【9/29】王毅外相が台湾発言の是正要求|岩屋前外相との会談で何を語ったか

中国の王毅(おう・き)外相は2026年9月28日、北京を訪れた岩屋毅前外相と会談し、日本の指導者による台湾問題での「誤った発言」をなるべく早く是正するよう求めました。念頭にあるのは、2025年11月に高市早苗首相が国会で示した台湾有事をめぐる答弁です。中国外務省が会談を発表し、共同通信・時事通信・テレビ朝日などが9月28日夜から29日朝にかけて報じました。

この記事では、王毅外相が何を求めたのか、是正を求められた答弁の中身、会談で出たほかの発言、そして日本政府の立場と今後の焦点を、報道と公開資料をもとに整理します。

この記事でわかること

  • 是正要求の中身:王毅外相は高市首相の台湾有事答弁を念頭に「誤った発言」の早期是正を求め、日中関係を「正常化する必要がある」と述べました。
  • 何が異例か:答弁で関係が悪化して以降、王氏と日本の政治家の会談を中国が公式に発表したのは初めてと共同通信は報じています。
  • 日本側の立場:政府は2025年11月25日の答弁書で従来の見解を「完全に維持」するとし、答弁を撤回していません。
目次

中国は台湾発言の何を「是正」せよと求めたのか

王毅外相が求めたのは、高市首相の台湾有事をめぐる国会答弁を事実上改めることです。「指導者」とだけ言い、首相の名前は出していません。

王毅外相の発言と中国外務省の発表

王氏は、日本の指導者による台湾問題での「誤った発言」をなるべく早く是正するよう求めました。

中国外務省の発表では、王氏は「指導者による台湾問題での誤った発言をなるべく早く是正することが必要だ」と述べています。

共同通信と時事通信はいずれも、この発言が2025年11月の高市首相の国会答弁を念頭に置いたものだと伝えています。テレビ朝日は、王氏が「日本の指導者の台湾に関する誤った言動を速やかに是正する必要がある」と述べたと報じており、「発言」と「言動」で訳語が少し異なります。どちらも中国外務省の発表をもとにした報道です。

王氏は同じ会談で、日中関係について「正常化する必要がある」とも述べました。関係を元に戻す条件として、答弁の是正を前に置いた形です。

「公式発表は初めて」が持つ意味

高市首相の答弁で日中関係が悪化して以降、王氏と日本の政治家の会談を中国が公式に発表したのは今回が初めてです。共同通信が報じました。

共同通信はさらに、対中関係を重視する岩屋氏と会ったと公表することで「高市政権に揺さぶりをかける狙いがあるとみられる」と伝えています。会うかどうか、会ったことを公表するかどうかを中国側が選んでいる点に、今回の発表の重みがあります。

(編集部分析)中国は首相本人とは対話の窓口を閉ざしたまま、政権の外にいる対中融和的な政治家とだけ会い、その場で首相の発言を名指しに近い形で批判しました。日本の国内世論を割り、政権を外側から揺さぶる手法として読むのが自然だと考えられます。会談の中身そのものより、「誰と会い、何を公表したか」を見ておく必要があります。

是正を求められた高市首相の台湾答弁とは

是正を求められたのは、台湾有事が安全保障関連法の「存立危機事態」になり得るとした2025年11月7日の答弁です。

2025年11月7日の衆院予算委員会での答弁

高市首相は、台湾有事で戦艦による武力行使があれば存立危機事態に「なり得る」と答弁しました。

時事通信の詳報によると、首相は衆院予算委員会で立憲民主党の岡田克也元外相から、台湾有事がどのような場合に存立危機事態になるのかを問われました。

首相は、実際に起きた事態の個別具体的な状況に即して、政府がすべての情報を総合して判断すると説明したうえで、例として「戦艦を使って武力行使を伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケース」だと述べました。存立危機事態とは、日本と密接な関係にある他国への武力攻撃で日本の存立が脅かされる明白な危険がある事態を指し、認定されれば集団的自衛権の行使が可能になります。

政府は答弁書で「従来の見解を完全に維持」

政府は2025年11月25日に閣議決定した答弁書で、従来の政府見解を見直さないと明記しました。

時事通信・日本経済新聞・NHKによると、答弁書は公明党の斉藤鉄夫代表の質問主意書に答えたもので、「存立危機事態に該当するかは、個別具体的な状況に即して持ち得る全情報を総合して客観的かつ合理的に判断する」「政府見解は完全に維持しており、見直しや再検討が必要とは考えていない」としています。

