【9/23】旧敵国条項の「現実的意義」とは 中国が高市首相の削除要求に反論
中国外務省は2026年9月23日の定例記者会見で、国連憲章の「旧敵国条項」には「現在もなお重要な現実的意義がある」と述べ、高市早苗首相が国連総会の一般討論演説で求めた条項の早期削除に反対しました。
一方で国連は、1995年の総会決議でこの条項を「時代遅れ(obsolete)」と認め、2005年の世界サミット成果文書では「敵国」への言及を削除すると決意しています。この記事では、中国の言う「現実的意義」の中身、高市首相の演説の該当部分、条項の条文、そして30年近く削除されないままになっている理由を、国連文書と外務省の公表資料で整理します。
この記事でわかること
- 「現実的意義」の中身:中国外務省は、条項を「軍国主義の再来を防ぐ制度上の取り決め」と位置づけ、今も有効だと主張しています。
- 国連での扱い:1995年の総会決議で「時代遅れ」と認められ、2005年には全加盟国の首脳が第53・77・107条からの削除を決意しています。
- 削除されない理由:条文を消すには憲章改正が要り、常任理事国5か国を含む加盟国の3分の2の批准が必要です。削除のための改正はまだ採択されていません。
旧敵国条項の「現実的意義」とは?中国外務省が9月23日に述べたこと
中国外務省は、旧敵国条項がファシズムや軍国主義の再来を防ぐ仕組みとして、今も効力と意味を持つと主張しました。
発言したのは郭嘉昆報道官です(毎日新聞は肩書を副報道局長と表記しています)。人民網日本語版によると、郭氏は9月23日の定例記者会見で、日本は当時、軍国主義の犯罪を認め、国連憲章の全内容を受け入れたうえで国連に加盟したと述べました。そのうえで、敵国条項は「戦後の国際秩序を守るための重要な制度的保障」であり、「現在もなお重要な現実的意義がある」と語っています。
郭嘉昆報道官の発言で押さえるべき3点
中国側の主張は、加盟時の受け入れ、軍国主義の防止、戦後秩序の保障の3点に分けて読めます。
1つ目は「日本は憲章の全部を受け入れて加盟した」という点で、条項の存在を日本自身が認めたという論法です。2つ目は、条項の目的を「ファシズムや軍国主義が再び国際平和の脅威となることを防ぐ」ことだとする点で、共同通信もこの部分を報じています。3つ目は、条項を戦後秩序の一部として扱い、削除要求を秩序への挑戦と結びつける点です。毎日新聞によると、郭氏は同じ会見で、日本の現政権は侵略の歴史を否定するだけでなく再軍事化を加速させているとも述べています。
「新型軍国主義」批判との関係
今回の反論は、中国が2025年秋から続けている高市政権への批判の延長線上にあります。
産経新聞は、中国政府が高市首相の台湾有事に関する国会答弁をきっかけに対日姿勢を硬くし、高市政権を「新型軍国主義」などと批判していると伝えています。旧敵国条項は、その批判に「国連憲章の裏付けがある」と見せるための材料として使われている、と読むことができます(編集部分析)。
高市首相は国連演説で旧敵国条項について何を求めたか
高市首相は、2005年の総会決議に従って旧敵国条項を「早急に削除されるべき」だと演説で訴えました。
演説は現地時間9月22日(日本時間23日)、ニューヨークの国連本部で行われた第81回国連総会の一般討論演説です。外務省が公表した演説全文では、国連改革の必要性を述べた直後に、次のように語っています。
「81年を経た国連憲章も、見直されなければなりません。『旧敵国条項』について、2005年には、全加盟国首脳の決意として、国連憲章から『敵国』への言及を削除するとの国連総会決議が採択されています。この決議に従い、同条項は早急に削除されるべきです。」
首相は続けて「70年間に渡り、国連の取組に大きく貢献してきた日本の誇りと名誉にかけて、強く申し上げておきます」と述べ、そのあと安全保障理事会の改革へ話を進めています。条項の削除を、安保理改革を含む国連改革の入り口として位置づけた構成です。
同じ演説で触れたほかの論点
演説は旧敵国条項だけでなく、安保理改革、法の支配、北朝鮮、AIまで幅広く扱っています。
