【10/24】孔子学院を米国防総省が「安保の脅威」に指定|改名した80拠点の解体と日本の13大学

米国防総省は米国時間2026年10月23日(日本時間24日)、中国政府が資金を出す語学・文化教育の拠点「孔子学院」を、米国の国家安全保障への脅威に指定しました。ヘグセス国防長官は、孔子学院が名前と規約を変えて米国の大学に残っていたとして、過去2か月でそれらを一つ残らず解体したと主張しています。この記事では、今回の指定で何が決まったのか、長官が挙げた「30大学・80拠点」という数字の読み方、2020年の国務省の指定から続く米国の経緯、そして日本の大学に置かれている孔子学院の現状を、ロイター、Washington Examiner、Arab News、Military Timesの報道と、日本政府の答弁書をもとに整理します。
この記事でわかること
- 何が決まったか:米国防総省が孔子学院を国家安全保障への脅威に指定しました(ロイター、10月23日)。
- 長官の主張:「30大学で80の新たな宣伝拠点が別の名称で出現し、2か月で全て解体した」。数字は長官の発言として報じられたもので、80拠点の名称や独立した裏付けは示されていません。
- 日本の現状:政府答弁書では2023年4月時点で国内に少なくとも13校。設置を直接決める法律はなく、文部科学省は情報公開を求めるにとどまっています。
米国防総省は孔子学院について何を決めたのか
米国防総省は10月23日、孔子学院を米国の国家安全保障に対する脅威に指定したと発表しました。
ロイターによると、ヘグセス国防長官が金曜日(23日)にこの指定を明らかにしました(ロイター配信、10月23日)。Arab Newsは、国防総省が孔子学院を「米国の国家安全保障を脅かす機関のリスト」に加えたと伝えています(Arab News、10月24日)。
発表は記者会見ではなく、ヘグセス長官がX(旧ツイッター)に投稿した動画で行われました。Washington Examinerは、長官がこれらの組織を「中国政府が後ろ盾の宣伝目的の文化プログラム」と呼んだと報じています(Washington Examiner、10月23日)。
ワシントンの中国大使館は、ロイターとArab Newsのコメントの求めにすぐには応じていません。指定の法的な根拠や、指定によって大学に新たに課される義務については、10月24日時点の報道では明らかになっていません。
ヘグセス長官の「30大学で80拠点」は何を指すのか
孔子学院が名前と規約を変えて大学に残り、その数が30大学で80か所あったという長官の主張です。
Arab Newsによると、長官は動画で、孔子学院が「異なる名称と異なる規約を使って」米国の大学内で活動を続けており、「30大学で80の新たな宣伝拠点」が現れたと述べました。そのうえで、国防総省が過去2か月で「これらの組織を一つ残らず体系的に解体した」としています。目的については、知的財産の窃取と、米国の学生への浸透だと主張しました。
数字は長官の主張で、大学名は出ていない
80と30はヘグセス長官が示した数字で、どの大学のどの組織かは公表されていません。
Arab Newsは、この数字を長官の発言として紹介しています。ただし、記事には80拠点の名称や独立した裏付けは示されていません。Washington Examinerの記事にも大学名はありません。「解体した」が、大学側が自ら閉じたのか、国防総省の資金を止めるなどの手段によるものかも、報道では示されていません。
8月の「30機関の監査」と同じ30かは不明
国防総省は8月にも30の学術機関に監査を命じていますが、今回の30大学と同じかは示されていません。
Military Timesによると、国防総省は8月17日、米国の30の学術機関に対し、連邦法で指定された外国の機関や「改名された孔子学院に関連する組織」との研究・資金の関係を監査し、8月31日までに結果を報告するよう命じました。従わなければ将来の研究助成の資格を失う可能性があるとしています(Military Times、8月17日)。このときも30機関の名前は公表されていません。
長官の言う「過去2か月」は8月下旬からの期間と重なりますが、8月の30機関と今回の30大学が同じ顔ぶれなのか、国防総省は説明していません。ここは続報で確かめる必要があります。
| 項目 | 8月17日の監査命令 | 10月23日の脅威指定 |
|---|---|---|
| 出所 | 国防総省の通知(Military Times) | ヘグセス長官のXの動画(ロイターほか) |
| 対象の数 | 30の学術機関 | 30大学・80拠点(長官の主張) |
| 中身 | 外国機関・改名した孔子学院の関連組織との関係を監査し報告 | 孔子学院を国家安全保障への脅威に指定、全て解体したと主張 |
