【9/25】ナウルがICC脱退表明 理由と発効時期、トランプ氏との関係
南太平洋の島国ナウルのアデアン大統領が、ニューヨークで開かれている国連総会の一般討論演説で、国際刑事裁判所(ICC)から脱退する方針を表明しました。同じ日の演説で、トランプ米大統領がICCの加盟国に脱退を呼びかけていたため、「アメリカの呼びかけに応じたのか」と注目が集まっています。
この記事では、ナウルが何を表明したのか、脱退はいつ効力を持つのか、トランプ氏の呼びかけとの関係はどこまで分かっているのかを、共同通信・NHK・ロイターなどの報道と、国連の条約集・ICCの公式ページで確かめた事実をもとに整理します。先に結論を書くと、ナウルの脱退は国連への通告から1年後に発効します。9月25日時点で国連の条約集にはまだ通告が載っておらず、トランプ氏の呼びかけとの直接の関係も明らかになっていません。
この記事でわかること
- 何が起きたか:ナウルのアデアン大統領が現地時間9月22日、国連総会でICC脱退の方針を表明。理由は「存在意義が薄れつつある」。
- いつ発効するか:ローマ規程127条により、国連事務総長への通告から1年後。9月25日時点で国連条約集の脱退一覧には未掲載。
- トランプ氏との関係:同じ日に脱退を呼びかけていたが、直接の関係は報道でも「明らかではない」。同じ総会で脱退方針を示したのはナウルだけとロイターは伝えている。
- ほかの国の動き:2026年はニジェール、ブルキナファソ、マリ、ベネズエラ、チャドが脱退を通告済み。日本はICC最大の資金拠出国。
ナウルのICC脱退とは?国連総会で何を表明したのか
ナウルのアデアン大統領が9月22日(現地時間)の国連総会一般討論で、ICCを定めたローマ規程から抜ける方針を示しました。
共同通信によると、アデアン大統領はICCについて「存在意義が薄れつつある」と脱退の理由を説明しました。この演説はニュージーランドのメディアが24日に報じ、日本でも共同通信・日本経済新聞・NHK・東京新聞などが伝えています(出典:共同通信 2026年9月24日、東京新聞 2026年9月24日)。
アデアン大統領の演説で語られたこと
大統領はICCを「重要性が下がり続けている」国際機関の一つと呼び、ニューヨークを離れる前に脱退文書を出すと述べました。
ニュージーランドの公共放送RNZによると、アデアン大統領は太平洋諸島フォーラムの首脳として最初に今回の国連総会(第81回)で演説しました。ICCについては「of increasing irrelevance(ますます意味を失いつつある)」機関の一つだと述べ、「ニューヨークを発つ前に、ローマ規程の寄託先へ脱退の文書を提出する」と話しています(出典:RNZ 2026年9月24日)。
演説の中心はICCではなく、国名の変更、主権、小さな島国を対等に扱うよう求める主張でした。ICCへの言及は、国連やほかの国際機関のあり方を批判する流れの中で出てきたものです。
脱退はいつ発効するのか
ICCからの脱退は、国連事務総長が脱退の通告を受け取ってから1年後に効力を持ちます。
ICCを設けたローマ規程は127条で、締約国は国連事務総長への書面の通告で脱退でき、効力は通告の受領から1年後に生じると定めています(出典:国連 ローマ規程 第13部 最終条項)。共同通信も「受理されれば1年後に正式発効する」と伝えています。
編集部が9月25日に国連の条約集(ローマ規程の締約状況のページ)を確認したところ、脱退を通告した国の一覧にナウルはまだ載っていませんでした(出典:国連条約集 ローマ規程の締約状況)。今の段階は「方針の表明」で、発効までの1年間はまだ締約国のままです。
トランプ大統領は国連総会でICCについて何と言ったのか
トランプ大統領は9月22日の一般討論演説で、ICCを「邪悪な組織だ」と批判し、全ての加盟国に脱退を呼びかけました。
共同通信によると、トランプ氏はICCが米国を不当に標的にしていると主張し、「反米的な法廷」だとして、米軍関係者らを捜査の対象にすることを許さないと訴えました。同じ演説では、人工知能(AI)開発を規制する国際的な枠組みづくりを「全面的に拒否する」とも述べています(出典:共同通信 2026年9月23日)。
米国がICCを批判する理由
米国はICCに加盟しておらず、加盟していない米国やイスラエルの国民にまでICCが管轄権を及ぼそうとしていると反発しています。
ロイターによると、米政府はICCが批准していない国の国民に管轄権を行使しようとしているのは権限の逸脱だと主張しています。米国はすでにICCの職員に金融制裁やビザの発給制限を科し、追加の制裁も準備しているとされます。ルビオ国務長官は7月、必要ならICCを「1つ1つ解体する」と述べたと伝えられています(出典:ロイター 2026年9月25日)。
赤根智子ICC所長への制裁
米国は2026年8月18日、日本人のICC所長である赤根智子氏を制裁の対象に指定しました。