外務省の全文によると、首相は、常任理事国が他国を侵略し自国の行為に関する決議に拒否権を使う状況では、安保理は機能していないと言わざるを得ないと指摘しました。日本が国際司法裁判所(ICJ)や国際刑事裁判所(ICC)などを一貫して支持し判事を出してきたこと、拉致問題を一刻も早く解決しなければならないこと、AIサミットを早期に日本で開きたいことにも触れています。Bloombergは、ロシアと北朝鮮の軍事協力による核・ミサイル関連技術の拡散への懸念も示したと伝えています。演説前の論点は「高市首相の国連演説の焦点」で整理しています。
旧敵国条項とは何か 第53・77・107条の中身
旧敵国条項は、第二次世界大戦で連合国の敵だった国を特別扱いする、国連憲章の3つの条文を指します。
対象国の名前は条文に書かれていませんが、第53条2項が「敵国」を「第二次世界大戦中にこの憲章のいずれかの署名国の敵国であった国」と定めており、日本やドイツが含まれると解されています。3つの条文の中身を並べると次のとおりです。
| 条文 | 定めていること | 「敵国」の扱い |
|---|---|---|
| 第53条 | 地域的機関による強制行動には安保理の許可が要る | 敵国の侵略政策の再現に備える措置は、安保理の許可がなくても例外として認める |
| 第77条 | 信託統治の対象になる地域 | 第二次世界大戦の結果として敵国から分離された地域を対象に含める |
| 第107条 | 大戦の結果として取られた行動の扱い | 責任を負う政府が敵国に対して取った行動を、憲章は無効にしない |
表のとおり、問題になるのは主に第53条と第107条です。Bloombergは、憲章には「敵国」に対して安保理の承認を得なくても軍事行動を取れるとする例外規定があると説明しています。ただし第53条の例外は「侵略政策の再現に備える」場合に限られ、敵国への武力行使を無条件に認める規定ではありません。第77条の信託統治は、信託統治理事会が1994年に最後の地域パラオの独立を受けて活動を止めており、実質的な意味はなくなっています。
旧敵国条項はすでに「死文化」しているのか 1995年決議と2005年成果文書
日本政府は死文化したと説明し、中国は今も意義があると主張しています。条文そのものは削除されていません。
日本政府が条項を「死文化した」と説明する根拠は、次の2つの総会文書です。毎日新聞によると、日本外務省は1995年の決議を根拠に、条項は既に死文化したとして中国側に反論しています。
旧敵国条項をめぐる主な流れ
国連憲章に第53・77・107条
日本が国連に加盟
総会決議50/52で「時代遅れ」と認める
成果文書60/1で削除を決意
中国側が条項を持ち出す
高市首相が削除を要求、中国が反論
図のように、2005年の削除の決意は、2026年9月時点でも憲章の条文改正には至っていません。
1995年の総会決議50/52の中身
1995年12月11日の総会決議50/52は、旧敵国条項が「時代遅れ」になったと認め、削除の手続きに入る意思を示しました。
この決議は、国連憲章特別委員会の報告を受けて採択されたもので、憲章改正の手続きを「適切な最も早い会期」に始める意図を記しています。ただし「意図」にとどまり、改正案の採択そのものは行っていません。
2005年の世界サミット成果文書177項
2005年の成果文書177項で、各国首脳は第53・77・107条から「敵国」への言及を削除すると決意しました。
文書番号はA/RES/60/1で、2005年9月16日に採択されています。高市首相が演説で「全加盟国首脳の決意」と表現したのはこの文書です。成果文書は国連創設60年の首脳会合で投票なしで採択されたもので、1995年の決議を踏まえたうえで削除を明記しています。ただし、総会決議は憲章そのものを書き換える力を持たないため、条文は今も残っています。
中国も1995年決議と2005年成果文書に賛成していた
日本外務省は、中国が1995年決議に賛成し、2005年の成果文書の採択にも加わったと説明しています。
日本経済新聞は2025年11月23日、日本外務省がこの点を挙げて中国側に反論したと報じました。中国自身が「時代遅れ」と認めた条項を、いま「現実的意義がある」と主張していることになり、日本側はこの食い違いを突いています。
旧敵国条項はなぜ今も削除されていないのか 憲章改正の手続き
