【9/25】ジムニー欧州販売終了の真相|EUの禁止ではなくCO2規制

スズキ・ジムニーが欧州で売られなくなった経緯は、「EUが自国メーカーを守るためにジムニーの販売を禁じた」という形でYouTubeやSNSで広まっています。後席を外して商用車として売り直したら規制をすり抜け、EUが自分で自分の首を絞めた、という筋書きです。
ただ、報道と欧州委員会の説明を確かめると、EUがジムニーという車種を名指しで禁止した事実はありません。実際に起きたのは、メーカーごとの新車の平均CO2に上限を課す規制の中で、スズキ自身が乗用車版の販売をやめ、2人乗りの商用車に切り替え、その商用車版も2024年ごろから多くの市場で販売を終えた、という流れです。この記事では、2026年9月25日時点で確認できる一次情報と報道をもとに、動画の主張を1つずつ突き合わせます。
この記事でわかること
- 禁止ではない:EUの規制は車種を禁じるものではなく、メーカーの新車平均CO2に目標を課し、超えた分に課徴金をかける仕組みだった。
- ジムニーに起きたこと:CO2が154〜170g/kmと高く、スズキは2020年に乗用車版の受注を止め、同年9月に英国で2人乗りの商用車版を出した。
- その後:2024年7月の時点で商用車版も多くの市場で販売を終えていたと報じられ、ドイツやフランスでは最後の限定車が出た。
ジムニーの欧州販売終了は「EUの販売禁止」なのか
EUがジムニーを名指しで禁止した事実はなく、CO2規制の課徴金を避けるためにスズキが販売の形を変えたのが実態です。
EUの規制は、メーカーが1年間に登録した新車全体の平均CO2に目標を設け、平均が目標を超えた場合にお金を払わせるものです(欧州委員会)。個別の車種を「売ってはいけない」と定める仕組みではありません。ジムニーのようにCO2が多い車種を売ると平均が上がるため、スズキは乗用車としての販売を続けるかどうかを自社で判断しました。
英国の自動車メディアMotoring Researchは2020年1月、ディーラーがジムニーの新規受注を止めるよう指示されたと報じています。つまり販売を止めたのはスズキ側の判断で、EUが販売を差し止めたわけではありません。
欧州でのジムニーの時系列
欧州のジムニーは2019年に発売され、乗用車版から商用車版へ移り、最後は限定車を出して販売を終えました。
報道で日付を確認できた出来事を、流れの図にまとめます。
動画は「2020年にイギリスとドイツに上陸して完売した」と説明していますが、英国での発売は2019年初めです。2020年は、すでに受注を止める段階に入っていた年にあたります。
EUのCO2規制95g/kmとはどんな仕組みか
新車平均CO2のEU全体目標を乗用車95g/km、商用車147g/kmとし、超えた分に課徴金をかける仕組みです。
欧州委員会の説明では、メーカーの新車平均が自社の目標を超えると、超えた1g/kmごとに95ユーロを、その年に登録した新車1台ずつについて払う必要があります。これを「超過排出課徴金」と呼びます。95g/kmと147g/kmは、2020〜2024年のEU全体の目標を旧来の測定方法(NEDC)で表した数字です。乗用車と小型商用車で目標が別々に定められているのが、ジムニーの話の出発点になります。
目標は1台ごとではなく新車全体の平均
95g/kmは1台ずつの上限ではなく、EU全体の新車乗用車の平均目標で、メーカーごとの目標は別に補正されます。
メーカーの目標は、そのメーカーが売る車の重さなどで上下に調整されます。商用車の147g/kmも、乗用車とは別の区分の平均目標です。また、2021年からはメーカーごとの目標が新しい測定方法(WLTP)で算定されるようになりました。このため「ジムニーの数値と95を引き算すれば罰金が出る」という単純な話にはなりません。
2020〜2024年の目標と、2025年からの目標を表にまとめます(数字は欧州委員会の説明による)。
| 区分 | 2020〜2024年のEU全体目標(NEDC) | 2025〜2029年の目標(WLTP) |
|---|---|---|
| 乗用車 | 95g/km | 93.6g/km |
| 小型商用車(バン) | 147g/km | 153.9g/km |
