スペイン総選挙は11月29日|住宅政令の否決で議会解散、極右ボックス入閣の可能性

スペインのサンチェス首相は2026年10月5日、議会(下院)を解散し、11月29日に総選挙を行うと発表しました。きっかけは10月2日、政府が出した住宅対策の政令2本が下院で否決されたことです。本来の任期満了は2027年夏で、約8か月の前倒しになります。

直近の世論調査では、最大野党の国民党(PP)が第1党となり、移民の規制を掲げる右派政党ボックス(Vox)と合わせて過半数の176議席を上回る結果が並んでいます。ボックスが政権に入れば、ロイター通信によるとフランコ独裁の終わりと民主化以来、初めて「極右」とされる政党が中央の政治に加わることになります。

この記事でわかること

  • 解散の理由:住宅政令2本が10月2日に178対172、184対166で否決され、少数与党の政権運営が行き詰まりました。
  • 選挙の見通し:2社の世論調査で国民党140〜143議席、ボックス62〜63議席。両党で過半数176を超えます。
  • 日本から見る論点:住宅への投資マネー、国境と移民、政権中枢の汚職疑惑。どれも日本にとって他人事ではありません。
目次

スペインはなぜ議会を解散したのか

住宅危機への対策として出した緊急政令2本を下院が否決し、少数与党のまま法案を通す見込みが立たなくなったためです。

共同通信によると、下院が政令の承認を否決したのは10月2日(金)です。スペインの政令(デクレト・レイ)は閣議で決めればすぐに効力を持ちますが、30日以内に下院の承認を得なければ失効します。今回の2本は閣議決定(9月29日)から数日で、効力を失うことになりました。

サンチェス首相は週末に対応を検討したうえで、5日朝に首相府(モンクロア宮)で解散を発表しました。テレビ演説では「国民の支持を改めて得る必要がある」と述べています(ロイター)。

10月2日の採決:住宅政令は178対172と184対166で否決

1本目は反対178・賛成172の6票差、2本目は反対184・賛成166の18票差で否決されました。

スペインの報道サイトmoncloa.comによると、1本目に反対したのは国民党137人、ボックス33人、カタルーニャの地域政党ジュンツ7人、ナバラの地域政党UPN1人です。2本目ではバスクの地域政党PNVとカナリア連合も反対に回りました。採決の内訳を表にまとめます。

政令 主な中身 結果 反対に回った主な政党
1本目 立ち退きの制限、家賃と短期賃貸・間貸しの規制 反対178・賛成172 国民党137、ボックス33、ジュンツ7、UPN1
2本目 賃貸契約の期限をなくす(無期限化) 反対184・賛成166 上記に加えPNV、カナリア連合

与党が頼りにしていたジュンツが国民党・ボックスと同じ側に立ったことで、数の上で勝ち目がなくなりました。

否決された住宅政令の中身

立ち退きの制限、家賃の規制、投資ファンドによる住宅の買い占めの制限、賃貸契約の自動更新が柱でした。

スペインの英字紙オリーブ・プレスによると、政令には借り手と貸し手への減税も含まれていました。背景には深刻な住宅不足があり、同紙は国内で約70万戸が足りず、住宅価格は2026年4〜6月期に前年比12.2%、家賃は2025年に8.5%上がったと伝えています。9月にはマドリードで87歳の女性が70年住んだ家から立ち退かされ、各地で数万人規模の抗議が起きていました(ユーロニュース)。

11月29日の総選挙までの日程と下院の勢力図

投票日は11月29日(日)です。現在の下院は与党2党が147議席、国民党137、ボックス33で、与党は過半数176に届きません。

現在の下院では、共同通信によるとサンチェス首相の社会労働党(PSOE)が121議席で第2党です。左派連合スマール(26議席)と連立を組み、カタルーニャやバスクの地域政党の協力を得て政権を運営してきました。第1党は2023年7月の前回総選挙で137議席を取った国民党で、ボックスは33議席の第3党です。

項目 内容
解散の発表 2026年10月5日(月)
投票日 2026年11月29日(日)
本来の任期満了 2027年夏
下院の定数と過半数 350議席・過半数176
与党の議席(現有) 社会労働党121+スマール26=147
主な野党の議席(現有) 国民党137、ボックス33、ジュンツ7、UPN1

与党2党を足しても147議席で、過半数まで29議席足りません。この差を地域政党で埋める構図が、今回の否決で崩れました。なお首相を選ぶ下院の信任投票は、1回目は過半数176票が必要で、届かなければ2回目は賛成が反対を上回れば選ばれます。

