【10/12】北朝鮮ミサイル2発|2発目は910km超で変則軌道の可能性

北朝鮮は10月12日朝、北朝鮮内陸部から少なくとも2発の弾道ミサイルを発射しました。防衛省と内閣官房の発表によると、2発目は最高高度約70kmで910kmを超えて飛び、変則軌道で飛んだ可能性を日米韓で分析しています。いずれも日本の排他的経済水域(EEZ)への飛来は確認されておらず、被害の報告もありません。

北朝鮮の弾道ミサイル発射は10月3日以来で、韓国軍の数えでは今年16回目です。4日前の10月8日には、韓国が国産の極超音速滑空体(HGV)の初めての試験発射を公表したばかりでした。この記事では、防衛省の発表の数字、韓国軍の分析、10月3日の発射との違い、日本政府の対応を順に整理します。

この記事でわかること

  • 発射の中身:1発目は9時19分ごろ・約220km、2発目は9時36分ごろ・910km超。2発目は変則軌道の可能性があります(防衛省・内閣官房)。
  • 背景:韓国が10月8日に極超音速滑空体の初試射を公表した4日後の発射で、韓国軍は「武力による抗議」との見方を示しました。
  • 日本の課題:低く機動して飛ぶミサイルは迎え撃ちにくく、撃たれる前に抑える力と自前の監視の力が問われます(編集部分析)。
目次

北朝鮮は10月12日に何を発射したのか

北朝鮮は12日の9時台に、内陸部から少なくとも2発の弾道ミサイルを北東と東の方向へ発射しました。

防衛省と内閣官房が同じ日に出した発表によると、2発は北朝鮮の東岸付近や日本海に落ちたと推定されます。日本の領域やEEZへの飛来は確認されていません。政府は付近を通る航空機や船舶に情報を出し、発表の時点で被害の報告はありませんでした。

防衛省が公表した2発の数字を並べると、次のとおりです。

項目 1発目 2発目
発射時刻(日本時間) 9時19分ごろ 9時36分ごろ
最高高度 約20km程度 約70km程度
飛んだ距離 約220km程度 約910kmを超える
落下地点(推定) 北朝鮮の東岸付近や日本海。日本のEEZへの飛来は確認されていない
軌道 発表なし 変則軌道の可能性を含め日米韓で分析中

表のとおり、2発は高さも距離も大きく違います。1発目は低く短く、2発目は低い高さのまま4倍以上の距離を飛んでいます。

1発目は最高高度約20kmで約220km

1発目は9時19分ごろに撃たれ、最高高度約20kmで約220km飛んだと防衛省は推定しています。

防衛省は1発目の機種を明らかにしていません。韓国の合同参謀本部は「種類の異なる弾道ミサイル数発」を撃ったとしており、2発が別の機種だった可能性を示しています。

2発目は最高高度約70kmで910km超

2発目は最高高度約70kmと低いまま910km超を飛び、変則軌道の可能性が分析されています。

共同通信によると、小鑓隆史防衛副大臣は12日、防衛省で記者団に「変則軌道の可能性を含め、詳細は分析中だ」と述べました。距離のわりに高さが低いのが、この2発目の特徴です。

2発目の「変則軌道」とは何か

変則軌道とは、放物線を描いて落ちる通常の弾道から外れ、途中で機動しながら飛ぶ軌道のことです。

通常の弾道ミサイルは、打ち上げた後は放物線を描いて落ちるため、落ちる先をある程度読めます。極超音速兵器などでは、低い高さで上下や左右に向きを変えるものがあり、レーダーで追い続けることや落ちる先を読むことが難しくなります。今回の2発目について防衛省が示しているのは「変則軌道で飛翔した可能性」までで、実際にどう機動したかは公表されていません。

韓国のSBSは、極超音速ミサイルは音の速さの5倍を超え、不規則な経路をとると説明しています。そのうえで、韓国軍が距離を「900km以上」としか言っていないことから、最後の段階を捉えにくい極超音速ミサイルだった可能性があるという分析を伝えました。SBSは、地球が丸いことによるレーダーの探知の制約から、実際の飛距離が最初の見積もりより長くなる場合があるとも解説しています。

一方で、同じSBSの別の記事は、韓国軍は今回のミサイルを極超音速ミサイルより短距離ミサイルとみる見方に傾いていると伝えています。2発目の機種は12日の時点で確定していません。