削除には憲章改正が必要ですが、1995年と2005年の合意は改正手続きの完了に至っていないためです。
国連憲章第108条は、改正には常任理事国5か国すべてを含む加盟国の3分の2の批准が要ると定めています。手順は次のとおりです。総会決議の「決意」だけでは条文は変わらず、この手順を最後まで通す必要があります。
| 段階 | 必要なこと | 旧敵国条項の現状 |
|---|---|---|
| 1. 改正案の採択 | 総会構成国の3分の2の賛成 | 削除のための改正は採択されていない |
| 2. 各国の批准 | 加盟国の3分の2が自国の憲法上の手続きで批准 | 批准の段階に至っていない |
| 3. 常任理事国の同意 | 米英仏中ロの5か国すべてが批准に含まれること | 中国は削除要求に反論(批准の可否は未表明) |
表の3段目が最大の壁です。中国は常任理事国なので、中国が批准しなければ改正は発効しません。9月23日の会見で中国は削除要求に反論しましたが、将来の改正案を批准するかどうかについては述べていません。
憲章改正はこれまで何回あったか
国連憲章の改正はこれまで3回で、条文から特定の語を削る改正は一度も行われていません。
国連広報センターの憲章日本語訳によると、1回目は1963年採択の第23・27・61条の改正(安保理の理事国を11から15に増やすなど)、2回目は1965年採択の第109条の改正(憲章再検討会議の招集要件)、3回目は1971年採択の第61条の改正(経済社会理事会の構成国を54に増やす)です。いずれも機関の規模や手続きの要件を変える改正で、旧敵国条項の削除はこの3回のどれにも含まれていません。
中国はなぜ2025年から旧敵国条項を持ち出すのか 日中の主張の違い
中国は2025年11月ごろから、日本への軍事的な牽制の根拠として旧敵国条項を繰り返し持ち出しています。
Bloombergによると、在日本中国大使館は2025年11月、日本が再び侵略に向けた行動を取った場合、中国には「直接的な軍事行動」を取る権利があるとXに投稿しました。2026年9月にも中国外務省の毛寧報道官が、同条項は有効だと述べています。日中双方の主張を並べると、次のようになります。
| 論点 | 中国の主張 | 日本の主張 |
|---|---|---|
| 条項の効力 | 現在もなお重要な現実的意義がある | 1995年の決議で死文化している |
| 加盟時の約束 | 日本は憲章の全内容を受け入れて加盟した | 2005年に全加盟国首脳が削除を決意した |
| 中国自身の態度 | 9月23日の会見では言及なし | 中国も1995年決議に賛成し2005年文書に加わった |
| 求めること | 歴史を鑑とし深く反省すること | 決議に従い早急に削除すること |
表の3行目が、日中の主張で最もかみ合っていない部分です。9月23日の郭報道官の回答では、1995年決議と2005年成果文書への言及はありませんでした。日本は決議の存在を前面に出しています。
旧敵国条項は日本にとって何が問題か
条文が残る限り、中国が日本への軍事行動を正当化する「口実」として使い続けられる点が、最大の問題だと考えられます(編集部分析)。
日本政府は、1995年と2005年の総会文書を経た今、条項は死文化していると説明しています。それでも、中国の大使館や外務省が公式の場で「有効」と繰り返すことで、第三国に「日本は今も監視対象の旧敵国だ」という印象を与えるリスクがあると考えられます(編集部分析)。外交上の主張に使われることと、軍事行動が国際法上認められることは別の問題です。
国益の観点では、条文の放置は外交上のコストを生むおそれがあると考えられます。台湾海峡の緊張が続くなかで、隣国が「安保理の許可なしに行動できる」と読める条文を外交カードとして手元に残している状態は、日本の安全保障上の弱点と評価できます(編集部分析)。首相自身は演説で、削除を求める理由を「2005年の決議に従い」「日本の誇りと名誉にかけて」と説明しています。国連総会という場で公式に否定しておいたことには、中国の主張に反論する記録を国際社会に残す効果があったと評価できます(編集部分析)。
旧敵国条項の削除でこれから見るべきこと