サンチェス政権に重なっていた3つの圧力

解散の直接の契機は住宅政令の否決ですが、その前から住宅危機・汚職疑惑・移民危機の3つが政権に重なっていました。

ロイター通信は、サンチェス首相がパレスチナの国家承認などで国際舞台では存在感を示した一方、国内では連立内の不和や汚職疑惑で支持が低迷していると伝えています。首相自身も演説で「われわれを支える社会の多数派の一部が、今、不満を抱いていることも承知している」と認めました。

住宅危機:家賃の上昇と立ち退きへの怒り

家賃と住宅価格の上昇が続き、立ち退きをめぐる抗議が広がって、政府に住宅対策を求める圧力が強まりました。

政府は規制強化で応えようとしましたが、議会で政令を通す力がありませんでした。住宅対策を掲げて通せなかったことが、解散の直接の引き金になっています。

汚職疑惑:元運輸相の収監と首相の妻・兄の裁判

社会労働党の幹部だった元運輸相の収監に加え、首相の妻と兄も裁判の当事者になっています。

英字紙オリーブ・プレスによると、首相の妻ベゴニャ・ゴメス氏は影響力の不正行使などの疑いで裁判にかけられることになり、兄のダビド・サンチェス氏は2026年7月に有罪とされ、9年間の公職就任禁止を言い渡されました。新型コロナ期のマスク調達をめぐる「コルド事件」も続いています。

サンチェス首相は9月、米ハーバード大学での講演で家族の件について「汚職でもスキャンダルでもない」「汚い政治だ」と述べ、対立陣営による中傷だとの見方を示しました(オリーブ・プレス)。

(編集部分析)首相が身内の件を「汚い政治」と呼ぶのは本人の主張として受け止めますが、兄に有罪判決が出たことや元幹部が収監されたことは、司法の手続きの中で起きている事実です。政権の中枢で公共事業の発注や人事がどう決まっていたのかは、政官の癒着を問う観点から有権者が判断材料にしてよい論点です。疑惑の数が多いほど、政策の中身より「誰が得をしてきたか」が問われる選挙になると評価できます。

移民危機:7月末のセウタへの大量越境

7月末、北アフリカの飛び地セウタへモロッコ側から数万人が越境し、政府は軍を送りました。

カタールの衛星放送アルジャジーラは7月31日、数日間で約6万人がセウタに入り、少なくとも34人が死亡したと報じました(越境者の人数は報道によって幅があります)。サンチェス首相は現地を訪れ、セウタを「マドリードと同じように守る」と述べ、早期の送還を約束しています。

(編集部分析)セウタの件は、国境を自分で管理できるかという主権の問題そのものです。首相が「マドリードと同じように守る」と言わざるを得なかったこと自体、国境管理の失敗が政権の信頼を損ねたことを示しています。移民の受け入れを「人手不足の解消」や「人道」だけで語ると、国民が負う治安・社会保障・住宅のコストが見えにくくなります。ボックスが支持を伸ばした一因に、この見えにくいコストへの不満がある可能性があります。

世論調査では国民党とボックスが過半数を超える

解散直前の2つの調査では、国民党が140〜143議席、ボックスが62〜63議席で、両党で203〜205議席です。

スペイン紙エル・エスパニョールが10月4日に報じたソシオメトリカ社の調査(10月1〜3日)と、エル・ムンド紙のシグマ・ドス社の調査(9月22日〜10月1日・2,116人)の議席予測を並べます。

政党 2023年の議席 ソシオメトリカ(得票率/議席) シグマ・ドス(得票率/議席)
国民党(PP) 137 33.4%/143 32.6%/140
社会労働党(PSOE) 121 26.5%/106 25.6%/103
ボックス(Vox) 33 18.1%/62 18.3%/63
国民党+ボックス 170 205(UPNを足して206) 203

どちらの調査でも、国民党単独では過半数176に届かず、ボックスの議席が加わって初めて過半数を超えます。つまり政権の形を決めるのはボックスです。

2023年の33議席と比べると、ボックスの予測議席は62〜63議席と約2倍です。社会労働党は121議席から103〜106議席へ減り、国民党との差は30議席以上に開く予測になっています。

ソシオメトリカの調査では、社会労働党・スマール・ポデモスを合わせても114議席にとどまります。ただし両調査とも住宅政令の否決や解散の発表より前、または直後の短い期間に取ったもので、選挙戦を通じて数字が動く余地はあります。

極右ボックスが入閣したら何が変わるのか

国民党がボックスの支持で政権を取れば、民主化後初めて「極右」とされる政党が中央の政権に加わる可能性があります。

ロイター通信は「世論調査によると、国民党がボックスの支持を得て連立政権を率いる可能性が最も高い」とし、実現すればフランコ死後の民主化以来、初めて極右政党が中央の政治に参加することになると伝えました。ボックスが閣僚を出す「入閣」になるのか、閣外で協力する形になるのかは、選挙後の交渉で決まります。