| 超えた場合 | 超えた1g/kmごとに95ユーロ×その年の新車登録台数 | |
2025年からの数字は測定方法が違うため、2024年までの数字とそのまま比べることはできません。どちらもEU全体の目標で、メーカーごとの目標は別に算定されます。乗用車と商用車で目標の水準が大きく違う点を押さえておけば十分です。
欧州のメーカーも同じ規制で課徴金を払っている
この規制は欧州のメーカーにも同じように適用され、フォルクスワーゲンも2020年に課徴金を払っています。
豪州の自動車メディアCarExpertによると、2020年に目標を守れなかったメーカーの課徴金は合計5億1,000万ユーロで、フォルクスワーゲンは目標を0.75g/km超えて1億ユーロを払ったと認めています。同じ記事は、スズキも2020年に目標を10.4g/km上回ったと伝えています。
欧州委員会によると、複数のメーカーが排出量を合算して目標を守る「プール」という仕組みもあります。CarExpertは、2021年以降に課徴金が大きく減った主な理由の1つとして、メーカーがプールを組んだことを挙げています。
(編集部分析)規制が欧州の大手にも課徴金を払わせている以上、「日本車だけを締め出すために作った」とは言えません。一方で、販売の構成によっては、CO2の多い1車種がメーカー平均を押し上げる影響は大きくなります。スズキにとってジムニーはそうした車種の1つだったと評価できます。
ジムニーはなぜ規制に合わなかったのか
ジムニーはCO2が多く、スズキの新車平均を目標に収めるうえで重荷になっていたためです。
ジムニーのCO2は154〜170g/km
報道された値は5速MTで154g/km、4速ATで170g/kmで、EU全体の目標95g/kmを大きく上回ります。
Motoring Research(2020年1月)は、ジムニーのCO2を5速MTで154g/km、4速ATで170g/kmと伝え、3.0Lターボの6気筒を積むBMW M340iよりも多いと書いています。95g/kmとの比較は目安で、スズキに課された目標そのものとの比較ではありません。小さく軽い車でも、角ばった車体と本格的な四輪駆動の仕組みを持つジムニーは、燃費の面では不利です。
動画の「1台60万円超の罰金」はどう計算されたか
動画の数字は「154−95=59g/km×95ユーロ」の計算とみられますが、実際の課徴金はメーカーの新車平均で決まります。
59g/kmに95ユーロをかけると5,605ユーロで、仮に1ユーロ=108円で換算すると約60万5,000円です。これはEU全体の目標95g/kmを使った仮の試算で、スズキが1台ごとに実際に払った額ではありません。実際の課徴金の総額は「(メーカーの新車平均−メーカーの目標)×95ユーロ×その年の登録台数」で決まり、課徴金がかかるのは、スズキの新車平均が自社の目標を超えた場合だけです。平均が目標の内側に収まっていれば、ジムニーを何台売っても課徴金はかかりません。
逆に平均が目標を超えている年は、目標やほかの車の台数が変わらないと仮定すれば、ジムニーを1台売るごとに、そのCO2とメーカーの目標との差の分だけ課徴金の総額が増える計算になります。「1台売るごとに必ず60万円」ではなく、「平均が目標を超えている年には、1台ぶんの上乗せがその程度の大きさになりうる」というのが正確な言い方です。
2人乗りの商用車ジムニーはどんなクルマか
後席を取り外して荷室を広げ、乗用車ではなく小型商用車として登録した2人乗りのジムニーです。
くるまのニュース(2020年10月)によると、英国では2020年7月に乗用車版の販売が終わり、同年9月に商用車版が発売されました。荷室は863Lで、変速機は5速MTだけです。レスポンスは、欧州では2021年から2人乗りの商用車版が用意されたと伝えています。
乗用車版と商用車版の違いを、報道で確認できた範囲で表にまとめます。
| 項目 | 乗用車版 | 商用車版 |
|---|---|---|
| 定員 | 4人 | 2人(後席なし) |
| 荷室 | 後席を使う前提 | 863L・フラットな床 |
| 変速機(英国) | 5速MT・4速AT | 5速MTのみ |
| 属する区分とEU全体目標(NEDC) | 乗用車(95g/km) | 小型商用車(147g/km) |
