【11/5】フランス血液機関にサイバー攻撃|保冷室を110度に設定変更

【11/5】フランス血液機関にサイバー攻撃|保冷室を110度に設定変更

フランスの血液事業を一手に担う公的機関「フランス血液機関(EFS)」で、11月1日夜から2日にかけ、保冷室の冷却設備がサイバー攻撃で外部から操作される被害が起きました。仏週刊紙は、3つの拠点でマイナス30度に保たれていた保冷室の設定温度が110度に書き換えられたと報じています。警報が働いて血液製剤は別の施設へ移され、EFSは「血液製剤の損失はない」と発表しました。

10月にはフランス国内の数百のスーパーで冷蔵・冷凍設備が同じように乗っ取られ、11月2日には北欧やベルギーのスーパーでも温度の異常が相次ぎました。食品の次に、命に関わる医療の保管設備が狙われたことになります。何が起きたのか、どこまで分かっているのかを、一次情報と報道に沿って整理します。

この記事でわかること

  • 何が起きたか:EFSの3拠点の保冷室で、設定温度がマイナス30度から110度に遠隔で書き換えられたと報じられています。
  • 被害の有無:警報で異常に気づき製品を移したため、EFSは血液製剤の損失はないとしています。
  • 背景:10月の仏スーパー約700店への攻撃と同じく、ネットにつながった冷却設備の遠隔制御が狙われています。
目次

フランス血液機関へのサイバー攻撃で何が起きたのか

11月1日夜から2日、EFSの3拠点で保冷室の温度設定が外部から書き換えられ、仏紙は-30度から110度に変えられたと報じました。

この件を最初に詳しく伝えたのはフランスの週刊紙ル・カナール・アンシェネで、仏ニュースサイトselectraが11月4日にその内容とEFSの声明をまとめています。それによると、変えられたのは温度の設定だけではなく、霜取り(デフロスト)の設定も含まれていました。霜取りは本来、冷却器についた霜を溶かすために一時的に加温する機能です。10月のスーパーへの攻撃でも、この霜取り機能が悪用されました。

日本ではテレビ朝日系(ANN)が11月5日朝に「設定温度マイナス30℃から110℃に」と報じ、警報システムが作動して保管していた血液などが直ちに別の施設へ移されたと伝えています。盗まれたデータや暗号化(身代金目的のランサムウェア)は報じられておらず、selectraは今回の件を「妨害行為(サボタージュ)」と位置づけています。

EFSとはどんな組織か

EFSは献血の受け付けから血液製剤の保管、病院への供給までを担うフランスの公的機関です。

日本でいえば、日本赤十字社の血液事業にあたる存在です。

血漿(けっしょう)などの血液製剤は、品質を保つために低温での保管が欠かせません。保冷室の温度が上がれば、製剤そのものを廃棄しなければならなくなります。今回狙われたのは、まさにその保管の要の部分でした。

「110度」は本当に110度になったのか

110度は機器に送られた設定値と報じられており、保冷室や血液製剤が実際に110度に達したことは確認されていません。

selectraは「指示値であり、実際に血漿がその温度に達したわけではない」と明記しています。冷却設備は設定を変えられてもすぐに庫内温度が跳ね上がるわけではなく、温度は時間をかけて上がっていきます。その途中でEFS側の監視と警報が異常を拾い、夜間の当番技術者が対応しました。

日本の一部報道の見出しは「一時110℃に」と読める書き方になっていますが、元の報道を読む限り、110度は「書き換えられた設定」の数字です。数字だけが独り歩きしないよう、ここは区別して読む必要があります。

被害はあったのか、EFSの発表は

EFSは11月3日の声明で「血液製剤の損失はない」と発表しました。採血と病院への供給も止まらずに続いています。

selectraがまとめたEFSの説明によると、対応は次のとおりです。

  • 影響を受けた保冷室の製品を、ほかの施設へ移した
  • 機器は状況に応じて管理を取り戻すか、停止した
  • 全施設で温度の監視を強化した
  • 保健省と国家情報システム安全庁(ANSSI)と連携している

保健省側も、運用上の影響は「ゼロ」だとしています。警報が働かず朝まで気づかなければ、輸血に使う製剤を大量に失っていた可能性がありました。今回は監視の仕組みが最後の防波堤になった形です。

誰が、どうやって?保守業者と遠隔制御装置

攻撃した者は特定されておらず、犯行声明も出ていません。外部の保守業者を経由した攻撃だったと報じられています。

ル・カナール・アンシェネは、狙われたのはEFSの保冷コンテナの保守を請け負うCoolworld社で、ブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地域を担当していると報じました。ただし、EFSは業者名も地域も確認していません。ここは「仏週刊紙の報道」の段階にとどまります。

EFSが使う機器のメーカーも明らかになっていません。一方で、フランスのサイバー当局ANSSIは10月12日に警報(CERTFR-2026-ALE-012)を出し、デンマークのDanfoss、米国のCopelandとDixellの冷凍設備の遠隔制御装置で「多数の侵害」を把握していると公表しています。原因として挙げたのは、機器の管理画面がインターネットにそのまま公開されていたことです。この警報は10月のスーパーなどの件を受けて出されたもので、EFSで使われた機器や侵入経路を特定したものではありません。