愛知県弁護士会の会長声明によると、米政府は赤根所長と上級法廷法律家のアブドゥライ・セイ氏の2人を、2025年2月6日付の大統領令14203号に基づく制裁対象に指定したと発表しました。対象者は米国内の資産凍結と入国禁止を受け、事実上、米国の金融システムから締め出されます(出典:愛知県弁護士会 会長声明)。共同通信は、ICCを支持する日本と米国の立場の違いが鮮明になっていると伝えています。
ナウルの脱退とトランプ氏の呼びかけは関係があるのか
同じ日の出来事ですが、ナウルの脱退方針がトランプ氏の呼びかけを受けたものかどうかは、報道でも「明らかではない」とされています。
共同通信は「ナウルは近年、米国との経済協力関係を強めているが、直接関係があるかどうかは明らかではない」と書いています。NHKは、米国の圧力を背景に同調する国が広がるかが焦点だと伝えました(出典:NHK 2026年9月25日)。RNZも、アデアン大統領の表明はトランプ氏が同じ日に先に呼びかけたあとだったと、順番を伝えるにとどめています。
2つの演説の順番を時系列で並べると、次のとおりです。
時系列が近いことは確かですが、それだけで「呼びかけに応じた」とは言えません。ナウル政府が脱退の理由として挙げたのは、あくまでICCの「存在意義が薄れている」という点です。
同じ総会で脱退方針を示したのはナウルだけ
ロイターによると、今回の国連総会でICCからの脱退方針を示した国はナウルだけで、ほかに続いた国はありません。
ロイターは「呼応はナウルだけ」との見出しで、国連総会で脱退の意向を示したのはナウルのみだと報じました。ただし、ナウルの判断が呼びかけを受けたものかどうかは確認されていません。ロイターによると、欧州を中心とする多くの国はICCを国際司法の柱として擁護していると伝えています。欧州連合(EU)は米国の追加制裁に対抗するため、制裁の効力を域内で打ち消す「ブロッキング規則」の策定を協議しているといいます(出典:ロイター 2026年9月25日)。
国連での投票や外交姿勢
ナウルは国連の投票で米国と歩調を合わせることが多い一方、大統領は演説で「すべての国の友」という外交方針を強調しました。
トルコのアナドル通信は、ナウルがイスラエル・パレスチナをめぐる国連の採決で米国と足並みをそろえることが多く、2025年の二国家解決を支持する決議にも反対票を投じたと伝えています(出典:アナドル通信 2026年9月23日)。一方でRNZによると、アデアン大統領は演説の締めくくりで「すべての国の友であり、どの国の敵でもない」と述べ、各国との関係は「どれも別の関係の代わりにはならない」と話しています。
ナウル(ナオエロ)とはどんな国か
ナウルは南太平洋にある世界最小の独立共和国で、2026年7月に正式な国名を「ナオエロ共和国(Naoero)」に変えました。
国名を「ナオエロ」に変えた理由
ナウル政府は、ナオエロは現地語に基づく伝統的な名前で、すでに国民に定着しているとして、国民投票をせずに国名を改めました。
太平洋諸島センターによると、議会は5月に憲法改正案を全会一致で可決し、アデアン大統領の提案で正式な国名をナオエロ共和国(Republic of Naoero)、略称をナオエロ(NRO)としました。国連を含む国際機関にはすでに通知済みです(出典:太平洋諸島センター 2026年8月4日)。日本語の表記は決まっておらず、日本の報道は今回も「ナウル」の表記を使っています。海外の報道では「Naoero」の名前でICC脱退が伝えられているため、英語で検索するときは両方の名前で探すと見つけやすくなります。
深海底の鉱物採掘をめぐる国際機関への批判
アデアン大統領は同じ演説で、深海底の鉱物採掘のルールづくりが遅れているとして、国際海底機構(ISA)も批判しました。
RNZによると、ナウルは太平洋の島国の中でもクック諸島、キリバス、トンガと並んで深海底採掘を強く推す国です。大統領は、ナウルが15年にわたって深海底の探査を支えてきたこと、自国が関わる企業ナウル・オーシャン・リソーシズ(NORI)がISAのデータベースにあるクラリオン・クリッパートン海域のデータの3分の1以上を提供してきたことを挙げ、採掘規則(マイニングコード)の完成を求めました。「私の国のような国に成果を出せない多国間の仕組みは、そもそも成果を出していない」とも述べています。
ICC脱退の表明は、こうした国際機関への不満の文脈の中で出てきたものです。
小さな島国の経済事情
ナウルは2027年1月に高所得国の扱いになる見通しですが、大統領は歳入の多くを他国との取り決めに頼る弱さを訴えました。
RNZによると、アデアン大統領は経済協力開発機構(OECD)の基準で2027年1月に高所得国とみなされると説明したうえで、「歳入の58%は、自分たちでは更新を決められない二国間の取り決めから来ている」「国民が食べる食料の87%は輸入品だ」「滑走路は1本、港は1つ、すべてをつなぐ道路は1本だ」と述べ、所得だけで国を評価しないよう求めました。
ICCを脱退した国・脱退を通告した国は?
