【9/29】旧敵国条項で日中朝が答弁権の応酬|中国「断固反対」に日本はどう反論したか

国連憲章の「旧敵国条項」をめぐり、2026年9月28日(現地時間)の国連総会一般討論の最終日に、日本・中国・北朝鮮の3か国がそれぞれ答弁権を行使して応酬しました。きっかけは、高市早苗首相が9月22日の一般討論演説で条項の早急な削除を求めたことです。中国の孫磊(そん・らい)国連次席大使は「断固反対」と表明し、日本の梅津茂国連次席大使は、条項の削除方針を示した国連総会の決議には中国も加わっていたと指摘して反論しました。

この記事では、9月28日の答弁権の応酬で3か国がそれぞれ何を述べたのか、中国の主張のどこに食い違いがあるのか、なぜ条項の削除が進まないのかを、時事通信・共同通信の報道と首相官邸・国連の公開資料をもとに整理します。

この記事でわかること

  • 何が起きたか:9月28日の国連総会で、旧敵国条項をめぐり日中朝の3か国が答弁権を行使し、中国と北朝鮮が日本を批判、日本が反論しました。
  • 日本の反論の核心:条項を「時代遅れ」とした1995年と、削除方針を明記した2005年の総会決議は、中国も含む支持で採択されていると梅津次席大使が指摘しました。
  • 削除が進まない理由:憲章の改正には常任理事国5か国すべての批准が必要で、中国が反対する限り条文は残ります。
目次

旧敵国条項の答弁権の応酬とは 9月28日の国連総会で何が起きたか

一般討論の全演説が終わった後、日本・中国・北朝鮮が答弁権を使い、旧敵国条項の削除の是非で意見をぶつけ合いました。

時事通信によると、国連総会の一般討論は9月28日に最終日を迎え、すべての演説が終わった後に3か国が発言しました。中国と北朝鮮が高市首相の削除要求を批判し、日本がそれぞれに反論した形です。共同通信も同じ場面を「反論権を行使し」と報じており、呼び方は媒体で異なりますが、指しているのは同じ手続きです。

答弁権とはどういう仕組みか

答弁権は、他国の発言で自国に言及されたり批判されたりした国が、それに応答するために使う発言の機会です。

国連総会の手続規則では、議長が発言者の名簿を締め切った後でも、必要と認めれば答弁権を与えることができるとされています。今回は時事通信の報道のとおり、一般討論のすべての演説が終わった後に行われ、首相演説で条項の削除を求められた側の中国がまず発言し、日本と北朝鮮が続きました。

演説から答弁権の応酬までの1週間

首相の演説から6日間で、中国外務省の反論、米中首脳会談での「同盟国」発言を経て、国連の場での応酬に至りました。

この1週間の主な動きを、日付順に表にまとめます。

日付(現地) 出来事 出典
9月22日 高市首相が国連総会の一般討論演説で、旧敵国条項は「早急に削除されるべき」と表明 首相官邸
9月23日 中国外務省の郭嘉昆副報道局長が、条項には「重要な現実的意義」があると反論 日本経済新聞・毎日新聞
9月24日 米中首脳会談の歓迎式典で、トランプ大統領が第2次大戦の米中を「同盟国」と発言 読売新聞
9月28日 一般討論の最終日に、日中朝の3か国が旧敵国条項をめぐり答弁権を行使 時事通信・共同通信

表のとおり、中国は首相演説の翌日に報道官会見で反論し、1週間後には国連の公式の場で改めて反対を記録に残しました。記者会見での反論と、総会の議事録に残る答弁権とでは、発言の重みが異なります。