| 英国での発売 | 2019年初め | 2020年9月 |
商用車として登録するのは、欧州の車両区分のルールに沿った手続きです。動画はこれを「抜け穴」と呼んでいますが、商用車にはもともと別の目標が定められていて、スズキはその区分の条件に合う車を作って届け出た、という理解が正確です。商用車版もCO2規制の対象で、規制そのものを免れたわけではありません。
YouTube動画の主張と報道を突き合わせる
商用車版で戻ったという骨格は報道と合いますが、「EUが禁じた」など脚色の部分は裏付けがありません。
動画の主な主張を、報道と欧州委員会の説明で確かめた結果を表にまとめます。
| 動画の主張 | 確認できたこと | 判定 |
|---|---|---|
| EUがジムニーの販売を禁じた | 規制はメーカーの新車平均に目標を課すもの。受注を止めたのはスズキ側 | 誤り |
| 自国メーカーを守るための規制 | 欧州のメーカーにも同じく適用され、VWも2020年に課徴金を払った | 裏付けなし |
| 2020年に英国とドイツへ上陸 | 英国の発売は2019年初め。2020年は受注停止の年 | 誤り |
| CO2は154g/km | 5速MTで154g/km、4速ATは170g/km | おおむね正しい |
| 1台売るごとに60万円超の罰金 | 課徴金はメーカーの新車平均が目標を超えたときにかかる | 不正確 |
| 後席を外し商用車として復活 | 英国で2020年9月、欧州で2021年から2人乗り商用車版 | 正しい |
| 買った人が乗用向けに改造して楽しんでいる | 広く行われているとする報道は見つからなかった | 確認できず |
| EUの試みは失敗しジムニーが勝った | 商用車版も2024年7月の時点で多くの市場で販売を終えていたと報道 | 結末が抜けている |
いちばん大きな食い違いは、動画が商用車版の「その後」を扱っていない点です。次の見出しで、商用車版がどうなったかを見ます。
商用車のジムニーも欧州から消えた理由
商用車版も、2024年7月の時点で多くの市場で販売を終えていたと報じられ、理由は排出ガス規制の強化とされています。
インドの自動車メディアAutocar Professional(2024年7月10日)は、スズキが欧州でのジムニーの販売をやめると決め、多くの市場ですでに販売を終えていると伝えました。理由は厳しくなる欧州の排出ガス規制としています。英国については、新車のうち一定の割合を電気自動車にするよう求める「ZEVマンデート」が理由として挙げられ、同じ記事は乗用車の場合、割合を超えたエンジン車1台ごとに1万5,000ポンドの支払いがあると書いています。商用車の金額や、制度上の調整の手段については記事では触れていません。
同じ時期、レスポンス(2024年7月11日)は、欧州向けの生産を終える予定で、ドイツで限定車「ホライゾン」を900台出すと報じました。ホライゾンは「コンフォート」グレードをもとに5速MTを積み、ボディ色はミディアムグレーの1色です。さらにAUTOPOST(2025年6月29日)は、フランスで「ジムニー55周年エディション」が2万8,955ユーロで出たと伝えています。
2024年7月には、欧州で新しく登録する車にサイバーセキュリティーの国連規則も適用され、これを理由に販売を終えた車種もあります。ただ、ジムニーについてこれを理由に挙げた報道は、今回確認した範囲では見つかりませんでした。
(編集部分析)「EUの試みは失敗した」という動画の結末は、2020〜2021年の時点で話を止めた場合にだけ成り立ちます。その後、EUの規制強化や英国のZEVマンデートを背景に商用車版も販売終了へ向かったことまで含めると、「規制をすり抜けて勝った」とは言いにくいと評価できます。
日本でジムニーを買う人への影響はあるか
欧州の販売終了で日本仕様や日本での販売が変わるという発表は、今回確認した報道では見つかりません。
日本ではジムニー、ジムニーシエラ、2025年に加わった5ドアのジムニーノマドの販売が続いています。9月下旬も、ジムニーシエラやジムニーノマド向けの新しいパーツやカスタムカーの発表が相次いでいます。ジムニーノマドの価格や納期は、ジムニーノマド2型の価格・納期・1型との違いで整理しています。
