【10/10】茂木・ルビオ電話会談 ICC本体制裁で日本の立場と那覇事件

茂木敏充外務大臣は2026年10月10日夜、ICC(国際刑事裁判所)の赤根智子所長と、アメリカのルビオ国務長官と相次いで電話で会談しました。前日の10月9日に、トランプ政権がICCという組織そのものを制裁対象に指定したことを受けた会談です。

ルビオ長官との会談では、ICCをめぐる日本の立場を伝えたうえで、那覇市で起きた米海兵隊員による強盗殺人容疑事件について遺憾の意も伝えています。この記事では、2本の電話会談で何が話されたのか、米国の「組織制裁」とは何か、8月から続く日本政府の対応の流れを、報道と公表資料をもとに整理します。

この記事でわかること

  • 2本の電話会談:10日午後9時以降、赤根所長、ルビオ長官の順にそれぞれ約15分、ICCの現状と日本の立場を話しました。
  • 組織制裁の中身:米国は個人だけでなくICCそのものを制裁対象にし、米国内での取引を原則禁じました。
  • 那覇の事件:ICCとは別の議題として、米兵の強盗殺人容疑事件に遺憾の意を伝え、再発防止の協議継続を確認しました。
目次

茂木外相は10月10日夜に誰と何を話したのか

茂木外相は10日午後9時以降、赤根所長、ルビオ長官の順に、それぞれ約15分ずつ電話で会談しました。

FNNプライムオンラインが外務省の説明として伝えたところでは、会談の順番は赤根所長が先で、そのあとにルビオ長官です。茂木外相は記者団に対し、赤根所長とは「ICCのあり方について議論した」と述べています。NHKも、茂木外相がルビオ長官にICCへの制裁に関する日本の立場を伝えたと報じました。

赤根所長との約15分 ICCの現状を意見交換

赤根所長との会談では、組織制裁を受けたICCの現状について意見を交わしました。

赤根所長は日本人として初めてICCの所長を務めている裁判官で、米国は8月に赤根所長個人も制裁対象に指定しています。今回は所長個人に加えて、所長が率いる裁判所そのものが制裁を受けた形です。会談で具体的にどのような対応策が話されたかは、10月11日朝の時点で公表されていません。

ルビオ長官との約15分 日本の立場を伝達

ルビオ長官には、ICCを支持する日本政府の立場を伝え、緊密に意思疎通を続けることで一致しました。

ルビオ長官は、10月9日の組織制裁を発表した当事者です。日本の外相が制裁を発表した本人に対し、発表の翌日に直接、立場を伝えたことになります。

米国務省の発表は「制裁の必要性を提起した」

米国務省は同じ会談について、ルビオ長官がICCへの制裁の必要性を茂木外相に提起したと発表しています。

国務省の発表文によると、ルビオ長官は、米国の主権を脅かすICCの「ならず者のような行動」の結果として制裁が必要だと説明しました。両氏は日米同盟の強さを再確認し、10月30日から米アトランタで開かれるG20外相会合に向けて緊密に連携することでも一致しています。日本側が「日本の立場を伝えた」と発表したのに対し、米国側は「制裁の必要性を伝えた」と発表しており、同じ会談でも双方の強調点ははっきり分かれています。制裁を見直す考えを米国側が示したという発表は、10月11日朝の時点で出ていません。

2本の会談の内容を並べると、次のとおりです。

相手 時間 主な議題 確認されたこと
赤根智子 ICC所長 約15分 組織制裁を受けたICCの現状 意見交換(具体策は未公表)
ルビオ 米国務長官 約15分 ICC制裁への日本の立場 日本の立場を伝達、緊密な意思疎通で一致(米側発表では長官が制裁の必要性を提起)
ルビオ 米国務長官(別の議題) 同じ会談の中 那覇市の米兵による強盗殺人容疑事件 遺憾の意を伝達、再発防止の協議継続を確認

ICCの議題と那覇の事件は同じ電話の中で話されましたが、中身は別の議題です。この記事でも、両者を分けて見ていきます。

米国はICCに何をしたのか 10月9日の「組織制裁」

米国は10月9日、裁判官など個人ではなく、ICCという組織そのものを制裁対象に指定しました。

法律ニュースサイトのJURISTによると、根拠は2025年2月にトランプ大統領が署名した大統領令14203です。この大統領令は、ICCがイスラエルのネタニヤフ首相らに逮捕状を出したことへの対抗措置として出されたもので、これまでは裁判官や検察官など個人の指定に使われてきました。

