【11/5】トランプ氏「ミスター拒否権」の次の一手|民主が両院制覇、覆すには3分の2

【11/5】トランプ氏「ミスター拒否権」の次の一手|民主が両院制覇、覆すには3分の2

アメリカ中間選挙で民主党が上院・下院の両方で多数派を確実にし、トランプ大統領は残り2年あまりの任期を「ねじれ議会」と向き合うことになりました。そこで注目されているのが、トランプ氏が選挙前から口にしていた「拒否権を全部使う」という方針です。日本の報道では「ミスター拒否権」という言葉で伝えられています。

この記事では、「ミスター拒否権」とは何を指すのか、選挙結果を受けたトランプ氏の発言、議会が拒否権を覆すのに必要な「3分の2」の中身、拒否権の応酬で止まりそうな政策、イラン戦争と議会の関係、下院の調査権と弾劾、新議会の日程、そして日本への影響を、11月5日朝(日本時間)までの報道をもとに整理します。選挙結果そのものの詳細は、前日の記事にまとめています。

この記事でわかること

  • ミスター拒否権:トランプ氏は10月23日、民主党が議会を握れば「全部に拒否権を使う」と述べ、取引に持ち込む考えを示していました。
  • 覆す条件:拒否された法案を成立させるには、上下両院それぞれで出席議員の3分の2の賛成が要ります。民主党の議席だけでは届きません。
  • 次の焦点:イラン戦争を止める法案、下院の調査と召喚状、2027年1月に始まる新議会での予算の攻防です。
目次

「ミスター拒否権」とは?トランプ氏が選挙前に予告した全面拒否

民主党が議会を握った場合、議会が通す法案に大統領の拒否権を使い続けるというトランプ氏の方針を指す言葉です。

英紙インターナショナル・ビジネス・タイムズ(IBTimes UK)によると、トランプ氏は10月23日(米国時間)、ホワイトハウスの南庭で記者団に対し「共和党が勝つと思う。だが、いわゆる膠着状態になれば、私は全部に拒否権を使う」と述べました。さらに「そうすれば民主党が来て取引をしたがる。だからうまくやる」と続けています。拒否権を交渉の材料にする、という考え方です。

日本では、読売新聞が「民主党主導の議会なら『ミスター拒否権』になると豪語していたトランプ氏」と報じ、MBSニュースも見出しに「ミスター拒否権になる」という言葉を使いました。ただし、トランプ氏本人が英語で「ミスター・ベトー(Mr. Veto)」と名乗った発言の原文は、この記事の時点で確認できていません。確認できている英語の発言は、上に挙げた「全部に拒否権を使う(I veto everything)」です。「ミスター拒否権」は、この方針を日本の報道が短く言い表した呼び方と受け止めるのが正確です。

拒否権は、合衆国憲法第1条第7節が大統領に与えている権限です。議会が可決した法案に大統領が署名せず、理由を添えて議会へ差し戻すと、その法案はそのままでは成立しません。議会と大統領の党派が違う「ねじれ」の時期には、この権限が政権の最大の武器になります。

選挙結果を受けてトランプ大統領は何と言った?

トランプ氏は結果を受け入れると述べた一方、「民主党と協力する」と言いつつ拒否権を使う考えも重ねて示しました。

CBSニュースのまとめによると、トランプ氏は結果を受け入れるかと問われ「もちろん受け入れる。受け入れない理由があるか」と答えました。米政治メディア「ポリティコ」の電話取材では「民主党とは協力する」と述べ、自分には強い拒否権があるとして、良くないと考える法案には拒否権を使うという趣旨を語っています。FOXニュースの生出演では、拒否権を「大統領の持つ最も強い権限の一つ」と呼び、「数カ月拒否権を使えば」民主党の側から「どうすれば物事を進められるか」と電話してくるだろう、と話しました。移民政策では協力できる余地があるとの見通しも示しています。