| 大学名の公表 | なし | なし |
| 両者の関係 | 同じ30かどうかは国防総省が説明しておらず不明 | |
2つの発表は対象の数がそろっていますが、つながりは公式には示されていない、という点を押さえておく必要があります。
孔子学院とはどんな組織なのか
孔子学院は、中国政府が2004年から世界各地に置いてきた、中国語と中国文化を教える非営利の拠点です。
Military Timesによると、孔子学院は中国の教育部と関係があり、2018年時点で数百に上りました。多くは大学と提携し、大学側は少なくとも10万ドル程度のプログラム支援を受けるのが通例だったとしています。
Arab Newsは、米国務省が2020年に示した調査結果として、孔子学院は中国教育部の傘下にある語学教育機関「漢弁(Hanban)」が設立・出資し、中国共産党の統一戦線工作部の政治的な指導と強い監督を受けていたと伝えています。2009年には当時の中国共産党政治局常務委員・李長春氏が、孔子学院を中国の海外宣伝体制の「重要な一部」と述べたと、米当局が指摘しています。
(編集部分析)語学教育の看板を掲げながら、その資金と指導が中国共産党の宣伝部門につながっているという点が、各国で問題にされてきた核心です。中国語を学びたい学生や、教える中国人講師個人の問題ではなく、大学の中に外国政府の宣伝機関が入り込み、大学がそれを資金面で断りにくくなる仕組みの問題だと評価できます。
米国はこれまで孔子学院にどう対応してきたのか
米国は2020年に国務省が「外国公館」に指定し、議会が資金を絞ったことで、大学の孔子学院の多くが閉鎖されました。
2020年8月、当時のポンペオ国務長官は、全米の孔子学院を取りまとめる「孔子学院米国センター」を、中国の「外国公館」に指定しました。日本経済新聞は、国務省が孔子学院を中国共産党のグローバルな宣伝機関と判断したと報じています(日本経済新聞、2020年8月)。指定により、米国センターは人員・資金・活動の定期的な報告を求められるようになりました。
議会も、孔子学院を置く大学への国防総省の資金提供を制限しました。Military Timesは、こうした資金の制限のあと、2023年の政府監査院(GAO)の報告で、ほぼ全ての孔子学院が閉鎖されていたと伝えています。一方で、多くの大学は語学プログラムを別の形に置き換え、一部は元の孔子学院の中国側の提携先から支援を受け続けたとしています。
今回のヘグセス長官の主張は、この「看板を替えて残った部分」を標的にしたものです。
指定・資金の制限・監査と、米国は段階を踏んで締め付けを強めてきたことが分かります。
日本の大学に孔子学院はいくつあるのか
政府の答弁書では、2023年4月時点で日本国内に少なくとも13校の孔子学院が置かれていました。
参政党の神谷宗幣参院議員の質問主意書に対し、岸田内閣は2023年5月12日の答弁書で、政府が把握する限りとして次の13校を挙げました(参議院「内閣参質211第63号」2023年5月12日)。
| 地域 | 孔子学院がある大学(2023年4月時点・政府答弁書) |
|---|---|
| 北海道 | 札幌大学 |
| 関東・甲信 | 桜美林大学、早稲田大学、武蔵野大学、山梨学院大学 |
| 北陸・東海 | 北陸大学、愛知大学 |
| 近畿 | 立命館大学、大阪産業大学、関西外国語大学 |
| 中国・九州 | 岡山商科大学、福山大学、立命館アジア太平洋大学 |
この13校は2023年4月時点の数字です。その後に閉鎖や新設があったかどうか、政府が新しい数を示した資料は確認できていません。2024年3月8日の答弁書では、2024年2月時点で早稲田大学高等学院に「孔子学院と同様の機関」が置かれていると政府が答えています(参議院「内閣参質213第53号」2024年3月8日)。
日本政府は孔子学院をどう扱っているのか
日本には孔子学院の設置を直接決める法律がなく、政府は大学に情報公開を求めるにとどまっています。
2023年の答弁書で政府は、孔子学院は学校教育法上の学校などには当たらないとみられ、設置の手続きを定めた法律はなく、設置を規律するほかの法令も把握していないと答えました。「実質的に外国政府の統制下にある機関」かどうかについては、言葉の意味が明確でないとして答えていません。
文部科学省は、大学の自主的・自律的な運営が妨げられないよう、孔子学院を置く学校法人に運営情報の公開を働きかけてきたとしています。2024年の答弁書では、2023年12月の事務連絡で収支などの公開を求めたこと、教員の氏名や教育内容、予算・決算の公開が進んでいると説明しました。管理の強化や閉鎖が必要な場合、法令違反がある場合は「適切に対処する」としています。
