【10/11】トランプ氏「ウクライナは新しい指導者を」製油所攻撃で交代要求

【10/11】トランプ氏「ウクライナは新しい指導者を」製油所攻撃で交代要求

トランプ米大統領は10日(米国時間)、ウクライナによるロシアの製油所への攻撃を批判し、ゼレンスキー大統領に代わって「合意を結ぶことができる新しい指導者を選ぶことを勧める」と述べました。前日に米国がロシア産軽油の制裁を緩和し、ゼレンスキー氏がそれを批判した直後の発言です。

この記事では、トランプ氏がウクライナの指導者交代を求めた発言の中身、そこに至るまでの経緯、ウクライナ・ロシア・欧州の反応、ウクライナで本当に大統領選挙ができるのかを整理し、日本にとっての意味も考えます。

この記事でわかること

  • 発言の中身:トランプ氏は10日、製油所攻撃をやめないゼレンスキー氏に代わる「新しい指導者」を選ぶよう勧めました。
  • きっかけ:9日に米国がロシア産軽油の制裁を緩和し、ゼレンスキー氏が「弱い決定」と批判していました。
  • 選挙の壁:ウクライナは戒厳令下で選挙ができず、外相は「決める権利は国民にある」と反論しています。
目次

トランプ氏はウクライナの指導者について何と言ったのか

トランプ氏は10日、ゼレンスキー氏は合意できたのにしなかったと批判し、ウクライナは新しい指導者を選ぶべきだと述べました。

テレビ朝日によると、トランプ氏は「ウクライナは合意を結ぶことができる新しい指導者を選ぶことを勧める。(ゼレンスキー大統領は)いくつもの合意を結ぶことができたのに、決してそうしない」と語りました。米CBSニュースによると、発言はホワイトハウスの南庭で、テネシー州へ向かう前に記者団の質問に答えたものです。

「合意を結べる新しい指導者を」10日の発言

トランプ氏は「ウクライナは新しい大統領を迎える時期にきている」とも述べ、交代を戦争終結と結びつけました。

AFP=時事によると、トランプ氏は戦争を終わらせるために「ウクライナは新しい大統領を迎えるべき時期にきている」と語りました。ウクライナの英字紙キーウ・インディペンデントは、トランプ氏が「彼は何度もこの戦争を終わらせることができたのに、そうしないことを選んでいる」と述べたと伝えています。CBSニュースによると、トランプ氏は自分が大統領だったら2022年の侵攻は始まらなかったとし、戦争は「無能さ」のせいで始まったとも主張しました。

製油所攻撃と軽油価格、米農家を理由に挙げた

トランプ氏が理由に挙げたのは、ウクライナのロシア製油所攻撃が世界の軽油価格を押し上げ、米国の農家に打撃を与えているという点です。

AFP=時事によると、トランプ氏はゼレンスキー氏に「ロシアを攻撃してもかまわないが、製油所は攻撃するな」と伝えていたと明かし、「絶対にやめるべきだ」と警告しました。CBSニュースは、トランプ氏が「彼は軽油で、我々の農家や牧場主に問題を起こしたいのだ」と述べたと伝えています。11月の米中間選挙を前に、軽油価格の高騰は政権にとって大きな争点になっています。

(編集部分析)発言の順序を見ると、トランプ氏の関心は戦争の終わらせ方そのものより、国内の燃料価格と選挙にあると読めます。他国の指導者の交代にまで言及した背景に自国の選挙事情があるなら、同盟国から見て、米国の要求がどこまで一貫しているのかを冷静に見極める必要があります。

なぜ今「交代」なのか|ロシア産軽油の制裁緩和との関係

発言は、9日の米国によるロシア産軽油の制裁緩和と、それへのゼレンスキー氏の批判の翌日に出ました。

FNNプライムオンラインによると、トランプ氏は9日にプーチン大統領と電話会談し、ロシアが米国や国際市場に軽油を供給することで合意したと発表しました。その後、米財務省がロシア産軽油への制裁緩和を発表しています。合意の中身や米財務省の一般許可135号については、前日の記事「ロシア産軽油の制裁緩和とは?トランプ・プーチン合意の中身と日本への影響」で詳しく整理しました。

キーウ・インディペンデントによると、ゼレンスキー氏は9日、この取引を「強力な同盟国による弱い決定」と評し、プーチン氏に戦争を続けさせるものだと批判しました。AFP=時事は、ゼレンスキー氏がトランプ氏の決定を「パートナーにふさわしくない」「弱腰」だと批判したと伝えています。トランプ氏の交代発言は、この批判の翌日に出ており、両者の対立が表に出た形です。

