【米中間選挙】エルサイード候補とは|民主スティーブンス議員が共和ロジャース氏支持、ミシガン上院選に波乱

【米中間選挙】エルサイード候補とは|民主スティーブンス議員が共和ロジャース氏支持、ミシガン上院選に波乱

11月3日(日本時間4日)に投票日を迎える米中間選挙で、上院の主導権を左右する激戦州ミシガンが投票の2日前に大きく揺れました。民主党の上院候補アブドル・エルサイード氏と予備選を争った民主党のヘイリー・スティーブンス下院議員が11月1日、共和党候補のマイク・ロジャース元下院議員への支持を表明したためです。現職の民主党議員が、自党の候補ではなく相手党の候補を推すのは極めて異例です。

この記事では、エルサイード候補とはどんな人物か、スティーブンス議員がなぜ共和党候補の支持に回ったのか、民主党内の反応、直近の世論調査、そしてこの1議席が上院の過半数争いと日本にどう関わるのかを、AP通信・CNBC・CBSニュース・地元紙ブリッジ・ミシガンなどの報道をもとに整理します。

この記事でわかること

  • 何が起きたか:民主党のスティーブンス下院議員が11月1日、共和党のロジャース候補への支持を表明し、デトロイトの教会で並び立ちました。
  • 対立の原因:イスラエル支援を巡る外部団体の広告をめぐり、スティーブンス氏がエルサイード氏に非難を求めたことから両者の関係が決裂しました。
  • 情勢:10月下旬の地元調査ではエルサイード氏51.4%、ロジャース氏45.1%。共和党が53議席を持つ上院の過半数争いで、民主党にとって落とせない議席です。
目次

エルサイード候補とは:ミシガン州上院選の民主党候補

エルサイード候補は、ミシガン州の元公衆衛生当局者で、8月の予備選を制した民主党の上院議員候補です。

AP通信によると、エルサイード氏はエジプト移民の子孫として米国で生まれました。デトロイトを含むウェイン郡の保健局長などを務め、医師・公衆衛生の専門家として知られます。引退する民主党のゲーリー・ピーターズ上院議員の後任の座をめぐり、共和党のマイク・ロジャース元下院議員と争っています。

党内では「進歩派(左派)」に位置づけられ、予備選ではバーニー・サンダース上院議員やアレクサンドリア・オカシオ=コルテス下院議員の支持を受けました。日本の報道では「急進左派」と紹介されることもあります。地元紙ブリッジ・ミシガンは、当選すれば米国で初めてのイスラム教徒の上院議員になると伝えています。

AP通信によれば、エルサイード氏は11月1日、デトロイト郊外サウスフィールドの労働組合会館で開いた集会で、トランプ大統領が自身の名前をたびたび言い間違えることを取り上げ、「3日後には、彼に私を『エルサイード上院議員』と呼ばせるつもりだ」と語りました。

エルサイード氏とロジャース氏の比較

元公衆衛生当局者で進歩派のエルサイード氏と、トランプ氏が推す元下院議員ロジャース氏は、経歴もイスラエル政策も正反対です。

両候補の立ち位置を、報道で確認できる範囲で並べると次のとおりです。

項目 アブドル・エルサイード氏 マイク・ロジャース氏
政党 民主党(進歩派) 共和党
主な経歴 ミシガン州の元公衆衛生当局者・ウェイン郡の元保健局長 元下院議員。2024年の上院選の共和党候補
予備選 8月4日の民主党予備選で得票率48.5%、スティーブンス氏(47.5%)に約1ポイント差で勝利 共和党予備選で投票用紙に載ったのは本人のみ
主な支持者 サンダース上院議員、オカシオ=コルテス下院議員、シューマー上院院内総務(本選) トランプ大統領、民主党のスティーブンス下院議員(11月1日表明)
イスラエル政策 ガザでのイスラエルの行為を「ジェノサイド」と呼んできた(CNBC) イスラエル支持

表のとおり、争点の一つになっているのが中東政策、とりわけイスラエルへの姿勢です。この違いが、民主党内の亀裂として表に出たのが今回の支持表明でした。

スティーブンス議員が共和ロジャース氏の支持を表明

民主党のスティーブンス下院議員が11月1日、共和党のロジャース候補を支持すると表明しました。

CNBCによると、スティーブンス氏はX(旧ツイッター)に投稿した動画と、デトロイトでの記者会見で支持を発表しました。この日の朝、ロジャース氏とともにデトロイトのパーフェクティング教会の礼拝に出席し、そのまま並んで会見に臨んでいます。投票日の2日前というタイミングでした。