答弁から今回の是正要求までの経緯

答弁の翌週に中国が渡航自粛を呼びかけ、日本は見解を維持したまま約10カ月が過ぎました。

答弁から今回の会談まで、日中の主な動きを時系列の表にまとめます。

日付 出来事 出典
2025年11月7日 高市首相が衆院予算委員会で台湾有事は存立危機事態に「なり得る」と答弁 時事通信
2025年11月14日 中国政府が自国民に日本への渡航を控えるよう呼びかけ 共同通信・時事通信
2025年11月25日 政府が答弁書を閣議決定し、従来見解の「完全に維持」を明記 時事通信・日本経済新聞
2026年9月27日 岩屋氏が率いる日本国際貿易促進協会(国貿促)の代表団が北京入り 共同通信
2026年9月28日 王毅外相が岩屋氏と会談し、台湾発言の早期是正を要求 中国外務省発表(共同・時事・テレ朝)

表のとおり、中国は答弁の直後から渡航自粛の呼びかけなどで圧力をかけ、日本政府は見解を変えないまま約10カ月が過ぎました。今回の要求は、その対立が続いていることを中国側があらためて示したものです。

(編集部分析)台湾海峡の平和と安定は、日本のシーレーンと南西諸島の安全に直結します。台湾有事を「他国の内政」ではなく日本自身の安全保障の問題として国会で説明したことは、主権国家として当然の備えの議論だと評価できます。答弁の中身は法律の条文と従来の政府見解の範囲内にあり、外国の要求に応じて国会答弁を改めれば、今後の安全保障論議そのものが他国の顔色をうかがうものになりかねません。

王毅外相が会談で語ったことの一覧

王氏は是正要求のほか、国交正常化55周年、河野洋平氏の評価、歴史認識に触れました。

報道ごとに拾った発言が異なるため、一覧にします。

王毅外相の発言(報道の表現) 報じた媒体
指導者による台湾問題での誤った発言をなるべく早く是正することが必要だ 共同通信・時事通信
中日関係を正常化する必要がある 共同通信
来年は日中国交正常化55周年にあたり、正常な状態に戻さなければならない テレビ朝日
歴史問題で正しい態度を取れないなら、未来を切り開くと語ることなどできない(東京裁判開廷80年に言及) 日本経済新聞
いまだに歴史を反省しようとせず、平和憲法に挑戦しようとする者がいるとすれば、日本の各界が深く考えるべき問題だ 毎日新聞

一覧のとおり、是正要求は単独の発言ではなく、歴史と憲法の話題とひと続きで語られています。台湾答弁への批判を、歴史認識や憲法の問題に結びつけて語る構成です。

国交正常化55周年と「正常な状態」

王氏は2027年の国交正常化55周年を挙げ、関係を「正常な状態に戻さなければならない」と述べました。

テレビ朝日が報じています。日中の国交正常化は1972年9月です。

節目の年を示して関係改善への期待を持たせつつ、その前提として答弁の是正を求める組み立てです。

河野洋平氏への言及と歴史認識

王氏は6月に亡くなった国貿促の前会長、河野洋平元衆院議長を称賛しました。

毎日新聞によると、王氏は河野氏について「日本の軍国主義が犯した罪を勇気を持って反省し、正しい態度で中国及びアジア各国の民衆の尊敬を得た」と述べたうえで、「いまだに歴史を反省しようとせず、平和憲法に挑戦しようとする者がいるとすれば」と語りました。名指しはしていませんが、共同通信は高市政権を念頭に置いた発言と伝えています。日本経済新聞は、王氏が東京裁判の開廷から80年になることにも触れたと報じました。

(編集部分析)憲法改正の議論は日本の国民と国会が決めることで、外国の外相が「挑戦」と評する筋合いのものではありません。歴史の評価を持ち出して現在の安全保障政策に注文をつけるのは、議論の土俵を日本の防衛から過去の贖罪へと移す手法です。中国共産党の対日姿勢と中国の人々とは分けて考えるべきですが、少なくとも政府間の交渉では、この土俵に乗らないことが肝心だと考えられます。

岩屋前外相はなぜ王毅外相と会えたのか

中国側が、長く対中交流を続けてきた国貿促の代表団を関係改善の窓口として扱い、会長の岩屋氏と会ったためです。

岩屋氏は政府の代表として訪中したわけではありません。日中の貿易・経済交流の窓口である国貿促の会長という立場での訪問です。テレビ朝日によると、王氏は国貿促について「日中関係が厳しい時でも両国の友好を信じ尽力してきた」と評価しています。

国貿促の会長として代表団を率いて訪中

岩屋氏は、中国との経済交流を担う国貿促の会長として、9月27日に代表団を率いて北京入りしました。

日本国際貿易促進協会(国貿促)は、中国との貿易・経済交流の窓口を担う団体です。岩屋氏は6月に死去した河野氏の後を継いで会長になりました。

訪中の経緯や同行者、「なぜこの時期に」という批判については、「岩屋前外相が企業役員50人と訪中|国貿促の狙いと「なぜ今」批判の論点」で整理しています。訪中前の段階では、中国側が誰を面会に出すかが焦点でした。結果として外相本人が会い、中国外務省が発表したことになります。

