【10/26】サイバー緊急対策パッケージ、高市首相が来週中めど指示|GMOが求めた無害化措置と中小企業支援の中身

高市早苗首相は2026年10月26日、首相官邸で開いた第1回「サイバーセキュリティに関する関係閣僚会議」で、来週中を目途に政府の「緊急対策パッケージ」を取りまとめると表明し、財政措置を含めた検討を関係閣僚に指示しました。GMOインターネットの「お名前.com デスクトップクラウド」への不正アクセスや証券口座の不正売買など、企業へのサイバー攻撃が相次いでいるためです。この記事では、首相が出した指示の中身、対策が急がれる背景、GMOが政府に求めた「能動的サイバー防御」の扱い、利用者と企業が今やることを順に整理します。
この記事でわかること
- 首相の指示:緊急対策パッケージの柱になる6つの指示を、担当の大臣と合わせて表で確かめられます。
- 背景の被害:GMOのデスクトップクラウドで何が起き、どこまで分かっているかが分かります。
- 能動的サイバー防御:GMOが求めた無害化措置を、政府がどう判断しようとしているかが分かります。
- 今やること:サービスの利用者と中小企業の担当者が、今日からできることをまとめています。
高市首相は10月26日に何を指示したのか
首相は来週中を目途に政府の緊急対策パッケージを取りまとめると述べ、財政措置を含む検討を各大臣に指示しました。
首相官邸の発表によると、会議ではサイバー攻撃による情報漏えいなどについて議論が行われました。首相は「我が国の企業などに対する相次ぐサイバー攻撃によって、大規模な『情報漏えい被害』などが多数、生じています」と述べ、漏えいした情報を悪用した二次被害への不安が高まる「深刻な事態」だとして、早急に対策を強化する考えを示しました。
会議の出席者と開かれた経緯
相次ぐ情報漏えいと二次被害の広がりを受けて急きょ開かれた初会合で、木原稔官房長官が議長を務め、財務相らが出席しました。
時事通信によると、出席したのは片山さつき財務相、小泉進次郎防衛相、古川俊治サイバー安全保障担当相らです。日本経済新聞は、木原長官が26日の記者会見で同日午後6時からの開催を発表し、個人情報の漏えいと二次被害を「国民の安全安心な暮らしを脅かす深刻な事態」と述べたと伝えています。
「来週中を目途」と財政措置
取りまとめの期限は「来週中を目途」で、首相は各大臣に財政措置を含めて早急に検討と調整を進めるよう求めました。
首相は発言の最後に「来週中を目途に、政府としての『緊急対策パッケージ』を取りまとめます」と述べ、「政府の総力を結集して、取組を加速してまいりましょう」と締めくくりました。予算の規模や、補正予算に盛り込むかどうかは、10月27日時点で公表されていません。
緊急対策パッケージには何が入るのか
官邸の発表では、被害企業と中小企業の支援、情報の集約、攻撃への対処、脆弱性の検証、政府システムの点検が柱です。
首相が会議で示した指示を、担当する大臣ごとに並べると次のとおりです。
| 柱 | 首相の指示 | 担当 |
|---|---|---|
| 被害企業などへの支援 | IPA(情報処理推進機構)や警察の相談対応を充実させ、どこに相談しても必要な支援を受けられる体制を整える。初動から復旧まで民間の高度な専門能力を使う仕組みを作る | 国家サイバー統括室・経済産業省 |
| 中小企業・小規模事業者 | 「サイバーセキュリティお助け隊」の体制と支援策を拡充する。相談窓口を抜本的に広げ、プッシュ型で情報を届ける | 赤沢経済産業相 |
| 情報の収集と発信 | 「サイバー協議会」へのセキュリティベンダー企業などの参加を広げる。各大臣が所管業界の被害企業から情報を集めて国家サイバー統括室に集約し、経営層・専門家・国民など対象を分けて発信する | 古川サイバー安全保障担当相・各大臣 |
| 攻撃への対処 | 実態を解明した攻撃には「アクセス・無害化措置」を含むあらゆる対処オプションを戦略的に選んで実行する。同盟国・同志国と連携して攻撃主体を特定する | 古川サイバー安全保障担当相 |
