【9/14】安井稔氏が中部電力の新社長に|勝野会長・林社長が浜岡原発の不適切事案で辞任、3・4号機の再稼働申請は取り下げ

中部電力は2026年9月14日、勝野哲(かつの・さとる)会長と林欣吾(はやし・きんご)社長が9月30日付で辞任し、10月1日付で安井稔(やすい・みのる)取締役が社長に就くと発表しました。浜岡原子力発電所の再稼働審査で、想定する地震の揺れ(基準地震動)を不適切な方法で作っていた問題の責任を取る形です。同じ日の臨時取締役会では、浜岡原発3号機・4号機の再稼働に向けた申請を取り下げることも決めました。会長のポストは空席になり、水野明久相談役もあわせて退きます。本記事では、中部電力の公式発表と、同日公表された253ページの調査報告書(開示版)、各社の報道をもとに、何が決まり、何が未確定なのかを整理します。

この記事でわかること

  • 人事の中身:勝野会長・林社長・水野相談役が9月30日付で退任し、10月1日付で安井稔氏が社長に。会長は空席です。
  • 安井稔氏の経歴:1965年生まれの61歳。碧南火力発電所長、シーエナジー社長などを務めた火力・販売畑の出身です。
  • 浜岡原発の申請取り下げ:3・4号機の設置変更許可申請などを取り下げ、準備が整い次第、原子力規制委員会へ手続きします。
  • 調査報告書の指摘:経営陣の直接関与は認めず、経営層の叱責が現場を不適切な行為へ駆り立てる要因になり得たとしました。
目次

中部電力は9月14日に何を発表したのか

会長・社長ら3人の退任と新社長の就任、浜岡原発3・4号機の申請取り下げ、再発防止策の方向性を同時に発表しました。

中部電力は14日、臨時取締役会を開き、9月11日に受け取った調査委員会の調査報告書を踏まえて「経営責任を明確化し、新たな体制により経営改革を進める」と決めました(中部電力の発表)。午後2時からの記者会見には勝野会長と林社長がそろって出席し、林社長は「広く社会の皆さまからの強い不信を招いたことにつきまして、改めて深くおわび申し上げます」と述べています(CBCテレビ、東海テレビ)。

9月14日に中部電力が公表した主な発表
発表 中身
役員人事等 勝野会長・林社長・水野相談役が9月30日付で退任10月1日付で安井稔氏が社長。会長は空席
申請の取り下げ 浜岡原発3・4号機の原子炉設置変更許可申請、4号機の工事計画認可申請と保安規定変更認可申請を取り下げ
調査報告書(開示版) 外部専門家のみの調査委員会がまとめた報告書。PDFで253ページ
再発防止策の方向性 報告書の提言を踏まえ、より具体的な策を今後検討

表の4本は、いずれも中部電力のプレスリリースとして同じ日に出ています。人事と申請取り下げが「報告書を受けた経営判断」、再発防止策が「これから詰める宿題」という位置づけです。

辞任は9月30日付で、10月1日から新体制になる

公式発表では退任が9月30日付、新社長の就任が10月1日付です。報道の「10月1日付で辞任」は新体制の日付を指しています。

時事通信やCBCテレビは「9月30日付(9月末)で辞任」、テレビ朝日系(ANN)や読売新聞は「10月1日付で辞任」と伝えており、表記が割れていました。中部電力の資料「中部電力株式会社の役員人事等について」では、退任役員の欄に「2026年9月30日付」、代表取締役の異動と執行役員の担当変更に「2026年10月1日付」とあります。つまり9月30日で3人が退き、翌日から安井社長の体制に切り替わる、という順番です。

新社長の安井稔氏はどんな人物なのか

1988年に入社し、碧南火力発電所長やガス関連会社の社長を経た61歳です。原子力部門の出身ではありません。

中部電力が公表した略歴によると、安井氏は1965年5月16日生まれ、愛知県出身です。1988年3月に東京大学工学部舶用機械工学科を卒業し、同年4月に中部電力へ入社しました。キャリアの前半は火力発電、後半は販売・グループ経営の分野を歩んでいます。