岩屋氏が会談で伝えたこと

岩屋氏は、河野氏の遺志を継いで日中経済関係の発展と両国関係の改善に努める考えを伝えました。

毎日新聞によると、岩屋氏は「河野氏の遺志を継ぎ、日中経済関係の発展と両国関係の改善のために微力を尽くしたい」と述べました。香港フェニックステレビの報道として共同通信が伝えたところでは、岩屋氏は河野氏が病床でも、日中関係が厳しい中で自らが訪中しなければならないと語っていたと説明しています。テレビ朝日は、岩屋氏が「日本は過去の教訓を忘れるべきではなく、平和発展の道を堅持する」と述べたと報じました。

9月29日朝の時点で、王氏の是正要求に岩屋氏がその場でどう答えたかは、報道では確認できません。日本側からの詳しい説明が出るかどうかが、次に見るべき点です。

中国の狙いはどこにあるのか

共同通信は、対中関係を重視する岩屋氏との会談を公表して「高市政権に揺さぶりをかける狙いがあるとみられる」と報じています。

中国外務省の発表で確認できるのは、関係の正常化と答弁の是正を求めた発言までです。そこから先の狙いは、次の図も含めて編集部の見立てとしてお読みください。

(編集部分析)中国の狙いは、高市政権と直接交渉せずに、日本の内側から答弁の修正を求める声を広げることにあると考えられます。今回の動きを会談の前後の流れで図にすると次のようになります。

1. 窓口を選ぶ
首相とは会わず、対中関係を重視する前外相と会う
2. 公表する
答弁後初めて、日本の政治家との会談を公式発表
3. 条件を示す
55周年の「正常化」と引き換えに答弁の是正を要求
4. 国内に波及
日本国内の報道・議論を通じて政権に圧力

(編集部分析)図のように、今回の是正要求は日本政府に直接届けたものではなく、日本の政治家と報道を経由して届く形になっていると読めます。

(編集部分析)誰が得をするのかを問えば、答弁が撤回されて最も得をするのは、台湾海峡で力による現状変更の選択肢を持ち続けたい側です。日本が「台湾有事は日本にも関わる」という立場を弱めれば、抑止の効果は下がります。経済交流を重んじる立場から関係改善を急ぐ声が国内に出るのは自然ですが、交流の再開と引き換えに安全保障の説明を差し出すことは、国益の順番を取り違えることになりかねません。

中国が歴史を持ち出して日本に圧力をかける動きは、米中の首脳会談をめぐる「トランプ氏「大戦時の同盟国」発言とは」でも取り上げました。あわせて読むと、今回の発言の位置づけが見えやすくなります。

日本政府の立場と今後の焦点

日本政府は答弁を撤回しておらず、答弁書で示した「従来の見解を完全に維持」という立場を変えていません。

撤回・修正に応じていない理由

政府の説明は、答弁は従来の政府見解の範囲内であり、見直しは不要というものです。

2025年11月25日の答弁書は、存立危機事態に当たるかどうかは個別具体的な状況で総合的に判断するとしており、特定の地域や事態をあらかじめ除外していません。この立場を維持している以上、政府が「誤り」として答弁を改める理由はないことになります。

今後の焦点

焦点は、日本政府が今回の要求にどう反応するか、そして中国がほかの政治家との会談も公表していくかの2点です。

9月には超党派の日中友好議員連盟も訪中しており、その顔ぶれは「日中友好議連の訪中団メンバー8人は誰?」でまとめています。政府の反応としては、官房長官の定例会見での説明が最初の手がかりになります。中国が日本の政治家との会談を公表する流れが続くのか、今回で止まるのかも見ておく必要があります。

(編集部分析)日本がとるべき姿勢は、対話の扉は開けておきつつ、安全保障の説明は変えないという2本立てだと考えられます。経済交流の窓口と安全保障政策を混ぜないこと、そして国会での説明を外国の要求で動かさないことが、独立国としての外交の土台になります。

台湾発言の是正要求のよくある質問

本文では触れきれなかった周辺の疑問に、短く答えます。

Q. 存立危機事態と重要影響事態はどう違うのですか?

A. 自衛隊に許される活動の範囲が違います。存立危機事態では集団的自衛権による武力の行使が可能になりますが、重要影響事態で認められるのは他国軍への後方支援などで、武力の行使はできません。

Q. 中国外務省の発表はどこで読めますか?

A. 中国外務省の公式サイトに中国語で掲載されています。共同通信は会談の写真も中国外務省のホームページから配信しており、日本の報道各社はこの発表をもとに発言を伝えています。

続報が入り次第、日本政府の反応を含めてこの記事に追記します。出典は下の参考情報にまとめています。

参考情報

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