| 脆弱性の検証 | 高性能AIも使い、トップガン人材が模擬的な攻撃テストで弱点を探す。サプライチェーン全体に攻撃の観測網を整える。どちらも前倒しで実施する | 赤沢経済産業相(IPA) |
| 政府自身のシステム | AISI(AIセーフティ・インスティテュート)の知見も使い、高性能AIによる脆弱性チェックを前倒しで行う | 各大臣(古川担当相が中心) |
表は首相が会議で示した方向性で、パッケージに最終的に何が載り、いくらの予算が付くかは取りまとめを待つ必要があります。
中小企業向けの「サイバーセキュリティお助け隊」とは
お助け隊は、中小企業がサイバー攻撃に備えるのに要るサービスを1つにまとめた民間のサービスで、IPAが認めた印を付けています。
IPAの案内によると、制度は2021年春に始まり、基準を満たすサービスに「お助け隊マーク」を付けて普及を進めています。導入には国の補助金も使えます。首相は、中小企業や小規模事業者が十分に使えるよう、体制と支援策の拡充を速やかに検討するよう求めました。
なぜいま緊急対策が必要なのか
企業へのサイバー攻撃が相次ぎ、情報の流出だけでなく証券口座の不正売買など、利用者の財産に及ぶ被害が続いているためです。
ロイターは、企業などへのサイバー攻撃が9月ごろから急増したと報じ、セキュリティ大手トレンドマイクロの集計として、日本に拠点を置く組織で起きたサイバーセキュリティーの事案が10月20日時点で723件となり、2025年通年の594件を上回ったと伝えています。これは民間企業の集計で、政府の統計ではありません。NHKによると、警視庁には10月21日までの1か月間に、流出した個人情報の悪用を心配する相談がおよそ600件寄せられていました。
10月20日からの主な動きを時系列で並べると、次のようになります。
わずか1週間ほどの間に、民間の被害が政府の閣僚会議にまで上がったことが分かります。
お名前.com デスクトップクラウドで何が起きたか
FXの自動売買などに使われるGMOのクラウドに不正なプログラムが置かれ、影響の可能性があるサーバーは26,739件にのぼります。
親会社GMOインターネットグループの10月23日の開示によると、GMOインターネットは10月19日に利用者からの問い合わせを受けて調査を始め、20日に不正なプログラムを確認しました。26,739件は「対象となり得るサーバー数」で、不正アクセスや情報の取得が確かめられた件数ではないと注記しています。クレジットカードを含む決済情報は、このサービスのサーバーでは持っていないとしています。
一方、10月24日の開示では、利用者の情報が外部に持ち出された事実を確認し、一部の利用者から取引口座で身に覚えのない取引があったとの報告を受けていると明らかにしました。サービスの再開時期は決まっておらず、今のシステムはそのまま再開せずに作り直すとしています。
GMOは利用者にどう補償するのか
全利用者に一律5,000円の見舞金を払い、不正取引で口座に生じた実現損失は、調査で不正と認めた分を補償します。
10月24日の開示によると、補償の対象は取引の差損や手数料などで、相場の変動による損失や、取引で得られたはずの利益は含みません。取引所などから返金があった場合は、その分を差し引いた残りをGMOインターネットが払います。見舞金の受け取り方は10月30日23時59分までに、補償の申請方法は11月6日までに、登録のメールアドレスなどへ知らせるとしています。Windowsのデスクトップ環境を使い続けたい人には、別のクラウド基盤で動く代わりのサービスを6か月間無償で用意します。
攻撃者は何を要求しているのか
攻撃者とみられる者は金銭を要求し、応じなければ情報を公開するなどと脅していますが、GMOは要求に応じないと表明しました。
