをきっかけに保険金詐欺へ誘い込む行為があるとして、若い世代への注意喚起を強めています。
協会が2026年8月7日に発表した「SNSを通じた保険金不正請求に関する意識調査」(全国の16〜69歳・7,009人、調査は3月13〜14日)では、SNSで保険金詐欺に誘う行為を知っている人は全体の5割以下で、その大半は「なんとなく聞いたことがある」程度にとどまりました(BCN+R(損保協会の意識調査の記事))。協会は啓発ポスターやウェブサイトでの発信に加え、若年層向けのデジタル広告を出すとしています。
不正請求に関する情報は、協会の「保険金不正請求ホットライン」が受け付けています(保険金不正請求ホットライン)。
加工した写真で保険金を請求するとどうなるか|詐欺罪と契約解除
偽造した写真や書類で保険金をだまし取ろうとすれば、詐欺罪や詐欺未遂罪に問われる可能性があり、法定刑は10年以下の拘禁刑です。
詐欺罪は刑法246条、その未遂を罰する規定は刑法250条に定められています(e-Gov法令検索「刑法」)。罪が成立するかは、だますつもりがあったかなどの要件を満たすかで決まりますが、保険金を受け取る前の段階でも未遂が問題になり得ます。「加工アプリで少し傷を足しただけ」「見積額を少し上乗せしただけ」でも、保険会社をだまして保険金を得ようとすればこの枠に入ります。
保険契約の面でも、保険法30条は、被保険者が保険金の請求について詐欺を行い、または行おうとしたときなどを、保険会社が損害保険契約を解除できる理由(重大事由)として定めています(e-Gov法令検索「保険法」)。(編集部分析)AIで手軽に作れることと、作ったものを使って請求することの重さはまったく別で、「バレにくいから大丈夫」と考えるのは筋違いです。各社が検知を強めている今は、なおさら割に合わない行為だといえます。
事故や被害の写真を正しく残すには|正直な請求で困らないために
加工や補正をしていない元の写真を、いくつかの角度から撮って手元に残しておくことが基本です。
検知の仕組みは画像の電子的な特徴や付随情報を見ると発表されています。フィルターや切り抜きの扱いは会社ごとに違う可能性があるため、元データを残しておけば、問い合わせを受けたときに出し直せます(編集部分析)。具体的には次の点を意識しておくと安心です。
- 損傷の部分だけでなく、車全体やナンバー、周りの状況がわかる引きの写真も撮る
- スマホの写真は、編集アプリで明るさや色を変える前の元データを残しておく
- 修理見積書や領収書は、紙の原本を保管し、写真は全体が写るように撮る
- 事故の日時や場所、相手方の情報はその場でメモしておく
どのように出せばよいかは保険会社ごとに案内があるので、迷ったら契約している保険会社や代理店に聞くのが確実です。
AIを使った保険金不正のよくある質問
AIの検知で疑われたときの扱いや、支払いに納得できないときの相談先など、本文で触れていない疑問に答えます。
Q. AIの検知で「疑いあり」と出たら、保険金は支払われないのですか?
A. 検知だけで支払わないと決まるわけではありません。三井住友海上などは、検知結果は参考情報で、支払うかどうかの最終判断は担当者がするとしています。
Q. 保険金の支払いや審査に納得できないときは、どこに相談できますか?
A. まず契約している保険会社の相談窓口に申し出ます。それでも解決しないときは、日本損害保険協会の「そんぽADRセンター」に相談できます。
Q. 損保協会の「今のところ支払いは防げている」は、今も同じですか?
A. その説明は2026年6〜7月時点の報道によるものです。10月時点で業界全体の支払いの実績は公表されておらず、現在も同じかは確認できません。
まとめると、保険金を請求する人は撮ったままの写真と書類の原本を残し、扱いに迷ったら契約先に確かめてください。不正請求の勧誘や情報を見聞きした人は、損保協会の「保険金不正請求ホットライン」(Webは24時間受付)に知らせることができます。AIの偽造と検知はいたちごっこが続くとみられ、各社の新しい対策が発表されれば続報で取り上げます。
参考情報
この記事は、次の報道・発表資料・法令をもとに書いています。
- 東京新聞(共同通信配信)「AI悪用の保険金不正増加 車写真加工で事故偽装」2026年10月24日
- 三井住友海上・あいおいニッセイ同和損保・テックユニオン「生成AI画像による保険金不正請求への対策を強化」2026年8月3日
- IT Leaders(メディケア生命とFinatextの実証実験の記事・2026年10月)
- Milliman「Accidents that never happened」2025年12月3日
- 学研キッズネット「日本損害保険協会は、AIの画像偽造に『AIで検知の仕組み』を検討します」2026年7月1日
- BCN+R(損保協会の意識調査の記事・2026年8月17日)
- 日本損害保険協会「保険金不正請求ホットライン」
- e-Gov法令検索「刑法」/「保険法」