安井稔氏の主な経歴(中部電力の公表資料より)
時期 役職
1988年4月 中部電力に入社
2016年4月 碧南火力発電所長
2019年4月 販売カンパニー エネルギー事業部長
2020年4月 中部電力ミライズ 取締役 執行役員 事業戦略本部長 兼 ガス事業本部長
2022年2月 シーエナジー 代表取締役社長
2024年4月 中部電力 常務執行役員
2025年4月 専務執行役員 グループ経営推進部統括
2026年6月 取締役 専務執行役員
2026年10月1日 代表取締役社長 社長執行役員 CEO(予定)

経歴を見る限り、浜岡原発の審査を担ってきた原子力本部とは別の畑から社長が選ばれた形です。選任の理由について、中部電力の資料は触れていません。

会長ポストは空席になり、退任する3人は特別顧問に

10月1日以降の代表取締役会長は「ー」と記され、空席です。退任する3人は10月1日から特別嘱託に就きます。

人事資料の「退任役員」の欄では、勝野会長、林社長、水野明久相談役の退任後の役職がいずれも「特別嘱託」(10月1日就任)で、注記に「対外呼称は『特別顧問』」とあります。CBCテレビは「中電のトップ3人が退く異例の事態」と伝えました。特別嘱託としてどのような業務を担うのかは、資料には書かれていません。

組織風土改革と原子力ガバナンスの担当を新たに置く

10月1日付で「組織風土改革推進部」と「原子力ガバナンス推進部」の部長職が執行役員の担当に加わります。

同じ資料では、佐々木敏春副社長執行役員の統括範囲に「組織風土改革推進部」が加わり、太田卓志執行役員が経営戦略本部部長と組織風土改革推進部長を兼ねます。宮本文武執行役員は原子力本部副本部長と原子力ガバナンス推進部長を兼務します。静岡県内の拠点も「静岡支店」から「静岡地域本部」の体制へ変わり、浜岡地域事務所長などの人事が発表されました。

浜岡原発の再稼働申請はなぜ取り下げたのか

申請資料とその後の審査対応の信頼性に重大な疑義が生じ、申請を維持するのは適切でないと判断したためです。

中部電力は2014年2月14日と2015年6月16日に、浜岡原発3・4号機の新規制基準への適合性審査を原子力規制委員会へ申請していました。2026年1月5日に基準地震動の策定をめぐる不適切事案を公表して以降、規制委による規制検査が続いています。14日の発表では、調査報告書の内容を踏まえ「従前の申請を維持することは適切ではない」として、取り下げを臨時取締役会で決めたと説明しています(中部電力の発表)。

浜岡原発3・4号機の審査をめぐる流れ
2014年2月・2015年6月
新規制基準の適合性審査を申請
2026年1月5日
基準地震動の不適切事案を公表
調査委員会を設置
2026年9月11日
調査報告書を受領
2026年9月14日
報告書を公表・申請取り下げと
トップ辞任を決定
今後
準備が整い次第、規制委へ手続き
再申請を目指す方針

取り下げの手続きそのものは、14日時点ではまだ規制委へ出されていません。中部電力は「準備が整い次第、原子力規制委員会へ提出する予定」としています。

中部電力は再申請をあきらめないとしている

林社長は会見で、信頼回復を最優先にしつつ再申請に向けた取り組みを進めると述べました。

東海テレビによると、林社長は「組織風土や業務プロセスの改善を着実に進め、信頼回復を最優先に取り組んでまいります。決して諦めることなく、再申請に向けた取り組みを進めてまいります」と話しています。浜岡原発は静岡県御前崎市にあり、南海トラフ巨大地震の想定震源域に位置します。東日本大震災の直後、当時の菅直人首相の要請で運転を停止した経緯があります(東海テレビ)。再申請の時期は示されていません。

調査報告書は何が問題だったと指摘したのか

審査で地震動の評価を不適切な方法で行い、事後に証跡を作ってNRAに実態と異なる説明をしていたと認定しました。

調査報告書(開示版)は、中部電力が地震動の計算結果の中から人為的に代表となる波を選んでいた点や、「チューニング」と称する方法で模擬地震動の数値の一部を人為的に変えていた点を記しています。2018年9月14日の第624回適合性審査会合で規制委から選定方法の説明を求められた後には、実際には行っていない方法で選んだように見せる資料を後から作り、その一部を審査会合で示していたとしました。報告書はこうした証跡の作成を「隠ぺい工作ともいえるものであった」と評価しています。