10月24日の開示によると、脅しの中身は、国内外の70を超える証券会社やFX会社に開かれた利用者の口座で不正な操作を続けること、サービスと接続した利用者のパソコンの情報を公開してランサムウェア攻撃を行うこと、同社のシステムや運用体制の情報を公開すること、の3つです。GMOは通信記録などの証拠を警察のサイバー犯罪対策部門に出し、刑事事件として捜査するよう求めています。要求額について、ロイターは5000万ドル(約79億円)と伝えていますが、GMOの開示資料は金額を明らかにしていません。
同じ時期に起きたほかの被害
同じ週には証券会社の売買システムへの攻撃や、ウェブサイトを支えるPHPの重大な欠陥の公表も重なりました。
ロイターによると、岩井コスモ証券は売買管理のシステムが攻撃を受け、顧客の意図しない売買注文が出されました(詳しくは岩井コスモ証券へのサイバー攻撃の記事)。PHPの脆弱性では、首相自身が21日夜にXで修正の適用を呼びかけ、国内の多くのサイトが一時止まりました(高市首相のPHP投稿の記事)。10月には中国製のAIを使った日本企業への攻撃も報じられています(ARTEXの記事)。
GMOが求めた「能動的サイバー防御」とは
被害が深刻になる前に、国が攻撃者のサーバーなどを特定して無害化する仕組みで、GMOは今回の事案への適用を政府に求めました。
GMOの10月24日の開示は、今回の件を能動的サイバー防御の「発動第1号」事案と位置づけ、国が主導して攻撃の基盤を追跡し、遮断して無力化するよう政府の関係機関に強く求めたと説明しています。民間の事業者だけで、国境を越えて動く犯罪集団から利用者の資産を守り切るのは難しいというのが理由です。
内閣官房によると、根拠となるサイバー対処能力強化法と同整備法は2025年5月16日に成立し、同23日に公布されました。ロイターは、同法などが2026年10月1日に施行され、警察や自衛隊が攻撃者のサーバーなどを無害化できるようになったと伝えています。時事通信は、通信や金融、電力などの基幹インフラの事業者への攻撃の兆しをつかんだ場合に、警察や自衛隊が攻撃側のサーバーに入り込んで無害化する仕組みだと説明しています。
政府はGMOの要請を受け入れるのか
木原官房長官は、企業から要請があるかどうかに関係なく、法律の要件に照らして適切に判断すると述べ、適用するかは示していません。
ロイターによると、木原長官は26日午前の記者会見で、個別の事案へのコメントは控えるとしました。首相は会議で「実態を解明したサイバー攻撃に対しては」無害化措置を含む対処を選ぶと述べており、攻撃の実態がどこまで分かるかが判断の前提になります。FX用のクラウドへの攻撃が法律の要件に当たるかどうかは、政府の判断を待つ必要があります。
緊急対策パッケージをどう見るか
(編集部分析)国が対処の前に立つ姿勢を示した点は評価できますが、問われるのは対策の中身の厚さと実行の速さです。
今回の攻撃は、情報を盗むだけでなく、国内外70超の証券会社やFX会社にある個人の口座を狙って残高を減らすと脅すものでした。GMOは、民間だけで防ぐ今の枠組みでは足りないと訴えています。
(編集部分析)サイバー空間を守ることは、国土を守ることと同じく国家の主権に関わる問題です。国民の証券やFXの口座が国境の外から狙われても、企業が一社ずつ守るしかない状態では、攻める側が有利なままです。首相が「アクセス・無害化措置」を含むと明言したことは、日本は手を出しても反撃しない国だと見られないための抑止として意味があると評価できます。
(編集部分析)一方で、課題も残ります。中小企業は対策の費用も人手も足りず、取引先を通じた攻撃では、守りの弱い所から入られます。お助け隊や相談窓口の拡充に、予算と人員の裏付けが付くかどうかが、「財政措置を含め」という指示の試金石になります。能動的サイバー防御は運用が始まったばかりで、法の要件を厳格に守ることは当然としても、判断が遅れれば抑止になりません。攻撃した主体を同盟国と一緒に特定し、名指しで示せるかも焦点です。
利用者と企業が今やること