ANSSIが示した対策

ANSSIの勧告の柱は、管理画面をインターネットから切り離し、安全なVPN経由でだけ操作することです。

警報では、霜取りの予定を含む設定の総点検、ファームウェアの更新、初期パスワードの変更も挙げています。さらに、セキュリティ更新が終わった機器(サポート切れ)をネットに出したままにすると侵害される可能性が非常に高く、初期化しても弱点が残るため再び侵入されうると注意しています。攻撃は「継続中の可能性がある」とも書かれています。

10月のフランスのスーパー攻撃と何が同じなのか

共通点は、ネットにつながった冷却設備の遠隔制御を乗っ取り、霜取りや温度の設定を書き換える手口です。身代金を求めない点も同じです。

CNN日本語版(10月15日)によると、10月11日から12日にかけてフランス各地の約700店のスーパーが被害を受け、庫内温度は約6時間で最高50度に達しました。発火した設備もあったとされ、大量の食品が廃棄されています。パリ検察は13日に捜査を始めました。犯行声明はなく、ランサムウェアのような身代金の要求もありません。2つの件を並べると、次のようになります。

項目 10月の仏スーパー 11月の血液機関(EFS)
時期 10月11日〜12日の夜 11月1日夜〜2日
規模 約700店(CNN日本語版) 3拠点
温度 庫内が最高50度に到達 設定値を-30度から110度に変更(実温ではない)
手口 霜取り機能の悪用 温度と霜取りの設定を変更
被害 食品の大量廃棄・一部で発火 血液製剤の損失なし(EFS)
犯行声明・身代金 なし なし(実行者は不明)

表のとおり、規模は違っても手口と、身代金の要求が報じられていない点が重なります。EFSでは監視と警報が働いて損失を防ぎ、スーパーでは食品の廃棄などの被害が出ました。スーパーの冷凍庫は遠隔制御装置で温度を管理しており、そこで霜取り機能を長く動かされたことで庫内の温度が上がりました。

CNN日本語版は、Danfossの制御装置「AK-SM 800A」には8月の報告で遠隔から温度設定を変えられる弱点が指摘されていたこと、Danfoss自身も被害を受けたシステムの多くでソフトの更新が止まっていたと認めたことを伝えています。専門家は、委託先の管理責任と契約上のセキュリティ責任をはっきりさせる必要があると指摘しています。

10月の被害はどのチェーンに広がったか

10月の攻撃は大手チェーンにまたがり、カルフールは最大80店、ムスケテールは150店が被害を受けました。

CNN日本語版によると、ほかにモノプリは490店のうち5%、コオペラティブUは約80店で被害が出ており、スペインやポルトガルなど周辺国でも被害があるとされています。庫内の温度が上がっただけでなく、霜取りで溶けた水による床の浸水も起きました。専門家によると、Danfoss製のソフトは事件の前にフランス国内のネット上で1,700回以上見つかっていたといいます。攻撃者から見れば、狙える機器が外から一覧できる状態だったことになります。

同じ夜に欧州各国のスーパーでも温度が上がった

EFSが狙われたのと同じ11月1日夜から2日にかけ、スウェーデンやベルギーなど欧州各国のスーパーでも冷凍庫の温度が上がりました。

アルジャジーラ(11月2日)によると、異常が出たのは次のような店です。サイバー攻撃かどうかは、この時点では「疑い」の段階です。

10月11日〜12日 フランスのスーパー約700店で冷蔵設備が最高50度に(CNN日本語版)
10月12日 仏ANSSIが警報CERTFR-2026-ALE-012を出し、遠隔制御装置の多数の侵害を公表
11月1日夜〜2日 EFSの3拠点で保冷室の設定を-30度から110度に変更と仏紙報道(同じ夜、スウェーデン・アイルランド・ベルギー・ルクセンブルク・エストニアのスーパーでも温度上昇)
11月3日 EFSが声明「血液製剤の損失はない」

時系列で並べると、10月のフランスの件から3週間で、食品と医療の両方で似た異常が各国から報告されています。ただし、同じ攻撃者によるものか、事件どうしが関連しているかは確認されていません。

  • スウェーデン:大手のICA、Coop(6店)、Axfoodのヨーテボリ近郊の配送センターの冷凍庫
  • アイルランド:SuperValuの223店のうち13店(特定機種の冷却装置が「サイバーインシデント」の影響)
  • ベルギー・ルクセンブルク:Ahold Delhaizeの数十店、ベルギーのSpar 5店
  • エストニア:少なくとも1つのチェーン(設定温度が50度に)

スーパーの冷凍設備の異常について、EUのハンセン農業・食料担当委員は、EUの食料供給を混乱させ人々の信頼を損なう「意図的な試み」だと述べました。欧州各国はこのところインフラへの妨害行為をロシアのしわざだと非難していますが、ロシアは否定しており、今回の一連の件について誰が関わったかは示されていません。

