【11/5】日越の新協定とは?逮捕・拘束の情報を本人同意なしで相互通報|9日の首脳会談で確認へ
日本とベトナムの両政府が、自国内で逮捕・拘束した相手国の国民の情報を、互いに通報し合う新しい協定の締結を検討していることが分かりました。時事通信が11月3日に独自に報じたもので、11月9日に予定される高市早苗首相とベトナムのトー・ラム共産党書記長兼国家主席の首脳会談で、締結の方針を確かめる見通しです。
ポイントは、本人の同意がなくても相手国へ通報できる仕組みを想定している点です。この記事では、新協定で何が変わるのか、今のルール(領事関係に関するウィーン条約)との違い、なぜベトナムとの間でこの話が出てきたのか、首脳会談から実現までの日程、人権の論点、そしてネットで見かける「首相の発言」との違いを、11月5日時点の報道と一次資料をもとに整理します。
この記事でわかること
- 新協定の中身:逮捕・拘束した相手国民の情報を、本人の同意がなくても互いに通報できる仕組みを検討しています(時事通信)。
- 今のルールとの違い:ウィーン条約では、領事への通報は本人が求めたときが原則です。新協定はこの「本人の求め」を外す形になります。
- 日程:11月9日の首脳会談で方針を確認する見通しですが、通報の対象などは今後の協議で、実現まで少なくとも2〜3年かかるとみられています。
日越の新協定とは?逮捕・拘束した相手国民の情報を互いに通報
日本とベトナムが、自国で逮捕・拘束した相手国の国民の情報を、相手国の政府へ知らせ合う取り決めです。
時事通信によると、日ベトナム両政府は、この新協定を締結する方向で検討に入りました。複数の日本政府関係者が11月3日に明らかにしたとされています。狙いは犯罪の抑止で、日本国内でベトナム人による犯罪が増えていることが背景にあると報じられています。福島民報など地方紙も、同じ内容の配信記事を11月4日に掲載しました。
協定は「相互」です。日本の警察がベトナム国籍の人を逮捕したときにベトナム側へ知らせるだけでなく、ベトナムの当局が日本人を逮捕・拘束したときも日本側へ知らせることになります。一方的にベトナム人だけを対象にする取り決めではない点は、押さえておく必要があります。
報道の時点で決まっているのは「検討に入った」という段階までです。どのような事件を通報の対象にするのか、何日以内に知らせるのか、どの機関からどの機関へ伝えるのかといった細部は、これから両国で協議するとされています。協定の正式な名前や条文も、まだ公表されていません。
ウィーン条約と何が違う?「本人の同意」が要らなくなる
今のルールでは本人が求めたときに領事へ知らせるのが原則ですが、新協定では同意がなくても通報できる形を想定しています。
外国人の逮捕と本国への連絡は、1963年に結ばれた「領事関係に関するウィーン条約」の第36条で定められています。条文では、外国人が逮捕・拘禁されたとき、本人が要請すれば、当局は遅滞なく本国の領事機関に知らせなければならないとされています。あわせて、当局は本人にこの権利があることを伝える義務を負います。つまり、本国へ知らせるかどうかの最初の判断は、本人に委ねられているのが原則です。
時事通信の記事も、ウィーン条約では出身国に通報する場合、本人の同意を得るのが原則だと説明しています。新協定は、この原則とは別に、2国の間だけで「同意がなくても知らせる」という特別な約束を上乗せする形になります。
違いを表にまとめると、次のようになります。
| 項目 | 今のルール(ウィーン条約第36条) | 検討中の日越新協定(報道) |
|---|---|---|
| 本国への通報のきっかけ | 逮捕された本人が要請したとき | 本人の同意がなくても通報できる仕組みを検討 |
| 対象となる国 | 条約の締約国すべて | 日本とベトナムの2国間だけ |
| 通報の方向 | 受け入れた国から本国の領事機関へ | 日本からベトナムへ、ベトナムから日本への相互 |
| 通報する事件の範囲 | 逮捕・拘禁など自由を奪われたとき全般 | 今後の協議で決める(未定) |
| いつから | すでに発効済み | 実現まで少なくとも2〜3年とみられる |
表のとおり、今回の話は「通報するかどうかの判断を本人から国へ移す」という点が核心です。対象範囲と時期はまだ決まっておらず、報道の段階の情報として受け止める必要があります。
なぜベトナムなのか?来日外国人の検挙で国籍別の最多
警察庁の統計で、来日外国人の検挙人員を国籍別に見るとベトナムが最も多く、日本側が抑止策を求めてきたためです。
警察庁の「令和7年における組織犯罪の情勢」によると、2025年の来日外国人犯罪の総検挙件数は2万5,480件、総検挙人員は1万2,777人で、いずれも3年連続で増えました。総検挙人員を国籍別に見るとベトナムが最も多く、次いで中国、フィリピンの順です。在留資格別では、技能実習が最も多く、次いで短期滞在、留学、定住者の順となっています。