米特使は「情報提供の打ち切り」も警告していた

米側は9日、製油所攻撃をやめなければ重要情報の提供を打ち切る可能性があるとウクライナ側に警告しました。

テレビ朝日によると、英紙フィナンシャル・タイムズは、訪米中のウクライナ代表団が9日、ウィトコフ特使らから、製油所への攻撃を停止しなければ重要情報の提供を打ち切る可能性があると警告され、翌日の協議を中止したと報じました。キーウ・インディペンデントは、この協議がエネルギー施設への攻撃停止の条件を話し合う場だと考えられていたのに、実際には米ロの経済取引が先に結ばれ、ウクライナだけが攻撃の停止を求められたと伝えています。

(編集部分析)情報の提供は、ウクライナが戦い続けるための生命線の一つです。それを交渉の材料として示したうえで指導者の交代にまで踏み込むのは、支援する側が支援される国の内政に強く手を入れる構図です。どれほど大きな支援を受けていても、自国の指導者を選ぶのはその国の国民だという原則は、立場を問わず守られるべきものと考えます。

トランプ氏の交代要求はいつから続いているのか

トランプ氏がゼレンスキー氏の正統性に疑問を示したのは今回が初めてではなく、2025年から形を変えて繰り返されています。

主な発言と出来事を、報道にもとづいて時系列の表にまとめます。

時期 出来事 伝えた媒体
2025年2月 トランプ氏がSNSでゼレンスキー氏を「独裁者」と呼ぶ。ゼレンスキー氏は「偽情報空間に生きている」と反論 CNN
2025年12月8日 ポリティコのインタビューで早期の大統領選を要求。「選挙を行わないために戦争を利用している」と批判 北海道新聞(共同)
2025年12月9日 ゼレンスキー氏が、米欧が安全確保に協力すれば60〜90日以内に選挙の準備が整うと表明 北海道新聞(共同)
2026年9月13日 訪問先のアイルランドで、ロシアの軽油を標的にする攻撃をやめるよう要求 CNN
2026年10月9日 米ロ首脳の電話会談で軽油供給に合意、米財務省が制裁を緩和。ウクライナ代表団は情報提供打ち切りの可能性を警告される FNN・テレビ朝日
2026年10月10日 トランプ氏が「新しい指導者を選ぶことを勧める」と発言 テレビ朝日・AFP・CBS

表のとおり、2025年は「選挙をしていない」ことへの批判が中心でしたが、今回は製油所攻撃という具体的な行動への不満から交代に踏み込んだ点が違います。キーウ・インディペンデントは、トランプ氏が以前から選挙の実施を求めてきたことが、ゼレンスキー氏の正統性を疑うロシア政府の主張と重なると分析しています。

CNNによると、トランプ氏は9月13日の時点で「これは中東が原因ではない。ロシアとウクライナで起きていることが原因だ」と述べ、軽油高の原因をウクライナとロシアの戦争に求めていました。今回の発言は、その主張をさらに強めたものといえます。

ウクライナはどう反論したのか

ウクライナのシビハ外相は、ゼレンスキー氏には国民の支持があり、指導者を決める権利は国民にあると反論しました。

シビハ外相「決める権利は国民にある」

シビハ外相は、ゼレンスキー氏には国民の支持があり、指導者を決める権利はウクライナ国民にあると反論しました。

CBSニュースによると、シビハ外相は、ゼレンスキー氏はウクライナ国民の支持を得ており「彼らには決める権利がある」とXに投稿し、外国からの発言は同氏が職務を果たしていることの裏付けにすぎないとも述べました。指導者を選ぶのは外国ではなくウクライナ国民だ、という立場をはっきり示した形です。

ゼレンスキー氏は「制裁解除への感謝」と皮肉

ゼレンスキー氏は10日のキーウへの攻撃を、ロシアからの「制裁解除への感謝」だと皮肉り、制裁緩和を批判しました。

CBSニュースによると、ゼレンスキー氏はXに、ロシアが「軽油輸出の制裁解除に感謝を示した」と投稿し、10日にキーウがミサイル攻撃を受けたことを皮肉りました。キーウ・インディペンデントによると、ゼレンスキー氏は、ロシアに石油製品の販売を認めた結果が「今日のキーウで最もはっきり感じられた」と述べ、ロシアが得る追加の輸出収入は兵器の生産などに使われると警告しています。