各国の当局はどう見ているか

各国の当局は攻撃の可能性を認めつつも、誰が関わったかの特定には慎重です。断定は出ていません。

アルジャジーラによると、スウェーデン国家サイバーセキュリティセンターの担当者は、国内にネットに露出した制御機器が多数あり、更新や修正の適用を呼びかけてきたと説明しました。ベルギーのサイバーセキュリティセンターは、関与した者を特定できない可能性にも触れています。オランダ系のAhold Delhaizeは、前の月にオランダ警察へサイバーインシデントを届け出ていました。EFSの件も含め、同じ集団によるものかどうかは、現時点の報道では確かめられていません。

日本は他人事ではない?血液と医療の守り方

日本の病院や物流にも遠隔操作できる冷却設備は多く、管理画面の隔離と設定の点検、警報の維持が守りの基本になります。

今回の手口には、高度な技術よりも「管理の穴」が目立ちます。ANSSIが原因として挙げたのは管理画面がネットに公開されていたことで、勧告には更新の適用や初期パスワードの変更といった基本的な対策が並びます。CNN日本語版によれば、Danfossも被害を受けたシステムの多くでソフトの更新が止まっていたと認めています。冷却設備は情報システムの担当ではなく設備の担当や外部の保守業者が管理していることが多く、サイバー対策の目が届きにくい場所です。

(編集部分析)この件で問われるのは「誰が得をするのか」です。現時点でデータの窃取や身代金の要求は報じられておらず、お金目当てではなく、社会の不安をあおり食料や医療への信頼を揺さぶる妨害が目的だった可能性があります。ただし、実行者も動機も確定していません。スーパーの件でEUの担当委員が「意図的な試み」と述べたのも、こうした見方と重なります。実行者は特定されていませんが、欧州が妨害行為への警戒を強めているさなかに、食料と血液という国の生命線が続けて狙われた意味は重いと評価できます。

(編集部分析)日本では献血と血液製剤の供給を日本赤十字社が担い、病院の検体や医薬品、食品の低温物流も冷却設備に頼っています。これらは単なる設備ではなく、有事に国民の命を支える安全保障の基盤です。2025年に成立した能動的サイバー防御の関連法で国の守りの枠組みは動き出しましたが、守る対象が情報システムだけに偏り、冷却設備のような「つながった現場の機械」や、それを預かる中小の保守業者まで目が届いているかは課題が残ります。委託先任せにせず、自分たちの生命線は自分たちで点検する姿勢こそが、主権国家としての備えだと言えるでしょう。

冷却設備を持つ現場が点検したいこと

点検の出発点は、遠隔制御の管理画面がネットから直接見える状態になっていないかを確かめることです。

ANSSIの警報を日本の現場に当てはめると、次の4点が基本になります。

  • 管理画面をインターネットに公開していないか(外からつながるならVPN経由だけにする)
  • 霜取りの予定を含め、設定が勝手に変えられていないか
  • ファームウェアは最新か、サポートが切れた機器を使い続けていないか
  • 初期パスワードのままになっていないか、保守業者のアカウントは誰が管理しているか

着手の順番としては、設備の管理者がまず保守業者に「外から遠隔でつないでいるか」「管理画面がネットに公開されていないか」を問い合わせ、問題があれば情報システムの担当と直し方を相談するのが近道です。確認そのものは手間だけで始められますが、機器の入れ替えや通信経路の作り直しには費用がかかる場合があります。保守を外部に任せている場合は、契約の中で誰がどこまで責任を持つかを確かめておくことも欠かせません。

今回のEFSは、監視と警報が最後に働いたことで被害を出さずに済みました。設備を守る基本の対策と、異常に気づく仕組みの二重の備えが、日本の病院や物流の現場でもそのまま当てはまります。

フランス血液機関のサイバー攻撃のよくある質問

最後に、今回の件で気になりやすい点をまとめます。

Q. 家庭の冷蔵庫も同じように狙われますか?

A. 今回狙われたのは業務用の冷凍設備を遠隔で管理する制御装置で、家庭用の冷蔵庫で同じ被害が出たという報道はありません。ANSSIが名前を挙げたのも、DanfossのAK-SC・AK-SMシリーズなど業務用の機器です。

Q. 温度が上がったスーパーの食品はどうなったのですか?

A. 10月のフランスの件では、温度が上がった店の食品は大量に廃棄されました。冷凍・冷蔵の温度を守れなかった商品は、店頭に出さずに処分されています。

Q. なぜ冷却設備がこれほど狙われやすいのですか?

A. 管理画面がインターネットに公開されたままの機器が多く、外から見つけやすいためです。CNN日本語版によると、Danfoss製のソフトは事件前にフランス国内のネット上で1,700回以上見つかっていました。

Q. 日本で同じ被害が出たという報道はありますか?

A. 11月5日時点で、日本の血液事業や病院の冷却設備が同じ手口で攻撃されたという報道は確認できていません。

冷却設備を管理している方は、まず保守業者に遠隔接続の有無を確かめるところから始めてください。続報が入りしだい、内容を確かめて追記します。

参考情報

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