スティーブンス氏は動画の中で、エルサイード氏から自分は陣営に歓迎されていないと言われたと述べ、「彼の言う通りだ」と語りました。会見では「人々が動揺していることは申し訳なく思う。それは理解している」と述べています。ブリッジ・ミシガンによると、イスラエル支援をめぐる対立に触れて「憎しみの側に立つことはできない」とも語りました。

ロジャース氏はスティーブンス氏の決断を「政治における勇気」と評し、「正直に言えば、今日ヘイリー・スティーブンスと戦っていなくてよかった」と述べました(ブリッジ・ミシガン)。トランプ大統領も自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」でこの支持表明をたたえています。

NHKなど日本の報道の伝え方

NHKは「異例の共和候補支持表明」と伝え、テレビ朝日系は期日前投票5000万人超の中で起きた波乱として報じました。

11月2日の国内報道は、ミシガン州が上院の行方を左右する激戦州であることと、現職議員が他党の候補を推すことの異例さに焦点を当てています。朝日新聞は、民主党の内紛にトランプ氏も介入する構えだと伝えました。

なぜ民主党議員が共和党候補を支持したのか

直接のきっかけは、イスラエル支援を批判する外部団体の広告をめぐり、両者の関係が決裂したことです。

CBSニュースによると、外部団体が流した広告は、米国のイスラエルへの軍事支援と食料品価格の上昇を結びつける内容でした。CNBCは、この広告を「レベリオンPAC」が出したもので、夫婦が食料品を買えるかどうかを話し合う場面を描いたと伝えています。スティーブンス氏はこの広告を反ユダヤ的だとして、エルサイード氏に非難するよう求めました。

スティーブンス氏は、エルサイード氏と一緒に選挙運動をしてきた論客ハサン・パイカー氏についても「共に立つことはしない」と述べ、支持を変えた理由の一つに挙げています(CNBC)。

これに対しエルサイード氏は「あれは私が作ったものではない」と述べ、陣営は広告への関与を否定しています。CBSニュースによると、エルサイード氏はスティーブンス氏について「3か月前に終わった予備選を蒸し返している」と批判しました。

「結束集会」が取りやめになった経緯

党の結束を示すはずだった合同集会は、対立が表面化したことで直前に取りやめになりました。

ブリッジ・ミシガンによると、スティーブンス氏はエルサイード氏、民主党重鎮のジム・クライバーン下院議員とともに「結束」を掲げる集会に出る予定でした。しかし広告をめぐる対立が公の批判合戦に発展し、集会を企画したデビー・ディンゲル下院議員がスティーブンス氏に出席を見送るよう求めました。ディンゲル氏は「あまりにも注意をそらすものになってしまったので、私が取りやめた」と説明しています。

また、スティーブンス氏の婚約者ジェイソン・ターキッシュ氏は、反ユダヤ主義の高まりを理由に、スティーブンス氏より先にロジャース氏への投票を表明していました。スティーブンス氏はその時点ではCNNに対し、エルサイード氏に投票すると話していました(ブリッジ・ミシガン)。

(編集部分析)今回の亀裂の根にあるのは、個人の確執というより、米民主党の中で中東政策をめぐる路線対立が抑えきれなくなっているという構図だと評価できます。予備選で党の主流派はスティーブンス氏を推し、進歩派はエルサイード氏を推しました。約1ポイント差という僅差で決着したことが、本選の最終盤まで党内のしこりを残したとみられます。

民主党の内部対立がどこまで本選に響くかについて、よく出る疑問を一つ取り上げます。

Q. スティーブンス氏は党の規則に違反したのですか?

A. 党の規約に基づく処分の手続きが取られたという報道は、11月2日時点で確認できていません。他党の候補を推したこと自体の扱いは、今後の党の判断を待つ段階です。

党内の反応はさらに広がっており、次の節で詳しく見ます。

民主党の反応:シューマー氏は「卑劣な裏切り」と批判

民主党の上院トップのシューマー院内総務は、スティーブンス氏の支持表明を「卑劣な裏切り」と強く批判しました。

CNBCとCBSニュースによると、シューマー氏は上院民主党がエルサイード氏の下で結束していると強調しました。CNBCによれば、シューマー氏は共和党側がイスラム教徒への偏見に基づく攻撃をしていると非難しています。予備選ではシューマー氏自身がスティーブンス氏を推していたため、党主流派との決別という意味合いも帯びました。