ここでいう「来日外国人」は警察庁の統計上の区分で、日本にいる外国人のうち、永住者や特別永住者、永住者の配偶者など、日本に定着して暮らす人を除いた人たちを指します。技能実習生や留学生、短期滞在の旅行者などが中心です。外国人全体の数字ではない点に注意が必要です。
時事通信は警察庁の数字として、永住者などを除く2025年のベトナム人の検挙件数は前年より約11%多い1万773件で、来日外国人全体の4割を超えたと伝えています。警察庁の概要資料にある総検挙件数2万5,480件に当てはめると、1万773件はおよそ42%にあたり、「4割超」という報道と合います。
| 項目(2025年) | 数字 | 出典 |
|---|---|---|
| 来日外国人犯罪の総検挙件数 | 2万5,480件(3年連続増) | 警察庁 |
| 来日外国人犯罪の総検挙人員 | 1万2,777人(3年連続増) | 警察庁 |
| 検挙人員の国籍別の順位 | 1位ベトナム、2位中国、3位フィリピン | 警察庁 |
| ベトナム人の検挙件数 | 1万773件(前年比約11%増・全体の4割超) | 時事通信(警察庁の数字として) |
なお、検挙件数は「警察が解決した事件の数」で、1人が複数の事件で検挙されると件数は重なって数えられます。また、日本に住んで働き学ぶベトナム人の多くは、こうした事件とは関係がありません。数字は国籍で人をひとくくりにする材料ではなく、制度の穴がどこにあるかを見る材料として読む必要があります。
警察庁の資料は、関東地方などのドラッグストアで化粧品などを盗んだベトナム人の男女6人(留学、特定技能、技能実習の在留資格)を検挙した事例も紹介しています。ベトナムにいる指示役の指示で、実行役や海外への運び役などを分担していたとされます。指示役が国外にいる事件では、日本の捜査だけでは全体にたどり着きにくいという課題が見えます。
(編集部分析)在留資格別で技能実習が最多という数字は、制度そのものの運用を問い直す材料でもある。人手不足の穴埋めとして受け入れを広げてきたのは誰の利益だったのか、監理団体や受け入れ企業の管理は十分だったのかを、国籍の問題にすり替えずに検証する必要がある。通報協定は抑止の一手にはなっても、受け入れの規模と条件を日本が自ら制御するという本筋の議論を代わりに済ませてくれるものではない。
「公安の力が強い」とはどういうこと?日本側が期待する抑止効果
本国の当局に速やかに情報が伝わること自体が、日本で罪を犯すことへのためらいにつながる、というのが日本側の見立てです。
時事通信によると、日本政府関係者は「ベトナムは公安の力が強く、速やかに知らせることは大きな抑止力になる」と話しています。ベトナムでは警察にあたる組織を「公安」と呼び、公安省が治安や出入国の管理を広く担っています。日本で逮捕された事実が本人の意思と関係なく本国の当局に伝わることへの警戒が、犯罪をためらわせる方向に働く、というのが日本政府関係者の期待です。
もう一つの効果として考えられるのが、国境をまたぐ捜査の連携です。前の章で見たように、指示役がベトナムにいる窃盗グループの事件も起きています。逮捕の情報が速やかに共有されれば、本国側での捜査や身元の確認がしやすくなると期待されます。ただし、報道は通報の協定であって、捜査共助や身柄の引き渡しの取り決めとは別のものです。協定の中身がどこまで踏み込むかは、今後の協議次第です。
(編集部分析)日本の治安を守るために相手国の行政の力を借りるという発想は現実的だ。来日外国人の犯罪は、日本の警察と司法の負担として最終的に国民の税金で賄われている。送り出し国にも責任の一端を担ってもらう仕組みは、国民の利益にかなう方向と評価できる。一方で、効果を口にするなら、協定の発効後に検挙の数字がどう動いたかを検証できる形で示すことが政府には求められる。
11月9日の首脳会談で何が決まる?実現までは少なくとも2〜3年
9日の会談では締結の「方針」を確かめる見通しで、協定そのものの署名ではありません。
時事通信によると、高市首相とトー・ラム書記長兼国家主席は5月の会談で、領事分野の協力を強めることで一致していました。今回の首脳会談では、その流れを受けて、新協定の締結方針を確認する見通しです。そのうえで、どのような事案を通報対象にするかなどの詳細を協議しますが、人権にも関わるため、実現までに少なくとも2〜3年かかるとされています。
報道をもとに、これからの流れを図にすると次のようになります。
日越首脳が領事分野の協力強化で一致
新協定の検討を時事通信が報道
首脳会談で締結方針を確認する見通し
通報対象などを協議し、実現へ(見通し)
図の最後の段は点線にしました。実現の時期はあくまで報道に出た見通しで、協議の中身によって前後する可能性があります。会談の結果は、外務省や首相官邸の発表で確認できます。
本人の同意なしの通報に人権の問題はない?論点の整理