当面の焦点は、日本が改正案の提出や安保理改革と組み合わせた働きかけに踏み込むかどうかです。
演説は「削除されるべき」という要求の表明で、改正案を出すとは述べていません。常任理事国の中国が反対を表明した以上、日本が単独で改正案を出しても批准の段階で止まる可能性が高く、米英仏など他の常任理事国や、同じく旧敵国とされるドイツとどう足並みをそろえるかが次の見どころになります。国内では、テレビ朝日の報道によると10月5日に召集される臨時国会で、野党が首相の外交方針をどう質すかも注目点です。
読者が次にできることとしては、外務省が公表している演説全文と、国連の2005年成果文書の177項を読み、「首相が求めたこと」「国連が2005年に決意したこと」「実際に条文が改正されたか」の3点を照らし合わせることをおすすめします。報道の見出しだけでは「中国が反対」「日本が要求」という対立に見えますが、原文を読むと、削除そのものは国連として一度決意された話だと分かります。
旧敵国条項のよくある質問
最後に、旧敵国条項について検索されやすい疑問を、本文で触れきれなかった点を中心にまとめます。
Q. ドイツも削除を求めているのですか?
A. 今回の高市首相の演説に合わせて、ドイツが同じ要求をしたという報道は、9月24日時点で確認できていません。2005年の成果文書は全加盟国の首脳会合で採択されたもので、ドイツもその参加国です。
Q. 「旧」敵国条項の「旧」は条文にあるのですか?
A. 条文にはありません。憲章の文言は「敵国」だけで、日本の報道や政府の説明では、第二次世界大戦時の敵国を指す条項という意味で「旧敵国条項」と呼ばれています。
条文の原文や決議の全文は、下の参考情報から確認できます。
参考情報
- 外務省「第81回国連総会における高市早苗内閣総理大臣の一般討論演説」 https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/un/pageit_000001_03218.html
- 人民網日本語版「高市首相が『敵国条項』削除を国連演説で主張、中国外交部がコメント」(2026年9月23日) http://j.people.com.cn/n3/2026/0923/c94474-20503176.html
- 毎日新聞「中国外務省、旧敵国条項は『重要』 高市首相の国連演説に反発」(Yahoo!ニュース、2026年9月23日) https://news.yahoo.co.jp/articles/72c5685b44c329e0913d151d15636eae7b75d918
- 産経新聞「中国、高市首相の旧敵国条項削除要求に反対姿勢を示す」(Yahoo!ニュース、2026年9月23日) https://news.yahoo.co.jp/articles/4e255ba2a2497e8d44b90be22f2dbcf7e2c213ce
- Bloomberg「高市首相、『旧敵国条項』の削除を国連演説で主張-中国に反論」(Yahoo!ニュース、2026年9月23日) https://news.yahoo.co.jp/articles/f98a226160885451df62677cd29e1560e64cadb0
- テレビ朝日系(ANN)「高市総理 トランプ大統領との会談の成果を強調」(Yahoo!ニュース、2026年9月23日) https://news.yahoo.co.jp/articles/b20f03c1375145058f8c79dba55a5b7de3b2d442
- 日本経済新聞(2025年11月23日) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA231KL0T21C25A1000000/
- 国連総会決議60/1「2005年世界サミット成果文書」 https://undocs.org/A/RES/60/1
- 国連総会決議50/52(1995年12月11日) https://undocs.org/A/RES/50/52
- 国連広報センター「国際連合憲章」日本語訳 https://www.unic.or.jp/info/un/charter/text_japanese/