中国の孫磊次席大使は旧敵国条項について何を主張したか

孫磊次席大使は、旧敵国条項は戦後秩序を守る「制度的な保護」で今も極めて重要だとして、削除に「断固反対」しました。

時事通信によると、孫氏は条項が「戦後の国際秩序を維持する制度的な保護を提供するもので、現在も極めて重要」と主張し、「中国は断固反対する」と述べました。

憲法改正と非核三原則を挙げて日本を批判

中国の代表は、高市政権が憲法改正と非核三原則の見直しを進めているとして、日本の「再軍事化」が脅威だと述べました。

共同通信によると、中国の代表は一般討論の最後に、高市政権が憲法改正を推進し、非核三原則を見直そうとしていると述べたうえで、「日本の再軍事化が世界の平和と安定への脅威となっている」と批判しました。旧敵国条項については「今日も重要な意義を持つ」として削除に反対しています。

9月23日に中国外務省の郭嘉昆副報道局長が記者会見で述べた内容と、ほぼ同じ組み立てです。毎日新聞によると、郭氏は条項について「再び軍国主義が国際平和の脅威となることを防ぐため、重要な現実的意義がある」と述べていました。報道官の見解を、国連の場で次席大使が繰り返した形です。

(編集部分析)憲法改正は日本の国民が国民投票で決めることであり、非核三原則の扱いも日本の国会で議論すべき国内の課題です。他国の憲法論議を「再軍事化」と呼び、それを国連憲章の特別扱いを残す理由に結びつける論法は、日本の主権に属する事柄に外から枠をはめようとするものだと考えられます。

日本の梅津茂次席大使はどう反論したか

梅津次席大使は、条項を時代遅れとし削除方針を示した国連総会の決議に、中国自身も賛同していた事実を突きつけました。

時事通信によると、梅津氏は条項を「時代遅れ」と認めた1995年と、削除方針を明記した2005年の国連総会決議が、それぞれ中国も含む多数の支持を得て採択されていると指摘しました。そのうえで「日本は歴史の事実に謙虚に向き合い、国際平和と安全に積極的に貢献してきた」との立場を改めて強調しています。

「非核三原則を堅持」「平和国家の道は変えない」

日本の代表は、非核三原則を堅持しており、平和国家として歩んできた道を変えることはないと強調しました。

共同通信によると、日本の代表は「平和を愛する国家として歩んできた道を変えることは決してない」と述べ、2005年に憲章から「敵国」を削除するとの総会決議が、中国も含む議場の総意で採択されたと指摘しました。共同通信は記事の冒頭で、日本の代表が「専守防衛を堅持している」と反論したと伝えています。

この反論は、首相演説の内容とも一致しています。首相官邸が公開した演説文で、高市首相は1956年の国連加盟から70年間について「専守防衛の考え方の下、平和国家として国際社会の平和と繁栄に一貫して貢献してきました」と述べています。

3か国の主張を並べると、次のようになります。

国(発言者) 旧敵国条項への立場 主な発言(報道の表現)
中国(孫磊国連次席大使) 削除に反対 「戦後の国際秩序を維持する制度的な保護を提供するもので、現在も極めて重要」「中国は断固反対する」
日本(梅津茂国連次席大使) 早急な削除を要求 1995年と2005年の決議は中国も含む支持で採択/「日本は歴史の事実に謙虚に向き合い、国際平和と安全に積極的に貢献してきた」
北朝鮮(代表、氏名は報道なし) 削除に反対 「日本は国連憲章において依然として敵国」「恥ずべきことでばかげている」

表のとおり、中国と北朝鮮は日本の現在の政策を理由に反対し、日本は国連自身が過去に出した決議を根拠に反論しています。議論の土俵が、日本側は「国連の決定」、中朝側は「日本の現在の姿」と、最初からかみ合っていないことがわかります。

(編集部分析)日本の反論は、感情的な言い返しではなく、国連総会自身の決議という記録に基づいています。中国が賛同した決議を中国自身に示すやり方は、国際会議の場で最も反論しにくい形であり、筋の通った対応だと評価できます。