米国内での取引を禁じ、資産を凍結する

組織制裁により、米国の個人や企業は原則としてICCと取引できなくなります。

AFP通信は、ルビオ長官がICCを「ならず者の裁判所」と呼び、取引を禁じると表明したと伝えています。銀行取引やクレジットカードの決済、ソフトウェアの利用に影響が出る可能性も指摘されました。JURISTは、米国内にあるICCの資産や米国人が管理する資産が凍結の対象になると報じ、ルビオ長官の「ICCが脅しをやめるか、我々がICCを終わらせるかだ」という趣旨の発言も伝えています。

180日の猶予などの例外も設けた

一方で米国は、ICCの運営を続けるのに必要な一部の取引に、期限つきの例外を設けました。

JURISTによると、180日間の猶予を認める許可のほか、クラウドやソフトウェアのサービス、職員の年金、ICCに収容されている被告人に関わる取引について許可が出ています。180日という期間は、この記事で確認した主要な報道・資料のうちJURISTが明記しています。米財務省の正式な文書でどこまで認められているかは、今後の公表を待つ必要があります。

8月の制裁と10月の制裁の違いをまとめると、次のとおりです。

項目 2026年8月18日 2026年10月9日
対象 赤根所長ら個人 ICCという組織そのもの
根拠 大統領令14203 大統領令14203
影響 指定された個人の米国内資産の凍結など 米国人・米企業とICCの取引を原則禁止、資産凍結
日本の反応 外務報道官談話で「大変残念」 8か国外相共同声明(日本時間10日)、外相どうしの電話会談

8月は「人」への制裁でしたが、10月は「組織」への制裁へ広がりました。日本人が所長を務める組織が、まるごと米国の制裁リストに載ったことになります。

なお、これまでに制裁を受けた個人の人数は、伝える機関によって違います。国連ニュースは判事と検察官あわせて13人とし、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは判事9人と検察官としています。数え方の基準が公表されていないため、この記事ではどちらか一方に寄せません。

日本政府の対応は8月から10月でどう変わったのか

日本政府の対応は「残念」という論評から、外相どうしの直接の電話会談へと一段ずつ強まってきました。

8月18日に赤根所長が制裁対象になった直後、外務省は外務報道官談話で「大変残念」と表明するにとどめ、国内では弱腰との批判も出ました。その後の動きを時系列で並べると、次の図のとおりです。

日本政府のICC制裁への対応(2026年)

8月18日 米国が赤根所長らを制裁対象に指定/外務報道官談話は「大変残念」
8月25日 高市首相が「日本の立場と相いれず、大変深刻に受け止めている」と表現を強める
8月28日 茂木外相が赤根所長と電話会談
9月22日 日英仏独など8か国の外相らが国際司法機関を守る共同声明(ニューヨーク)
9月25日 高市首相、ICC問題は日米の外相間で協議することでトランプ氏と一致したと説明
10月9日(米国時間) 米国がICC本体を制裁対象に指定
10月10日(日本時間) 日本など8か国外相が「強く反対」の共同声明(外務省発表)
10月10日夜 茂木外相が赤根所長、ルビオ長官と相次いで電話会談

流れを追うと、10日の電話会談は9月の首脳会談で決めた「外相どうしで話す」という枠組みを、組織制裁という新しい局面で初めて使った場面だと分かります。

9月の8か国声明と10月の8か国声明は別のもの

日本が加わった8か国の共同声明は、9月と10月に2回出ており、参加国が違います。

共同通信によると、9月22日の声明は日本、英国、フランス、ドイツ、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、ポーランドの外相らによるもので、「国際司法機関を保護し、強化するという決意は揺るぎない」との内容でした。外務省が10月10日付で発表した声明(海外の報道では現地時間9日付)は、日本、カナダ、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、英国の8か国によるものです。米国の制裁発表を遺憾とし「強く反対する」と表明したうえで、ICCへの「継続的かつ揺るぎない支持」を示しました。

