「性犯罪者にGPS所持」2027年度に実証実験へ|なぜ「本人の同意」が条件なのか、義務化までの距離【2026年9月8日】
法務省が、仮釈放中の性犯罪加害者にGPS(衛星利用測位システム)機器を所持させる実証実験を2027年度にも始める方針を固めたと、共同通信が2026年9月8日に報じました。同省への取材に基づく報道で、対象は本人の同意を得られた人に限られます。政府が「GPS機器の装着を義務づけることを検討する」と初めて明記したのは2020年6月です。6年を経ても義務づけではなく同意を前提とした実験から始まるのはなぜか、報道と公表資料で確認できる範囲を整理します。
この記事でわかること
- 開始時期:共同通信の報道によれば2027年度にも実証実験を開始する方針。テレビ朝日系は、必要な機器の費用を法務省が概算要求に計上していると伝えています。
- 対象:仮釈放中の性犯罪加害者のうち、同意を得られた人のみ。具体的な対象犯罪は今後絞り込むと報じられています。
- 機器の形態:足首などに固定する装着型ではなく、本人が持ち歩く「所持型」を想定。
- 使い方:行動を記録し、夜間に屋外をうろつくなど再犯の兆候が見られれば保護観察官が指導する、と報じられています。
- 同意が条件になった理由:公表されていません。報道で確認できるのは「同意を得られた人のみを対象とする」という条件までです。
- 次の段階:再犯防止に一定の効果があると判断されれば、所持の義務づけと対象犯罪の拡大を検討するとされています。
- 先行例:韓国は2008年9月から装着型の電子監視を法律に基づいて運用。日本の今回の枠組みとは強制力も機器の形も異なります。
法務省は2027年度に何を始めるのか
共同通信によれば、同意した仮釈放者にGPS機器を持たせ、行動の記録を保護観察の指導に使う実証実験です。
共同通信が2026年9月8日に配信した記事は、法務省が仮釈放中の性犯罪加害者にGPS機器を所持させる実証実験を2027年度にも始める方針を固めたと伝えました。同省への取材に基づく報道で、法務省が同日にプレスリリースなどで公式発表した事実は確認できていません。テレビ朝日系(ANN)は同日、必要な機器の費用を法務省が概算要求に計上していると伝えています。
装着型ではなく「所持型」を想定
足首などに固定する装着型ではなく、本人が持ち歩く形の機器が想定されていると報じられています。
報道で確認できるのはこの一点までです。持ち歩かなかった場合や、置き忘れ・電源を切った場合にどう扱うのか、通知や警報の仕組みがあるのかについては、現時点で公表された説明がありません。所持型か装着型かは制度の重さを大きく変える部分なので、実施要領が出た段階で改めて確認する必要があります。
夜間の徘徊など「再犯の兆候」を見る
共同通信は、夜間に屋外をうろつくなど再犯の兆候があれば保護観察官が指導すると報じています。
仮釈放者には、更生保護法が定める一般遵守事項として、保護観察官や保護司の面接を受け、求められたときに生活の実態を示す事実を申告し資料を提示する義務があります。GPSの記録をこの面接指導に活用する方針だと報じられていますが、記録をどの範囲で使うのかは公表されていません。
| 項目 | 報道されている内容 | 出所 |
|---|---|---|
| 開始時期 | 2027年度にも | 共同通信(2026年9月8日) |
| 対象 | 仮釈放中の性犯罪加害者のうち同意した人。テレビ朝日系は保護観察付き執行猶予の対象者も含む案と報じている | 共同通信/テレビ朝日系 |
| 対象犯罪 | 今後絞り込む(未公表) | 共同通信 |
| 機器の形態 | 装着型ではなく所持型を想定 | 共同通信 |
| 記録の使い道 | 再犯の兆候があれば保護観察官が指導 | 共同通信 |
| その先 | 効果が認められれば所持の義務づけ・対象犯罪の拡大を検討 | 共同通信 |
| 予算 | 必要な機器の費用を概算要求に計上 | テレビ朝日系(ANN) |
この表のとおり、報じられているのは枠組みだけで、誰に何台をどれだけの期間持たせるのかという運用の中身は公表されていません。
なぜ「本人の同意」が条件なのか
理由は公表されていません。報道で確認できるのは「同意を得られた人のみを対象とする」という条件までです。
ここから先は編集部の整理です。GPSによる継続的な位置の把握は、対象者のプライバシーに関わります。更生保護法にはGPS機器の携帯を名指しした規定はなく、一方で特別遵守事項には包括的な定めもあるため、同意なしに所持を求められるかどうかは法的な整理を要する論点です。政府が2020年の方針で「義務づけることを検討する」という書き方をとり、6年を経た今回も同意を前提とした実験から始まるのは、この整理がまだ終わっていないことをうかがわせます。ただし法務省がその理由を説明した資料は、現時点で確認できていません。
同意ベースだと何が分からないままになるのか
同意した人と同意しない人で、そもそも再犯リスクの性質が違う可能性が残ります。
これも編集部の整理です。指導に協力的な人ほど同意しやすいと考えるのが自然で、その集団だけを追いかけて再犯が少なかったとしても、GPSの効果なのか、もともと再犯しにくい人が集まったのかを切り分けられません。実証実験の結果を義務化の判断材料として使うときに問われる論点になります。法務省が対象犯罪を今後絞り込むとしているのも、どの層を対象にするかという設計の話です。