北朝鮮は旧敵国条項について何を主張したか

北朝鮮の代表も答弁権を行使し、「日本は国連憲章において依然として敵国」だとして削除要求を非難しました。

時事通信は、北朝鮮代表が中国に続いて「参戦」したと伝えています。北朝鮮代表は「日本は国連憲章において依然として敵国」と断言したうえで、削除要求は「恥ずべきことでばかげている」と述べ、梅津氏はこの主張にも反論しました。共同通信によると、北朝鮮の代表は「日本が軍国主義的な政策を推し進めている」とも主張しています。

北朝鮮は1991年に国連に加盟した国で、第2次世界大戦の連合国として憲章に署名した国ではありません。自国が条項の当事者でないにもかかわらず、中国と同じ方向から日本を批判した点が今回の特徴です。

(編集部分析)中国の反対に北朝鮮が声をそろえたことで、条項の存続を求めているのが、どのような国々なのかが国連の記録に残りました。拉致問題を抱える日本にとって、北朝鮮が「日本は敵国」と国連の場で公言した事実は、軽く扱うべきではないと考えられます。

中国の主張のどこに食い違いがあるのか 1995年と2005年の決議

中国は2005年に「敵国」の言及を削除する決意に加わりながら、2026年は削除に断固反対しています。

旧敵国条項は、国連憲章の第53条・第77条・第107条にある、第2次世界大戦で連合国の敵だった国を特別に扱う規定です。国連総会は1995年12月の決議50/52で、これらの条項が時代遅れ(obsolete)であると認めました。さらに2005年9月の世界サミットの成果文書(総会決議60/1)の第177項で、各国の首脳は第53条・第77条・第107条の「敵国」への言及を削除することを決意しています。この成果文書は投票にかけられず、議場の総意で採択されました。

決議から今回の応酬までの流れを図にすると、次のようになります。

1945年
国連憲章に第53・77・107条の「敵国」規定
1995年
総会決議50/52で「時代遅れ」と認める
2005年
成果文書で削除を決意(中国も含む総意)
2026年
中国が国連の場で削除に「断固反対」

図の4つ目だけが、それまでの流れと逆向きになっています。梅津氏の反論は、この食い違いを国連の議場で指摘したものです。

(編集部分析)国際社会が一度合意した削除の方針を、20年後に「現在も極めて重要」と言い換えるのは、条項を対日カードとして使い続けたいという意思表示と受け取れます。条文の中身よりも、日本を「敵国」と呼べる根拠を手元に残しておくこと自体に、中国にとっての価値があると考えられます。

条項の中身や「死文化」をめぐる議論の詳しい経緯は、「旧敵国条項の「現実的意義」とは 中国が高市首相の削除要求に反論」で整理しています。

旧敵国条項はなぜ削除されないのか 憲章第108条の壁

憲章の改正には常任理事国5か国すべての批准が必要なため、常任理事国の中国が反対する限り条文は削除できません。

国連広報センターが公開している国連憲章の日本語訳によると、第108条は、憲章の改正が総会の構成国の3分の2の多数で採択され、かつ安全保障理事会のすべての常任理事国を含む加盟国の3分の2によって批准されたときに効力を生じると定めています。常任理事国は米国・英国・フランス・ロシア・中国の5か国です。

2005年に総意で削除を決意しながら、20年以上たっても条文が残っているのは、この改正手続きが実際には動いていないためです。中国が「断固反対」を国連の議事録に残したことで、手続きを動かすハードルは一段と上がったといえます。

高市首相は同じ演説で、安全保障理事会について「1945年当時の国際情勢を反映したもの」だとして、常任・非常任の双方の拡大を求めています。旧敵国条項の削除と安保理改革は、どちらも憲章の改正を必要とする点で同じ壁に向き合っています。

(編集部分析)削除の可否を、日本を「敵国」と呼ぶ側の同意に委ねる仕組みそのものが、戦後80年を経た国連の制度疲労を示しています。削除がすぐに実現しなくても、日本が毎年のように公の場で要求を記録に残し、各国の賛否を明らかにしていくことには意味があると評価できます。

