【10/9】岩屋氏「四つの政治文書」再確認を提案|王毅氏は撤回求め応じず
9月に訪中した岩屋毅前外相が、王毅(ワン・イー)外相との会談で、日中間の「四つの政治文書」を両政府で再確認するよう提案していたことを、10月7日と8日の報道機関の取材で明かしました。高市早苗首相の台湾有事答弁を「事実上撤回」する形にする案でしたが、王氏は「あいまいなやり方では良くない」と応じず、あくまで答弁の「撤回」を求めたといいます。
この記事では、岩屋氏が何を提案したのか、四つの政治文書とは何か、中国側が求めたのは「撤回」なのか「是正」なのか、そして「原因はこちら側が作っている」という岩屋氏の発言までを、報道された事実と発言者を分けて整理します。
この記事でわかること
- 何を提案したか:1972年の日中共同声明を含む「四つの政治文書」を両政府で再確認し、台湾答弁を事実上の撤回とする案
- 中国の答え:王毅外相は「問題を起こした人が解決すべきだ」として応じず、答弁の撤回を求めた
- 議論の的:岩屋氏は10月2日の会見で「原因はこちら側が作っている」と述べ、政府に関係改善の努力を求めた
岩屋氏は王毅外相に何を提案したのか
台湾答弁を撤回する代わりに、日中の政治文書を両政府で確認し直し、それを「事実上の撤回」とする案を示しました。
岩屋氏は日本国際貿易促進協会(国貿促)の会長として9月27日から30日まで中国を訪れ、北京で28日に王毅外相、29日に何立峰(ホー・リーフォン)副首相とそれぞれ会談しました(時事通信)。提案の中身は、帰国後の取材で岩屋氏本人が明かしたものです。
時事通信の取材では「72年共同声明の再確認」
10月7日の時事通信の取材で、岩屋氏は1972年の日中共同声明の趣旨を両政府で改めて確認する案を示したと語りました。
時事通信によると、岩屋氏は王氏に、首相の追加答弁などで政府の方針は変わっていないと説明しました。そのうえで、撤回は「政治的なハードルが非常に高い」と伝え、共同声明の趣旨を両政府で確認し直すことで「事実上の撤回」とするよう提案したといいます。
朝日新聞の取材では「四つの政治文書」を両政府で再確認
10月8日の朝日新聞の取材では、日中の「四つの政治文書」を両政府で再確認する機会を作るよう提案したと明かしました。
朝日新聞によると、岩屋氏は8日に国会内で取材に応じ、王氏が「もう一度正常化が必要だ。日中は原点に戻り、方向性を正す必要がある」と述べたことも紹介しました(朝日新聞)。時事通信の「72年共同声明」と朝日新聞の「四つの政治文書」は、72年声明を含む文書群をどこまで挙げたかの違いで、提案の骨格は同じです。
「四つの政治文書」とは何か
1972年から2008年までに日中両政府が交わした、国交と関係の土台になる4つの文書のことです。
中国側は日本に対し、たびたびこの4文書を守るよう求めてきました。台湾の扱いについての日本の立場は、最初の1972年の共同声明に書かれています。一覧にすると次のとおりです。
| 年 | 文書 | 主な位置づけ |
|---|---|---|
| 1972年 | 日中共同声明 | 国交正常化。台湾をめぐる中国の立場を日本が「十分理解し、尊重」すると記した |
| 1978年 | 日中平和友好条約 | 72年声明の原則を条約として確認 |
| 1998年 | 平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言 | 江沢民国家主席の来日時に発表 |
| 2008年 | 「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明 | 胡錦濤国家主席の来日時に発表 |
台湾をめぐる日本の立場は、72年声明で中国の立場を「十分理解し、尊重」すると書いた形が基本です。台湾を中国の一部と日本が認めると書いた文書ではありません。この点が、今回の提案の意味を考える手がかりになります。