「改ざん」「データ不正」と単純化するのは妥当でないと委員会は述べた

委員会は問題がない行為とは認定していない一方、改ざんやねつ造といった言葉で簡潔にまとめることに懸念を示しました。

中部電力が報告書と一緒に公表した委員会からの説明によると、委員会は「本件各行為」を「問題がない適切な行為であったとの認定はしていない」としています。そのうえで「改ざん、ねつ造、(地震動の)過小評価、データ不正といった言葉で単純化して、簡潔に表現することも妥当ではない」と述べました。地震動評価の手法は法令で細部まで決まっておらず、評価の難しさも踏まえて全体を見る必要がある、という理由です。報道の多くは「データ改ざん」「データ不正」と表現していますが、本記事では中部電力と委員会の表記に合わせて「不適切事案」と書いています。

社内に「独自の正当化理論」があったと分析した

報告書は、本事案に通底する原因の1つ目に「独自の正当化理論」の存在を挙げています。

FNNプライムオンラインによると、報告書は「原発の安全性に問題はなく、なんとしても早期再稼働を実現しなければならない」との考えのもと、不適切な行為を確信や信念を持って実行する考え方が社内にあったと指摘しました。報告書の目次でも、原因の分析の最初の項目が「『独自の正当化理論』の存在」です。メ〜テレは、委員会が「極めて特異な考え方が一部に存在していた」と指摘したと伝えています。

経営陣の責任はどう認定されたのか

経営陣が不適切な行為に直接関与したとは認めませんでした。ただし経営層の叱責が要因になり得たと指摘しています。

報告書は、原子力土建部が作った審査スケジュールが現実的に達成困難だったことを十分に考えないまま、経営層が遅れを批判・叱責する発言をしていたと認定しました。そのうえで、こうした発言は「原子力土建部の担当者らを不適切な行為へ駆り立てる要因たり得るものといえる」としています。また、規制委から指摘を受けそうな事項を開示・説明しないという消極的な方針を採る要因の1つになったことも「否めない」と書いています。

経営層の発言と会見での説明
人物 当時の発言として示されたもの 14日の会見での説明
勝野哲会長(当時社長) 2018年11月9日の事前説明で「審査スケジュールが尺取虫のように遅れる。」「当社の努力が足りないだけである。」(調査報告書) 「当時の経営トップとして本事案の発生や継続を防止できなかった」「極めて重い責任がある」(CBCテレビ)
林欣吾社長 2022年の取締役意見交換会で「議論することではなく全力で走ることが重要」などと発言(静岡第一テレビ) 「経営層が実務者に正面から向き合い(中略)本来果たすべき役割を十分に果たすことができませんでした」(CBCテレビ)

勝野会長は会見で「必要以上に急がせているわけではなく」「より早くよりもより確実にとの思いで」管理を進めてきたつもりだったと説明しつつ、組織として課題を解決する機能を十分に発揮できなかったと反省を述べました(静岡第一テレビ)。発言が現場にどう受け止められたかについて、報告書と本人の認識には開きがあります。

内部通報は2019年と2021年にあった

報告書には、審査対応をめぐる社内のヘルプライン通報が2019年10月7日付と2021年1月4日付の2回記載されています。

報告書は、1回目の通報の事実調査を、通報の対象となった原子力土建部が主に行っていたと記しました。規程上は違反ではないものの、利害関係のある部署に調査させると自部署の利益を優先するおそれがあり、慎重な検討が必要だったとしています。メ〜テレは、2019年の通報が当時社長だった勝野会長にも報告されていたものの、審査資料に詳しい記載はしない方針が了承されたと伝えています。林社長は会見で「内部通報を含め、社会から幾度も指摘があったにもかかわらず、経営陣が問題を把握し是正できなかった」と述べました(メ〜テレ)。

不適切事案はいつから続いていたのか

静岡第一テレビは少なくとも2012年からと報じています。報告書では2018年の規制委の説明要請後の対応が大きな節目です。

静岡第一テレビによると、中部電力の説明では不正は少なくとも2012年から始まり、2018年に規制委から震源をさらに浅く設定する厳しい条件を求められた後、より意図的な方法へエスカレートしたといいます。報告書でも、2018年9月の審査会合での説明要請を受けた対応や、遅くとも2019年前半以降に人為的な代表波の選定を行っていたことが記されています。開始時期については報道と報告書の記述の対応を本記事では確認しきれていないため、「報道によれば」として扱います。