2020年の政府方針から6年、どこまで進んだのか
義務づけを定める法改正には至らず、同意を前提とした実証実験を計画する段階まで来ました。
政府は2020年6月11日に「性犯罪・性暴力対策の強化の方針」を決定し、仮釈放中や執行猶予中の性犯罪者の再犯防止策として、GPS機器の装着を義務づけることを検討すると明記しました。当時の記者会見でも、プライバシー権への懸念と、海外で成果が出ているとされる例の両方が指摘されています。その後、2023年3月に閣議決定された第2次再犯防止推進計画にも再犯防止策の充実が盛り込まれました。ただし、GPSの所持や装着を義務づける法改正は、この6年間で実現していません。
GPS義務づけ論のこれまで
政府方針でGPS装着の義務づけを「検討」と明記。2年程度を目途とした
第2次再犯防止推進計画を閣議決定。GPS義務づけの法制化には至らず
同意者限定の実証実験を2027年度にも始める方針と報じられる
効果が認められれば所持の義務づけ・対象犯罪の拡大を検討
並べると、義務づけへ直行せず、同意を前提とした実験を1段はさむ形になっていることが分かります。
先行する韓国の制度と何が違うのか
韓国は法律に基づく装着型で強制力があり、日本の今回の実験は所持型で同意が前提という点が違います。
韓国では2008年9月1日に「特定性暴力犯罪者に対する位置追跡電子装置装着に関する法律」が施行され、性暴力犯罪の前歴者を対象とする位置追跡が始まりました。2009年の改正で未成年者を対象とした誘拐犯罪が加えられ、法律の名称も「特定犯罪者に対する位置追跡電子装置装着に関する法律」に改められています。再犯率が下がったとする報告はありますが、低下の幅は媒体によって数字が割れており、そのまま日本に当てはめられるものではありません。
| 論点 | 日本(2027年度の実証実験・報道ベース) | 韓国(2008年9月〜) |
|---|---|---|
| 強制力 | 同意した人のみ | 法律に基づく装着 |
| 機器 | 所持型を想定 | 身体に装着する型 |
| 対象 | 性犯罪。具体的な罪名は未公表 | 特定の性暴力犯罪から出発し、誘拐など他の犯罪へ拡大 |
| 位置づけ | 保護観察の指導材料(報道による) | 法律に根拠を置く監督制度 |
同じ「GPS」でも、日本が始めようとしているのは監督の制度ではなく、指導に使う記録集めだという点は押さえておく必要があります。
義務化を論じる前に見ておきたい論点
効果の測り方、対象犯罪の線引き、位置情報の扱いの3つは、いずれも現時点で公表されていません。
この3つは編集部が公表情報から整理したもので、法務省が「この3点を決める」と公式に示したものではありません。効果については、同意者だけを集めた実験で義務化の判断材料になる数字が出るのかという問題があります。対象犯罪は「今後絞り込む」と報じられているだけで、どの罪名を含めるかは示されていません。位置情報の保管期間、閲覧できる範囲、実験終了後の削除についても、公表された説明はありません。義務化の是非を論じる材料は、この3点が出てからそろいます。
よくある質問
Q. いつから始まりますか
A. 2027年度にも開始する方針と報じられています。開始日や実施場所は公表されていません。
Q. 対象になるのは何人ですか
A. 公表されていません。報じられているのは仮釈放中の性犯罪加害者のうち同意した人という条件だけで、規模は示されていません。
Q. 断ることはできますか
A. 同意を得られた人のみが対象と報じられているため、同意しなければ実証実験の対象にはならないと読めます。拒否した場合に処遇上どう扱われるかは公表されていません。
Q. 機器を置き忘れたらどうなりますか
A. 公表されていません。所持型を想定するとの報道までで、持ち歩かなかった場合の通知や取り扱いは示されていません。
Q. 位置情報は誰が見るのですか
A. 公表されていません。保護観察官の指導に使うと報じられていますが、閲覧できる範囲や保存期間の説明はありません。
今後どこを確認すればよいか
法務省の予算資料と、実証実験の実施要領が出た時点の中身を見るのが確実です。
具体的には、2027年度(令和9年度)予算に計上された機器費用の額、法務省保護局が公表する実施要領、対象犯罪と対象人数と実施期間、位置情報の保存・閲覧・削除の規定、そして義務づけに関する法案が国会に提出されるかどうかの5点です。今回報じられた内容はいずれも同省への取材に基づくもので、公式発表の形で出そろってはいません。数字や条件が変わる可能性を前提に追う必要があります。
参考情報
- 共同通信「仮釈放中の性犯罪者にGPS所持 法務省、同意者限定で実証実験へ」(2026年9月8日配信)
- テレビ朝日系(ANN)「仮釈放中の性犯罪者にGPS端末所持させる実証実験検討 来年度にも 法務省」(2026年9月8日配信)
- 日本経済新聞「仮釈放中の性犯罪者にGPS、法務省が実証実験へ 本人同意が条件」
- 日本経済新聞「性犯罪者GPS装着検討 政府強化方針を決定」(2020年6月11日)
- 国立国会図書館「韓国における性犯罪者の再犯防止対策―情報公開と位置追跡電子装置―」
- 国立国会図書館「【韓国】再犯防止のためのGPS監視に対する評価と対象範囲」