(編集部分析)文書を再確認しても、日本の立場は「理解し尊重する」から動きません。岩屋氏の案は、中国から見れば「何も譲っていないのに撤回と同じ扱いをしてほしい」という頼みに映ったはずで、受け入れられなかったのは意外ではありません。
王毅外相はなぜ提案に応じなかったのか
王氏は「問題を起こした人が解決すべきだ」として、あいまいな形での決着を拒み、高市首相自身による撤回を求めました。
時事通信によると、王氏は「あいまいなやり方では良くない。中国には『問題を解決するのは問題を起こした人であるべきだ』という言葉がある」と述べ、台湾答弁の問題は「日本の指導者が解決すべきだ」と主張しました。王氏は関係改善の必要性は認めたものの、岩屋氏は「高市政権に対する見方は非常に厳しいものが続いていると感じた」と振り返っています。
王毅氏が求めた3つの条件
岩屋氏によると、王氏は「指導者の間違った発言の撤回」「理性的な対中認識」「正しい歴史観」の3点を求めました。
朝日新聞によると、王氏は「中国は対話はオープンだが、対話は問題を解決するために行わなければならない」とも述べています。3点のうち2点は、首相の発言そのものではなく、日本の対中観や歴史認識を中国の基準に合わせるよう求める中身です。
(編集部分析)「理性的な対中認識」や「正しい歴史観」は、何が正しいかを決めるのは中国側、という前提に立った要求です。これを関係改善の条件として受け入れれば、日本の安全保障や歴史の議論に、中国が事前に合否を付ける形になりかねません。主権国家として、ここは条件の入口で線を引くべきところだと考えます。
中国が求めたのは「撤回」か「是正」か
中国外務省の公式発表は「是正」でしたが、岩屋氏の証言や共同通信の取材では、会談の場では「撤回」を求めていたとされます。
9月28日の会談について、中国外務省の発表を伝えたテレビ朝日系や時事通信は、王氏が「日本の指導者の台湾に関する誤った言動を速やかに是正する必要がある」と述べたと報じていました(KAB熊本朝日放送、nippon.com(時事通信配信))。これに対し共同通信は10月8日、王氏が会談で「あくまでも答弁の『撤回』を求める考えを示していた」と、複数の日中関係筋の話として伝えました(47NEWS(共同通信))。
| 情報の出どころ | 中国側の言葉 | 報じた時期 |
|---|---|---|
| 中国外務省の発表 | 誤った言動の「是正」 | 9月28日〜29日 |
| 岩屋氏(時事通信の取材) | 「日本の指導者が解決すべきだ」 | 10月7日 |
| 日中関係筋(共同通信) | あくまで答弁の「撤回」 | 10月8日 |
| 岩屋氏(朝日新聞の取材) | 「指導者の間違った発言の撤回」など3点 | 10月9日 |
外向けの発表と会談の中身で、言葉の強さが違っていたことになります。
テレビ朝日系(ANN)の番組では、神田外語大学の興梠一郎教授が、中国外務省の報道官が5月18日に「是正」と言い始め、「撤回」の言葉が消えていたと指摘していました。発表上は表現を和らげる一方、会談の場では従来どおりの要求を続けていたことになります。
(編集部分析)表向きの言葉は「是正」へ和らげつつ、会談の場での要求は下げていなかったことになります。発表の言葉だけを見て「中国が歩み寄っている」と受け取ると、実際の要求を見誤るおそれがあります。「関係改善の兆し」という報道が出たときほど、要求の中身が変わったのかを確かめる必要があります。
岩屋氏の「原因はこちら側が作っている」発言とは
岩屋氏が10月2日に地元・大分県別府市で開いた会見で、日中関係悪化の原因は日本側にあると述べた発言です。
FNNプライムオンラインによると、岩屋氏は「率直に言って原因はこちら側が作っているわけで。ですから日本政府において関係改善に向けてしっかり取り組んでもらいたいと思っている」と述べました(FNNプライムオンライン)。この会見の記事は10月7日に配信され、時事・共同・朝日の続報と重なって話題が広がりました。
岩屋氏は同じ会見で「外交は政府間で行うものなので、中国政府には日中間のやりとりの窓口を開けて欲しいとお願いした」とも述べ、中国側にも対話に応じるよう求めています。