林社長が事実を知ったのは2025年12月と説明していた

林社長は2026年1月の時点で、事実を知ったのは前年の12月2日だったと話していました。

静岡第一テレビによると、林社長は1月に周辺自治体へ謝罪に訪れた際、「私が事実を知ったのは12月2日。5月にそういう事情があったのに、12月ということで半年かかっている」と述べ、上層部への報告が遅れた経緯を調査の対象にすると話していました。中部電力では3月24日にも、原子力本部副本部長を担当していた専務執行役員がハラスメントに該当する発言を理由に辞任しています(中部電力の発表)。会見で林社長が「度重なる不適切事案」と述べたのは、こうした事案の積み重なりを指しています。

電気料金や地元への影響はあるのか

今回の辞任や申請取り下げで電気料金が変わるという発表はありません。地元からは経営への厳しい声が出ています。

浜岡原発3・4号機は審査中で運転していないため、申請の取り下げで今の発電量が変わるわけではありません。一方で、中部電力と中部電力ミライズは9月10日、別件として、2024年4月から適用している特定小売供給約款(従量電灯など)の料金の原価算定に誤りがあったと発表しています。発電側課金の影響額を27億円過大に計上しており、家庭の平均モデルで月10円高い料金を負担してもらっている状態だとして、返還の方法を検討中です(中部電力の発表)。浜岡原発の事案とは別の問題です。

名古屋の街の声として、メ〜テレは「もっと経営者がしっかりしないといけない。従業員がかわいそうだ」(80代)、「公共のものを扱う企業が、信頼・誠実さ・社会的正義とか、今回は根底から崩れている」(60代)と伝えました。浜岡原発のある静岡県内の自治体の正式な反応は、14日夕方時点で本記事では確認できていません。

何が確定していて、何がまだ決まっていないのか

確定しているのは人事の日付、申請取り下げの決定、報告書の公表までです。取り下げの提出日と再申請の時期は未定です。

項目 確定(公式発表・報告書) 未確定
トップの辞任 3人が9月30日付で退任、10月1日から特別嘱託(特別顧問) 特別顧問としての役割
新体制 10月1日付で安井稔社長、会長は空席 会長を置くかどうか
浜岡3・4号機 申請の取り下げを決定 規制委への提出日・再申請の時期
再発防止策 方向性を公表 具体策の中身と実施時期
不適切事案の開始時期 2018年9月の説明要請後の証跡作成を報告書が認定 「少なくとも2012年から」は報道ベース

次に動くのは、規制委への取り下げ手続きと、10月1日の新体制の発足です。気になる人は、中部電力のプレスリリース一覧と規制委の審査会合の資料を確認すると、一次情報で経過を追えます。

よくある質問

Q. 報告書は誰でも読めますか?

A. 中部電力のサイトで開示版のPDFが公開されています。

関係者への影響の抑止や個人のプライバシー保護のため、一部が非開示になっています。人名はアルファベットで匿名化されています。

Q. 報告書のどこを読めば、行為の評価が分かりますか?

A. 委員会の説明では、行為の評価は第4の5(175〜187ページ)に書かれています。

行為の概要は第4の2(72〜86ページ)、詳細は第4の3、経緯・背景は第4の4、社内外からの指摘への対応は第5、原因の分析は第6、再発防止策の提言は第7です。委員会は、第4と第5の事実を含めて全体を見るよう求めています。

Q. 再発防止策の具体的な中身はいつ出ますか?

A. 時期は示されていません。14日に出たのは「方向性」までです。

中部電力は、調査報告書の提言を踏まえて、より具体的な再発防止策を検討するとしています。

Q. 過大に払った電気料金はいつ返ってきますか?

A. 返還の方法と時期はまだ決まっていません。決まりしだい中部電力ミライズが知らせるとしています。

対象は2024年4月1日以降に特定小売供給約款(従量電灯、低圧電力など)で契約している人で、家庭の平均モデルで1か月あたり10円の過大な負担とされています。

Q. 料金の件はどこに問い合わせればよいですか?

A. 専用のフリーダイヤル 0120-427-416 です。受付は平日9時〜17時です。

土曜・日曜・祝日と年末年始は休みです(中部電力・中部電力ミライズの9月10日の発表)。

参考情報

本記事は2026年9月14日夕方時点で公表・報道されている情報に基づいています。規制委への取り下げ手続きや再発防止策の具体化など、続報は確認でき次第追記します。

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