Q. 日本で孔子学院を閉鎖させる法律はありますか?
A. 2023年と2024年の政府答弁書では、孔子学院の設置を直接規律する法令は把握していないとされています。ただし政府は、法令違反や教育研究活動への支障がある場合は適切に対処する方針を示しています。
米国が「脅威」と指定した組織に対し、日本は所管する法律を持たず、大学の自主的な公開に頼っている状態です。
米国の指定は日本にどう関わるのか
米国が脅威と認めた孔子学院は、2023年時点で日本の13校にあり、設置を直接規律する法令は把握されていません。
日本の13校は2023年4月時点の政府答弁書の数字で、2026年10月現在の設置状況は確認できていません。
米国は2020年の国務省の指定から6年かけて、資金の制限、研究機関への監査、そして今回の脅威指定へと進みました。日本では、設置の数を把握しているのも国会議員の質問主意書への答弁が中心で、大学ごとの公開内容にも差があります。
(編集部分析)ヘグセス長官の挙げた数字や大学名は検証を待つ必要がありますが、「看板を替えて残る」という指摘そのものは、日本にもそのまま当てはまり得ます。名前が孔子学院でなくなれば、今の答弁書の数え方からも外れかねません。国が把握の仕組みを持たないまま大学の善意に任せる状態は、経済安全保障や技術流出の対策を進める流れとかみ合っていないと評価できます。大学の学問の自由を守るためにも、外国政府の資金と指導がどこまで入っているかを、国が自ら確かめられる制度を整えることが問われます。
あわせて、中国語や中国文化を学ぶこと自体や、中国人の講師・留学生個人を問題にするのではなく、外国政府の宣伝機関の仕組みを問題にするという線引きも、制度を作るうえで欠かせません。
孔子学院の脅威指定のよくある質問
解体が実際に確かめられるか、米国の大学の中国語教育はどうなるか、日本の大学での調べ方を、10月24日時点で分かる範囲で整理します。
Q. 80拠点が実際に解体されたことは確認できますか?
A. 10月24日時点では外から確かめる手段がありません。国防総省は拠点の名前も、解体の手段(大学が自ら閉じたのか、資金を止めたのか)も示していないためです。大学側の発表や議会への報告が出れば、そこで初めて検証できます。
Q. 孔子学院がなくなると、米国の大学の中国語教育もなくなるのですか?
A. なくなるわけではありません。Military Timesによると、孔子学院を閉じた多くの大学は、大学自身の学科や、米政府が支援する語学プログラム、台湾と連携したプログラムに置き換えています。問題にされているのは中国語教育そのものではなく、中国政府の資金と指導が入る仕組みです。
Q. 自分の大学に孔子学院があるか、どう調べればいいですか?
A. 上の13校の一覧は2023年4月時点の資料で、今も設置されているかの確認には使えません。手がかりにとどめ、大学の公式サイトで最新の情報を確かめてください。
自分の大学や子どもの進学先について確かめたいときは、次の順で見ると確実です。
- 大学の公式サイトで「孔子学院」や、中国側の提携機関の名前を検索する
- 見つかったら、設置の経緯・運営主体・教員・予算と決算・規約が公開されているかを見る(文部科学省が大学に公開を求めている項目です)
- 公開されていない点や、名前を変えた後継の組織があるかは、大学の広報や国際交流の担当窓口に問い合わせる
日本政府や各大学が今回の米国の決定にどう応じるかは、続報で確かめる必要があります。
参考情報
- ロイター配信(WHBL掲載)「Pentagon designates Confucius Institutes a national security threat」2026年10月23日
- Washington Examiner「Hegseth announces dismantling of Chinese ‘sleeper organizations’ at universities」2026年10月23日
- Arab News「US Defense Department designates China’s Confucius Institutes a national security threat」2026年10月24日
- Military Times「Pentagon scrutinizes foreign research ties at 30 US academic institutions」2026年8月17日
- 日本経済新聞「孔子学院は『中国の宣伝機関』 米が認定、監視強める」2020年8月
- 参議院「内閣参質211第63号(孔子学院に関する答弁書)」2023年5月12日
- 参議院「内閣参質213第53号(孔子学院に関する答弁書)」2024年3月8日