被害も出ています。CBSニュースによると、キーウのクリチコ市長は10日の攻撃で4人が負傷したと明らかにし、南部ザポリージャ州ではロシアの空爆で子ども3人を含む少なくとも20人が死亡、18人が負傷しました。AFP=時事は、ロシアの攻撃でウクライナ全体で子ども4人を含む少なくとも21人が死亡したと伝えています。数字は媒体と集計の範囲によって異なります。

攻撃停止は「ロシアが同じ条件なら」

ウクライナは一方的な停止ではなく、ロシアも同じ条件をのむならエネルギー施設への攻撃を止めるという立場です。

キーウ・インディペンデントによると、ゼレンスキー氏は同じ条件であればエネルギー施設への攻撃を停止する用意があると繰り返し表明してきましたが、ロシアは応じる姿勢を見せていません。ウクライナは、ロシアの石油輸出が戦費を支え、製油所が軍に燃料を供給していることから、製油所を正当な軍事目標とみなしてきました。

ロシアと欧州はどう反応したのか

ロシア側は交代発言を歓迎し、欧州連合(EU)は制裁を緩める時ではないと米国と距離を置きました。

AFP=時事によると、ロシア大統領府の経済協力担当特使キリル・ドミトリエフ氏は10日、Xに「トランプ大統領は、ウクライナにはゼレンスキー氏の好戦的な姿勢ではなく、真に平和を重視する指導者が必要だと考える多くの人々に加わった。象徴的で歴史的だ」と投稿しました。

一方、EUのカラス外交安全保障上級代表は10日、ロシア産軽油に対する制裁解除はロシアの侵攻を助長するだけだと指摘し、SNSに「今はロシアへの圧力を緩める時ではない。欧州は圧力を緩めない」と投稿しました(AFP=時事)。CBSニュースによると、米国内でもペンス元副大統領が、この取引には意味がないとして撤回を求めています。

(編集部分析)攻め込んだ側のロシアが、攻め込まれた側の指導者の交代を「歴史的」と歓迎している点は重く見るべきです。侵略した国が相手国の政権の形にまで口を出せる前例ができれば、力による現状変更を進める国にとって都合のよい世界になります。米国の発言がロシアの主張と同じ方向を向いたことは、日本を含む同盟国にとって見過ごせない変化です。

ウクライナで大統領選挙はできるのか

ウクライナでは戒厳令の下で選挙が認められておらず、すぐに大統領を選び直すことは制度上できません。

米ファクトチェックサイトのスノープスによると、ウクライナでは戒厳令下の選挙が認められておらず、本来2024年に予定されていた大統領選挙は戒厳令が続いているため行われていません。ゼレンスキー氏は2023年6月、戒厳令が終わっていれば2024年に選挙を行うと英BBCに語っていました。ロシアの全面侵攻が始まった2022年2月から、戒厳令は延長が続いています。

トランプ氏・ロシア側とウクライナ側の主張を、論点ごとに並べます。

論点 トランプ氏・ロシア側 ウクライナ側
指導者 合意を結べる新しい指導者を選ぶべき(トランプ氏)/平和を重視する指導者が必要(ドミトリエフ氏) 国民の支持があり、決める権利は国民にある(シビハ外相)
選挙 選挙を行わないために戦争を利用している(2025年12月・トランプ氏) 戒厳令下では選挙ができない。安全確保があれば60〜90日で準備できる(2025年12月・ゼレンスキー氏)
製油所攻撃 世界の軽油価格を押し上げ、米国の農家に打撃(トランプ氏) ロシアの戦費と軍の燃料を断つ正当な軍事目標。ロシアも同じ条件なら停止する用意
制裁緩和 ロシア産軽油で燃料価格を下げる 強力な同盟国による弱い決定。収入が兵器生産に回る

表のとおり、両者は「何が戦争を長引かせているのか」という前提から食い違っています。選挙の論点でいえば、現行の制度では戒厳令下の選挙が認められておらず、実施するには戒厳令の解除か選挙を可能にする法整備、そして投票の安全確保という課題があります。ゼレンスキー氏が2025年12月に60〜90日での準備に言及した際も、米欧による安全確保への協力が前提でした。北海道新聞(共同)は、ロシアが停戦に応じない中での選挙の実施は困難との見方が強いと伝えています。