地元ミシガン州の民主党も素早く動きました。州民主党のカーティス・ハーテル委員長は、スティーブンス氏について「現在の党員ではなく、今後もそうなることはない」と述べました(CNBC)。ブリッジ・ミシガンによると、1日夜までに州民主党の議員一覧からスティーブンス氏の写真が削除されています。

引退するピーターズ上院議員と、同じミシガン州選出のエリッサ・スロットキン上院議員も支持表明を否定しました。スロットキン氏は、選挙を「自分自身のこと」にする人は公益に尽くすことを考え直すべきだという趣旨の発言をしています(CNBC)。

スティーブンス氏の事務所でも辞職が相次ぐ

スティーブンス氏の長年の首席補佐官が辞職し、ほかの職員も事務所を離れていると報じられています。

CBSニュースによると、首席補佐官のジャスティン・ジャーマン氏が辞職し、元広報部長のローガン・バッシュ氏も11月1日付で事務所を離れました。ジャーマン氏は、自分たちは「心からエルサイード氏を支持している」と述べています。一方、共和党側では元全国委員長のロナ・マクダニエル氏が、スティーブンス氏を「党より州を優先した」とたたえました(ブリッジ・ミシガン)。

エルサイード氏はどう応じたか

エルサイード氏は、スティーブンス氏のことは「実のところ考えていない」と述べ、争点を暮らしに戻そうとしています。

CNBCによると、エルサイード氏は有権者が気にしているのは子どもに食べさせること、請求書の支払い、医療だと語りました。CBSニュースによれば、州の人口約1000万人に触れ、自分とスティーブンス氏の2人ではなく、残る「999万9998人」の州民が抱える問題に目を向けたいと述べました。

ブリッジ・ミシガンによると、エルサイード氏は憎しみに反対する人なら「マイク・ロジャースやドナルド・トランプ、JD・バンス」を支持しないだろうとも述べました。1日はデトロイトの教会で開かれた期日前投票を呼びかける催し「ソウルズ・トゥ・ザ・ポールズ」にも参加しています。

(編集部分析)エルサイード氏が物価と医療に話を戻そうとするのは、党内対立が長引くほど中東政策が争点の中心に居座り、自身に不利に働くと見ているからだと考えられます。一方で、外部団体の広告が「イスラエル支援」と「食料品の値段」を結びつけたこと自体が、外交を家計の不満に置き換える手法として批判を招いた面は否めません。

ミシガン州上院選の最新世論調査

10月下旬の2つの調査は、どちらもエルサイード氏が6〜7ポイント上回りましたが、結果は確定していません。

投票1週間前の10月26〜27日ごろに行われたミッチェル・リサーチの調査(投票に行く可能性が高い有権者636人、誤差±3.9ポイント)では、エルサイード氏51%、ロジャース氏44%、未定は約3%でした(CBS系列局の報道)。リバタリアン党などの少数政党の候補はいずれも1%以下です。

その前の週に、地元テレビ局WDIVと地元紙デトロイト・ニュースが調査会社グレンガリフ・グループに依頼した調査(10月19〜22日、投票に行く可能性が高い有権者600人、電話調査、誤差±4.0ポイント)の結果は次のとおりです。

項目 エルサイード氏 ロジャース氏
支持率(一騎打ち) 51.4% 45.1%
「必ず投票する」層 43.4% 40.3%
好感度(好意的) 42.2% 32.2%
好感度(非好意的) 44.8% 49.2%

この調査では6.3ポイント差で、未定は3.6%でした。ただし標本誤差や当日の投票率の変動があり、差がそのまま結果になるとは限りません。両候補とも「好意的」より「非好意的」が多く、決め手を欠いたまま最終盤を迎えていたことが分かります。2つの調査はどちらもスティーブンス氏の支持表明より前に行われたもので、表明の影響はまだ数字に表れていません。