韓国軍は今回の発射をどう見ているのか

韓国軍は、平壌一帯から種類の異なる弾道ミサイル数発が撃たれ、うち1種類は900km以上飛んだと発表しました。

韓国の英字紙コリア・ヘラルドによると、合同参謀本部は午前9時20分ごろに発射を探知しました。合同参謀本部の広報室長の張道永(チャン・ドヨン)海軍大佐は、国防省での会見で「これまでの分析では、北朝鮮は種類の異なる弾道ミサイル数発を撃った」と述べ、そのうち1種類は900km以上飛んだと評価していると説明しました。日米韓の3か国で情報を密に共有しているとしています。

SBSによると、平壌一帯からの発射は8月20日以来です。8月20日には、600mm級の「超大型多連装ロケット砲」とされるKN-25を約10発、日本海に向けて撃っていました。

張氏は今回の発射について、北朝鮮の国防発展の5か年計画の成果を見せるための「意図的なミサイル能力の誇示」であり、韓国の極超音速兵器の試射に対する「武力による抗議」だとの見方を示しました。韓国大統領府の国家安保室も12日に緊急会議を開き、発射は国連安全保障理事会の決議違反だとして、直ちにやめるよう北朝鮮に求めました。

「今年16回目」は、韓国軍が数える弾道ミサイルの発射の回数です。1日に何発撃っても1回と数えるため、発射されたミサイルの本数とは違います。

4日前の韓国の「極超音速滑空体」試射とは

韓国が国産で開発中の極超音速兵器のうち、滑空体(HGV)を初めて試験発射したもので、10月8日に公表されました。

韓国のノーカットニュースによると、国防科学研究所(ADD)の試射を李在明(イ・ジェミョン)大統領が現場で視察しました。滑空体は目標の高さで推進体から正常に分かれ、低い高さで上下左右に軌道を変えながら不規則に滑空し、指定した目標地点に着弾したとされます。超高温に耐える素材の性能や、誘導・制御の力も確かめたと伝えられました。大統領府の姜由楨(カン・ユジョン)首席報道官は、新たな抑止の手段を確保する準備が整ったことを意味すると説明しています。

一方で、速度や射程、飛んだ高さは公表されていません。SBSは、試射は安興(アンフン)試験場の沖の台船から行われたと報じています。

(編集部分析)韓国が自前で極超音速兵器を持とうとしているのは、北朝鮮のミサイルに対して、撃たれた後に守るだけでなく、撃たせないための抑止を自国の力で整えようという動きと評価できます。同じ朝鮮半島で、北と南がそろって「低く曲がって飛ぶ」兵器の開発を競う段階に入ったことは、隣にいる日本にとっても他人事ではありません。

10月3日の発射と何が違うのか

10月3日は元山付近から1発、12日は平壌一帯から種類の異なる数発で、発射の場所と組み合わせが違います。

9日の間をおいた2回の発射を、公表された数字で並べます。

項目 10月3日 10月12日
発射場所 東部の元山(ウォンサン)付近 平壌一帯(防衛省は「北朝鮮内陸部」)
発数 1発 少なくとも2発(韓国軍は「数発」)
飛んだ距離 防衛省 約680km/韓国軍 700km以上/北朝鮮の主張 約1000km 防衛省 約220kmと910km超/韓国軍 900km以上
北朝鮮の発表 極超音速弾頭の「中距離戦略ミサイル」。金正恩総書記が立ち会い 12日昼の時点で発表なし

表の10月3日の数字は、SBSと共同通信の報道によります。北朝鮮の主張する約1000kmと、日韓の観測の680〜700km台には大きな開きがあり、北朝鮮は韓国軍が正しく探知できなかったと反論していました。

北朝鮮は発射の翌日に国営メディアで機種や成果を公表することが多く、今回も13日の発表で機種名が示される可能性があります。

日本政府はどう対応したのか

高市首相が3点を指示し、日本政府は北朝鮮に厳重に抗議して強く非難しました。

防衛省と内閣官房の発表によると、首相には直ちに報告が上がり、次の3点が指示されました。

  • 情報収集・分析に全力を挙げ、国民に迅速・的確な情報提供を行うこと
  • 航空機、船舶等の安全確認を徹底すること
  • 不測の事態に備え、万全の態勢をとること