選挙結果については「少し驚いた」「もっとうまくいくと思っていた」と述べ、「もし自分が投票用紙に載っていたら勝っていた」とも語っています(CBSニュース)。イラン戦争が議席を減らした原因だという見方には、ガソリン価格の上昇を理由に「おおむね正しい」と認めました。それでも「また同じ決断をする」と述べ、イランに核兵器を持たせてはならないという立場は変えていません。

議席の数字も確かめておきます。CBSニュースの11月4日時点の集計では、民主党は上院で少なくとも54議席を確保し、アラスカとミシシッピの2州はまだ決着していませんでした。下院は435議席のうち過半数の218議席が分かれ目で、CBSニュースは民主党の獲得を251〜268議席と推計していますが、約75の選挙区が未確定でした。MBSニュースは、米政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」の日本時間4日午後4時時点の集計として、上院で共和党が7議席減の44議席、民主党が7議席増の54議席と伝えています。いずれも当確報道の積み上げで、最終確定ではありません。

(編集部分析)「協力する」と「拒否権を使う」を同時に口にした今回の発言からは、拒否権を交渉材料にして民主党の譲歩を引き出す狙いがうかがえる。ただし今回は、敗因の一つに自ら挙げたイラン戦争と物価高という重い課題を抱えたままの交渉になる。強気の言葉が、議会での実際の取引力にどこまで結びつくかは、年明けの予算審議で見えてくる。

民主党が両院を制しても拒否権は覆せる?必要なのは3分の2

覆すには上下両院それぞれで出席議員の3分の2の賛成が要り、民主党の議席だけでは届かない見通しです。

合衆国憲法第1条第7節は、大統領が差し戻した法案について、各院が「3分の2」の賛成で再び可決すれば法律になると定めています。この3分の2は、定足数を満たした上で採決に出席した議員の3分の2です。全員が出席した場合で計算すると、下院は435人中290人、上院は100人中67人が必要になります(IBTimes UKも同じ数字を挙げています)。

項目 上院(定数100) 下院(定数435)
過半数 51(50対50なら副大統領が決める) 218
拒否権を覆す3分の2(全員出席の場合) 67 290
民主党の議席(11月4日時点の報道) 少なくとも54(CBSニュース) 251〜268と推計・約75区が未確定(CBSニュース)
3分の2に足りない分 13前後 22〜39前後

上院で民主党が54議席前後、下院で250議席前後という今の報道の数字に当てはめると、どちらの院でも3分の2には届きません。拒否権を覆すには、共和党から上院で十数人、下院で数十人の賛成を集める必要があります。共和党議員の多くはトランプ氏の支持層を地元に抱えているため、大統領と正面から対立する採決に加わる議員は限られると見られます。

実際、トランプ氏の1期目(2017〜2021年)の拒否権は10回で、議会に覆されたのは国防予算の大枠を決める国防権限法の1回だけでした(米上院の公式記録)。国防のように超党派の支持が厚い法案でなければ、3分の2の壁は高いというのが過去の実績です。

上院にはもう一つの壁もあります。法案の多くは、審議を打ち切る手続き(いわゆるフィリバスターの打ち切り)に60票が必要です。民主党が54議席前後では、共和党の協力なしに上院で法案を通すこと自体が難しく、拒否権以前の段階で止まる法案も出てきます。

拒否権の応酬で何が止まる?予算・移民・政府閉鎖のリスク

一番影響が大きいのは毎年の予算で、議会と大統領が折り合えなければ政府機関の一部閉鎖につながります。

アメリカの連邦予算は、議会が歳出法案を可決し、大統領が署名して初めて執行できます。下院を握った民主党は、予算の入り口で政権の優先政策に予算を付けないという手を使えます。一方、大統領は民主党の予算案に拒否権を使えます。双方が譲らなければ、期限切れで政府機関の一部が止まる「政府閉鎖」が起きます。

トランプ氏の1期目でも、中間選挙で民主党が下院を奪った直後の2018年12月から2019年1月にかけ、国境の壁の予算をめぐって35日間の政府閉鎖が起きました。今回は上院も民主党が握るため、当時よりも議会側の立場は強くなります。