脱退が発効したのはブルンジとフィリピンの2か国で、2026年はアフリカ3か国を含む5か国が脱退を通告しています。
国連条約集に載っている脱退の通告を、通告日の順に並べると次のとおりです。撤回した国も含めています。
| 国 | 通告日 | 発効日・状態 |
|---|---|---|
| 南アフリカ | 2016年10月19日 | 撤回 |
| ブルンジ | 2016年10月27日 | 2017年10月27日に発効 |
| ガンビア | 2016年11月10日 | 2017年2月に撤回 |
| フィリピン | 2018年3月17日 | 2019年3月17日に発効 |
| ハンガリー | 2025年6月2日 | 撤回 |
| ニジェール | 2026年6月18日 | 2027年6月18日に発効予定 |
| ブルキナファソ | 2026年6月24日 | 2027年6月24日に発効予定 |
| マリ | 2026年6月24日 | 2027年6月24日に発効予定 |
| ベネズエラ | 2026年7月24日 | 2027年7月24日に発効予定 |
| チャド | 2026年7月27日 | 2027年7月27日に発効予定 |
| ナウル(ナオエロ) | 未掲載(9月22日に方針表明) | 通告の受領から1年後 |
表のとおり、2026年は6月以降に通告が続いており、ナウルが通告すれば今年6か国目になります。ブルンジとフィリピンは、いずれも通告からちょうど1年後に脱退が発効しています(出典:国連条約集)。
脱退を撤回した国もある
通告は発効前なら取り下げられ、南アフリカ、ガンビア、ハンガリーは撤回しています。
国連条約集によると、ガンビアは2017年2月10日に脱退の通告を取り下げました。ハンガリーも2025年6月2日に通告したあと、通告を取り下げたことが記録されています。ナウルの場合も、通告してから1年の間は撤回の余地が残ります。
アフリカ3か国の脱退にICC側が出した声明
ICC締約国会議の議長団は、ブルキナファソ・マリ・ニジェールの脱退に「懸念」を示し、締約国にとどまるよう呼びかけました。
議長団の声明は、脱退によって締約国だった期間に生じた義務がなくなるわけではないと指摘しています(出典:ICC 締約国会議議長団の声明)。ナウルが脱退した場合も、締約国だった間に起きた事件への協力義務は残るということです。
ナウルが抜けるとICCの締約国数はどう変わるか
ICCの締約国は現在125か国で、この数には脱退を通告して発効を待っている5か国も含まれています。
ICC締約国会議の公式ページは、ローマ規程の締約国を125か国としています(出典:ICC締約国会議「締約国一覧」)。ニジェールなど5か国は発効日の2027年6〜7月まで締約国として数えられるため、今の125か国から直ちに減るわけではありません。
通告済みの5か国と、これから通告するナウルの脱退がすべて予定どおり発効すると、2027年秋ごろには締約国が119か国になる計算です(撤回や新規加盟がない場合の編集部の試算)。ナウルは2000年12月13日にローマ規程に署名し、2001年11月12日に批准した、ICC発足(2002年7月1日)前からの締約国です(出典:国連条約集)。
日本にはどんな影響があるのか
ナウル1か国の脱退で日本の制度は変わりませんが、脱退が続けば最大の資金拠出国である日本の負担割合が変わる可能性があります。
日本は2007年7月17日にローマ規程に加入しました(出典:国連条約集)。米国・中国・ロシアが加盟していないため、日本はICCの予算を最も多く負担する国で、2023年の分担率は15.9%で1位、2位はドイツの11.4%、3位はフランスの8.5%でした(出典:nippon.com 2024年6月18日)。所長も日本人の赤根智子氏が務めています。
ロイターによると、日本政府は米国の制裁案を「極めて遺憾」とし、赤根所長への支援を協議しています。