政府関係者自身が「人権にも関わる」としており、通報の範囲と使われ方をどう縛るかが協議の焦点になります。
ウィーン条約が本人の要請を原則にしているのには理由があります。逮捕された人の中には、本国の政府に知られたくない事情を抱える人もいるからです。たとえば、本国で政治的な理由から追われている人や、難民として保護を求めている人の場合、本国への通報そのものが本人に不利益をもたらすおそれがあります。
このため協議では、通報の対象をどの罪種に絞るか、難民認定の申請者などを外す例外を設けるか、知らせる情報の中身(氏名、容疑、拘束場所など)をどこまでにするか、といった点が論点になるとみられます。日本からベトナムへの通報だけでなく、ベトナムで拘束された日本人の情報が日本へ届くという面もあり、在留邦人の保護にとっても意味を持ちます。
ベトナムで働く日本人や、出張・旅行で訪れる日本人が現地で拘束された場合、本人が領事への連絡を求められない状況に置かれることも考えられます。同意なしでも日本側へ情報が届く仕組みは、そうした場面で日本の大使館や領事館が早く動けることにつながります。協定を「ベトナム人の取り締まり」だけの話として見ると、この面が抜け落ちます。
もう一つの論点は、通報された情報が本国でどう使われるかです。日本で逮捕されたという情報が、本国での処分や監視にまで使われるのかどうかは、報道の時点では分かっていません。協定に情報の使い道を限る条項を入れるかどうかも、協議の焦点になりそうです。
(編集部分析)人権への配慮は必要だが、それを理由に協定そのものを先送りし続けるのは本末転倒だ。犯罪の疑いで逮捕された人の情報を本国と共有することは、国境をまたぐ犯罪に対処するための治安協力の一つの形でもある。難民申請者などの例外をきちんと設けたうえで、日本の治安と国民の安全を優先する設計にすべきだと考える。
「首相が家族に通報すると発言」は本当?ネットの話と報道の違い
11月5日時点で、高市首相がそう発言したという報道は確認できず、新協定の報道にも「家族への通報」や「帰国後の制裁」は出てきません。
この件をめぐっては、YouTubeの短い動画などで「高市首相がベトナム人の犯罪者を本国の公安と家族に通報すると言った」「帰国後も制裁を受ける」といった説明が投稿されています。しかし、時事通信の報道は、日本政府関係者の話として協定の検討を伝えたもので、首相本人の発言ではありません。報道にある通報先は相手国の政府で、家族への連絡や、帰国後に何らかの処分をするといった内容は書かれていません。
報道で確かめられることと、確かめられないことを分けると次のとおりです。
- 報道で確かめられること:両政府が協定を検討していること、同意なしの通報を想定していること、9日の首脳会談で方針を確認する見通しであること、実現まで2〜3年とみられること。
- 報道に無いこと:首相本人の発言であること、家族への通報、帰国後の制裁、すでに協定が決まったという話。
(編集部分析)不法行為への厳しい対応を求める声が強いのは理解できる。だが、話を盛った情報が広がれば、まだ検討段階の協定が「もう決まった」と受け止められ、実際の協議で何を勝ち取るべきかという議論がかえって見えにくくなる。保守の側こそ、一次情報に基づいて政府の交渉を後押しし、検証する姿勢が求められる。
日越の新協定のよくある質問
Q. 新協定はもう結ばれたのですか?
A. 結ばれていません。11月5日時点では、両政府が締結の方向で検討に入った段階です。9日の首脳会談で方針を確認する見通しで、実現まで少なくとも2〜3年かかるとみられています。
Q. ベトナムで日本人が逮捕された場合も対象になりますか?
A. 報道では「相互に通報する」協定とされており、ベトナムで逮捕・拘束された日本人の情報が日本側へ伝わる形になるとみられます。対象の範囲は今後の協議で決まります。
Q. 今は外国人が逮捕されても本国に知らされないのですか?
A. ウィーン条約では、本人が要請すれば当局は遅滞なく本国の領事機関に知らせます。本人が求めなければ、原則として知らせません。新協定はこの点を変えようとするものです。
Q. 本人が通報を断ることはできますか?
A. 報道では「本人の同意がなくても通報できる仕組み」を検討しているとされ、今のウィーン条約の原則より本人の選択の幅は狭まる方向です。ただし、難民申請者などの例外を設けるかを含め、具体的なルールはまだ決まっていません。
今回の協定は、日本の治安を守るための外交の一手で、実現までにはまだ時間がかかります。続報を自分で確かめるときは、次の3点を見ると迷いません。
- 11月9日の会談後:首相官邸と外務省の会談結果の発表で、新協定の締結方針が確認されたかどうかを見る。
- 協議の中身:本人の同意なしの通報がそのまま残るか、通報の対象となる事件と、難民申請者などの例外がどう決まるかを見る。
- 効果:警察庁が毎年公表する「組織犯罪の情勢」で、来日外国人の検挙件数と国籍別の内訳がどう動くかを見る。