移民政策について、トランプ氏は協力の余地があると述べています(CBSニュース)。ただ、MBSニュースが紹介した神戸大学大学院の安岡正晴教授の分析によると、今回の選挙では強硬な移民摘発がヒスパニック系の有権者の反発を招き、南部の州で民主党が議席を伸ばす一因になったとされています。民主党は移民摘発の進め方を見直すよう求めるとみられ、ここでも綱引きが予想されます。

(編集部分析)政府閉鎖や予算の空白は、アメリカの内政問題にとどまらない。在日米軍の運用や同盟国との共同事業の予算も、議会の歳出法案に乗っている。拒否権の応酬が長引くほど、同盟国はアメリカの約束が議会の都合で揺れることを前提に、自前の備えを厚くする必要に迫られると評価できる。

イラン戦争は議会で止められる?民主党が掲げる停止法案

民主党は戦争を止める法案の可決を掲げていますが、大統領が拒否権を使えば、やはり3分の2の壁に当たります。

CBSニュースによると、民主党のテッド・リュー下院議員らは、イラン戦争を止める法案を可決すると表明しています。バンス副大統領も、戦争が今回の敗北の原因だと述べたと報じられています。戦争の扱いは、新しい議会の最初の大きな争点になりそうです。

アメリカでは1973年の戦争権限法により、議会の承認なしに軍を戦闘に投入し続けることに制限があります。ただし、議会が戦闘の終了を求める決議や法案を可決しても、大統領が拒否権を使えば、成立には両院の3分の2の賛成が必要です。トランプ氏は「また同じ決断をする」と述べており、停止法案に署名する可能性は低いとみられます。

一方、議会には予算という別の手段もあります。戦費を含む歳出法案に条件を付けたり、予算を付けなかったりする方法です。MBSニュースは見出しで、専門家が「軍事行動は制約されるのでは」と指摘していると伝えています。拒否権で法案は止められても、予算の蛇口を握る議会の影響は避けられません。

(編集部分析)民主党が掲げる停止法案の中身や時期は、まだ報道の段階で具体化していない。戦争の是非は米国内でも割れており、民主党の主張がそのまま米国民の総意というわけではない。日本にとって重要なのは、中東での米軍の動きがエネルギー価格と海上輸送の安全に直結するという点だ。原油の多くを中東に頼る日本は、米議会の議論を他人事としてではなく、自国のエネルギー安全保障の問題として見る必要がある。

下院の調査権と弾劾はどうなる?「弁護士を雇え」の声

民主党が下院を握ると、委員会の召喚状を使った政権への調査が本格化し、弾劾をめぐる議論も再燃しそうです。

CBSニュースによると、下院監視・政府改革委員会の民主党トップ、ロバート・ガルシア下院議員は、政権関係者に向けて「弁護士を雇っておけ(Lawyer up)」と述べました。下院の多数派は委員長ポストを握るため、証人の呼び出しや文書の提出を求める召喚状を出せるようになります。

弾劾については、トランプ氏自身が早くから警戒していました。米ユタ州の地元局KSLによると、トランプ氏は2026年1月6日、ワシントンでの共和党下院議員の会合で、中間選挙に負ければ「彼らは私を弾劾する理由を見つける」「私は弾劾される」と語っていました。

ただし、弾劾訴追は下院の過半数で可決できても、罷免には上院で出席議員の3分の2の賛成が必要です。拒否権の場合と同じく、民主党の議席だけでは届きません。過去にトランプ氏が弾劾訴追された際も、上院で罷免は成立しませんでした。

(編集部分析)調査や弾劾の動きが政権の時間と体力を奪うのは確かだ。ただ、党派的な追及が過熱すれば、有権者には「選挙で勝った側の報復」と映るおそれもある。民主党が調査権をどこまで抑制的に使うかは、2028年の大統領選に向けた民主党自身の評価にも跳ね返る。