日本は8月の段階から米国の個人制裁に懸念を示してきました。経緯は「ICC赤根智子所長に米が制裁 日本は最大拠出国という板挟み」で詳しくまとめています。

なぜ首脳どうしではなく外相どうしで話すのか

ICC問題は日米の外相間で協議することが、9月の高市首相とトランプ大統領の会談で決まっているためです。

高市首相は9月25日、トランプ大統領との会談で、ICCの問題は今後、日米の外相間で意思疎通を図ることで一致したと明らかにしました。首脳どうしで議論すると相手を刺激しかねないため、茂木外相とルビオ長官の間で実務的に話すのが望ましいと判断したとみられる、と報じられています。

茂木外相とルビオ長官は、9月の国連総会の際にもニューヨークで短い時間ながら言葉を交わしました。国連総会での茂木外相の動きは「茂木外相の「名代」外交とは|NYで13件、ルビオ氏とICC制裁協議」で整理しています。高市首相の国連演説とICCへの言及は「高市首相の国連演説 拉致・ICC・日米会談の焦点」もあわせてご覧ください。

(編集部分析)首脳間の関係を傷つけずに、外相の実務ルートで言うべきことを言うという分担は、同盟国との摩擦の扱い方として筋が通っていると評価できます。一方で、外相ルートに預けた結果、10月9日の組織制裁を止められなかったのも事実です。外相どうしの対話が「伝えた」で終わるのか、米国の運用に何らかの変化を引き出せるのかで、この枠組みの値打ちが測られることになります。

同じ電話で那覇の米兵事件に「遺憾」を伝えた

茂木外相はルビオ長官に、那覇市で起きた米兵の強盗殺人容疑事件について遺憾の意を伝えました。

琉球新報と共同通信によると、両外相は再発防止に向けて実効性のある措置を取るため、日米間で協議を続けることを確認しました。これはICCとは別の議題で、在日米軍の規律という日米同盟そのものに関わる問題です。

米国務省の発表によると、ルビオ長官は沖縄で日本人が亡くなったことに心からの哀悼の意を示し、日本政府と地元当局の捜査に全面的に協力する考えを伝えました。

那覇市のホテルで女性が殺害された事件の概要

10月3日未明に那覇市のホテルで女性が殺害され、翌4日に米海兵隊の上等兵が強盗殺人の疑いで逮捕されました。

琉球新報によると、亡くなったのは那覇市の39歳の女性で、財布とリュックサックが奪われていました。沖縄県警は4日、米軍普天間飛行場に所属する20歳の海兵隊上等兵を強盗殺人の疑いで逮捕し、5日に送検しています。上等兵は容疑を否認していると報じられており、事件は捜査中で、有罪が確定したものではありません。

米軍の活動休止と日本政府の抗議

米海兵隊は事件を受けて活動の一時休止を表明し、日本政府は駐日米国大使に抗議しました。

ただし、休止の範囲や期間は報道によって表現が分かれており、琉球新報は社説で、基地は任務に必要な移動のために開いているとする米側の回答を紹介し、休止の実効性に疑問を示しています。沖縄県の古謝玄太知事は「断じて許せず、非常に憤りを感じる」とコメントしました。

(編集部分析)日米同盟は日本の安全保障の土台であり、その土台を守るためにこそ、在日米軍の規律は厳しく問われるべきです。同盟国だから甘く扱うのではなく、同盟国だから再発防止の実効性を数字と運用で示してもらうという姿勢は、国民の信頼をつなぎとめるうえで欠かせないと考えられます。今回、外相レベルで遺憾の意を伝え、協議の継続を確認したことは、その最低限の一歩といえます。

ルビオ長官に伝えた「日本の立場」とは何か

日本の立場とは、法の支配を重んじてICCを支持し、米国の制裁はその立場と相いれないというものです。

高市首相は8月25日、赤根所長への制裁について、法の支配を重視する日本の立場と相いれず、大変深刻に受け止めていると述べました。日本はICCの締約国として、分担金の面でも大きな支えになってきた国とされています。10日の電話会談で伝えた立場も、この延長線上にあるとみられます。

米国側の言い分は「加盟していない国を裁くな」

米国は、ICCに加盟していない国の国民をICCが裁くことに反対しています。

JURISTによると、ルビオ長官は「米国とその国民はICCの管轄に服さない」と述べています。米国はICCを設立したローマ規程を批准しておらず、イスラエルも加盟していません。米国側は、加盟していない国の高官に逮捕状を出すこと自体が主権の侵害だと主張しています。