(編集部分析)戦時下で選挙をしないことは、ウクライナが自国の憲法と法律にもとづいて決めていることです。外国が「選挙をせよ」「指導者を替えよ」と求めること自体が、その国の主権に関わる問題になります。交代を求めるなら、まず戦闘を止める枠組みが先に来るべきで、順序が逆になっている点は指摘せざるを得ません。

軽油高は本当にウクライナの攻撃が原因なのか

軽油高の主な原因はホルムズ海峡をめぐる緊張だとする専門家の見方があり、トランプ氏の説明とは食い違っています。

AFP=時事は、米国とイスラエルによるイランとの戦争で世界的な燃料不足が生じており、トランプ氏はウクライナの攻撃がこれを悪化させる恐れがあると指摘したと伝えています。キーウ・インディペンデントは、専門家のマルガリータ・バルマセダ氏の見方として、今回の取引はロシアの戦争を助ける可能性が高い一方、軽油やガソリン不足の主な原因はホルムズ海峡をめぐる緊張にあり、価格を下げる効果は限られると伝えました。同紙は、トランプ氏が発言の中でイランとの戦争やホルムズ海峡の封鎖に触れなかったとも指摘しています。

ロイター通信を伝えたニューズウィーク日本版によると、米国自動車協会(AAA)の調べで、トランプ氏が9月中旬に攻撃停止を求めた時点の米国の軽油の平均価格は1ガロンあたり過去最高の6.20ドルに達し、1年前と比べて約68%上がっていました。キーウ・インディペンデントによると、ウクライナ国防省は、ウクライナの攻撃でロシアの総精製能力の51%超が止まっているとしています。これはウクライナ側の評価で、ロシア側は確認していません。

(編集部分析)ウクライナの攻撃がロシアの軽油輸出を減らしているのは事実でしょうが、価格高騰の原因を一国に押しつける説明には無理があります。中東の戦争という大きな要因を脇に置き、攻め込まれた側に攻撃の手を止めさせることで価格を下げようとすれば、得をするのは輸出を再開できるロシアです。「誰が得をするのか」を問えば、今回の判断の評価は自ずと定まると考えます。

日本にとって何を意味するのか

同盟国の指導者でも、米国の国内事情しだいで交代を求められうることを示した点で、日本にとっても他人事ではありません。

日本は2023年2月から、外為法にもとづきロシア産石油製品の上限価格措置を続けており、前日の記事で整理したとおり、米国の制裁緩和を受けて日本政府が措置を変えるという発表は確認できていません。ウクライナ支援でも、日本は欧州や米国と足並みをそろえてきました。

(編集部分析)今回の発言から読み取るべきなのは、超大国の支援には国内の選挙や物価という事情が必ず絡み、要求は相手国の内政にまで及びうるという現実です。日本も安全保障の多くを米国に頼っていますが、頼り方を誤れば、自国の進路を自国で決められない場面が来ないとは言えません。

(編集部分析)だからこそ、日米同盟を活用しながらも従属はしないという姿勢が大切になります。防衛力の強化、エネルギーの調達先の分散、価値観を共有する国々との連携を自らの手で積み上げておくことが、どの政権が米国を率いても揺らがない日本をつくります。自分の国の指導者は自分たちで選び、自分の国は自分たちで守る。その当たり前を、ウクライナの今は改めて私たちに問いかけています。

トランプ氏のウクライナ指導者発言のよくある質問

交代はまだ求められた段階で、本文で触れなかった疑問を報道で確認できる範囲でまとめます。

Q. トランプ氏は「ゼレンスキー氏を辞めさせる」と言ったのですか?

A. 「辞めさせる」とは述べていません。テレビ朝日によると、「合意を結ぶことができる新しい指導者を選ぶことを勧める」と、ウクライナ側に選び直しを勧める形で語りました。

Q. ゼレンスキー氏の任期はどうなっているのですか?

A. スノープスによると、本来2024年に予定されていた大統領選挙は戒厳令が続いているため行われておらず、ゼレンスキー氏は選挙を経ないまま大統領を続けています。

Q. 日本政府はトランプ氏の発言に反応しましたか?

A. 編集部が10月11日夕方に確認した範囲では、日本政府がこの発言について見解を示したという報道は見つかっていません。

今後の行方を見るうえでは、①米国がウクライナへの情報提供を実際に止めるか、②ウクライナが製油所への攻撃を続けるか、③ロシア産軽油の供給が本当に始まり米国の軽油価格が下がるか、の3点を報道で確かめてください。続報が出たら、この記事で時点を更新してお伝えします。

参考情報

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次