ボックスとはどんな政党か

ボックスはサンティアゴ・アバスカル氏が率い、移民の規制、地域の独立運動への反対、国家の一体性を掲げる政党です。

日本経済新聞によると、ボックスは2019年11月の総選挙で第3党に躍進しました。2023年の前回総選挙では33議席で第3党を保っています。国民党の党首はアルベルト・ヌニェス・フェイホー氏で、フェイホー氏は今回の選挙を「汚職か、まっとうさか」の選択だと位置づけています(オリーブ・プレス)。

「中道離れ」は欧州全体の流れ

欧州では中道政党から離れる有権者が増え、右派・極右とされる政党が前例のない勢いで支持を広げています。

ロイター通信もこの流れを、有権者の「中道離れ」と極右の伸長として伝えています。

サンチェス氏が敗れれば、欧州に残る数少ない左派政権の1つが終わることになるとも同通信は指摘しました。スペインの選挙は、欧州全体の政治の重心がどこへ動くかを示す一戦でもあります。

(編集部分析)大手メディアは「極右」という呼び名を使いますが、その言葉だけで有権者の選択を判断するのは公平ではありません。見るべきは、ボックスが何を訴えて支持を伸ばしたかです。国境の管理、地域の分離独立への反対、国家の一体性といった主張は、主権国家としての自立を重んじる立場から見れば、ごく当たり前の論点を含んでいます。一方で、政権に入れば実際の政策で結果を出す責任を負います。主張を現実の制度にどう落とすかが、今後の評価の分かれ目になると考えられます。

サンチェス首相と野党はどう訴えているか

首相は「進歩派の多数」を広げると訴え、国民党は汚職を争点に据えています。

ロイター通信によると、サンチェス首相は「われわれは支持者を結集し、議会で進歩派の多数勢力を大幅に拡大しなければならない。既得権益を乗り越え、社会をさらに前進させ、スペインの変革を続けられる勢力が必要だ」と述べました。一部のスペインメディアは、否決された住宅政令を改めて閣議にかける案も伝えましたが、解散後にどう扱うかは明らかになっていません。

(編集部分析)首相は「既得権益を乗り越える」と訴えていますが、議会で政令を通せなかった原因は、地域政党の協力に頼る政権の組み立てそのものにあります。少数の地域政党が国全体の政策を左右する状態は、国民の多数の意思が政策に届きにくい構造だと言えます。解散して民意を問い直すこと自体は、民主主義の筋として評価できます。

日本から見たスペイン総選挙の論点

住宅への投資マネー、国境と移民、政権中枢の汚職という3つの論点は、日本の政治にもそのまま重なります。

スペインの住宅政令が投資ファンドによる住宅の買い占めを制限しようとしたのは、資本が住まいを投資商品に変え、住民が住めなくなる事態が起きていたからです。セウタには7月末の数日で約6万人が入り、軍と警察が投入されました。

(編集部分析)国境の管理が一度崩れると、短い期間で社会が対応しきれなくなります。日本でも、外国資本による土地や住宅の取得、外国人労働者の受け入れ拡大が進んでいます。スペインの例が示すのは、「市場に任せる」「人手不足だから受け入れる」という説明の裏で、誰が得をし、誰がコストを払うのかを早い段階で問わないと、あとから取り返すのが難しくなるということです。日本人としては、他国の選挙を対岸の火事として眺めるのではなく、自国の主権と暮らしを自分たちで守る制度を先に整える教訓として受け止めるべきだと考えます。

スペイン総選挙のよくある質問

スペインの解散総選挙について、検索されやすい疑問をまとめます。

Q. スペインの総選挙はいつですか?

A. 2026年11月29日(日)です。サンチェス首相が10月5日に議会の解散とあわせて発表しました。

Q. 新しい首相はどうやって決まりますか?

A. 選挙後に開かれる新しい下院の信任投票で決まります。1回目は過半数176票が必要で、届かなければ2回目は賛成が反対を上回れば選ばれます。日程はまだ決まっていません。

Q. 開票結果はいつ分かりますか?

A. 投票は11月29日(日)で、開票は投票の締め切り後、現地の29日夜に始まります。日本時間では11月30日(月)の早朝にあたります。

Q. サンチェス首相はいつから首相ですか?

A. 2018年6月からです。当時の国民党政権への不信任決議が可決され、首相に就きました。

選挙戦の世論調査や結果が出たら、この記事の数字と見比べてみてください。

参考情報

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