読者から出やすい疑問を1つ、ここで答えておきます。
Q. 電気自動車のジムニーは欧州で出るのですか?
A. 2024年7月の時点では、スズキが電気自動車のジムニーを計画し、欧州で先に売る予定だとAutocar Professionalが報じていました。その計画が今も続いているか、欧州での発売日や価格は、今回の取材では確認できていません。
欧州の話は、日本の購入判断には直接つながりません。日本で買う場合は、スズキ公式サイトの国内ラインアップ・価格・販売店の情報で最新の状況を確かめてください。
ジムニーの欧州販売終了のよくある質問
本文で扱いきれなかった疑問に、確認できる範囲で答えます。
Q. 英国はEUを離脱したのに、なぜ同じ時期に販売が止まったのですか?
A. 2020年はまだEU離脱の移行期間中で、EUと同じ規制の下にあったためです。英国は2020年1月末にEUを離脱しましたが、移行期間は2020年末まででした。Motoring Researchは2020年1月、英国でも2020年中はごく少数しか売らないというスズキの説明を伝えています。
Q. 商用車版は日本でも買えますか?
A. スズキが日本で2人乗りの商用車版を売るという発表は確認できません。日本で売られているジムニーは軽自動車、ジムニーシエラとジムニーノマドは登録車の乗用車です。
同じような動画や投稿を見かけたら、規制の中身は欧州委員会のCO2規制の説明で、販売の経緯はスズキの各国向けの発表や当時の報道で確かめてください。「EUが禁止した」という言い方と、「メーカーが規制を見て販売をやめた」という事実は分けて読む必要があります。電気自動車のジムニーなど新しい発表が出たら、この記事を更新します。
参考情報
- 欧州委員会「Cars and vans(CO2排出基準)」https://climate.ec.europa.eu/eu-action/transport-decarbonisation/road-transport/cars-and-vans_en
- Motoring Research「High emissions to halt Suzuki Jimny sales」(2020年1月24日)https://www.motoringresearch.com/car-news/high-emissions-suzuki-jimny-sales/
- Motoring Research「New 2019 Suzuki Jimny prices and specs」https://www.motoringresearch.com/car-news/new-2019-suzuki-jimny-prices-specs/
- くるまのニュース「2人乗りジムニーが登場!? 商用車として登場した人気ジムニー 乗用車仕様との違いとは」(2020年10月7日)https://kuruma-news.jp/post/302162
- レスポンス「スズキ『ジムニー』欧州向け生産終了へ、ドイツ限定900台の『ホライゾン』発表」(2024年7月11日)https://response.jp/article/2024/07/11/383935.html
- Autocar Professional「Suzuki to discontinue sales of Jimny in Europe」(2024年7月10日)https://www.autocarpro.in/news/suzuki-to-discontinue-sales-of-jimny-in-europe-121427
- AUTOPOST「ジムニーが欧州を去る、その別れに用意された“55台”の正体とは」(2025年6月29日)https://www.autopostjp.com/japan-car/article/49737/
- CarExpert「Carmakers paid huge CO2 fines to the EU in 2020, but barely anything since」(2024年4月18日)https://www.carexpert.com.au/car-news/carmakers-paid-huge-co2-fines-to-the-eu-in-2020-but-barely-anything-since