ミシガン州は、2020年の大統領選でバイデン氏が2.8ポイント差、2024年にはトランプ氏が1.4ポイント差で勝った接戦州です。共和党は1994年を最後にミシガン州の上院選で勝っていません。ロジャース氏自身も2024年の上院選でスロットキン氏に僅差で敗れています。

結果が分かるのはいつか(日本時間)

投票は現地3日に行われ、日本時間では4日午前から開票が進む見通しです。

ミシガン州の大半は米東部時間で、投票所は午後8時に閉まります。日本時間では4日午前10時ごろにあたり、一部の中部時間の地域はその1時間後に締め切られます。接戦の場合は当確が出るまで時間がかかることがあります。期日前投票は州内で10月24日から行われていました(ブリッジ・ミシガン)。

上院の過半数争いとミシガン州の1議席

上院は共和党53議席、民主党系47議席で、民主党が過半数を取るにはミシガンを守ることが前提になります。

上院の議長は副大統領が務め、50対50の同数ならJD・バンス副大統領が票を投じます。このため民主党が多数派になるには差し引き4議席の上積みが必要です。民主党は他州で議席を奪っても、引退するピーターズ氏の議席であるミシガンを落とせば、その分が帳消しになります。AP通信は、ミシガン州で議席を維持することが、トランプ大統領の2期目後半に民主党が上院の過半数を得るうえで「極めて重要」だと伝えています。

だからこそ、投票2日前に民主党の現職議員が相手候補に回ったことは、ミシガン州だけでなく上院全体の勢力図にかかわる出来事として受け止められています。

(編集部分析)上院の多数派は、条約の承認や閣僚・大使人事の承認、国防予算の審議に直結します。日本にとっては、日米同盟や対中政策、在日米軍の運用に関わる人事と予算がどちらの党の主導で動くかという問題であり、遠い州の選挙として片づけられない1議席だといえます。

上院の議席の数え方について、よく出る疑問を取り上げます。

Q. 「民主党系47議席」の「系」とは何ですか?

A. 民主党会派に加わる無所属議員2人を含む数字という意味です。サンダース上院議員などが無所属のまま民主党と行動を共にしています。

この1議席の重さを踏まえて、日本の読者が見ておくべき点を整理します。

日本から見たミシガン上院選の注目点

注目点は、米民主党の左傾化がどこまで有権者に受け入れられるかと、上院の主導権が誰の手に渡るかの2つです。

エルサイード氏は、予備選で党主流派が推した候補を破った進歩派の候補です。本選で勝てば、民主党の重心が左に寄る流れを後押しする結果になります。逆にロジャース氏が勝てば、党内の分裂が結果にどの程度影響したのかが検証の対象になります。

もう一つは、選挙戦が外交、とりわけ中東政策をめぐって割れたことです。物価や医療といった暮らしの争点と、イスラエル支援という外交の争点が、最終盤で混ざり合いました。

(編集部分析)同盟国の内政で、外交方針が国内の家計の不満と結びつけられて争われる構図は、日本にとっても他人事ではありません。米国の議会が内向きになれば、同盟国への関与や防衛装備の協力の優先順位が下がるおそれがあります。日本としては、どちらの党が上院を握っても揺らがない形で、自国の防衛力と対米関係の土台を固めておくことが問われていると評価できます。

日本時間4日午前10時以降は、ミシガン州務長官(州の選挙当局)が出す開票速報でこの州の勝敗を、AP通信などの集計で上院全体の議席数を確かめてください。どちらの党が51議席に届いたかが、今後の米国の対日・対中政策を読む手がかりになります。

エルサイード候補とミシガン上院選のよくある質問

本文で触れきれなかった周辺の疑問をまとめます。

Q. エルサイード氏の名前の表記はなぜ揺れているのですか?

A. 英語表記「Abdul El-Sayed」の読み方が媒体ごとに違うためです。「アブドル・エルサイード」「アブドゥル・エルセイド」などと書かれますが、同じ人物です。

Q. 予備選で3位だった候補はいますか?

A. 州上院議員のマロリー・マクモロー氏が7月に選挙活動を停止しましたが投票用紙には残り、約4%を得ました(AP通信の集計を引いたブルームバーグ・ガバメント)。

開票の結果は、日本時間4日以降の続報で確認してください。

参考情報

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