(編集部分析)前外相が、現政権の国会答弁を関係悪化の「原因」と公の場で位置づけたことの重みは小さくありません。中国側は「問題を起こした人が解決すべきだ」と主張しており、日本の元閣僚の言葉はその主張を補強する材料として使われかねません。台湾有事は日本の安全に直結する問題で、首相が国会で答えたのは日本自身の備えの話です。原因をどちらに置くかは、日本の安全保障をどこまで自分で語れるかに関わります。
岩屋氏はほかに中国へ何を求めたのか
日本の防衛力強化を「新型軍国主義」と呼ぶのを控えるよう求め、レアアースの対日輸出管理の適正化も要請しました。
時事通信によると、岩屋氏は中国が日本を「新型軍国主義」と批判していることを取り上げ、「控えてもらいたい」と王氏に求めました。何立峰副首相には、レアアース(希土類)など重要鉱物の対日輸出管理を適正にするよう求め、何氏は「軍事用途なら制限するが、民生用なら大丈夫だ。より良い管理方法を模索中だ」と答えたといいます。
(編集部分析)「新型軍国主義」という呼び方へ直接異を唱えたのは、日本の防衛政策を中国の言葉で定義させないという意味で評価できます。一方、レアアースは「民生用なら大丈夫」という口約束にとどまり、輸出を止められる力は中国の手に残ったままです。供給元を一国に頼らない備えは、日本自身が進めるしかありません。
日中関係はどこから冷え込んだのか
2025年11月7日、高市首相が衆院予算委員会で台湾有事に触れた答弁をしたことが起点とされています。
AFP通信によると、高市首相は台湾有事をめぐり、日本が集団的自衛権を使える「存立危機事態」の具体例を問われ、「戦艦を使って武力の行使も伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になりうるケースだと私は考える」と答えました(AFPBB News)。王氏が「撤回」を求めている「指導者の間違った発言」は、この答弁を指しています。
流れを図にすると、次のようになります。
高市首相が台湾有事で「存立危機事態になりうる」と答弁
北京で岩屋氏と王毅外相が会談
岩屋氏が別府市で会見「原因はこちら側」
再確認案と、王氏の撤回要求が報道で判明
訪中そのものの経緯は「岩屋前外相が企業役員50人と訪中|国貿促の狙いと「なぜ今」批判の論点」、会談直後の中国側の発表は「王毅外相が台湾発言の是正要求|岩屋前外相との会談で何を語ったか」で整理しています。中国外務省が首相を肩書なしで呼んだ件は「高市首相を中国が呼び捨て|郭嘉昆氏に外務省が申し入れ、意図的か」をご覧ください。
岩屋氏の提案を日本はどう受け止めるべきか
対話の窓口を探る努力は認めつつも、政府の答弁を元閣僚が「事実上撤回」させようとした点は、外交の筋として慎重に見るべきです。
(編集部分析)岩屋氏は政府の代表ではなく、民間の経済団体の会長として訪中しています。その立場で、現職の首相の国会答弁を「事実上の撤回」にする段取りを相手国の外相に持ちかけたことになります。岩屋氏自身も王氏に「政府方針は変わっていない」と説明しています。政府の外では違う落としどころが語られているという印象を相手に与えれば、日本の交渉の立場は弱くなります。
(編集部分析)同時に、中国側が提案を退けたことで、中国が求めているのは文書の確認ではなく、首相自身が言葉を引っ込める形だということもはっきりしました。日本が譲れば譲るほど、次の条件が出てくる構図です。関係改善は大切ですが、その条件を相手に決めさせない姿勢を保つことが、日本の自立した外交の土台になると考えます。
確認できていること・まだ分からないこと
岩屋氏の提案と王氏の拒否は岩屋氏本人の証言で確認できますが、中国側がこの提案をどう記録しているかは分かっていません。
SNSでは強い言葉で語られやすい話題です。読み違えないよう、報道で裏が取れている点と取れていない点を分けておきます。
| 項目 | 状況 | 根拠 |
|---|---|---|
| 9月28日に王毅外相と会談した | 確認済み | 時事通信・FNN・テレビ朝日系 |