米中の「同盟国」発言と旧敵国条項はどう関係するのか

首相演説の2日後、トランプ大統領が第2次大戦の米中を「同盟国」と呼び、中国はこれを日本批判に重ねて発信しています。

読売新聞によると、トランプ大統領は9月24日の米中首脳会談で、中国を「第2次世界大戦での同盟国」と呼び、習近平国家主席は晩さん会で日本を名指しし、中米両国が日本の軍国主義と戦ったとけん制しました。読売新聞は、旧敵国条項の削除に反発する中国が、トランプ氏の言動を利用して自国に都合のよい発信を強める展開を日本政府が警戒していると伝えています。

高市首相は記者団に対し、「日米に戦争はあったがその後しっかりと和解を果たした。今は非常に強い絆で結ばれた同盟国として、信頼し合える関係だ」と反論しました。

米中首脳会談をめぐる発言と合意文書の中身は、「トランプ氏「大戦時の同盟国」発言とは」と「米中の成果文書から「非核化」が消えた」で取り上げています。9月28日の答弁権の応酬は、こうした流れの中で起きたものです。

(編集部分析)中国は、米中の「大戦の記憶」と旧敵国条項を組み合わせることで、日本を戦後秩序の外側に置こうとしていると読めます。日本としては、日米の和解と同盟という現在の事実を繰り返し示し、80年前の構図に議論を引き戻させないことが重要だと考えられます。

旧敵国条項をめぐる今後の焦点

焦点は、日本政府が削除要求を国連の場で続けるか、そして中国が日中関係の交渉で条項を持ち出し続けるかの2点です。

時事通信は、旧敵国条項が日中関係の新たな火種になりうると伝えています。9月28日には、中国の王毅外相が北京で岩屋毅前外相と会談し、高市首相の台湾有事をめぐる答弁の是正を求めたことも明らかになりました。この会談の中身は「王毅外相が台湾発言の是正要求」でまとめています。旧敵国条項、台湾答弁、歴史認識と、中国が日本に向ける批判の材料は同じ週に重なっています。

首相の国連演説の全体像は、「高市首相の国連総会演説」で扱っています。この件の続きを自分で追うときは、①木原官房長官の定例会見(首相官邸の会見動画)、②国連総会の会合記録(国連の会合報道ページ)、③中国外務省の定例記者会見の3か所を見ると、日中双方の次の発言をいち早く確かめられます。

(編集部分析)日本が求めているのは、国連が2005年に自ら決めたことを実行することにすぎません。中国の反対で削除が難しくても、各国がどちらの立場に立つのかを国際社会に見せ続けることが、「敵国」の汚名を背負わされたままにしないための現実的な道筋だと考えられます。

旧敵国条項の答弁権をめぐるよくある質問

本文で触れきれなかった周辺の疑問に、短く答えます。

Q. 旧敵国条項で「敵国」とされているのはどの国ですか?

A. 憲章は国名を挙げていません。第107条は「第二次世界大戦中にこの憲章の署名国の敵であった国」と定めており、日本やドイツなどがこれに当たると一般に解されています。

Q. 常任理事国でない国の反対でも、削除は止まりますか?

A. 止まる場合があります。憲章第108条は加盟国の3分の2による批准を求めているため、常任理事国の賛成がそろっても、批准しない国が加盟国の3分の1を超えれば改正は発効しません。

Q. 旧敵国条項は今も実際に使える規定なのですか?

A. 日本政府は、1995年の決議で時代遅れと認められ、すでに死文化していると説明しています。一方、中国外務省は「重要な現実的意義がある」と主張しており、見解が分かれています。

続報が入り次第、日本政府の反応を含めてこの記事に追記します。出典は下の参考情報にまとめています。

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