(編集部分析)日本にとってICCは、法の支配を重んじる外交の看板であり、最大の出資国として発言力を持てる数少ない国際機関です。一方で、制裁を科しているのは同盟国の米国で、日本は同盟関係と国際司法への支持を両立させる難しい立場に置かれていると評価できます。小さな国の脱退が続けば、残った締約国、とりわけ日本の負担の比重が相対的に重くなる可能性もあり、脱退の広がり方は注視が必要です。
ナウルのICC脱退で今後の焦点は
焦点は、ナウルが実際に国連へ脱退を通告するか、ほかの国が続くか、米国が追加制裁に踏み切るかの3点です。
国連への通告はいつ出るのか
アデアン大統領は「ニューヨークを離れる前に」通告すると述べており、提出されれば国連条約集の脱退一覧に通告日が載ります。
その日から1年後が発効日になるため、今年9月中に通告されれば、発効は2027年9月ごろになります。通告の有無は国連条約集で確かめられます。
ほかの国は続くのか
今回の総会で脱退方針を示したのはナウルだけですが、2026年はすでに5か国が通告しており、脱退の動きそのものは続いています。
NHKは米国の圧力で同調が広がるかを焦点に挙げています。一方で欧州は擁護に回っており、EUのブロッキング規則の協議や、米国の追加制裁の中身が、ほかの国の判断に影響するとみられます。
ナウルのICC脱退のよくある質問
最後に、本文で触れきれなかった疑問に答えます。
Q. ナウルはもうICCを脱退したのですか?
A. まだです。9月22日に方針を表明した段階で、9月25日時点では国連条約集に通告が載っていません。通告が受理されてから1年後に脱退が発効します。
Q. ICCは国連の機関ですか?
A. 国連の機関ではありません。国連広報センターによると、ICCは法律的にも機能的にも国連から独立した常設の裁判所で、国連との協力は関係協定で定められています。安全保障理事会は、締約国でない国に関わる事態もICCに付託できます(出典:国連広報センター「国際刑事裁判所」)。
Q. ICCの本部はどこにありますか?
A. オランダのハーグです。ローマ規程3条が、裁判所の所在地をハーグと定めています(出典:国連 ローマ規程 第1部)。
Q. ICCではどんな犯罪を裁くのですか?
A. ジェノサイド(集団殺害)犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪の4つです。国ではなく、個人の刑事責任を問う常設の国際刑事裁判所です。
参考情報
- 共同通信「ナウル大統領がICC脱退方針 国連演説で『存在意義薄れ』」(2026年9月24日)
- 共同通信「米、ICC脱退呼びかけ トランプ氏、国連で演説」(2026年9月23日)
- 東京新聞「ナウル大統領がICC脱退方針」(2026年9月24日)
- NHK「ICC脱退をナウルが表明 米国による圧力で同調広がるか焦点」(2026年9月25日)
- 日本経済新聞「ナウル、ICC脱退方針を表明」(2026年9月24日)
- ロイター「トランプ氏のICC脱退呼びかけ、呼応はナウルだけ 欧州など反発」(2026年9月25日)
- RNZ「Naoero tells UN it will withdraw from ICC」(2026年9月24日)
- アナドル通信「Naoero president tells UN General Assembly country will withdraw from ICC」(2026年9月23日)
- 国連条約集「Rome Statute of the International Criminal Court」締約状況
- 国連「ローマ規程 第13部 最終条項(127条)」
- ICC締約国会議「The States Parties to the Rome Statute」
- ICC「ブルキナファソ・マリ・ニジェールの脱退に関する締約国会議議長団の声明」
- 太平洋諸島センター「ナウル政府公式に国名を『ナオエロ共和国』に変更」(2026年8月4日)
- 愛知県弁護士会「ICC赤根智子所長らに対する米国政府の制裁措置に抗議する会長声明」
- nippon.com「国際刑事裁判所への資金拠出は日本が1位」(2024年6月18日)