(編集部分析)自国の兵士や高官を、自分たちが加わっていない国際機関に裁かせないという米国の論理には、国家主権の観点から一定の筋があります。主権を重んじる立場からは、この主張をただ退けるのではなく、理解できる部分は理解する冷静さも必要です。しかし、その対抗手段として、同盟国である日本の国民が所長を務める組織を丸ごと制裁にかけるのは、同盟国への配慮を欠いた手法と言わざるを得ません。日本が守るべきは、ICCという機関そのもの以上に、日本人を不当な制裁から守るという主権国家としての責務だと考えられます。

日本の国益から見た今回の電話会談

今回の電話会談は、同盟を傷つけずに日本人所長と日本の立場を守る、という難しい両立を試みたものです。

日本は、安全保障で米国と同盟を組みながら、法の支配の面ではICCを支える側に立っています。米国がICCを敵視するほど、日本はこの2つの立場の間で板挟みになります。8月から10月にかけての対応は、米国と正面からぶつかることは避けつつ、言葉と行動を少しずつ強めてきた流れだといえます。

(編集部分析)誰が得をするのかという問いで見ると、ICCが機能しなくなって得をするのは、国際法を無視して力で現状を変えようとする国です。ICCは、ウクライナ侵攻をめぐりロシアのプーチン大統領に逮捕状を出しています。中国やロシアの力による現状変更に向き合う日本にとって、国際法の物差しが弱まることは国益にかないません。同盟国との関係は大切にしながらも、日本人が率いる国際機関を守ることは、日本の発言力と誇りを保つことにもつながると評価できます。

トランプ大統領の平和賞をめぐる発言と、ICC本体への制裁が発表された経緯は「トランプ氏、平和賞逃し「ノルウェーの汚点」 受賞のピレイ氏とICC制裁」で扱っています。ICCからは脱退を表明する国も出ており、その例は「ナウルがICC脱退表明 理由と発効時期」にまとめました。

今後の焦点はどこか

今後の焦点は、猶予の期間内に米国の運用が変わるのか、日本が外相ルートで何を引き出せるのかです。

JURISTが伝えた180日の猶予が正しければ、ICCは来年4月ごろまでに資金の流れや取引先を組み替える必要に迫られます。日本を含む締約国が、ICCの活動を支えるためにどのような手を打つのか、欧州連合(EU)が示した対応策とどう足並みをそろえるのかも注目されます。

那覇の事件については、日米の協議で再発防止策が具体的にどこまで示されるかが焦点です。両外相が連携を確認した10月30日からのG20外相会合(米アトランタ)は、直接顔を合わせる機会になり得ます。そこでICCと米兵事件の両方がどう扱われるかを見ていく必要があります。

続報を自分で追うときは、外務省の「会談・訪問」と報道発表のページ、米財務省OFAC(外国資産管理局)の制裁関連の発表、ICCの公式発表の3つを確認すると、制裁の範囲や例外の変更をいち早く確かめられます。

読者から寄せられそうな疑問を、最後にまとめます。

茂木外相とICC制裁のよくある質問

今回の電話会談と制裁について、よく出る疑問に答えます。

Q. 赤根所長は今も制裁対象のままですか?

A. はい。8月18日の個人への指定が解除されたという発表はなく、10月9日にはICCという組織そのものも制裁対象に加わりました。

Q. 日本は米国に制裁の撤回を求めたのですか?

A. 報道で確認できるのは「日本の立場を伝えた」「緊密に意思疎通を続ける」までで、撤回を求めたという表現は10月11日朝の時点で出ていません。

Q. ICCへの制裁は日本の企業や個人に影響しますか?

A. 制裁が直接禁じるのは米国の個人や企業とICCの取引です。ただし、米国の銀行や決済網を使う取引には影響が及ぶおそれがあり、ICCに関わる日本の関係者にも間接的な影響が出る可能性があります。

Q. 那覇の事件の容疑者は日本の法律で裁かれますか?

A. 容疑者は沖縄県警が逮捕し、那覇地検に送検されています。起訴するかどうかは今後の捜査を踏まえて判断されます。

新しい発表があれば、この記事の内容も見直します。

参考情報

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