政府は官邸危機管理センターの「北朝鮮情勢に関する官邸対策室」で情報を集め、緊急参集チームを招集しました。防衛大臣も、米国・韓国などと連携した情報収集と、警戒監視に万全を期すことの2点を指示しています。

発表は今回の発射を「関連する安保理決議に違反し、国民の安全に関わる重大な問題」としています。共同通信によると、小鑓副大臣は外交ルートを通じて厳重に抗議したと明らかにしました。

8月以降の北朝鮮のミサイル発射はどう続いてきたのか

今回で今年16回目となり、8月以降は短距離・新型・中距離と種類を変えながら、ほぼ毎月発射が続いています。

当サイトで取り上げた発射を中心に、8月からの流れを並べます。

8月6日 弾道ミサイルを発射。金与正氏の談話の翌日で、EEZ外に落下
8月20日 平壌一帯から超大型多連装ロケット砲(KN-25)とされるものを約10発
9月20日 元山付近から2発。北朝鮮は新型兵器の試射と公表
10月3日 元山付近から「中距離戦略ミサイル」1発。金正恩総書記が立ち会い
10月8日 韓国が極超音速滑空体の初試射を公表
10月12日 平壌一帯から少なくとも2発。2発目は910km超、変則軌道の可能性(今年16回目)

図のとおり、9月20日以降は2〜3週間の間隔で発射が続き、距離も伸びています。それぞれの回の詳しい経緯は、「8月6日の発射と金与正談話」「8月20日の10発と防衛費8.9兆円の要求」「9月20日の2発とパシフィック・バンガード」で整理しています。

今回の発射は日本の守りに何を問うのか

2発目が変則軌道だった場合、低く機動して飛ぶミサイルを迎え撃つだけで防ぎきれるのかという問いを、日本にあらためて突きつけます。

2発目が飛んだ910km超は、平壌から九州や中国地方に届く距離にあたります。今回は日本海に落ちましたが、同じ種類のミサイルが日本に向けられた場合、高さが低く途中で向きを変える軌道は、迎撃をより難しくします。

(編集部分析)撃たれた後に迎え撃つ守りには限界があります。だからこそ、相手に撃たせないための反撃能力と、自国の衛星やレーダーで相手の動きを捉える力を、日本が自らの手で整えていく必要があると評価できます。今回、防衛省は2発の高さと距離を当日のうちに公表しました。日米韓の情報共有に加えて、日本自身の探知・追尾・分析の力をさらに高めることが、国民への説明の速さと確かさを支えます。自国を自国の力で守る備えこそが、主権国家としての誇りを支える土台です。

(編集部分析)韓国は自前の極超音速兵器と原子力潜水艦の計画を進めています(「韓国の原子力潜水艦と日本の3つの宿題」)。年内に改定される安全保障関連3文書で、日本が周辺の動きに見合った備えを示せるかどうかが問われています。

北朝鮮ミサイル(10月12日)のよくある質問

読者から寄せられそうな疑問を3つ取り上げます。

Q. EEZの外に落ちたなら、日本の船や飛行機に危険はないのですか?

A. 危険がないとは言えません。EEZの外でも日本海には漁船や航空機が行き交っており、予告なしの発射はその安全を脅かします。政府が今回も付近の航空機や船舶に情報を出し、首相が安全確認の徹底を指示したのはこのためです。

Q. Jアラート(全国瞬時警報システム)は出ましたか?

A. 12日の政府発表には、Jアラートを出したという記載はありません。Jアラートは日本の領域に落ちる、または上空を通過する可能性があるときに使われるもので、今回はEEZへの飛来も確認されていません。

Q. 2発目は極超音速ミサイルだったと言えるのですか?

A. 12日の時点では言えません。防衛省は「変則軌道の可能性」を分析中とし、韓国の報道でも極超音速ミサイルとみる分析と、短距離ミサイルとみる韓国軍の見方の両方が出ています。北朝鮮側の発表もまだありません。

この先は、北朝鮮の国営メディアが13日に何を発表するか、防衛省が2発目の分析結果を追加で公表するかの2点を見れば、今回の発射の意味がはっきりします。当サイトでも動きがあれば続報でお伝えします。

参考情報

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