新議会はいつから?2027年1月までの日程

新しい議会は2027年1月に始まり、それまでの約2カ月は今の共和党多数の議会が続きます。

合衆国憲法修正第20条は、議会が毎年1月3日に集まると定めています(法律で別の日を決めない限り)。今回当選した議員は2027年1月から任期に入り、CBSニュースも民主党が議会の主導権を握るのは「1月」だと伝えています。上院の共和党トップであるジョン・スーン院内総務は、その時点で多数党院内総務の座を失います。

それまでの期間は「レームダック会期」と呼ばれます。改選前の議会が引き続き開かれ、共和党が多数のまま採決ができます。政権と共和党は、この期間に優先度の高い法案や人事の承認を急ぐ可能性があります。民主党はそれを「駆け込み」と批判するとみられます。

議席の最終確定にも時間がかかります。各州の選挙当局が開票結果を正式に認定するまで、接戦区の数字は動きます。アラスカとミシシッピの上院選のように、11月4日時点で決着していない選挙もあります(CBSニュース)。

日本への影響は?防衛・関税・投資で何を見るべきか

議会で動きにくくなった政権が、大統領の権限で動かせる外交と通商で成果を急ぐ可能性があり、日本も無関係ではありません。

NHKは、日本政府が米中間選挙の結果を受けてトランプ大統領の外交方針を注視していると伝えています。法律の制定には議会が必要ですが、関税の発動や外交交渉の多くは、大統領の権限で進められます。議会で拒否権の応酬が続くほど、政権が国内向けの成果を外交や通商に求める流れが強まる、という見方は前日の記事でも紹介しました。

日本にとっての具体的な論点は三つです。一つ目は防衛費で、同盟国に負担の上積みを求める声が強まる可能性があります。二つ目は関税で、大統領の権限で発動できる関税は、議会のねじれの影響を受けにくい分野です。三つ目は、2025年の日米合意で日本が約束した5500億ドル規模の対米投資の進め方です。どれも、議会の構成が変わっても大統領の側に主導権が残りやすい分野です。

(編集部分析)ねじれ議会のアメリカは、日本に「米国の内政次第で同盟の中身が揺れる」という現実を改めて突きつけている。日米同盟は日本の安全保障の柱であり続けるが、相手国の議会と大統領の綱引きに日本の防衛や産業の行方を預けきるのは危うい。防衛力の自前での強化、エネルギーと重要物資の調達先の分散、対米投資での日本企業と日本の雇用への見返りの確保は、どの党がアメリカの議会を握っても日本が自ら進めるべき課題だと評価できる。

ミスター拒否権のよくある質問

Q. 大統領が署名も拒否もしないと、法案はどうなりますか?

A. 憲法第1条第7節では、大統領が日曜を除く10日以内に差し戻さなければ、署名がなくても法律になります。ただし、その間に議会が閉会して差し戻せない場合は成立しません(いわゆる「ポケット拒否権」)。

Q. 大統領令(行政命令)も議会が止められますか?

A. 大統領令は議会の可決を経ずに出せるため、拒否権の応酬とは別に使われます。議会が止めるには、法律で上書きするか予算を付けない方法になり、法律には再び大統領の署名か3分の2の再可決が必要です。

Q. 日本の私たちが続報で確かめるべき点は何ですか?

A. 上院の未決着の2州の結果、12月までのレームダック会期で何が採決されるか、1月の新議会で最初に出る予算とイラン関連の法案の3点です。関税や防衛費の要求は、日米の首脳・閣僚会談の報道で確かめてください。

選挙結果の詳細と、民主党が共和党から奪った7州は前日の記事で整理しています。続報を自分で確かめるときは、次の順に見ると迷いません。

  • 今週:未確定の議席(上院のアラスカ・ミシシッピ、下院の接戦区)は、CBSニュースの開票速報で当確の更新を確認する。
  • 12月まで:レームダック会期の採決は、米下院書記官室の公式サイトの採決記録(Roll Call Votes)で確認する。
  • 2027年1月以降:新議会の予算案とイラン関連の法案の提出・採決、大統領の拒否権の行使も、同じ下院の公式記録で追う。日本への関税・防衛費の要求は、日本政府(外務省)の会談発表で確認する。

参考情報

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