利用者はパスワードの使い回しをやめて多要素認証を設定し、企業は相談先の確認と弱点の点検を急ぐのが基本です。
政府の会議資料とGMOの案内をもとに、立場ごとにまとめます。
GMOのサービスの利用者
取引に使っていない安全な端末から、取引口座と取引ツールの認証情報を変える。ログイン中の全セッションを切断し、取引履歴と残高を確かめ、二要素認証を設定する。
ネットのサービスを使う人
同じパスワードを複数のサービスで使わない。流出の連絡を装った不審なメールやSMSのリンクは開かない。
中小企業の担当者
被害が疑われたらIPAや警察に相談する。使っているソフトの更新を急ぎ、お助け隊サービスの導入も検討する。
GMOの利用者向けの4つの手順は、同社が10月23日の開示で至急の対応として求めたものです。日本経済新聞によると、政府も国民にパスワードの使い回しを避けることや、多要素認証を使うことを求めています。
身に覚えのない取引があったときは
不正な取引の日時と内容、損失額が分かる画面や記録を残し、取引所などに取り消しや返金を相談するよう、GMOは求めています。
10月24日の開示によると、GMOインターネットは被害の確認のため、本人確認書類や、取引履歴を見るための閲覧専用のパスワード(MT4/MT5など)の提出を求めることがあり、具体的な手順は別に案内するとしています。取引所などが返金に応じない場合も、同社が補償の対象となる損失を払います。問い合わせはお名前.comの公式サイトのお問い合わせフォームか、24時間受け付けの電話(03-5456-2560)で受けています。
補償の手続きを装った詐欺に気をつけるには
GMOは、補償の手続きで閲覧専用のものを除くパスワードや暗証番号を尋ねることはないとしており、そうした連絡は疑うのが安全です。
GMOの開示資料は、攻撃者が今後、同社や利用者の情報と称するものを公開するおそれがあり、事実と違う内容が含まれる可能性もあると注意を促しています。正式な知らせは同社のウェブサイトなどで出すとしているため、メールのリンクからではなく、公式サイトを自分で開いて確かめてください。困ったときはIPAの情報セキュリティ安心相談窓口でも相談できます。
サイバー緊急対策パッケージについてよくある質問
Q. 攻撃者にお金を払えば、盗まれた情報は消してもらえるのですか?
A. GMOは、要求に応じても取得された情報の削除や不正な利用の防止が保証されるわけではないとして、要求には応じない方針です。
Q. 中小企業がお助け隊のサービスを入れるとき、費用の補助はありますか?
A. IPAによると、自社で使う場合は「デジタル化・AI導入補助金」による導入支援が使えます。首相はお助け隊の支援策の拡充も指示しました。
Q. 個人がお金をもらえる対策はありますか?
A. 首相の指示は企業の支援や情報の集約が中心で、個人への給付は示されていません。GMOの利用者への見舞金と補償は、同社が独自に行うものです。
参考情報
- サイバーセキュリティに関する関係閣僚会議(首相官邸、2026年10月26日)
- 連結子会社の提供サービスへの不正アクセスに関するお知らせ(GMOインターネットグループ、2026年10月23日)
- 不正アクセスに伴うお見舞金のお支払いおよび損失の補償に関するお知らせ(GMOインターネットグループ、2026年10月24日)
- 高市首相、能動防御「戦略的に実行」=不正アクセス、来週にも緊急対策(時事通信)
- GMO、能動的防御を要請 不正アクセス攻撃で政府に(時事通信)
- 政府、サイバー攻撃対応で26日夕に閣僚会議(日本経済新聞)
- 不正アクセスによる個人情報漏えい相次ぎ 警視庁に相談相次ぐ(NHK)
- サイバー安全保障に関する取組(内閣官房)
- サイバーセキュリティお助け隊サービス(IPA)
- ロイター「企業の『悲鳴』に政府どう対応、止まらぬサイバー攻撃 来週にも緊急対策と首相」(2026年10月26日)