| 政治文書の再確認を提案した | 岩屋氏の証言 | 時事通信・朝日新聞の取材 |
| 王氏が提案に応じなかった | 岩屋氏の証言 | 時事通信の取材 |
| 王氏が答弁の撤回を求めた | 関係筋・岩屋氏の証言 | 共同通信・朝日新聞(中国の発表は「是正」) |
| 日本政府の受け止め | 報じられていない | 提案について政府の説明は確認できない |
今後の注目点は、11月に中国で開かれるAPEC首脳会議に向けて、日中の政府間の窓口が開くかどうかです。(編集部分析)中国側が「撤回」の要求を降ろさない限り、民間や議員の往来だけで関係が戻ることは考えにくく、日本政府が答弁の立場を保ったままどう対話の場を作るかが問われます。
読者の方が今後の動きを追うなら、①中国外務省の会見で「撤回」と「是正」のどちらの言葉が使われるか、②日本政府が岩屋氏の提案に何らかの説明をするか、③APEC前後に日中首脳会談が設定されるか、の3点を確認すると、関係の行方を判断しやすくなります。
岩屋氏と四つの政治文書のよくある質問
提案は政府の了承を得たものではなく、中国も受け入れていません。そのほかの疑問にも、報道で確認できる範囲で答えます。
Q. 日本政府は岩屋氏の提案を了承していたのですか?
A. 報道で確認できる範囲では、政府が了承していたとの説明はありません。岩屋氏は政府の代表ではなく、日本国際貿易促進協会(国貿促)の会長として訪中しています。
Q. 四つの政治文書を再確認すれば、首相の答弁は撤回されたことになるのですか?
A. なりません。答弁は正式には撤回されず、再確認を「撤回と同じ扱い」とみなしてもらうという岩屋氏の案にとどまります。王毅外相はこの扱いを受け入れませんでした。
Q. 中国は提案を受け入れたのですか?
A. 受け入れていません。岩屋氏によると、王毅外相は「あいまいなやり方では良くない」と述べ、問題を起こした人が解決すべきだと主張しました。
Q. 岩屋氏が大分で会見したのはいつですか?
A. 10月2日に地元の大分県別府市で会見しました。FNNの記事は10月7日に配信されています。
政府の説明や中国外務省の会見に新しい動きがあれば、この記事に日付を付けて追記します。
参考情報
- 時事通信「中国外相「高市首相が解決を」 台湾答弁問題、岩屋氏へ伝達―72年共同声明「再確認」案応ぜず」(2026年10月7日)https://www.jiji.com/jc/article?k=2026100700840&g=pol
- 朝日新聞「四つの政治文書「日中の両政府で再確認を」 岩屋氏、王毅氏に提案」(2026年10月9日)https://www.asahi.com/articles/ASVB83PNWVB8UTFK00SM.html
- 47NEWS(共同通信)「中国外相が台湾答弁の「撤回」を改めて要求」(2026年10月8日)https://www.47news.jp/15055424.html
- FNNプライムオンライン「訪中した岩屋毅前外務大臣が王毅外相との会談を報告」(2026年10月7日)https://www.fnn.jp/articles/-/1128324
- KAB熊本朝日放送「岩屋氏訪中で政府高官と会談 中国厚遇も台湾有事答弁で“是正要求”関係の修復は」(2026年10月4日)https://www.kab.co.jp/news/article/16939321
- nippon.com(時事通信配信)「前外相岩屋毅與副總理等人會談:中國要求高市「糾正」國會答辯」(2026年9月29日)https://www.nippon.com/hk/news/yjj2026092900133/
- AFPBB News「日本、中国に申し入れ「一国の指導者に敬意払うのは当然」 高市首相呼び捨て問題」(2026年10月8日)https://www.afpbb.com/articles/-/3656668
- テレビ朝日系(ANN)「中国『矛盾論』で読み解く“異例の厚遇”対日戦略に変化か」(2026年10月8日)
